生活保護申請を却下されたことに対して、却下処分の取消訴訟と生活保護を開始して生活扶助等を支給することの義務付けの訴えが本案として提起されているところ、その判決が言い渡されるまでの間、仮に生活保護を開始すること(仮の義務付け)を求めて申し立てがなされた事案です。
その「仮の義務付け」が認められました。
【事件名】生活保護開始仮の義務付け決定に対する即時抗告事件
【事件番号】 福岡高等裁判所那覇支部決定/平成22年(行ス)第1号
【判決日付】 平成22年3月19日
(原審)
【事件名】生活保護開始仮の義務付け申立て事件
【事件番号】 那覇地方裁判所決定/平成21年(行ク)第7号
【判決日付】 平成21年12月22日
(基本事件・那覇地方裁判所平成21年(行ウ)第26号生活保護開始申請却下取消等請求事件)
【事案の概要】
Yは、那覇市長。
Xは,昭和▲年▲月生まれの73歳の女性であり,夫とは死別している。子(いずれも成人)は3名おり,うち2名は沖縄県内に住んでいるが,Xとは別に暮らしている。Xは,生活保護受給開始時(平成8年6月)から一人暮らしである。
Xは,清掃員として稼働するなどしていたが,転倒して右足を怪我して入院し,働けなくなり,平成8年6月28日から生活保護が開始され,生活扶助,住宅扶助及び医療扶助を受給していた。
Xは,生活保護受給中の平成13年5月11日に年金担保貸付を受けたことが発覚し,処分行政庁に対し,年金担保貸付を受けない旨の誓約書を提出するなどした。このほか,申立人は,生活保護受給中も,家賃の滞納をしたり,金銭の借入れやその返済を行うなどし,処分行政庁により,複数回にわたり,口頭での指導や文書での指示を受けるなどしていた。
平成20年12月1日,Xに対する生活保護(生活扶助,住宅扶助及び医療扶助)が廃止された(本件廃止処分)。同廃止決定通知書には,廃止理由の記載はない。
Xは,平成21年1月7日,処分行政庁に対し,生活保護申請をしたが,同月19日,保護費を借金返済に充てることを確認したため,との理由により,同申請は却下された。
Xは,平成21年2月13日,独立行政法人福祉医療機構に年金担保貸付の申込みをし,同年3月18日,35万円の本件年金担保貸付を受けた。
Xは,平成21年6月1日,処分行政庁に対し,生活保護申請(本件申請)をしたが,同月22日,本件年金担保貸付を受け,現在受給中の年金から返済を行っていることが判明したため,との理由により,同申請は却下された(本件却下処分)。
Xは,本件却下処分を不服として,平成21年8月21日,沖縄県知事に対し審査請求をしたが,同年11月5日,同審査請求は棄却された。
Xは,○を患っており,平成▲年以降,A病院に通院していた。
本件廃止処分から本件年金担保貸付を受けるまでの間における申立人の収入としては,厚生年金として支給される月額2万6000円余りの金員に加え,空き缶等の回収による収入及び子らによる援助等が認められる。しかしながら,空き缶等の回収による収入は安定していない上,2か月で1000円程度にしかならないというのであり,子らによる援助等を考慮しても,申立人の生活費,家賃及び罹患する○の治療に掛かる医療費等に著しく不足していることが認められる。
これに対し,Yは,Xの近隣に居住する子二人及び友人等から金銭や食料の援助を受けていること,○治療のために定期通院を行なうことができていること,異母弟から当座の支援を求めることが可能であることなどを主張する。
しかしながら,Xが平成8年6月から本件廃止処分を受ける平成20年12月までの約12年半もの間,生活保護を受けていたことにかんがみれば,扶養義務者である子らに申立人を扶養する能力があるとは認め難く,実際に子らからXの扶養が困難である旨の上申がなされている(このほか,住所,氏名等は開示されておらず不明であるが,申立人に対する金銭的援助は不可と記載された扶養義務者から処分行政庁に対する扶養届3通が出されている。)。また,友人等からの援助については,扶養義務に基づくものでなく,安定して行われているとは認め難い。さらに,異母弟からの支援については,かかる支援の申出内容(那覇市福祉事務所保護課相談班長B作成の上申書)からして実現可能性が低いとうかがわれるところであり,現に支援がなされたとも認められない。なお,定期通院については,申立人から医療費の支払を猶予してもらっているとも主張されているところであって,申立人に金銭的余力があることをうかがわせる事情足り得ない。
【関連条文】
*行政事件訴訟法
第三十七条の五 義務付けの訴えの提起があつた場合において、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずること(以下この条において「仮の義務付け」という。)ができる。
2 差止めの訴えの提起があつた場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずること(以下この条において「仮の差止め」という。)ができる。
