万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

EU版IMFはIMFと似て非なるもの?

2010年03月09日 16時05分17秒 | ヨーロッパ
欧州版IMF構想が浮上=ギリシャ問題などに対応(時事通信) - goo ニュース
 ギリシャの経済危機を受けて、EUでは、財政危機に陥った国を救済する仕組み作りに本格的に乗り出すようです。その一案として、EU版IMFが検討されるそうですが、おそらく、この仕組みは、IMFと似て非なるものとなるのかもしれません。

 IMFの基本的な役割は、貿易決済通貨(国際流動性)の不足が生じた国が出現した場合に、その国に特別引出権(SDR)の利用を認め、必要な決済通貨を貸し出すというものです。一方、EUの場合には、貿易上の決済通貨不足ではなく、財政破綻の危機が迫った場合、つまり特定の加盟国の財政赤字がユーロの価値に決定的なマイナス影響を与えると想定される場合に、救済する仕組みとなります。IMFもEU版IMFも、通貨防衛を目的としていることにおいて共通していますが、財政問題が絡むEU版IMFのほうが難しい論点があります。

 第1の点は、EU版IMFが各国からの拠出金によって運営される場合、基金への拠出をどのように加盟国に割り振るか、という問題です。外貨準備とは違って、基金への拠出は、加盟国の財政にストレートに響きます。尤も、関税収入といった共通財源を基金に充てるという方法もあります。
 第2点は、救済資金は、無償供与か、貸付かという問題もあります。無償供与となりますと、これは、EUレベルでの財政移転政策となります。
 第3に問題となるのは、ECBとの関係です。現行の制度では、ECBの独立性を守るために、ECBは、個別の加盟国に対して特別貸し出しや国債引き受けを行うことは禁じられています。選択肢としては、ECBが、EU版IMFに対してこうした措置を取ることを認めるということもあり得るのですが、この方法を採用しますと、他の加盟国の財政は傷みませんが、ユーロの信頼性が低下するという深刻なジレンマがあります。
 第4に、EU版IMFが公債として”EU債”を発行し、救済資金を民間から広く募るという方法も考えられます。しかしながら、この方法にも、EU自身が財政赤字に陥るリスクとECBの引き受け問題が発生します。
 第5に、以前にも書いたのですが、EUの救済システムが加盟国の財政規律を緩め、モラル・ハザードが発生する懸念があることです。

 以上に、大凡の問題点を挙げてみたのですが、ユーロの信頼性を維持しながら、財政危機に陥った加盟国を救済するという離れ業を成し遂げるには、EUは、IMFよりも難しい制度設計に挑まなければならないように思うのです。

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