先日、朝日新聞コラムで、大切な記事が載っていましたので、転載します。
***以下、朝日新聞『私の視点』より***
秋葉原事件 被害者支援は長い目で
常磐大教授(被害者学) 長井 進
東京・秋葉原で無差別殺傷事件が起きた。容疑者の動機や事件の背景に注目が集まっているが、一方で突然、犯罪に巻き込まれた被害者やその家族たちがいる。そうした人たちへの支援策は05年の犯罪被害者等基本法の施行などで枠組みが整えられてはいる。
しかし、実際の支援体制は十分とは言えず一般の理解も乏しい。今回の事件を、被害支援のあり方を改めて考える契機にしてほしい。
ひとたび犯罪被害者となると、無力感と孤独感の深まりのふちに追い落とされる。
家族や友人との信頼のきずなが分断されてしまうこともある。加害者への不信感は、社会全体へと広がる。誰かに頼って回復するものではない。時間が過ぎれば心の傷が消えるわけでもない。まったく理不尽な現実に直面してしまうのだ。
7年前。秋葉原の事件と同じ6月8日に、大阪教育大付属池田小で8人の児童が命を奪われ、15人の児童と教師が負傷した。私は遺族の支援を続けた1人だ。きっかけは1通の電子メール。「できることは必ずします。」と伝え、その時々における要求に即応し信頼を築いていった。
当時から比べてれば、今は警察にも都道府県にも相談窓口があり、民間の支援団体も各地に増えた。支援の手が増える一方で接した人の態度や言葉で被害者が傷つく二次被害の問題もある。メディアや司法関係者と、ぎくしゃくする場面も多い。こうしたなかで特に重要なのが、つなぎ役として調整を担うコーディネーターだ。
これまでの日常生活が成り立たなくなる困難に加え、裁判も始まる。そうしたなかで被害者の傍ら居続け、必要なことを把握し、ひとつずつ実現させていくための調整を果たす。複数の方策を示して選んでもらい、意思確認をとりながら進めていく。そうした存在が、被害者それぞれに欠かせないのである。
被害者支援とは「私には自分で判断し、意思決定する力がある」という感覚を取りもどしてもらうことだ。被害者の悲しみや苦しみは消えない。10年先を見据えながら長期的にかかわる必要があり、それには若手を養成することが急務である。警察でも、若手こそを相談窓口の人材として育ててもらいたい。
誰もが犯罪に巻き込まれる可能性があるなか、身近な人が被害にあった時、どのように接したらよいのか。一言で言えば。これまで通りに接することだ。下手な同情や哀れみはしない。時間はかかるが、回復する力はその人自身に備わっているということを心にとめ、接してほしい。
人は、人によって傷つけられるが、人によってより救われもする。かかわりあいを持った人の対応に、誠実さと思いやりを感じることができた時に、被害者は癒され、救われる思いがするのである。
***以下、朝日新聞『私の視点』より***
秋葉原事件 被害者支援は長い目で
常磐大教授(被害者学) 長井 進
東京・秋葉原で無差別殺傷事件が起きた。容疑者の動機や事件の背景に注目が集まっているが、一方で突然、犯罪に巻き込まれた被害者やその家族たちがいる。そうした人たちへの支援策は05年の犯罪被害者等基本法の施行などで枠組みが整えられてはいる。
しかし、実際の支援体制は十分とは言えず一般の理解も乏しい。今回の事件を、被害支援のあり方を改めて考える契機にしてほしい。
ひとたび犯罪被害者となると、無力感と孤独感の深まりのふちに追い落とされる。
家族や友人との信頼のきずなが分断されてしまうこともある。加害者への不信感は、社会全体へと広がる。誰かに頼って回復するものではない。時間が過ぎれば心の傷が消えるわけでもない。まったく理不尽な現実に直面してしまうのだ。
7年前。秋葉原の事件と同じ6月8日に、大阪教育大付属池田小で8人の児童が命を奪われ、15人の児童と教師が負傷した。私は遺族の支援を続けた1人だ。きっかけは1通の電子メール。「できることは必ずします。」と伝え、その時々における要求に即応し信頼を築いていった。
当時から比べてれば、今は警察にも都道府県にも相談窓口があり、民間の支援団体も各地に増えた。支援の手が増える一方で接した人の態度や言葉で被害者が傷つく二次被害の問題もある。メディアや司法関係者と、ぎくしゃくする場面も多い。こうしたなかで特に重要なのが、つなぎ役として調整を担うコーディネーターだ。
これまでの日常生活が成り立たなくなる困難に加え、裁判も始まる。そうしたなかで被害者の傍ら居続け、必要なことを把握し、ひとつずつ実現させていくための調整を果たす。複数の方策を示して選んでもらい、意思確認をとりながら進めていく。そうした存在が、被害者それぞれに欠かせないのである。
被害者支援とは「私には自分で判断し、意思決定する力がある」という感覚を取りもどしてもらうことだ。被害者の悲しみや苦しみは消えない。10年先を見据えながら長期的にかかわる必要があり、それには若手を養成することが急務である。警察でも、若手こそを相談窓口の人材として育ててもらいたい。
誰もが犯罪に巻き込まれる可能性があるなか、身近な人が被害にあった時、どのように接したらよいのか。一言で言えば。これまで通りに接することだ。下手な同情や哀れみはしない。時間はかかるが、回復する力はその人自身に備わっているということを心にとめ、接してほしい。
人は、人によって傷つけられるが、人によってより救われもする。かかわりあいを持った人の対応に、誠実さと思いやりを感じることができた時に、被害者は癒され、救われる思いがするのである。