3 仮の義務付け又は仮の差止めは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができない。
4 第二十五条第五項から第八項まで、第二十六条から第二十八条まで及び第三十三条第一項の規定は、仮の義務付け又は仮の差止めに関する事項について準用する。
5 前項において準用する第二十五条第七項の即時抗告についての裁判又は前項において準用する第二十六条第一項の決定により仮の義務付けの決定が取り消されたときは、当該行政庁は、当該仮の義務付けの決定に基づいてした処分又は裁決を取り消さなければならない。
*生活保護法
(この法律の目的)
第一条 この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
(無差別平等)
第二条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。
(最低生活)
第三条 この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
(保護の補足性)
第四条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。
*******裁判所ホームページより*******
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101202132058.pdf
【判決文】
主 文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理 由
(以下,略語,略称等は,原決定のそれに従う。)
1 審理の経過等
(1)相手方(基本事件原告,原審申立人)は,平成21年6月1日,処分行政庁に対し,生活保護の開始を申請(本件申請)したところ,処分行政庁から,同月22日付けで本件申請を却下する旨の処分(本件却下処分)を受けた。
相手方は,審査請求に対する裁決を経た上で,抗告人(基本事件被告,原審相手方)を被告として,本件却下処分を取り消すとともに,処分行政庁が相手方に対して生活保護を開始して生活扶助等を支給することの義務付けを求める訴え(基本事件)を提起し,上記義務付けの訴えを本案として,生活保護を開始して生活扶助等を支給することの仮の義務付けを求める申立て(原審事件)をした。
(2)原決定は,相手方の困窮状態にかんがみ,本件申立てには,償うことのできない損害を避けるための緊急の必要性があり,かつ,本案について理由があるとみえるとして,抗告人に対し,処分行政庁において生活保護を仮に開始し,保護の程度につき疎明のされた限度で生活扶助等を行うよう命ずる旨の決定をした。
(3)抗告人は,原決定中,相手方の申立てが一部認められた部分を不服として,本件抗告を提起した。
抗告人の主張は,別紙「抗告理由書」(写し),別紙「訂正申立書」(写し)及び別紙「補充書面」(写し)に記載のとおりであり,これに対する相手方の主張は,別紙「反論書」(写し)に記載のとおりである。
2 当裁判所の判断
(1)当裁判所も,相手方が,生活保護の開始決定がされないことにより,健康で文化的な最低限度の生活水準の維持も危ぶまれるほどの困窮状態にあったのに,処分行政庁が本件却下処分をしたことには,裁量権の逸脱があったものと一応認められ,かつ,上記のような困窮状態にかんがみれば,本件申立てには,償うことのできない損害を避けるための緊急の必要性があるものと判断する。
その理由は,原決定に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)抗告人は,相手方が亡父の遺産(不動産)を取得する権利があると主張する。
しかし,上記不動産は,既に他人名義となっているのであるから(疎乙4ないし7(枝番を含む。)),そもそも相手方が取得し得るものか否かが明らかではない。仮にその点を措くとしても,不動産の現金化には一定の期間を要するのが通例であるから,抗告人の上記主張を前提としても,上記の緊急の必要性が否定されることになるものではない。
また,抗告人は,相手方が年金担保貸付けを利用したり借金等をしていたのに,その事実を秘匿していたことを指摘する。
確かに,相手方は,金銭管理等が適切さを欠く上,生活保護を申請する者として誠実さを欠くと指摘されてもやむを得ない面もないではないが,相手方の上記困窮状態にかんがみれば,上記の裁量権の逸脱が直ちに否定されるものではない。
3 結論
以上のとおりであるから,本件申立ては,原決定の範囲で生活保護を仮に開始することを命ずる限度で理由がある。
よって,これと同旨の原決定は相当であり,本件抗告は理由がないから棄却することとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・河邉義典,裁判官・森鍵 一,裁判官・山崎 威)
別紙
抗告理由書(写し)〈省略〉
