万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘ポスト安倍’問題―政治家と国民との間の深刻な‘分断’

2020年08月29日 10時55分00秒 | 日本政治

 先月頃から取り沙汰されてきた安倍首相の健康不安説は、検診後の回復情報から一時は後退したものの、昨日、突然に首相辞任の一報が報じられるところとなりました。午後5時からの記者会見にあって、安倍首相は、辞任理由について自らの身体が国民からの負託の任に堪えられない旨の説明をされております。この機に至り、‘ポスト安倍’に関する国民の関心も否が応でも高まっているのですが、現在の状況下にあって深刻さを増しているのは、日本国の政界と国民との間の‘分断’です。

 

 首相辞任の記者会見は、どこか不自然な観もありました。その理由は、スピーチを終えた後に首相は国内メディア各社からの質問を受けたのですが、どの質問者も、対中関係については一言も触れなかった点です。中国という国名すら、一度も登場しなかったかもしれません。ところが、日本国を取り巻く国際情勢は緊迫の度を増しており、とりわけ、中国の目に余る拡張主義は、尖閣諸島をはじめとして日本国、並びに、日本国民の安全を直接に脅かしております。しかも、米中対立がエスカレートする中にあって、二階氏や公明党を中心とした親中派の政権内における勢力拡大は著しく、日本国民は、ポスト安倍政権による今後の政策運営に強い不安を感じております。言い換えますと、日本国民の最大の懸念は、党内の派閥力学や裏取引等により‘ポスト安倍’に親中派の政治家が就任してしまう事態の発生なのです。

 

 共産党一党独裁体制に下でチベット人やウイグル人を弾圧し、国際公約を破って香港を併呑し、かつ、台湾にも武力行使を辞さない中国に対して、日本国民の反中感情は高まる一方です。しかも、新型コロナウイルスの発生源となった上に、パンデミック化を防ぐ義務を怠りながら、医療物資を独占してマスク等の不足も招いたのですから、中国に対して良い感情を懐いている国民は、チャイナ・マネーに取り込まれた利権繋がりの少数に過ぎないことでしょう。そして、この中国に篭絡された少数者こそ、残念なことに、全てとは言わないまでも、日本国の政治家たちなのです。

 

 上記の記者会見にあって朝日新聞社の質問者が‘ポスト安倍’の候補者として挙げたのは、菅偉官房長官、石破茂議員、岸田文雄議員等の名であり、何れも、二階幹事長の息のかかった親中派の政治家として知られております。しかも、総裁の決定方法も、執行部への一任となりますと、二階幹事長に委ねたに等しくなります。つまり、現在、日本国民は、ポスト安倍政権において、その意に反して中国陣営に引き摺り込まれるリスクに直面しているのです。この現状は、日本国の危機であると同時に、民主主義の危機とも言えましょう。

 

 その一方で、首相辞任の報を受けた後での世論の動向を見てみますと、‘ポスト安倍’の候補者として圧倒的多数の支持を得ているのは、河野太郎議員です。河野議員と言えば、父君の洋平氏が親中派の政治家でしたし、また、自身もビル・クリントン政権下で国務長官を務め、北朝鮮ではマスゲームに興じたとされるオルブライト女史の‘弟子’でもあります。リベラルな言動で知られるだけに保守層からの支持は薄かったのですが、最近に至り、そのスタンスに大きな変化が見られるようになりました。とりわけ防衛相に就任してからはタカ派とも称されるような発言が目立つようになったのです。先日も、敵ミサイル基地を防衛的に破壊する政策に関連して記者から「中国や韓国の理解を得られる状況ではないのでは」と問われた際に、「中国がミサイルを増強しているときに、なぜ了解がいるのか」と答えたシーンがYouTubeを介して拡散され、中韓に対してはっきりと物が言える数少ない日本の政治家として、一般国民からの評価が跳ね上がることとなったのです。

 

 かつてリベラル派の代表格でもあった河野議員は、今や、保守層の期待をも一身に背負う反中政治家と見なされるに至り、その明快な物言いによって、‘ポスト安倍’において抜きんでた支持を集めるようになりました。言い換えますと、日本国民の多くは、上述した親中派政権誕生の危機からの脱出する手段、即ち、日本国が中国の魔の手から逃れる道として、河野氏に期待を寄せるようになったのです。

 

 河野氏の反中姿勢は、首相の座に近づくための国民に向けたポーズなのか、それとも、本心から考え方を変えたのかは、現時点では分からないのですが、少なくとも、同議員は、日本国の世論に最も敏感に反応し、自らの支持基盤を固めた政治家とは言えましょう。つまり、同議員は、政界と日本国民との間の‘分断’をいち早く察知し、国民の側についた政治家なのかもしれません。世論に背を向けて親中政権の樹立に向けて奔走する親中派政治家よりも、はるかに民主主義を尊重する姿勢を伺うことができるのです。来月に予定されている自民党の総裁選挙がどのような形で実施されるのか、未だに不透明な状況にありますが、仮に親中派の政治家が選出されるとしますと、国民の反発は必至であると共に(来年の総選挙では、自民党の敗北も…)、政界再編の動きも活発化するのではないかと思うのです。

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