秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

道後湯の町夏点描 湯の町暮らしにターナー島を眺めて

2016年07月18日 | Weblog


あの松を見給え、幹が真直ぐで、上が傘のように開いてターナーの画にありそうだね」、、、、、
「全くターナーですね。どうもあの曲がり具合ったらありませんね。ターナーそっくりですよ」
すると野だいこがどうです教頭、これからあの島をターナー島と名付けようじゃありませんかと余計な発議をした。
赤シャツはそいつは面白いわれわれはこれからそういおうと賛成した。

                          夏目漱石 「坊ちゃん」より


ぼくは三津にある家内の実家で用を済まして、早朝で曇り勝ちでもあったので少し散歩してみようと暫らくご無沙汰の四十島(ターナー島)に足を延ばした
歩いて30分ぐらいでターナー島に着いた、カメラを構えて2,3枚を撮り終えて少し場所を移動して初めてひとりの男性が居るのに気づいた
男性はぼくには気づいていなかったのであろう、顔は真直ぐにターナー島の方をじっと眺めていた

60代後半であろうか、ちょっと疲れたようにも見えたが、身なりはすっきりした紳士風であった
アイボリー調の麻の半袖シャツに薄茶の夏用ズボンと紳士靴を履いていた、このあたりの方でないのは一瞥すれば判った

薄グレー色か、いぶし銀色と云うか、しずかに波打つ海に浮ぶターナー島の向こうを近くの島通いの小さな客船が滑るように行き来するなかを
エンジン音を発てて釣り船が急ぎ足で去ってゆく高浜の海、朝8時まえのこのしずかな浜辺には無言の空間の広がりが支配していた

浜辺のテトラポットに腰掛けていた男の顔にはいままで気づかなかったが何かほっとした気配というか長いこと気になっていた事を
やり終えた時のような安堵感といった風な顔をしたのを一瞬見えた
これを機にこの無言の空気を切り裂きたい衝動に駆られて、靴音を立てながら紳士に近づいて

「おはようございます、あのう、失礼なことをお尋ねしますが、、、さっきからずーとターナー島を眺めておられますが
この風景が気に入られたというか、お好きなのですか」

男性は、足音に気づき、振り向いて無言で会釈をしていたが、この場の雰囲気を壊すようなぼくの失礼な質問にも
動ずるようなこともなくて、やさしそうな笑顔を見せながら落ち着いた口調で

「おはようございます、先ほどから微かなひとの気配は感じていたのですが、貴方でしたか
小さな島と綺麗な海の風景に見入っていたものですから、気が付きませず失礼しました

この島が「坊ちゃん」に出てくるターナー島なんですね、ほんとに美しい風景ですね
いぶし銀のような海に浮ぶ島、実に美しいです、それに背景に富士のような山とおそらく漁港いいですねえ。
女房に何回と無くよく聞かされたものです、それが、この風景なんですね

「ほう、、そうなんですか、それでは、奥さんはこの土地の方ですか、今日はご一緒ですか」
と柄にも無くたたみ掛けるような失礼な質問を口にしてしまった、男性はしばらく黙っていたが意を決するように話し出した

「そうなのですよ、彼女はここ、松山がふるさとなのです、此処でで大学を出るまで暮していました
上京して就職して、ぼくと知り合い結婚したわけです、まあ、極々仲の良い普通の幸せな夫婦で子供たちにも恵まれた家庭でしたよ
夫婦でよく旅にも行きましたが、なぜか、松山にはぼくは来る機会がありませんでしたね

何時か女房が良く口にするターナー島を一緒に眺めたいものだと思っていたのですがねえ
果たせず仕舞いになりましたよ、3年ほど前に突然亡くなってしまいました
そんなわけで今日は思い立って松山に来れてぼくひとりが、ターナー島を眺めているしだいなのです」

ぼくも、彼も、また黙ってしまった、ひとはそれぞれに果たせなかった思いを生きているうちにやり遂げて一歩前に進みたいと思うものであろうか




























































































































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