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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月27日は、第27条。働けるということは、義務の前に権利である

2014-08-27 11:12:57 | 日本国憲法

 一日一条ずつの日本国憲法の解説と、自民党改憲案の問題点の考察、
 8月27日、28日は、憲法27条と28条です。

 労働基本権に関する規定です。

 これら条項もまた、とても大切だと思います。

 自分は、27条を理解するに当たり、まず、大事なことは、「働けるということは、義務の前に権利である」ということだと考えます。(以前のブログ:http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/8c35694366b639cd2f81c9d726c6e573 )
 私たちのまさに自己実現の形のひとつが、働けることじゃないでしょうか。
 国は、働ける環境整備を、鋭意行っていかねばなりません。


 まずは、どのような案であるか、27条、28条セットで、見ておきます。

****************************
日本国憲法
第二十七条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3 児童は、これを酷使してはならない。


自民党案
(勤労の権利及び義務等)
第二十七条 全て国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律で定める。
3 何人も、児童を酷使してはならない。


日本国憲法
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。


自民党案
(勤労者の団結権等)
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、保障する。
2 公務員については、全体の奉仕者であることに鑑み、法律の定めるところにより、前項に規定する権利の全部又は一部を制限することができる。この場合においては、公務員の勤労条件を改善するため、必要な措置が講じられなければならない。〔新設〕

***********************************

 自民党案は、日本国憲法とほぼ同じ内容であることがわかります。文体や格調の高さからは、日本国憲法のほうが優れています。この点改憲する必要はありません。

 大きな点は、自民党案では、28条に2項を新設しています。
 この新設に関しては、28条のことなので、28日の明日述べます。


 以下、27条、28条に関する基礎知識。
 最後に、労働法関連の知識の整理をしたもののアドレスも貼ります。


 19世紀の資本主義の発達の過程において、労働者は、失業や劣悪な労働条件のために厳しい生活を余儀なくされました。労働者の生活を向上させるために、労働者を保護し、労働運動を容認する立法が制定することとなりました。

 日本国憲法は、27条で勤労の権利(勤労権、労働権)を保障し、勤労が国民の義務(ただし、勤労が義務とはいえ、法律により勤労を国民に強制することができるという意味ではありません。)であることを宣言し、かつ、勤労条件の法定(勤労条件法定主義)を定めています。

 28条で労働基本権(団結権、団体交渉権、団体行動権・争議権の労働三権)を保障しています。

 27条3項の児童の酷使の禁止は、子どもが過酷な労働環境で働くことを強制された歴史を繰り返すことのないよう、子どもの権利を守るための規定です。

 この規定から、

〇児童(満15歳後の最初の3月31日が終了するまで)を労働者として使用することの原則禁止(労働基準法56条)

〇児童(18歳未満)を午後10時から午前5時までの間に働かせる深夜業の原則禁止(同法61条)

〇児童(18歳未満)の危険有害業務に関する就業制限(同法62条)

〇児童(18歳未満)の坑内労働の禁止(同法63条)

 が定められています。

 以下、関連法律の該当箇所を抜粋します。

*******関連法律 抜粋***********************
<労働基準法>
  第六章 年少者


(最低年齢)
第五十六条  使用者は、児童が満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了するまで、これを使用してはならない
○2  前項の規定にかかわらず、別表第一第一号から第五号までに掲げる事業以外の事業に係る職業で、児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものについては、行政官庁の許可を受けて、満十三歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については、満十三歳に満たない児童についても、同様とする。

(年少者の証明書)
第五十七条  使用者は、満十八才に満たない者について、その年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けなければならない。
○2  使用者は、前条第二項の規定によつて使用する児童については、修学に差し支えないことを証明する学校長の証明書及び親権者又は後見人の同意書を事業場に備え付けなければならない。

(未成年者の労働契約)
第五十八条  親権者又は後見人は、未成年者に代つて労働契約を締結してはならない。
○2  親権者若しくは後見人又は行政官庁は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては、将来に向つてこれを解除することができる。

第五十九条  未成年者は、独立して賃金を請求することができる。親権者又は後見人は、未成年者の賃金を代つて受け取つてはならない。

(労働時間及び休日)
第六十条  第三十二条の二から第三十二条の五まで、第三十六条及び第四十条の規定は、満十八才に満たない者については、これを適用しない。
○2  第五十六条第二項の規定によつて使用する児童についての第三十二条の規定の適用については、同条第一項中「一週間について四十時間」とあるのは「、修学時間を通算して一週間について四十時間」と、同条第二項中「一日について八時間」とあるのは「、修学時間を通算して一日について七時間」とする。
○3  使用者は、第三十二条の規定にかかわらず、満十五歳以上で満十八歳に満たない者については、満十八歳に達するまでの間(満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日までの間を除く。)、次に定めるところにより、労働させることができる。
一  一週間の労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合において、他の日の労働時間を十時間まで延長すること。
二  一週間について四十八時間以下の範囲内で厚生労働省令で定める時間、一日について八時間を超えない範囲内において、第三十二条の二又は第三十二条の四及び第三十二条の四の二の規定の例により労働させること。

(深夜業)
第六十一条  使用者は、満十八才に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。ただし、交替制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。
○2  厚生労働大臣は、必要であると認める場合においては、前項の時刻を、地域又は期間を限つて、午後十一時及び午前六時とすることができる。
○3  交替制によつて労働させる事業については、行政官庁の許可を受けて、第一項の規定にかかわらず午後十時三十分まで労働させ、又は前項の規定にかかわらず午前五時三十分から労働させることができる。
○4  前三項の規定は、第三十三条第一項の規定によつて労働時間を延長し、若しくは休日に労働させる場合又は別表第一第六号、第七号若しくは第十三号に掲げる事業若しくは電話交換の業務については、適用しない。
○5  第一項及び第二項の時刻は、第五十六条第二項の規定によつて使用する児童については、第一項の時刻は、午後八時及び午前五時とし、第二項の時刻は、午後九時及び午前六時とする。

危険有害業務の就業制限
第六十二条  使用者は、満十八才に満たない者に、運転中の機械若しくは動力伝導装置の危険な部分の掃除、注油、検査若しくは修繕をさせ、運転中の機械若しくは動力伝導装置にベルト若しくはロープの取付け若しくは取りはずしをさせ、動力によるクレーンの運転をさせ、その他厚生労働省令で定める危険な業務に就かせ、又は厚生労働省令で定める重量物を取り扱う業務に就かせてはならない。
○2  使用者は、満十八才に満たない者を、毒劇薬、毒劇物その他有害な原料若しくは材料又は爆発性、発火性若しくは引火性の原料若しくは材料を取り扱う業務、著しくじんあい若しくは粉末を飛散し、若しくは有害ガス若しくは有害放射線を発散する場所又は高温若しくは高圧の場所における業務その他安全、衛生又は福祉に有害な場所における業務に就かせてはならない。
○3  前項に規定する業務の範囲は、厚生労働省令で定める。

