万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

急がれる公職選挙法等の改正-新興宗教団体の組織票対策

2022年09月02日 11時25分12秒 | 日本政治
 メディアの報じるところによれば、自民党と世界平和統一家庭連合、並びに、公明党と創価学会との癒着は、政治家サイドの‘組織票ほしさ’に起因していると説明されています。そのさらに深奥には、カルト的世界支配の構想や巨大な利権が潜んでいるのでしょうが、信者を束ねる組織票という存在についても、今一度、考えてみる必要があるように思えます。

 新興宗教団体の組織票については、それが既成事実化しているだけに、国民多数が疑念を抱くことなく今日に至っています。政党も政治家も、新興宗教団体の組織票とは最も安定した固定票であり、選挙戦においてこれを確保しますと当選確率が上がると信じていることでしょう。組織票の存在は、伝統宗教と新興宗教とを区別するメルクマールでもあり、前者にあっては、信者に対して特定の政党や政治家に投票するよう支持することは殆どありません。多くの国民は近隣の神社の氏子であったり、先祖代々、縁あるお寺の檀家であったりするのですが、伝統宗教団体の薦めに従って自らの投票先を決めるわけではないのです。有権者の30から40%を占めるとされる無党派層が、伝統宗教団体が投票行動に殆ど影響を及ぼしていない現状を示していると言えましょう。

 それでは、何故、宗教団体は、鉄壁の組織票を纏めることができるのでしょうか。安部元首相は、世界平和統一家庭連合の組織票の割り振りを行なっていたとも報じられていますが、信者の票は組織の票として自動的にカウントされています。新興宗教団体が信者の個人的な票を‘自らのもの’とし得るのは、言わずもがな、教団と信者との間に命令者とその忠実な実行者という関係が成り立っているからです。教団、否、教祖の指令は絶対であり、信者は、教祖の指令のままに、何らの疑いをも抱くことなく一致団結して行動するのです。この側面は、宗教団体の影響力の源泉ともなる大量動員においても見られます(‘さくら’活動?)。

 こうした教団による信者に対する投票指令は、政教分離を定める憲法第20条に照らしますと、違憲と判断される可能性があります。憲法違反の問題について、政府は、政党は、たとえ与党として政府の一角を担っても憲法が禁じている「政治上の権力の行使」に当たらないと解釈しているようですが(1988年の竹下内閣時における質問主意書への内閣の回答・・・)、日本国は政党政治を基盤とする議院内閣制を採用しておりますので、同政府解釈は詭弁としか言いようがありません。そして、議会選挙、とりわけ衆議院議員選挙は国民による政権選択の役割をも担うのですから、宗教団体による信者に対する投票支持は、宗教政党による「政治上の権力行使」を間接的に導くものとなります。

 政教分離の原則に加え、民主主義の観点から本質的な問題となるのが、教団による信者票の‘囲い込み’は、国民の政治的自由、並びに、政治的権利の侵害に当たるのではないか、という問いかけです。特定の教団への入信が、信者個人の参政権の自由な行使を著しく制約し、国民としての権利の教団への事実上の移譲を意味するならば、民主主義の基盤を揺るがしかねないからです。国民の政治的自由、並びに、政治参加の権利の保障なくして民主的国家体制は成り立ちません。信者の方々は、この点を、一体、どのように考えているのでしょうか(洗脳されている、あるいは、‘背信者’や‘裏切り者’と見なされるので、協力せざるを得ない?)。新興宗教団体は、憲法でも保障されている信教の自由を盾にとって自らの政治活動を正当化していますが、信者個人の自由については全く眼中にないようなのです。

しかも、拝金主義に堕した教団が、票を提供した‘見返り’として、政党や当選した政治家を介して政治的利権を信者に配っているならば、これは、公職選挙法第221条並びに第222条において禁止されている‘買収および利害誘導罪’の様相を呈してきます(第222条は多数人を対象とした規定・・・)。今日、減少傾向とは言え、創価学会の信者数が増加したのも、政府調達等に際して信者やその周辺の人々が、何らかの政治的・経済的な恩恵を受けてきたからなのでしょう。

 以上に述べたように、新興宗教団体の組織票には、民主主義を歪めかねない様々な問題が潜んでいます。政治レベルでの早急な対応が望まれるのですが、こうした諸問題点に対しては、新たに反カルト(セクト)法を制定するよりも、現行の法律を改正したほうがより迅速に解決できるかもしれません。例えば、公職選挙法を改正し、宗教団体による信者への投票支持や運動員の派遣等を違法とすれば、宗教団体の組織票は消滅します。あるいは、所轄官庁による宗教法人の認証審査の基準として非政治性を設けると共に、仮に、教団による投票指示と言った行為が行なわれた場合には、認証の取り消しや解散を命じ得るといった方向での宗教法人法の改正も考えられましょう。

 今日、新興宗教団体の組織票、並びに、動員力が民主主義を脅かす存在として国民の多くが認識するところとなっております。それは、迫り来る世界支配の脅威でもあるのですが、政治的自由も含めた国民の基本的な自由や権利を護ることこそ、政治本来の使命なはずです。真に国民のための政党並びに政治家であるならば、先ずもって上述した法改正に着手すべきではないかと思うのです。

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