訂正申立書(写し)〈省略〉
補充書面(写し)〈省略〉
反論書(写し)〈省略〉
その「仮の義務付け」が認められました。
【事件名】生活保護開始仮の義務付け決定に対する即時抗告事件
【事件番号】 福岡高等裁判所那覇支部決定/平成22年(行ス)第1号
【判決日付】 平成22年3月19日
(原審)
【事件名】生活保護開始仮の義務付け申立て事件
【事件番号】 那覇地方裁判所決定/平成21年(行ク)第7号
【判決日付】 平成21年12月22日
(基本事件・那覇地方裁判所平成21年(行ウ)第26号生活保護開始申請却下取消等請求事件)
【事案の概要】
Yは、那覇市長。
Xは,昭和▲年▲月生まれの73歳の女性であり,夫とは死別している。子(いずれも成人)は3名おり,うち2名は沖縄県内に住んでいるが,Xとは別に暮らしている。Xは,生活保護受給開始時(平成8年6月)から一人暮らしである。
Xは,清掃員として稼働するなどしていたが,転倒して右足を怪我して入院し,働けなくなり,平成8年6月28日から生活保護が開始され,生活扶助,住宅扶助及び医療扶助を受給していた。
Xは,生活保護受給中の平成13年5月11日に年金担保貸付を受けたことが発覚し,処分行政庁に対し,年金担保貸付を受けない旨の誓約書を提出するなどした。このほか,申立人は,生活保護受給中も,家賃の滞納をしたり,金銭の借入れやその返済を行うなどし,処分行政庁により,複数回にわたり,口頭での指導や文書での指示を受けるなどしていた。
平成20年12月1日,Xに対する生活保護(生活扶助,住宅扶助及び医療扶助)が廃止された(本件廃止処分)。同廃止決定通知書には,廃止理由の記載はない。
Xは,平成21年1月7日,処分行政庁に対し,生活保護申請をしたが,同月19日,保護費を借金返済に充てることを確認したため,との理由により,同申請は却下された。
Xは,平成21年2月13日,独立行政法人福祉医療機構に年金担保貸付の申込みをし,同年3月18日,35万円の本件年金担保貸付を受けた。
Xは,平成21年6月1日,処分行政庁に対し,生活保護申請(本件申請)をしたが,同月22日,本件年金担保貸付を受け,現在受給中の年金から返済を行っていることが判明したため,との理由により,同申請は却下された(本件却下処分)。
Xは,本件却下処分を不服として,平成21年8月21日,沖縄県知事に対し審査請求をしたが,同年11月5日,同審査請求は棄却された。
Xは,○を患っており,平成▲年以降,A病院に通院していた。
本件廃止処分から本件年金担保貸付を受けるまでの間における申立人の収入としては,厚生年金として支給される月額2万6000円余りの金員に加え,空き缶等の回収による収入及び子らによる援助等が認められる。しかしながら,空き缶等の回収による収入は安定していない上,2か月で1000円程度にしかならないというのであり,子らによる援助等を考慮しても,申立人の生活費,家賃及び罹患する○の治療に掛かる医療費等に著しく不足していることが認められる。
これに対し,Yは,Xの近隣に居住する子二人及び友人等から金銭や食料の援助を受けていること,○治療のために定期通院を行なうことができていること,異母弟から当座の支援を求めることが可能であることなどを主張する。
しかしながら,Xが平成8年6月から本件廃止処分を受ける平成20年12月までの約12年半もの間,生活保護を受けていたことにかんがみれば,扶養義務者である子らに申立人を扶養する能力があるとは認め難く,実際に子らからXの扶養が困難である旨の上申がなされている(このほか,住所,氏名等は開示されておらず不明であるが,申立人に対する金銭的援助は不可と記載された扶養義務者から処分行政庁に対する扶養届3通が出されている。)。また,友人等からの援助については,扶養義務に基づくものでなく,安定して行われているとは認め難い。さらに,異母弟からの支援については,かかる支援の申出内容(那覇市福祉事務所保護課相談班長B作成の上申書)からして実現可能性が低いとうかがわれるところであり,現に支援がなされたとも認められない。なお,定期通院については,申立人から医療費の支払を猶予してもらっているとも主張されているところであって,申立人に金銭的余力があることをうかがわせる事情足り得ない。
【関連条文】
*行政事件訴訟法
第三十七条の五 義務付けの訴えの提起があつた場合において、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずること(以下この条において「仮の義務付け」という。)ができる。
2 差止めの訴えの提起があつた場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずること(以下この条において「仮の差止め」という。)ができる。
3 仮の義務付け又は仮の差止めは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができない。