坑内労働の禁止
第六十三条  使用者は、満十八才に満たない者を坑内で労働させてはならない。

(帰郷旅費)
第六十四条  満十八才に満たない者が解雇の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。ただし、満十八才に満たない者がその責めに帰すべき事由に基づいて解雇され、使用者がその事由について行政官庁の認定を受けたときは、この限りでない。



<児童福祉法>
 第八節 雑則


第三十四条  何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一  身体に障害又は形態上の異常がある児童を公衆の観覧に供する行為
二  児童にこじきをさせ、又は児童を利用してこじきをする行為
三  公衆の娯楽を目的として、満十五歳に満たない児童にかるわざ又は曲馬をさせる行為
四  満十五歳に満たない児童に戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で歌謡、遊芸その他の演技を業務としてさせる行為
四の二  児童に午後十時から午前三時までの間、戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で物品の販売、配布、展示若しくは拾集又は役務の提供を業務としてさせる行為
四の三  戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で物品の販売、配布、展示若しくは拾集又は役務の提供を業務として行う満十五歳に満たない児童を、当該業務を行うために、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 (昭和二十三年法律第百二十二号)第二条第四項 の接待飲食等営業、同条第六項 の店舗型性風俗特殊営業及び同条第九項 の店舗型電話異性紹介営業に該当する営業を営む場所に立ち入らせる行為
五  満十五歳に満たない児童に酒席に侍する行為を業務としてさせる行為
六  児童に淫行をさせる行為
七  前各号に掲げる行為をするおそれのある者その他児童に対し、刑罰法令に触れる行為をなすおそれのある者に、情を知つて、児童を引き渡す行為及び当該引渡し行為のなされるおそれがあるの情を知つて、他人に児童を引き渡す行為
八  成人及び児童のための正当な職業紹介の機関以外の者が、営利を目的として、児童の養育をあつせんする行為
九  児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、これを自己の支配下に置く行為
○2  児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター又は児童自立支援施設においては、それぞれ第四十一条から第四十三条まで及び第四十四条に規定する目的に反して、入所した児童を酷使してはならない。

******************************************

<労働法>
7)労働基準監督官「ダンダリン」 2013年10月日テレ

「ダンダリン」の活躍を援護する社会。第1話 会社にしがみつくのではなく、命にしがみつけ

ダンダリンの活躍を援護する社会。第2話労働基準法41条名ばかり店長

ダンダリンの活躍を援護する社会。第3話 労働基準監督官はルール それ以下でもそれ以上でもない。

ダンダリンの活躍を援護する社会。第4話 内定切りは解雇と同じ。 労働基準法104条2項

ダンダリン活躍を援護する社会。第5話労働者と雇い主のwin-win。そのためには労働者に手段が要る。

ダンダリンの活躍を援護する社会。第6話最低賃金の半分も行かない時給で外国人労働者が働く環境とは

ダンダリンの活躍を援護する社会。第7話行政解剖の前に死亡画像診断Aiを。

ダンダリンの活躍を援護する社会。第8話 ブラック企業 会社嫌なら会社を→×辞める○変える。 

ダンダリンの活躍を援護する社会。第9話請負契約は事業主となること。雇用ではない。

ダンダリンの活躍を援護する社会。第10話えん罪を起こしてくるやつはいる。



6)懲戒処分の有効性の検証方法
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/e83484206f773abaeb12dd51def6e695


5)働けることって、義務の前に、権利ですよね。「業務命令としての自宅待機」の可否について。
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/8c35694366b639cd2f81c9d726c6e573

4)重要賃金問題!賃金の相殺は原則禁止。退職金不支給条項は違法か?賞与支給日前に退職するともらえない?(2013-04-22 23:00:00 2年目)
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/2147f5723bc62c34c620992726cd6011


3)重要!改正労働契約法本年4/1施行19条1号2号。有期契約雇止めが一定の場合禁止が明文化(2013-04-16 15:31:45 2年目)
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/ab98f5cdea9e7d39744928679fd1b77f


2)労働法:就業規則を理解することの大切さ ぜひ、ご自身の就業規則のご確認を!(20130409 2年目)
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/98f14b972998cde370b85ec98dec323e


1)労働法:個別的労働契約における「労働者」と「使用者」(20130409 2年目)
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/4ec6ef365e969fe096b647ab2c4cc614


 

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憲法26条 子どもが教育を受ける権利

2014-08-26 23:00:00 | 日本国憲法
 一日一条ずつの日本国憲法の解説と、自民党改憲案の問題点の考察。

 8月26日は、憲法26条。

 教育を受ける権利を保障するとても重要な条文です。
 子ども達にとって、最も重要な条文といってもよいかもしれません。

 念のため、書きますが、この条文が義務として定めているのは、子ども達が義務で勉強しなければならないことや学校へ行って勉強する義務ではありません
 子ども達に教育を受けさせる義務、勉強できる機会をつくる義務が、親や国にあることを定めています


 そのことを、憲法学者故芦部先生は、

 「教育を受ける権利は、その性質上、子どもに対して保障される。その権利の内容は、子どもの学習権を保障したものと解される。
  子どもの教育を受ける権利に対応して、子どもに教育を受ける責務を負うのは、第一次的には親ないしは親権者である。26条2項が、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」と定めているのは、そのことを明示している。また、教育を受ける権利の社会権としての側面として、国は、教育制度を維持し、教育条件を整備すべき義務を負う。この要請を受けて、教育基本法および学校教育法等が定められ、小・中学校の義務教育を中心とする教育制度が設けられている。」(『憲法第5版』岩波書店 264ページ)と書かれています。

 教育権の所在については、教育内容について国が関与・決定する権能を有するとする説(国家の教育権説)と、子どもの教育について責任を負うのは、親およびその付託を受けた教師を中心とする国民全体であり、国は教育の条件整備の任務を負うにとどまるとする説(国民の教育権説)の争いがあります。
 最高裁判例は、両説「極端かつ一方的」であるとして否定し、教師に一定の範囲の教育の自由の保障があることを肯定しながら、その自由を完全に認めることは、1)児童生徒には教育内容を批判する能力がなく、2)教師に強い影響力があること、3)子どもの側に学校・教師を選択する余地が乏しいこと、4)全国的に一定の水準を確保すべき要請が強いことなどから、許されないとし、結論としては、教育内容について、「必要かつ相当と認められる範囲において」決定するという、広汎な国の介入権を肯定しています(学説の批判有り)。(旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決昭和51.5.21)

 憲法26条2項で謳う、義務教育の無償については、一般に、「授業料不徴収」の意味であると解されています。1963年以降、教科書は無償で配布されています。

 
 憲法上、よく問題になるのは、義務教育や高校教育ですが、26条は、生涯教育、家庭教育、社会教育も含んでいます


************************
日本国憲法
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

自民党案
(教育に関する権利及び義務等)
第二十六条 全て国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、等しく教育を受ける権利を有する。
2 全て国民は、法律の定めるところにより、その保護する子に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、無償とする。
3 国は、教育が国の未来を切り拓(ひら)く上で欠くことのできないものであることに鑑み、教育環境の整備に努めなければならない。〔新設〕
*************************


 さて、自民党案との比較、自民党案は、1項と2項は大きく変えてはいませんが、3項を新設しています。
 とても残念な条項の新設です。
 その新設された3項では、鑑みることを、自民党は取り違えていませんか。
 何のための教育ですか?国のための教育ですか?


