万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の南北対話再開要請は何を意味するのか

2017年11月12日 15時43分11秒 | 国際政治
中国の習主席、韓国に北朝鮮との対話再開促す=新華社
 トランプ米大統領がアジア歴訪の第三番目の訪問国である中国を離れ、APECへの参加のために次なる訪問国であるベトナムへと向かったまさにその日、同様に同地を訪れていた中国の習近平国家主席は、韓国の文大統領と会談し、北朝鮮との対話を再開するよう要請したと報じられております。果たして、この中国の行動は、何を意味するのでしょうか。

 第1の憶測は、アメリカではなく、中国の単独行動です。トランプ大統領の訪中に際し、アメリカ側の対北武力行使の決意が固いことを察知した中国が、先手を打って北朝鮮の非核化に動いたとする見方です。この見解では、アメリカの軍事的圧力は、北朝鮮ではなくその背後の中国に対して強力に働いたこととなります。この際、敢えて韓国に対してメッセンジャー役を“命じた”のは、中国が表舞台で直接に働きかければ、自国が北朝鮮の核・ミサイル開発の黒幕であったことが露呈するからなのでしょう。中国は韓国に対し、禁輸措置等の用意があるとする趣旨の北朝鮮宛てのメッセージを託すはずです。あるいは、韓国の同盟国であるアメリカを出し抜くために、北朝鮮問題の混乱に乗じて韓国を含む朝鮮半島全域を自国の勢力圏に取り込んだことを内外に示すためのアピールであった可能性もあります。

 第2の憶測は、中国の単独行動ではなく、アメリカの同意の下における中国主導の問題解決である可能性です。報道に因りますと、トランプ大統領は、ベトナムへと向かう途上の大統領専用機の機内おいて記者団に対し、習主席を“賢い”として絶賛したとされています。先の米中首脳による共同会見では、非核化の手法に関して両者の立場の違いが鮮明となりましたが、北朝鮮問題に関する協議には相当の時間が割かれたものと推測されます。この時、両者の間で、非公式ではあれ、かの“キッシンジャー構想(中国構想か?)”を基本路線とした合意が成立し、中国による北朝鮮の非核化(石油禁輸等の経済制裁の徹底か?)と巨額の商談(貿易不均衡問題の解決)等と引き換えに、アメリカが中国に対して朝鮮半島からの米軍撤退を約したのかもしれません。このケースでは、北朝鮮危機を背後から操った中国、あるいは、その背後の勢力の巧妙な演出によって、キューバ危機と同様に共産主義が勢力を拡大する結果をもたらします(あるいは、壮大なる茶番なのか…)。もっとも、米韓同盟を負担、かつ、背信リスクと認識しているアメリカが、この提案を“渡りに船”とし、これに乗った可能性も否定はできません。

 もう一つの米中合意の憶測は、中国が、アメリカ主導の対北武力行使を認め、かつ、人民解放軍の不介入を約したというものです。この見方に従えば、米軍の対北武力行使に先立って、アメリカが国際世論を納得させるために対話路線の限界を中国に演じてもらう、あるいは、中国側が自らの外交努力を国際社会にアピールするために、パフォーマンスとして北朝鮮にメッセンジャーを派遣したことになります。もっとも、この合意が“キッシンジャー構想”の武力解決バージョンであれば、朝鮮半島全域の“戦後処理”の問題が残されます。

 第3に推測されるのは、米中首脳会談やロシアの動向によって対話路線の限界を察知した中国が、韓国、あるいは、南北両国にその失敗の責任を押し付けたとする見方です。このケースでは、中国は、経済制裁であれ、対話であれ、自国の影響力では北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させるのが極めて難しいことを自覚しており、それ故に、ポーズだけでも対話路線の体裁を見せるために、韓国に交渉役を任せたのかもしれません。

 以上に述べた諸見解は憶測の域を出ませんが、何れにしても、北朝鮮問題の解決、並びに、その後の朝鮮半島の状況によって、アジアの政治地図は一変します。日本国への影響も甚大ですので、今般のトランプ大統領アジア歴訪に関する情報収集と的確な分析こそ、急がれるのではないかと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする