フェイスブックによるリブラ構想が関心を集める中、中国もデジタル人民元の発行を急いでいるそうです。ブルームバーグが流した11月11日説は否定され、時期こそ先延ばしとなりましたが、デジタル人民元発行計画は着々と進行しているのでしょう。それでは、何故、中国は、かくも人民元のデジタル化を急いでいるのでしょうか。
メディアの説明に依りますと、リブラ構想に触発された面もあるようですが、そればかりではないようです。一帯一路構想を打ち上げた当初から、ユーラシア大陸一帯、さらには全世界に人民元圏を拡大する野望を抱いていたとされており、通貨のデジタル化を可能とするフィンテックの開発の背景には、野心的な人民元圏構想があったことは否定のしようもありません。もっとも、一帯一路構想が停滞する中、通貨のデジタル化のみは先行させようとしている背景には、別の理由も隠されているかもしれません。その理由とは、中国の官民が抱える膨大な額の対外債務問題ではないかと思うのです。それでは、デジタル通貨の発行には、どのような‘債務低減効果’、あるいは、‘デフォルト回避効果’があるのでしょうか。
第1の効果は、海外からの送金を介した外貨の獲得です。リブラと同様にデジタル人民元の利用目的の一つが送金の簡便化、あるいは、低コスト化であるとしますと、海外の利用者は、まずはオンライン上にウォレット、あるいは、口座を開設することとなります。アリぺイやウィーチャットペイ等の民間ネット金融事業者が間接的に関与する可能性もありますが、中国人民銀行が直接に個人向け口座を設ける方法を採用するかもしれません。そして、利用者は、保有している米ドルやユーロ等の国際通貨とデジタル人民元とを交換してから、ウォレット、あるいは、口座を介して送金するのです。つまり、この交換作業において、中国は、既存の銀行システムを介さずして個人から直接に外貨を吸収することができるのです。外貨準備が増加するほどデフォルトリスクが低下しますので、デジタル人民元には巨額債務問題を低下させる効果が期待できます。
第2に、デジタル人民元を他国に先んじて発行すれば、その利便性から同システムを利用する民間企業の増加が見込めます。例えば、現状では米中間の貿易決済や投資の大半は米ドルで行われていますが、デジタル人民元のシステムが国際通貨システムとして高く評価されれば、同システムに乗り換える企業も増加します(人民元決裁や人民元投資への移行…)。この結果、長期的には債務問題の縮小が予測されるのですが、この場合、貿易黒字や対中投資として中国に流入する外貨は減少しますので、短期的には債務問題が悪化する可能性も否定はできません。
第3に、海外投資家からマネーを呼び込むことができます。中央銀行がコール市場で銀行間取引に金利を設定するように、デジタル人民元システムにおいて個人取引にも政策金利を設定する、あるいは、民間ネット事業者が個人ウェレットに預金金利を設けるならば、海外からの資金の流入を金利操作でコントロールすることができます。つまり、これらの金利を他の低金利諸国よりも高く設定すれば、中国への資金流入を促すことができるのです。上述した送金ルートに加え、高金利操作を用いれば、中国のデフォルトリスクはさらに低下します。
上述したように海外からの送金や高金利政策により、同通貨への需要が高まれば、為替相場は人民元高に振れる可能性があります。今般の米中貿易戦争の結果として対米輸出が減少に転じていますので、債務国である中国政府としては、米ドルに対する人民元高を望むはずです。これまで、アメリカは貿易赤字の拡大を憂慮して人民元安を警戒してきましたが、対米輸出の減少を機に、中国は、人民元高容認に転じるかもしれません。すなわち、人民元高による実質的な債務の軽減が、第4に期待される効果です。
第5の効果とは、既に中国の官民が負っている外貨建て債務を人民元建てに変換させるための、債務者に対する動機付けとしてのデジタル通貨化です。仮にデジタル人民元が、中国の狙い通りに米ドルに替って国際基軸通貨の地位を獲得し、フィンテックを活用して人民元圏を世界大に拡大させた場合、海外投資家や金融機関等の債務者は、人民元建てでの償還や借り換え等に応じる可能性があります。人民元建てでの債務返済が可能となれば、中国は、コンピュータの操作によって無制限に人民元を発行するかもしれません。輪転機で紙幣を刷り続けたように…(もっとも、この場合、人民元相場の下落とインフレを招くことに…)。
以上に述べたように、デジタル人民元の発行は、対外債務問題のみを取り上げましても中国にとりまして良いとこ尽くしなのですが、中国のみを利するシステムを、来るべき時代の国際通貨制度として他の諸国が易々と受け入れるとは思えません。否、これらのメリットは、逆から見ますと、中国の致命的な弱点を示しているとも言えます。つまり、計画通りに人民元のデジタル化に失敗しますと、中国経済は崩壊局面を迎えるかもしれないからです。そして、リブラ構想に内在するリスク、並びに同構想に対する各国の拒絶反応からしますと、その可能性は決して低くはないように思えるのです。
