万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

安部外交の評価が分かれる理由-真の目的とは?

2022年09月27日 12時36分57秒 | 国際政治
本日、9月27日、日本武道館では、安部元首相の国葬が行なわれます。国葬不支持が世論の大半を占める中、しめやかな葬儀とは言いがたく、国葬反対のプラカードを掲げた反対集会やデモも各地で起きています。国葬問題は世論を賛否両論に二分したとされていますが、現実は、国葬を強行する政府とそれに反対する国民との間の二分に近いのかもしれません(メディアでは、一般献花に長蛇の列、とする報道もありますが、世界平和統一家庭連合や創価学会との関係を考慮すると、世論誘導や印象操作のための信者の動員を自ずと疑ってしまう・・・)。

世論の反発を受けて、日本国政府は、国葬の意義を懸命に説明しようとしたのですが、その際に強調されているのが、2016年に安部元首相によって提唱された「自由で開かれたインド・太平洋」構想に代表される安部外交に対する高い評価です。特に同構想は、軍拡路線をひた走り、一帯一路構想を掲げて積極的な勢力拡大政策を追求してきた中国に対抗するために唱えられたため、米中新冷戦時代に相応しい画期的な構想とされています。自由、民主主義、法の支配と言った普遍的な諸価値を広め、これらを共有する諸国間の連携・連帯強化を基本方針とした安部外交は、高い倫理性を備えた「価値観外交」としても知られてきました。

しかしながら、「自由で開かれたインド・太平洋」構想とは、政府やマスメディアが主張するとおり、安部元首相のオリジナルなアイディアであったのでしょうか。本来であれば、インドやオーストラリア等を含めて中国を包囲するフォームとなる同構想は、米中対立構造の当事国となるアメリカが主導するのが自然です。そこで、同構想の起源を遡りますと、その原型は、第一次安倍政権時代に外相を務めた麻生現副総理が2006年に講演会にあって述べた「自由と繁栄の弧」構想に求めることができます。

何れの構想も、その戦略的思考の前提に大国間による勢力圏争いが置かれているのですが、こうした冷戦にも通じる二項対立的な発想には、極めて強い地政学の影響が窺えます。そもそも、‘弧’という表現は地政学用語であり、ハートランド理論で知られるハルフォード・マッキンダーも帯状の地帯を表す用語として使っています(「危機の弧」)。後には、アメリカ国防総省が作製した報告書などでも使用例が見られると言います。ここで注目すべきは、安部元首相も麻生現副総理も、アメリカの外交政策に多大な影響を与え、‘ネオコンのゴッドファーザー’とも称されたアーヴィング・クリストル氏の影響を強く受けていたという事実です。因みに、同氏は東欧から移民してきた正統派ユダヤ教徒の家系に生まれており、青年期には共産主義者の国際組織である第四インターナショナルのメンバーでもありました。

新保守主義(ネオコン)は、ブッシュ親子の両政権の思想面から支えたために、アメリカという国家に固有の政治思想と見なされがちです。しかしながら、その生みの親とも言えるクリストル氏がかつて共産主義者であったことは、ネオコンという存在自体に関しても更なる洞察と再検討を必要としているように思えます。トランプ前大統領の登場により、‘ディープステート’と称される‘世界権力’の存在が政治の舞台裏から表舞台に引き出された感がありますが、アメリカのネオコンもまた、‘世界権力’が手にしている‘駒’の一つに過ぎないかもしれません。

ここに、安部元首相を含む日本国のネオコン系保守政治家もまた、彼らが動かすことができる‘駒’の一つである可能性が浮上してきます。つまり、「自由と繁栄の弧」、並びに、「自由で開かれたインド・太平洋」のアイディアとは、そもそも全世界の支配を目指す‘世界権力’から発しているかもしれないのです(『1984年』に登場する分割統治のため?)。世界権力にとりましては、同構想の発案者が必ずしもアメリカである必要はなく、どの国が言い出しても構わなかったのでしょう。むしろ、米中対立の当事国となるアメリカが言い出すよりも、憲法第9条を有する平和国家として知られる日本国の政治家の方が風当たりが弱く、自らの構想を実現しやすいと考えたのかもしれません。

上述した仮説が事実であるならば、安部元首相に対する評価も自ずと反転します。日米同盟を基軸としながら対中包囲網を形成し、併せて日本国の防衛力を高めるとする安部外交、あるいは、安倍政権の安全保障政策も、その実、世界権力のシナリオに沿ったものにすぎなくなるからです。しかも、そのシナリオとは、将来的な米中戦争、否、世界を二分する陣営を形成することで、第三次世界大戦への導火線を引くというものであるのかもしれないのです。もちろん、中国やロシアをも裏から操って・・・。世界平和統一家庭連合(元統一教会)も、KCIAやCIAといった世界権力との下部組織と目される諜報機関と結びついているとしますと、同仮説は、いよいよもって信憑性が増してくるように思えるのです。

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