第1 はじめに、問題の所在
安楽死、尊厳死には、もし、これらの行為が患者の死期を早めて生命を短縮させる場合には、
刑法199条殺人罪または、患者が望んでいたとしても202条同意殺人罪の構成要件に該当してしまう。
*****刑法****
(殺人)
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
(自殺関与及び同意殺人)
第二百二条 人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。
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第2 安楽死:死期の迫った患者の耐え難い肉体的苦痛を除去して、安らかな死を迎えさせること。
1.類型
1)純粋安楽死
患者の肉体的苦痛を緩和するために鎮痛剤を与える処置などを行ったが、それが生命短縮を伴わない場合。治療行為として当然に適法。
2)消極的安楽死(不作為による安楽死)
患者が、耐え難い苦痛を引き延ばすだけでしかない延命治療を望まない場合に、医師がそれを受けて延命措置を行わないこと。
この場合には、医師には患者の意思に反してまで積極的に生命の延長を図る刑法上の義務はないので、延命措置を行わなかったとしても問題はない。
3)間接的安楽死
患者の苦痛を取り除くための措置(例、モルヒネの投与)が副作用として生命短縮をもたらしてしまう場合。
根拠づけは様々であるが、(同意)殺人罪の構成要件に該当したとしても違法性が阻却されると一般的に考えられている。
4)積極的安楽死(直接的安楽死)
患者の苦痛を取り除くために、直接患者の生命を絶つ場合。
苦痛にあえぎながら、殺してくれと真摯に要求してくる患者を見るに見かねて致死薬を投与するような場合。
(同意)殺人罪の構成要件に該当したとしても、違法性を阻却させて適法とすることができるかどうか、議論となっている。
2.積極的安楽死の適法化のための要件を提示した裁判例
1)名古屋高裁判決(S37.12.22)の六要件
①病者が現代医学の知識と技術から見て病に冒され、しかもその死が目前に迫っていること
②患者の苦痛がはなはだしく、何人も真にこれを見るに忍びない程度のものであること
③もっぱら病者の死苦の緩和の目的でなされたこと
④病者の意識が表明できる場合には、本人の真摯な嘱託又は承認のあること
⑤医師の手によることを本則とし、これにより得ない場合には医師により得ないと首肯するに足る特別な事情があること
⑥その方法が倫理的にも妥当なものとして認容できるものであること
2)横浜地裁判決(H7.3.28)の四要件
①患者が耐え難い肉体的苦痛に苦しんでいること
②患者の死が避けられず、その死期が差し迫っていること
③患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし、ほかに代替手段がないこと
④生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること
3)積極的安楽死を適法とする根拠(学説多数説)
積極的安楽死においては、安らかな死を迎える利益が、苦痛を伴った残り少ない生命を維持する利益よりも明らかに上回っており、患者がそれを極限の状況下で選びとっているのだから、その究極の選択である自己決定を例外的に尊重して違法性が阻却される。
つまり、残り少ない生命に関しては、例外的に生命を放棄する自己決定が尊重され(被害者の同意として有効になる)、その患者の意思に従って殺害した者の行為は、違法性が欠けて適法と認められる。
4)積極的安楽死を適法とすることの問題点
余生わずかな老人や重病人の生命についても刑法的保護をゆるめて積極的安楽死を認めてよいことになってしまう。
この発想は、生命のあいだに、保護すべき生命とそうでない生命があるというよううに質的な相違を肯定することになる。
ひいては、ナチス時代にみられた「生存する価値が認められない生命」は抹殺してよいという考えにつながる恐れさえある。
第3 尊厳死:回復の見込みのない患者(例えば、脳死の患者や植物状態患者)に対して生命維持治療を断念して、人間として尊厳ある死を迎えさせること。
*脳死(全脳死)では自立で呼吸できず、回復する可能性はない状態。植物状態は、自力で呼吸できることが多く、まれに回復することもある。
1.尊厳死を適法とする根拠
本人は、肉体的苦痛を感じるわけではないが、意識を回復する見込みもないまま、機械につながれた状態で無理に生き延びさせられている。
そこで、むしろ人間として尊厳ある死、普通の自然の死を迎えさせるため、生命維持治療を中止する行為が許されるかどうかが問題になる。
尊厳死を適法とみなす根拠は、助かる見込みがないのに、無理に生かされつづけている患者の「生きることの押し付けを拒絶する自己決定」を尊重するところに求めるしかない。
2.1.の考え方を認めると安楽死でみられる問題点は生じるか
上記「生きることの押し付けを拒絶する自己決定」は、安楽死で問題となる積極的に生命を放棄する自己決定とは異なるものであり、基本的に尊重され、問題はない。
以上
参考:『よくわかる刑法』井田良氏ら 該当箇所は、飯島暢氏
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