秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

天女花(OOYAMARENGE)  SANE著

2007年05月27日 | Weblog
第七章
回想季節の無い部屋
江美は、母の施設に向かっていた。十月だというに、日中はまだまだ暑い。片手に持った遅咲きのマーガレットと、母の新しい長袖のパジャマを紙袋に詰め、三階の部屋にはいる何時もの、鼻を突くアンモニア臭。空気清浄器はあるものの、フイルターは、交換されていない。鈍い音をたてながら、ただお決まりに、そこに置いているだけなのだ。
「あー、江美ちゃん、今日も、来たんだね。親孝行だね」同室の七十位のおじさんが、声をかけてくれる。彼は、もうこの施設に、妻の付き添いの為、十五年も毎日通っているのだベットの傍らに、家から持参したパイスの椅子を置き、小さな座布団を敷いている。奥さんは、意識がないまま、毎日の栄養を、鼻にチューブを注して、おくられている。
何の注射なのか、看護士が、無表情で打っていく。奥さんは、痛みにだけは、反応している。眉間にシワをたてて、一瞬身体が反りあがる。若い看護士は、黙って、床に落とした脱脂綿を拾い、さっさと部屋を出ていく。江美は、おじさんは、顔を見合わせて、二人で眉間に立てジワを作って、無言の会話をする。「江美ちゃんのお母さん、うちの女房よりずっと若いのに、おんなじ病気っていうのが、気の毒だねえー」
「おじさん、ありがとう。いつも、母のこと傍で気にしてくれて。私、二日に一度来るのが精一杯だから、本当に有り難いです。」
そう言うと、江美は目を開けたまま、天井をじっとみている母親のオデコをそっと撫でた。母は少し目を閉じてから、小さくあくびをした。「母さん、私の事、娘だって、わかっているんでしょう?母さんの頭の中、何を覚えているのか、私やり切れなくて、時々一緒に死にたくなるの」江美は母の枕元のティッシュで、涙を拭った。
「江美ちゃん、お母さんは頑張っているよ。江美ちゃんの声は、ちゃんと聞こえているよ。そんなこと言ったら、お母さん悲しむよ。」
「オムツ交換します」介助員が、ワゴンに乗せたオムツを、病室に入れながら、カーテンを中途半端に、閉めていく。「ハイ、そっち向いてーあー臭い。また汚してるよ。イヤダイヤダ」江美は、いつも、じっと我慢していた。この人達に何をいっても、母は人質にとられているようなものだから。時々できている、母の手の平のあざ。一度や二度ではない。江美はコーヒーを買いに外にでた。

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