 日本のひとりひとりの子どもが、その子の個性や可能性を十分に伸ばし、人生に役立つ知識技能を身に着ける教育をすることが大切なのではないでしょうか。
 ですから、まず、鑑みるべきことは、「教育が、個人が人格を形成し、社会において有意義な生活を送るために不可欠であること」でしょう。

 日本の学校で教育を受けた優秀な人材が、国の未来を切り拓いたとしても、それは、間接的付随的な効果であり、そのことを直接に期待するのは、教育の目的をはき違えていると思います。
 資源のない日本が世界で太刀打ちするためには、教育こそ大切なことはわかるとしても、そのことを憲法の条文に盛り込む前に、もっともっと大切な個人の人格形成に寄与する教育について盛り込むべきだと考えます。

 小中高と、国のために勉強した経験のあるかた、どれだけおられるでしょうか。
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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月25日は、第25条。生存権

2014-08-25 01:05:59 | 日本国憲法

 一日一条ずつの日本国憲法の解説と、自民党憲法草案の問題点の考察。
 8月25日は、25条。
 
 本日25条、おそらく、「生存権」という名と共に、社会科でも何度も出てきて、最も親しみの持てる条項ではないでしょうか。

 その分、とても重要な条項です。

 25条から、26、27、28と社会権が保障されています。


 社会権とはなにか、憲法学者の故芦部先生の解説を読みます。


 「日本国憲法は、生存権(25条)、教育を受ける権利(26条)、勤労の権利(27条)、労働基本権(28条)という社会権を保障している。社会権は、20世紀になって、社会国家(福祉国家)の理念に基づき、とくに社会的・経済的弱者を保護し実質的平等を実現するために保障されるに至った人権である。その内容は、国民が人間に値する生活を営むことを保障するものであり、法的にみると、それは国に対して一定の行為を要求する権利(作為請求権)である。この点で、国の介入の排除を目的とする権利(不作為請求権)である自由権とは性質をことにする。もっとも、社会権にも自由権的側面がある。

 社会権が保障されたことにより、国は社会国家として国民の社会権の実現に努力すべき義務を負う。たとえば、憲法25条2項が、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定するのは、その趣旨である。」

(『憲法第5版』岩波書店 258頁)



******************************
日本国憲法
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。



自民党案
(生存権等)
第二十五条 全て国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、国民生活のあらゆる側面において、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。


(環境保全の責務)
第二十五条の二 国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することができるようにその保全に努めなければならない。〔新設〕


(在外国民の保護)
第二十五条の三 国は、国外において緊急事態が生じたときは、在外国民の保護に努めなければならない。〔新設〕

(犯罪被害者等への配慮)
第二十五条の四 国は、犯罪被害者及びその家族の人権及び処遇に配慮しなければならない。〔新設〕
***************************************


 自民党案は、日本国憲法とほぼ同じといえるでしょうか。
 憲法「すべての生活部面」が自民案「国民生活のあらゆる側面」となっています。
 これも同じとみてよいでしょうか。
 内容が狭まっていなければよいと思います。

 あと、自民党案では、25条の2、25条の3、25条の4が新設されています。

 これら新設された内容は、方向性としてはよいと思います。
 文面は、検討の余地が多分にあり。自民案は、すべて文言が弱すぎる。そのような文面で、本当に国は、それら新たな人権を守る気があるのかと思いたくなる。
 例えば、自民党案25条の4「犯罪被害者及びその家族の人権及び処遇に配慮」ではなく、犯罪被害者及びその家族の人権及び処遇を「保障する」レベルまでの表現はほしいと思います。


 もし、文面がきちんと直されたと仮定しても、ただ、とても、とても残念なのは、自民案全体が、これまで述べてきましたように

〇憲法を、国家を縛る最高法規から、国民を縛る法律に変えていること

〇人権規定に根本的な誤りがあること
 「公共の福祉」による人権間の調整ではなく、「公益及び公の秩序」による強制であること

〇表現の自由が否定されていること

〇戦争の放棄が否定されていること

〇象徴天皇制が否定されていること

〇結局、大日本帝国憲法への回帰の方向であること

 など、根本的な誤りがあって、憲法と呼べるものではないため、実現不可能であります。
 よって、これら新設条項も同時に、死文化される運命にあります。
 万万が一、自民党案が通ったとしても、25条の2、25条の3、25条の4は、国民のために機能はしないことが考えられます。自民党案は、人権規定に根本的な誤りがあるからです。


 自民案に頼るのではなく、これら条文の文面をよく練り、適正手続きのもと、憲法に入れていくべきか、法律の規定を充実させることで済むのか、議論を深めることこそが求められていると思います

 一番やってはならない選択肢は、これら条文に飛びついて、自民党案の負の部分に目をつぶってしまうことです。一旦、これらを含めて自民党案で改憲させておいて、後ほど、これら条項を削除する手口が用いられることまで、私達国民は、念頭に置いておくべきです。
 言っておきます。自民案は21条において、表現の自由が否定されています。改憲のハードルは、とても低く設定されています。正しい情報が伝えられることなく、次なる改憲も容易です。情報がまともに伝わらないことをよいことに、国に不都合な条文はすぐに削除されることでしょう

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日本国憲法一日一条ずつの解説、8月24日は第24条。婚姻は、両性の合意のみに基いて成立

2014-08-24 23:00:00 | 日本国憲法

 一日一条ずつの日本国憲法の解説と、自民党憲法草案の問題点の考察。

 8月24日は、24条。

 憲法24条1項で、婚姻の自由と夫婦の権利の同等をうたい、2項で、家族に関する立法は、「個人の尊厳と両性の本質的平等」に基づくべきであると定めています。


 GHQ民政局のペアテ・シロタ・ゴードンの意欲で起草され、GHQ内部や日本政府による数多の修正を受けながら、現在の形で残ったものだそうです。


 民法(家族法)の基本原理・最高法規という色彩が強く、「法の下の平等」を保障する14条の特別条項と位置付けられています。
 すなわち、13条の個人の尊厳や14条の両性の平等の意義を再確認し徹底化することを求めた規定です。(参照『判例憲法2』第一法規 85ページ)


***************
日本国憲法
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

自民党改憲案
(家族、婚姻等に関する基本原則)
第二十四条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。〔新設〕
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
***************


 まず、結構自民案は、変えようとしているため、なぜ、そのように変えるのか、自民党の解説を読みます。


*****自民党パンフ******
http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf

Q家族に関する規定は、どのように変えたのですか?


家族は、社会の極めて重要な存在ですが、昨今、家族の絆が薄くなってきて
いると言われています。こうしたことに鑑みて、24 条1 項に家族の規定を新
設し、「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、
互いに助け合わなければならない。」と規定しました。なお、前段については、世界人
権宣言16 条3 項も参考にしました。

党内議論では、「親子の扶養義務についても明文の規定を置くべきである。」との意見
もありましたが、それは基本的に法律事項であることや、「家族は、互いに助け合わな
ければならない」という規定を置いたことから、採用しませんでした。

(参考)世界人権宣言16 条3 項
 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利
を有する。

****************


問題点1 世界人権宣言16条3項を、自民党案は、反映しているとはいえない。

 1項を自民党案は、世界人権宣言16条3項を参考に新設したといいますが、結果、自民案は、「家族は、尊重される」と漠然と述べているにすぎません。
 世界人権宣言16条3項を参考にしたと言うのであれば、「家族は、国による保護を受ける権利を有する」とはっきりと述べるべきでしょう。


問題点2 憲法に価値観を持ち込んでよいか。

 新設された部分には、マスコミも取り上げ、問題提起がなされていました。


 
 もちろん、ひととしては当然の内容ではあるものの、価値観の持ち込みは問題があります。
 また、本来、社会全体で支えるべきところに関してまで、逆に、家族に全部責任を押し付ける根拠ともされる危険性があるのではないかと危惧します。

問題点3 なぜ、「のみ」を省く?

 自民党案では、こっそりと、削除する、文言を置き換えるということが、多数なされており、注意深く自民案の文言を読む必要があります。

 ここでも、決して削除してはならない「のみ」が削除されています。

 自民党案作成者にお伺いしたいところですが、そのほかに、どんな結婚の成立を想定されて、「のみ」を落とすのでしょうか?

憲法:婚姻は、両性の合意のみに基いて成立

自民党案:婚姻は、両性の合意に基づいて成立


問題点4 憲法「家族に関するその他の事項」から自民案「親族に関するその他の事項」へ

 ここも、自民党案が、こっそりとおこなっている部分。
 注意深く読まねば、落としてしまいます。項目の並べ替えをして、その他の事項の修飾のされる用語を変えています。

 保護されるべきひとが保護されないことになっています。
 親族の定義に入らないが、家族はいるはずであり、自民党案では、それら家族を保護する法制化をし辛くさせる変更です。

問題点5 憲法が保護する「住居の選定」が自民党案で、こっそり削除されています。

以上
 
(問題点がもっといろいろある条項だと思います。お気づきの点、教えてください。)

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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月23日は、第23条。学問の自由

2014-08-23 00:31:37 | 日本国憲法

 一日一条ずつの日本国憲法の解説と、自民党改憲案の問題点の考察。

 8月23日は、憲法23条。

 日本国憲法は、補則まで入れると全部で103条有りますが、ひとつ好きな条文を選べと言われると、私は、迷わずこの23条を選びます。

 「学問の自由は、これを保障する」

 その規定の重要性とともに、五七五の調子で日本語が並べられた美しい日本語の文体であるからです。
 日本国憲法全体が、美しい文体で格調高く構成されておりますが、そのことを象徴するような条文です。


 学問の自由を保障する規定は、明治憲法にはなく、また、諸外国の憲法においても、学問の自由を独自の条項で保障する例は多くないといいます。
 明治憲法時代に、学問の自由ないし学説の内容が、直接に国家権力に侵害された歴史(例、1933年滝川事件、1935年天皇機関説事件)を踏まえて、特に規定されました。


 学問の自由の内容としては、1)学問研究の自由、2)研究発表の自由、3)教授の自由の三つのものがあります。

1)学問研究の自由

 真理の発見・探求を目的とする研究の自由、内面的精神活動の自由であり、思想の自由の一部を構成します。


2)研究発表の自由

 1)でいう研究の結果を発表することができないならば、研究自体が無意味に帰するので、学問の自由は、当然に研究発表の自由を含みます。
 外面的精神活動の自由である表現の自由(21条)の一部であるが、憲法23条によっても保障されています。


3)教授の自由

 大学その他の高等学術研究教育機関における教授の自由(これら“のみ”とするのが従来の通説・判例「東大ポポロ事件最高裁判決」)、および大きな議論が有るところではありますが、初等中等教育機関における教育の自由(今日において支配的見解)。
 ただし、普通教育においても、「一定の範囲における教授の自由が保障される」ことをみとめるが、教育の機会均等と全国的な教育水準を確保する要請などがあるから、「完全な教授の自由を認めることは、とうてい許されない」とされています(旭川学テ事件最高裁判決昭和51・5・21)

(以上、参照『憲法 第5版』芦部信喜 164−165頁)
 
 

 次に、自民案との比較をします。

*********************
日本国憲法
第二十三条 学問の自由は、これを保障する。

自民党案
(学問の自由)
第二十三条 学問の自由は、保障する。
**********************

 ほぼ、同じと言えます。

 ただ、冒頭のべましたが、私は、私の好きな条文の美しい日本語の五七五リズムを失った自民党案は、個人的には認めることはできません。

 


 さて、学問の自由は、明治憲法下で、国家権力により侵害された歴史が有り、正しい真理の追究が国に都合が悪ければ、いつなんどき、国が介入するかもしれず、表現の自由とともにまもらねばならない大切な大切な規定です。

 今でさえ、見えない形の国の介入はあるのかもしれません。

 例えば、原子力研究で、国の意向に添う研究に多額の研究開発費が、国及び電力会社から与えれること、データをねつ造してまで、薬の効果をよくみせることで、製薬会社からの研究開発費を得ようとすることなど、ありうる話かもしれません。


 もうひとつ注意せねばならないことは、「学問の自由は保障する」のであって、憲法19条内心の自由で見た「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」のような「学問の自由は侵害されない」ではないということです。(ちなみに、残念ながら自民案19条「思想及び良心の自由は、保障する。」)
 どんな研究でもやってよいかというとそうではなく、「公共の福祉」と調和のとれた研究が求められることはいうまでもありません。
 例えば、医学分野では、生命と直結するためその倫理性が問われることが常です。最先端研究が周囲の住民に危害を加えるリスクがある場合なども考えられます。


 (ちなみに、19条が出たついでに述べますと、自民案19条が現実化すると、私達が考えることや思うことその内容そのものが、国により強制される場合が出てくることになります。それも「公共の福祉」との理由ではなく、「公益及び公の秩序」すなわち「国のため及び国の意向に沿った秩序」にはずれないようにするという理由のもとの強制がありえることとなります。)

 
 学問の自由の保障は、とても大切です。

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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月22日は、第22条。経済的自由など

2014-08-22 23:00:00 | 日本国憲法

 一日一条ずつの日本国憲法の解説と、自民党改憲案の問題点の考察。

 8月22日は、憲法22条。
 経済的自由にも関連した重要条文です。

 これまた、大きな問題点が自民党改憲案にはあります。

 ここでは、落としてはならない文言を落としています。
 「公共の福祉に反しない限り」という文言です。

*************
日本国憲法
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない


自民党案
(居住、移転及び職業選択等の自由等)
第二十二条 何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 全て国民は、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を有する
***************

 自民党案では、22条1項において、「公共の福祉に反しない限り」という文言が削除されています。
 いままでは、「公共の福祉」を削除して、その部分にこっそりと「公益及び公の秩序」という文言を置き換えでしたが、ここでは新たな手口です。

 「公共の福祉に反しない限り」の文言の重要性は、憲法学者故芦部先生も、以下、述べられています。

 「経済的自由は、精神的自由と比較して、より強度の規制を受ける(「二重の基準」の理論参照)。憲法22条が、とくに「公共の福祉に反しない限り」という留保をつけているのも、公権力による規制の要請が強いという趣旨を示したものである。それは、一つには、職業は性質上、社会的相互関連性が大きいので、無制限な職業活動を許すと、社会生活に不可欠な公共の安全と秩序の維持を脅かす事態が生じるおそれが大きいことになるが、それにとどまらず、現代社会の要請する社会国家の理念を実現するためには、政策的な配慮(たとえば、中小企業の保護)に基づいて積極的な規制を加えることが必要とされる場合が少なくないからである。」(『憲法 第5版』216-217頁)

 経済活動の規制の手段は、二つに大別されます。

 ○消極目的規制(警察的規制):主として国民の生命および健康に対する危険を防止もしくは除去ないし緩和するために課せられる規制。

 ○積極目的規制:福祉国家の理念に基づいて、経済の調和のとれた発展を確保し、とくに社会的・経済的弱者を保護するためになされる規制であり、社会・経済政策の一環としてとられる規制。

 これら、規制すべきを規制するには、「公共の福祉に反しない限り」という文言は必要です。

 自民党案は、安易に削除していますが、経済を自由奔放にまかせ、本当に大丈夫とお考えなのでしょうか?

 
 次に、22条2項は、侵害されてはならないものを、「有する」という文言に置き換え問題です。

 国籍は特定の国家に所属することを表す資格であり、それを個人の自由意志で離脱することは、明治憲法時代の国籍法では許されず、原則として政府の許可を必要としました。その意味で、憲法22条が国籍離脱の自由を認めたことは、一つの画期と言えました。
 その自由を侵害されないものとしていたところ、単に自由が有るという文言に、自民案はこっそりと置き換えています。国籍離脱の自由について、自民案では保障する気がないということであり、自民案が大日本帝国憲法回帰と言っても過言ではないひとつの根拠です。


 
 

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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月21日は、第21条。最重要!表現の自由。

2014-08-21 23:00:00 | 日本国憲法

 一日一条ずつの日本国憲法の解説と、自民党改憲案の問題点の考察。

 8月21日は、憲法21条です。

 自民党改憲案は、一条にひとつ以上の問題点や課題があり、どれも看過できないものですが、この21条もまた、最も重大な問題点の一つを含んでいます。

 21条に関連して前のブログhttp://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/b0a5bca6b92855718d565701d5e8b0eaで、表現の自由についての知識の整理を記載しました。

 表現の自由は、思想・情報を発表し伝達する自由でありますが、知る権利もまた、保障しています。

 知る権利について、憲法学者の故芦部先生は、

 「知る権利は、「国家からの自由」という伝統的な自由権であるが、それにとどまらず、参政権(国家への自由)的な役割を演ずる。個人はさまざまな事実や意見を知ることによって、はじめて政治に有効に参加することができるからである。」と知る権利の法的性格を述べられています。

 表現の自由、知る権利が保障されなければ、政治に有効に参加できなくなる、まさに、民主主義の根幹にかかわる権利を、憲法21条は保障しています。


 ところが、この21条を、自民案は、大きく変貌させようとしています。

 現行の日本国憲法と自民党案を比較します。

********************
日本国憲法
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。



自民党案
(表現の自由)
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。〔新設〕
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。

(国政上の行為に関する説明の責務)
第二十一条の二 国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う。〔新設〕

*********************

 自民案は、現行憲法21条とほぼ同じ文言をおいていますが、実は、こっそりと2項を新設しています。
 これが、現行憲法21条1項を完全に骨抜きにしています。

 よく見ていただきたいのですが、自民案は、1項で、表現の自由を保障すると言っておきながら、2項で、「前項の規定にかかわらず」、「公益及び公の秩序」すなわち、「国家のため、国家の都合で」制限すると言い切っているのです。
 もちろん、表現の自由があるからといって、何を言っても良いというわけではなく、すでに現行憲法上、「公共の福祉」による制限を、表現の形態、規制の目的・手段等を具体的に検討し、表現内容を最大限尊重はしつつ、報道の自由を十分に守りつつ、表現の自由により侵される権利、例えばプライバシー、名誉、青少年の健全育成、嘘の情報被害などを、現状に置いても厳しく審査をできている状態にあり、「公益及び公の秩序」を持ち出す必要性はまったくありません。
 表現の自由と知る権利は、政治が果たして有効に機能するかどうかにつながっていくわけであり、それを、国家のため、国家の都合で制限されると、正しい政治が営まれなくなります。すれば、ますます、政府に都合の良い情報だけが国民に伝えられ、都合の悪い情報は排除され、それにより政治がさらにゆがめられる結果となります。
 一旦、表現の自由と知る権利がゆがめられてしまうと、悪循環の陥り、自己回復できない状態になります。

 だからこそ、憲法21条は、絶対に守らねばならない権利です。
 なにがなんでも、守らねばなりません。

 民主主義の危機が、今、訪れようとしています。
 かつて、ワイマール憲法から、ナチスの台頭へと歴史が動いたように。

 皆さん、声を上げて下さい。悪い歴史を繰り返させないで下さい。
 ジャーナリストの皆様、すでにご承知のところであり、記事としても何度も取り上げらているところですが、はっきり言いまして、自民案21条でジャーナリズムは死にます。どうか、声を上げて下さい。ことの重大さを、全国民にお伝え下さい。よろしくお願い申し上げます。

 *あと、今回の自民案では、手をつけられておりませんが、許されてはならない憲法21条2項の「検閲」が復活しないかにどうか、注視願います。 

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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月20日は、第20条。信教の自由、政教分離。

2014-08-20 19:35:50 | 日本国憲法

 一日一条ずつの日本国憲法の解説と、自民党案の問題点の考察。
 8月20日は、第20条。

 憲法20条は、信教の自由と、政教分離を規定しています。

 基礎知識の整理の内容を前のブログhttp://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/d5079cb7244faa30b68526e77dab9dd9で書きました。

 政教分離において大事なことは、「個人の信教の自由を厚く保障するとともに、国家と宗教の分離を明確化」することです。
 それは、明治憲法の下、国粋主義の台頭とともに、神社に与えられた国教的地位とその教義は、国家主義や軍国主義の精神的な支柱となった」苦い歴史に基づいてのことです。
 (「 」は、憲法学者故芦部先生『憲法 第5版』150-151ページ)

 最高裁もその経過を、「わが国では、過去において、大日本帝国憲法(以下「旧憲法」という。)に信教の自由を保障する規定(二八条)を設けていたものの、その保障は「安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ」という同条自体の制限を伴つていたばかりでなく、国家神道に対し事実上国教的な地位が与えられ、ときとして、それに対する信仰が要請され、あるいは一部の宗教団体に対しきびしい迫害が加えられた等のこともあつて、旧憲法のもとにおける信教の自由の保障は不完全なものであることを免れなかつた。」と述べています(津地鎮祭事件最高裁判例S52.7.13)。


 自民案を見るに当たり、大事なことは、1)信教の自由が果たして保障されるのか、という視点と、2)政教分離が約束されるのかという視点です。

 以下、自民案と現行憲法の比較ですが、両者1)2)が自民案では、保障されません。



*************
日本国憲法
第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。


自民案
(信教の自由)
第二十条 信教の自由は、保障する。国は、いかなる宗教団体に対しても、特権を与えてはならない
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及び地方自治体その他の公共団体は、特定の宗教のための教育その他の宗教的活動をしてはならない。ただし、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない
*************

1)自民案で、信教の自由が果たして保障されるのか

信教の自由で大事な20条1項後段において、自民案は、こっそりと宗教団体の「政治上の権力を行使してはならない。」との文言が削除されています。

宗教団体が、「政治上の権力」を行使できるようにするためではないでしょうか。
結果、明治憲法下で、そうであったように、政治上の権力を行使しうる宗教団体が出る一方で、弾圧される宗教も同時に生じることになります。



2)自民案で、政教分離が果たして約束されるのか

政教分離で大事な20条3項において、

現行憲法:宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない

自民案:特定の宗教のための教育その他の宗教的活動をしてはならない。ただし、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない

自民案では、二つの意味で国家が宗教活動をすることを可能にしています。

ひとつは、「特定の宗教のための教育」とわざわざ現行憲法では「宗教教育」だったものを限定的に書いています。文言を限定的に書くことは、例外も増えることにつながると思います。

もうひとつは、「ただし書」を付け加え、堂々と国家が宗教活動できる場合を導入したことです。現行憲法下でも、習俗的行為が行えているにも関わらずです。今後は、「社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないもの」という漠然不明確な文言を利用して、国の解釈を広げることで、国が行える宗教活動が拡げられていく可能性があります。



 以上、自民案20条にすることは、たいへん危険なことだと思います。

 宗教団体の皆さん、国民の皆さん、本当に自民案でよいですか?
 自民案になれば、「政治的権力を行使」してくる結果、宗教弾圧が生じることが目に見えています。

 冒頭にも趣旨を述べましたが、宗教とよからぬものが結び付くと、悪い戦争への歴史の繰り返しです。

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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月19日は、第19条。思想及び良心の自由。

2014-08-19 19:06:54 | 日本国憲法

  一日一条の日本国憲法の解説と、自民党改憲案の問題点の指摘。

 本日、8月19日は、第19条の問題点を考えます。


 第三章の人権規定に入り、重要な条文が続いています。

 19条以下条文の規定内容がより具体的になりさらに重要性が増します。

 一度、第三章を整理し、現段階の位置づけを行いたいと思います。

 19条は、自由権の中の精神的自由の既定の一つです。
 19、20、21、23と精神的自由が続きます。

 

********整理*********
<憲法3章 国民の権利及び義務(10条~40条)の規定の整理>

  ○包括的人権(13条、14条、24条、31条)
  包括的基本権(総則的規定)                 13条 幸福追求権
  法の下の平等(総則的規定)                 14条 平等権

 
  ○国務請求権(15条、16条、17条、32条、40条)
  参政権(公務員の選定権・選挙権・国民投票をする権利)    15条
  請願権                                                       16条
  国家賠償および補償請求権                                    17条 
  裁判を受ける権利                                             32条 
  刑事補償請求権                                              40条
 

 ○自由権 精神的自由 19条 20条 21条 23条 
         経済的自由 22条 29条
         人身の自由 18条 31条、33~39条
 

○社会権 25条 26条 27条 28条
 

  *国民の要件:10条

  *三つの義務:
  教育を受けさせる義務 26条
  勤労の義務      27条
  納税の義務      30条

***************************



 19条、「思想及び良心の自由」、思想と良心を合わせて「内心の自由」についての規定で、とても重要です。

 重要であるからこそ、「侵してはならない」と強い表現で、規定が置かれています。

 特に、明治憲法下において、治安維持法の運用にみられるように、特定の思想を反国家的なものとして弾圧するという、内心の自由そのものが侵害される事例が少なくありませんでした。日本国憲法が、精神的自由に関する諸規定の冒頭において、思想・良心の自由をとくに保障した意義は、そこにあります。(『憲法 第5版』芦部信喜 147ページ)

 「思想及び良心」とは、世界観、人生観、主義、主張など個人の人格的な内面的精神作用を広く含むものと解されます。


 思想・良心の自由を「侵してはならない」とは、憲法学者故芦部先生は、以下、説明されています。(『憲法 第5版』芦部信喜 147-148ページ)

 「このような思想・良心の自由を「侵してはならない」とは、第一に、国民がいかなる国家観、世界観、人生観をもとうとも、それが内心の領域にとどまる限りは絶対的に自由であり、国家権力は、内心の思想に基づいて不利益を課したり、あるいは、特定の思想を抱くことを禁止することができない、ということである。

  (中略)

  第二の意味は、国民がいかなる思想を抱いているかについて、国家権力が露顕を強制することは許されないこと、すなわち、思想について沈黙の自由が保障されることである。国家権力は、個人が内心において抱いている思想について、直接または間接に、訊ねることも許されないのである。」




***********
日本国憲法
第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない

自民党案
(思想及び良心の自由)
第十九条 思想及び良心の自由は、保障する
***********


 さて、このような大事な19条を、自民案は、「侵してはならない」という文言を、こっそりと「保障する」に置き換えています。

 「侵してはならない」とはっきりと断言をするべきもので、「保障する」と表現を弱めては決してならないと考えます。

 「保障した」けど「侵された」とかいうように、国家権力が、言い訳をする余地が生まれないだろうか。


*****同様の手口で、保障の程度を弱めてしまっている例、弱めなかった例******
〇財産権の29条1項
日本国憲法
第二十九条 財産権は、これを侵してはならない
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 自民案
(財産権)
第二十九条 財産権は、保障する
2 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない。
3 私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる。

 

〇22条2項
日本国憲法
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない

(居住、移転及び職業選択等の自由等)
第二十二条 何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 全て国民は、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を有する



〇さすがの自民案でも、保障の程度をゆるめなかった憲法21条2項検閲
日本国憲法
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない

 自民案
(表現の自由)
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。〔新設〕
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない

*****************************



 あと、自民党案では、19条の2を下記のように新しいものを新設しています。
***********
自民党案
(個人情報の不当取得の禁止等)
第十九条の二 何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない。〔新設〕
***********

 憲法の考え方(参照 日本国憲法99条)で規定を置くならば、主語が逆です。

 「国民が、○○してはならない。」ではなく、「国民が、○○されないよう、国が○○しなければならない。」と書くべきで、
 すなわち、
 「何人も、個人に関する情報が不当に取得され、保有され、又は利用されてはならない。」のような言い回しが、少なくとも必要です。
 守られるべきは、国民の個人情報で、遵守すべき主体は、国民よりもまずは、国だからです。
 

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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月18日は、第18条。徴兵制の禁止。