4 第二十五条第五項から第八項まで、第二十六条から第二十八条まで及び第三十三条第一項の規定は、仮の義務付け又は仮の差止めに関する事項について準用する。
5 前項において準用する第二十五条第七項の即時抗告についての裁判又は前項において準用する第二十六条第一項の決定により仮の義務付けの決定が取り消されたときは、当該行政庁は、当該仮の義務付けの決定に基づいてした処分又は裁決を取り消さなければならない。
*生活保護法
(この法律の目的)
第一条 この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
(無差別平等)
第二条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。
(最低生活)
第三条 この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
(保護の補足性)
第四条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。
*******裁判所ホームページより*******
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101202132058.pdf
【判決文】
主 文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理 由
(以下,略語,略称等は,原決定のそれに従う。)
1 審理の経過等
(1)相手方(基本事件原告,原審申立人)は,平成21年6月1日,処分行政庁に対し,生活保護の開始を申請(本件申請)したところ,処分行政庁から,同月22日付けで本件申請を却下する旨の処分(本件却下処分)を受けた。
相手方は,審査請求に対する裁決を経た上で,抗告人(基本事件被告,原審相手方)を被告として,本件却下処分を取り消すとともに,処分行政庁が相手方に対して生活保護を開始して生活扶助等を支給することの義務付けを求める訴え(基本事件)を提起し,上記義務付けの訴えを本案として,生活保護を開始して生活扶助等を支給することの仮の義務付けを求める申立て(原審事件)をした。
(2)原決定は,相手方の困窮状態にかんがみ,本件申立てには,償うことのできない損害を避けるための緊急の必要性があり,かつ,本案について理由があるとみえるとして,抗告人に対し,処分行政庁において生活保護を仮に開始し,保護の程度につき疎明のされた限度で生活扶助等を行うよう命ずる旨の決定をした。
(3)抗告人は,原決定中,相手方の申立てが一部認められた部分を不服として,本件抗告を提起した。
抗告人の主張は,別紙「抗告理由書」(写し),別紙「訂正申立書」(写し)及び別紙「補充書面」(写し)に記載のとおりであり,これに対する相手方の主張は,別紙「反論書」(写し)に記載のとおりである。
2 当裁判所の判断
(1)当裁判所も,相手方が,生活保護の開始決定がされないことにより,健康で文化的な最低限度の生活水準の維持も危ぶまれるほどの困窮状態にあったのに,処分行政庁が本件却下処分をしたことには,裁量権の逸脱があったものと一応認められ,かつ,上記のような困窮状態にかんがみれば,本件申立てには,償うことのできない損害を避けるための緊急の必要性があるものと判断する。
その理由は,原決定に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)抗告人は,相手方が亡父の遺産(不動産)を取得する権利があると主張する。
しかし,上記不動産は,既に他人名義となっているのであるから(疎乙4ないし7(枝番を含む。)),そもそも相手方が取得し得るものか否かが明らかではない。仮にその点を措くとしても,不動産の現金化には一定の期間を要するのが通例であるから,抗告人の上記主張を前提としても,上記の緊急の必要性が否定されることになるものではない。
また,抗告人は,相手方が年金担保貸付けを利用したり借金等をしていたのに,その事実を秘匿していたことを指摘する。
確かに,相手方は,金銭管理等が適切さを欠く上,生活保護を申請する者として誠実さを欠くと指摘されてもやむを得ない面もないではないが,相手方の上記困窮状態にかんがみれば,上記の裁量権の逸脱が直ちに否定されるものではない。
3 結論
以上のとおりであるから,本件申立ては,原決定の範囲で生活保護を仮に開始することを命ずる限度で理由がある。
よって,これと同旨の原決定は相当であり,本件抗告は理由がないから棄却することとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・河邉義典,裁判官・森鍵 一,裁判官・山崎 威)
別紙
抗告理由書(写し)〈省略〉
訂正申立書(写し)〈省略〉
補充書面(写し)〈省略〉
反論書(写し)〈省略〉
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