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メディアの説明に依りますと、リブラ構想に触発された面もあるようですが、そればかりではないようです。一帯一路構想を打ち上げた当初から、ユーラシア大陸一帯、さらには全世界に人民元圏を拡大する野望を抱いていたとされており、通貨のデジタル化を可能とするフィンテックの開発の背景には、野心的な人民元圏構想があったことは否定のしようもありません。もっとも、一帯一路構想が停滞する中、通貨のデジタル化のみは先行させようとしている背景には、別の理由も隠されているかもしれません。その理由とは、中国の官民が抱える膨大な額の対外債務問題ではないかと思うのです。それでは、デジタル通貨の発行には、どのような‘債務低減効果’、あるいは、‘デフォルト回避効果’があるのでしょうか。
第1の効果は、海外からの送金を介した外貨の獲得です。リブラと同様にデジタル人民元の利用目的の一つが送金の簡便化、あるいは、低コスト化であるとしますと、海外の利用者は、まずはオンライン上にウォレット、あるいは、口座を開設することとなります。アリぺイやウィーチャットペイ等の民間ネット金融事業者が間接的に関与する可能性もありますが、中国人民銀行が直接に個人向け口座を設ける方法を採用するかもしれません。そして、利用者は、保有している米ドルやユーロ等の国際通貨とデジタル人民元とを交換してから、ウォレット、あるいは、口座を介して送金するのです。つまり、この交換作業において、中国は、既存の銀行システムを介さずして個人から直接に外貨を吸収することができるのです。外貨準備が増加するほどデフォルトリスクが低下しますので、デジタル人民元には巨額債務問題を低下させる効果が期待できます。
第2に、デジタル人民元を他国に先んじて発行すれば、その利便性から同システムを利用する民間企業の増加が見込めます。例えば、現状では米中間の貿易決済や投資の大半は米ドルで行われていますが、デジタル人民元のシステムが国際通貨システムとして高く評価されれば、同システムに乗り換える企業も増加します(人民元決裁や人民元投資への移行…)。この結果、長期的には債務問題の縮小が予測されるのですが、この場合、貿易黒字や対中投資として中国に流入する外貨は減少しますので、短期的には債務問題が悪化する可能性も否定はできません。
第3に、海外投資家からマネーを呼び込むことができます。中央銀行がコール市場で銀行間取引に金利を設定するように、デジタル人民元システムにおいて個人取引にも政策金利を設定する、あるいは、民間ネット事業者が個人ウェレットに預金金利を設けるならば、海外からの資金の流入を金利操作でコントロールすることができます。つまり、これらの金利を他の低金利諸国よりも高く設定すれば、中国への資金流入を促すことができるのです。上述した送金ルートに加え、高金利操作を用いれば、中国のデフォルトリスクはさらに低下します。
上述したように海外からの送金や高金利政策により、同通貨への需要が高まれば、為替相場は人民元高に振れる可能性があります。今般の米中貿易戦争の結果として対米輸出が減少に転じていますので、債務国である中国政府としては、米ドルに対する人民元高を望むはずです。これまで、アメリカは貿易赤字の拡大を憂慮して人民元安を警戒してきましたが、対米輸出の減少を機に、中国は、人民元高容認に転じるかもしれません。すなわち、人民元高による実質的な債務の軽減が、第4に期待される効果です。
第5の効果とは、既に中国の官民が負っている外貨建て債務を人民元建てに変換させるための、債務者に対する動機付けとしてのデジタル通貨化です。仮にデジタル人民元が、中国の狙い通りに米ドルに替って国際基軸通貨の地位を獲得し、フィンテックを活用して人民元圏を世界大に拡大させた場合、海外投資家や金融機関等の債務者は、人民元建てでの償還や借り換え等に応じる可能性があります。人民元建てでの債務返済が可能となれば、中国は、コンピュータの操作によって無制限に人民元を発行するかもしれません。輪転機で紙幣を刷り続けたように…(もっとも、この場合、人民元相場の下落とインフレを招くことに…)。
以上に述べたように、デジタル人民元の発行は、対外債務問題のみを取り上げましても中国にとりまして良いとこ尽くしなのですが、中国のみを利するシステムを、来るべき時代の国際通貨制度として他の諸国が易々と受け入れるとは思えません。否、これらのメリットは、逆から見ますと、中国の致命的な弱点を示しているとも言えます。つまり、計画通りに人民元のデジタル化に失敗しますと、中国経済は崩壊局面を迎えるかもしれないからです。そして、リブラ構想に内在するリスク、並びに同構想に対する各国の拒絶反応からしますと、その可能性は決して低くはないように思えるのです。
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