2014-08-18 16:04:45 | 日本国憲法

 今日8月18日は、憲法18条です。

 18条は、人権保障の基本とも言うべき奴隷的拘束からの自由を定めた重要規定です。

 自民党改憲案は、これまた、大問題があります。


 ひとことでいうと、まずは、18条前段の適用範囲を巧妙に狭めることで、徴兵制の下準備がなされています。

 以下、説明します。


*************
日本国憲法
第十八条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

自民党案
(身体の拘束及び苦役からの自由)
第十八条 何人も、その意に反すると否とにかかわらず、社会的又は経済的関係において身体を拘束されない。
2 何人も、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
*************

 憲法学者故芦部先生は、「憲法18条は、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」と定め、人間の尊厳に反する非人道的な自由の拘束の廃絶をうたっている。
 (中略)
 「その意に反する苦役」とは、広く本人の意思に反して強制される労役(たとえば、強制的な土木工事への従事)を言う。もっとも、消防、水防、救助その他災害の発生を防御し、その拡大を防止するため緊急の必要があると認められる応急措置の業務への従事は、本条に反しない(災害対策基本法65条・71条、災害救助法24条・25条等参照)。しかし、徴兵制は「本人の意思に反して強制される労役」であることは否定できないであろう。」と説明されています。(『憲法 第5版』岩波書店 234-235ページ)

 憲法18条は、徴兵制を否定する重要な条文でもあることがわかります。

 
 その18条において、自民党改憲案がなぜ、「いかなる」という文言を削除して、「社会的又は経済的関係において」という、漠然不明確な文言に置き換えたたのか、意味不明です。
 法律でさえ、漠然不明確な文言を使っただけで、法律で規定されている内容を吟味することなく、それ以前の問題として、その法律は違憲無効になります。よって、憲法で漠然不明確な文言は使用できないことは自明のことです。
 自民党改憲案Q&Aを見ても、「社会的又は経済的関係において」という内容について書かれていませんでした。


 この点に関し、考えてみるに、憲法18条の適用の範囲を、自民党案では、巧みに狭めています。
 「社会的又は経済的関係において」と、身体を拘束されない場面が、限定的に書かれています。
 ならば、「政治的関係」ではどうなのでしょうか?
 自民案からだと、「社会的又は経済的関係において」という規定の範囲外であるから、身体を拘束されないことの例外になり、「政治的関係において」は拘束を可能にせしめます。

 徴兵制をも否定する基本的人権の重要規定の適用範囲を狭めては絶対になりません




(芦部先生の引用文内にあった法律の条文) 
*****災害対策基本法65条、71条*********

第六十五条  市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、応急措置を実施するため緊急の必要があると認めるときは、当該市町村の区域内の住民又は当該応急措置を実施すべき現場にある者を当該応急措置の業務に従事させることができる。
2  第六十三条第二項の規定は、前項の場合について準用する。
3  第一項の規定は、市町村長その他同項に規定する市町村長の職権を行うことができる者がその場にいない場合に限り、災害派遣を命ぜられた部隊等の自衛官の職務の執行について準用する。この場合において、同項に規定する措置をとつたときは、当該災害派遣を命ぜられた部隊等の自衛官は、直ちに、その旨を市町村長に通知しなければならない。

(都道府県知事の従事命令等)
第七十一条  都道府県知事は、当該都道府県の地域に係る災害が発生した場合において、第五十条第一項第四号から第九号までに掲げる事項について応急措置を実施するため特に必要があると認めるときは、災害救助法 (昭和二十二年法律第百十八号)第二十四条 から第二十七条 までの規定の例により、従事命令、協力命令若しくは保管命令を発し、施設、土地、家屋若しくは物資を管理し、使用し、若しくは収用し、又はその職員に施設、土地、家屋若しくは物資の所在する場所若しくは物資を保管させる場所に立ち入り検査をさせ、若しくは物資を保管させた者から必要な報告を取ることができる。
2  前項の規定による都道府県知事の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、その一部を市町村長が行うこととすることができる。



*****災害救助法24条、25条***********

第二十四条  都道府県知事は、救助を行うため、特に必要があると認めるときは、医療、土木建築工事又は輸送関係者を、第三十一条の規定に基く厚生労働大臣の指示を実施するため、必要があると認めるときは、医療又は土木建築工事関係者を、救助に関する業務に従事させることができる。
○2  地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)は、都道府県知事が第三十一条の規定に基づく厚生労働大臣の指示を実施するため、必要があると認めて要求したときは、輸送関係者を救助に関する業務に従事させることができる。
○3  第一項及び第二項に規定する医療、土木建築工事及び輸送関係者の範囲は、政令でこれを定める。
○4  第二十三条の二第二項の規定は、第一項及び第二項の場合に、これを準用する。
○5  第一項又は第二項の規定により救助に従事させる場合においては、その実費を弁償しなければならない。

第二十五条  都道府県知事は、救助を要する者及びその近隣の者を救助に関する業務に協力させることができる。

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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月17日は、第17条。請願権。

2014-08-17 00:00:01 | 日本国憲法

 一日一条の日本国憲法の解説。あわせて、自民党改憲案の問題点の考察。

 本日、8月17日は、第17条。


*****************
日本国憲法
第十七条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。


自民党改憲案
(国等に対する賠償請求権)
第十七条 何人も、公務員の不法行為により損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は地方自治体その他の公共団体に、その賠償を求めることができる。

****************

 ほぼ同じです。
 大日本帝国憲法回帰の方向性をもつ自民党案では、以下に、説明しますが、今後「裁判所は、損害賠償の訴訟を受理せず」などの文言へ、内容が後退しないか、注意が必要です。


 
 憲法17条は、国家賠償を定めた規定です。

 
 大日本帝国憲法には、国家賠償制度に関する規定はなく、法律でも「行政裁判所ハ損害要償ノ訴訟ヲ受理セス」(行政裁判所法16条)とされていたため、公権力の行使によって私人に損害が発生しても、国も公務員も責任を負いませんでした(国家無答責の原則)。

 
 本条に該当する規定は、マッカーサー草案にも政府草案にも存在せず、衆議院の修正で付加されました。


(参考文献 『判例憲法』第一法規 290ページ)


*****以前17条について書いたこと****
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/5c880b2427a128c1eb6c1b55eb418cd8 

[憲法]公務員による不法行為 憲法17条によって、公務員の不法行為によって損害を受けたとき、憲法でその賠償を求めることが出来る対象として明記されているのは、公務員を雇用または使用している国または公共団体に対してのみである。国家賠償法1条の根拠とも言えます。

[国家賠償法] 通称「国賠」。あまり馴染みのないこの法律。条文は少なく、六条しか規定されていません。ならば理解するのも簡単かと言うとそうでもなく。国賠の対象は公権力の行使にあるが、では公権力とはなにか?公権力に過失がなくても国賠の対象となりうるのか?
(考える社会人大学生高校生のためのBOT ‏@totoro2sei)


 実際に見てみます。

日本国憲法
第十七条  何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。


 実際に、法律としての規定は、国家賠償法によります。

 短い法律です。

 短い法律だから、全文掲載します。

 法律の文言は、「公共団体」であって、「地方公共団体」ではありません。
 それによって、弁護士会のような団体も、「公共団体」に含まれ、国会賠償法が適用されることになります。

