万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

官房長官による‘首相の職権乗っ取り’問題

2020年08月04日 12時33分24秒 | 日本政治

 議院内閣制は民主的制度の一種ではあるものの、大統領制のように国民による直接、あるいは、間接的な投票によって選出されるわけではないために、必ずしも国民の信を得ているわけではない、という欠点があります。このため、しばしば、党内力学等によって国民が望んでいない人物が首相の座に就くことにもなってきたのですが、最近の日本国の政治を見ておりますと、別のリスクも見られるようになりました。それは、官義偉官房長官による首相の職権の‘乗っ取り’という問題です。

 

 本日8月4日の東洋経済オンラインの記事によると、新型コロナウイルスの感染数が再び増加に転じる中、安倍首相の気力低下が著しく、代わって菅官房長官が陣頭指揮を執っているというのです。政府自身がテレワークを推奨しているのですから、首相であっても、自宅からオンラインで執務することはできるはずです。同ウイルスに感染したイギリスのジョンソン首相でさえ、集中治療室に移されるまでの間、病室にあって執務を続けたとされています。安倍首相は健康体のはずですので、首相の‘巣ごもり’状態の説明には多くの国民が首を傾げるのですが、何よりも警戒すべきは、いつの間にか、日本国の首相の職権が、国会はおろか、国民の合意もなく別の人物に掌握されてしまう事態です。

 

 同記事は、この事態をとりたてて危険な兆候とは見なしておらず、むしろ、菅官房長官のリーダーシップを持ち上げる‘よいしょ記事’とも見られなくもありません。当然のことのような書きぶりなのですが、冷静に考えてみますと、これは日本国の民主主義の危機のようにも思われます。同官房長官は‘影の首相’とも称されてはきたのですが、安倍首相が「アベノマスク」の着用を止めたのも、菅官房長官が医療用マスクの追加配布を見直したためとされていますので、今や‘主従’の関係が逆転してしまっているかのようなのです。

 

 そして、菅官房長官に関して警戒を要する点は、同氏が中国と親しい関係にあることです。先日も、台湾の民主主義の父とも言える李登輝氏の逝去に際し、‘一つの中国’を主張する中国への配慮から葬儀への日本国の特使の派遣について「予定はない」と述べています。中国による台湾併合を認めかねないリスクのある発言であると共に、長きにわたり日本国を懸命に擁護してきた李登輝氏に対してあまりにも恩知らずな態度でもあります。菅官房長官は満州からの帰国者なのですが、何らかの中国人脈が同氏の言動に影響を与えている可能性もありましょうが、何れにしましても、二階官房長官、公明党、今井首相補佐官と共に、菅官房長官は日本国の政界にあって親中勢力の一角を成しているのです。同官房長官が今にあって‘ポスト安倍’の候補者として再浮上しているのも、中国からの後押しがあるからなのかもしれません。

 

もっとも、同記事では、菅官房長官の真の狙いは自らが‘ポスト安倍’の座を獲得することではなく、‘ポスト安倍’のキングメーカーになることではないか、とする憶測もあるそうです。これが事実であるとしても、同官房長官こそ、国外に居する影のキングメーカーから抜擢された、日本国内にあって画策とうの任務を担う‘キングメーカーのキングメーカー’かもしれません。何れにしましても、親中政治家としての菅官房長官による首相職の代行は、日本国の政治が、国民の意に反して、事実上、中国に乗っ取られてしまう危険性を示しているのです。

 

‘ポスト安倍’については、同記事を含めて大半のマスメディアは、○○派が△◆氏を支持しているといった自民党内の派閥力学や多数派形成に関する情報を報じてはいますが、国民の意向については殆ど関心を払っていません。大多数の国民が、親中政権の誕生など望んでいないにも拘わらず…。そして、菅官房長官が臨時国会の開催や今秋における衆議院議員の解散を否定するのも、現状を維持した方が、存分に首相職権を行使できるからなのでしょう。

 

議院内閣制の欠陥が表に現れた形ともなるのですが、そうであるからこそ、この欠陥を是正するために、民主主義の原点に返り、国民に‘ポスト安倍’を選択する機会が与えられるべきなのではないでしょうか。安倍首相は、心身の不調から自ら職務遂行が難しいと判断したならば潔く辞職すべきしょうし、解散総選挙に至った場合、各立候補者とも、自らが支持する‘ポスト安倍の’候補者を有権者の前に明らかにすれば、有権者は、親中派の候補者を排除することができます(自民党からの立候補者であっても、候補者自身を含め、それぞれの‘ポスト安倍’が違ってもよい…)。次期総選挙は、主権者たる国民が次期首相を選ぶ‘ポスト安倍選挙’とすべきではないかと思うのです。

コメント (2)
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