 法6条では、その国に日本人に対しても国家賠償法同様の規定がある場合、その国の外国人に、日本の国家賠償法が適用されることが規定されています。


************************************
国家賠償法
(昭和二十二年十月二十七日法律第百二十五号)



第一条  国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
○2  前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

第二条  道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
○2  前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

第三条  前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。
○2  前項の場合において、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。

第四条  国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法 の規定による。

第五条  国又は公共団体の損害賠償の責任について民法 以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる。

第六条  この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。

   附 則 抄


○1  この法律は、公布の日から、これを施行する。
○6  この法律施行前の行為に基づく損害については、なお従前の例による。

***********************************

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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月16日は、第16条。請願権。

2014-08-16 00:00:01 | 日本国憲法

 一日一条の日本国憲法の解説。あわせて、自民党改憲案の問題点の考察。

 8月16日は、第16条。


********
日本国憲法
第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。


自民党案
(請願をする権利)
第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願をする権利を有する。
2 請願をした者は、そのためにいかなる差別待遇も受けない。
********

 憲法16条は、請願について規定しています。

 この条文は、いまのところ、ほぼ同じとみてよいということですね。
 日本国憲法で一項だったものが、二項に分けたということだけの違いでしょうか。

 皆様のほうで、なにか問題があれば、教えてください。

 
 自民案では、21条の表現の自由に対しての大幅な制限強化をしていることからしても、この16条の制限強化も考えているはずです。
 今後、制限強化の文言が入らないか要注意です。



 ところで、私達は、もっと「請願」を有効に使うべきと考えます。


 声を、国、自治体、政治に反映させる重要な手段です!
 政治家に頼んで、届けてもらうだけでなく、自らが届けることができます。


 なお、憲法16条で、請願した者に差別的待遇をしてはならないと現行憲法で規定しているにもかかわらず、ある自治体が、署名者や署名活動者に対し、限度を超えて戸別訪問調査をして、不当に圧力を加えたという事件が実際に発生していることは、驚きです(岐阜地判平成22.11.10、名古屋高判平成22.4.27、最三小決平成24.10.9)。
 憲法一条一条を侮ってはなりません。
 権力機関は、容易に不当な圧力を住民に対して加えることがありえます。


 憲法16条を受けて、請願を規定する法律は、

〇請願法

〇国会法(79~82条)

〇衆規(171~180条)

〇参規(162~172条)

〇自治法(124~125条)

 で、請願権行使の手続きについて規定が設けられています。

 参考までに、掲載します。


******各法律、該当部分の掲載******

〇請願法 全文
請願法
(昭和二十二年三月十三日法律第十三号)



第一条  請願については、別に法律の定める場合を除いては、この法律の定めるところによる。

第二条  請願は、請願者の氏名(法人の場合はその名称)及び住所(住所のない場合は居所)を記載し、文書でこれをしなければならない。

第三条  請願書は、請願の事項を所管する官公署にこれを提出しなければならない。天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない。
○2 請願の事項を所管する官公署が明らかでないときは、請願書は、これを内閣に提出することができる。

第四条  請願書が誤つて前条に規定する官公署以外の官公署に提出されたときは、その官公署は、請願者に正当な官公署を指示し、又は正当な官公署にその請願書を送付しなければならない。

第五条  この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。

第六条  何人も、請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

   附 則

 この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する。


〇国会法(79~82条)
第七十九条  各議院に請願しようとする者は、議員の紹介により請願書を提出しなければならない。

第八十条  請願は、各議院において委員会の審査を経た後これを議決する。
○2  委員会において、議院の会議に付するを要しないと決定した請願は、これを会議に付さない。但し、議員二十人以上の要求があるものは、これを会議に付さなければならない。

第八十一条  各議院において採択した請願で、内閣において措置するを適当と認めたものは、これを内閣に送付する。
○2  内閣は、前項の請願の処理の経過を毎年議院に報告しなければならない。

第八十二条  各議院は、各別に請願を受け互に干預しない。


〇衆規(171~180条)
 第十一章 請願

第百七十一条 請願書には、請願者の住所氏名(法人の場合はその名称及び代表者の氏名)を記載しなければならない。

第百七十二条 請願書には、普通の邦文を用いなければならない。やむを得ず外国語を用いるときは、これに訳文を附けなければならない。

第百七十三条 請願を紹介する議員は、請願書の表紙に署名又は記名押印しなければならない。

第百七十四条 議長は、請願文書表を作成しこれを印刷して各議員に配付する。
•会期末に請願の文書表を作成するいとまがないときは、本書により審査する。(衆先390)

第百七十五条 請願文書表には、請願者の住所氏名、請願の要旨、紹介議員の氏名及び受理の年月日を記載しなければならない。

  数人の連署による請願は、請願者某外何名と記載する。

  同一議員の紹介による同一内容の請願が数件あるときは、請願者某外何名と記載する外その件数を記載する。

第百七十六条 請願は、文書表の配付と同時に議長がこれを適当の委員会に付託する。

第百七十七条 裁判官の罷免を求める請願については、議長は、これを委員会に付託しないで裁判官訴追委員会に送付する。

第百七十八条 委員会は、請願についてその審査の結果に従い左の区別をなし、議院に報告する。

 一 議院の会議に付するを要するもの

 二 議院の会議に付するを要しないもの

  議院の会議に付するを要する請願については、なお、左の区別をして報告する。

 一 採択すべきもの

 二 不採択とすべきもの

  採択すべきものの中、内閣に送付するを適当と認めるものについては、その旨を附記する。

第百七十九条 委員会において、議院の会議に付するを要しないと決定した請願について、議員二十人以上から休会中の期間を除いて委員会の報告の日から七日以内に会議に付する要求がないときは、委員会の決定が確定する。

第百八十条 陳情書その他のもので、議長が必要と認めたものは、これを適当の委員会に参考のため送付する。


〇参規(162~172条)
第11章 請願

第162条 請願書は、請願者の氏名(法人の場合はその名称)及び住所(住所のない場合は居所)を記載したものでなければならない。
第163条 法人を除いては、総代の名義による請願は、これを受理しない。
第164条 請願書の用語は平穏なものでなければならない。また、その提出は平穏になされなければならない。
第165条 議長は、請願文書表を作り印刷して、毎週一回、これを各議員に配付する。
 請願文書表には、請願の趣旨、請願者の住所氏名、紹介議員の氏名及び受理の年月日を記載する。
第166条 請願は、請願文書表の配付と同時に、議長が、これを適当の委員会に付託する。
第167条 裁判官の罷免を求める請願については、議長は、これを委員会に付託しないで裁判官訴追委員会に送付する。
第168条 請願を紹介した議員は、委員会から要求があつたときは、請願の趣旨を説明しなければならない。
第169条 請願書は、議院の議決がなければ、これを印刷配付しない。
第170条 委員会は、審査の結果に従い、次の区別をして、議長に報告書を提出しなければならない。
1.採択すべきもの
2.不採択とすべきもの

採択すべきものについては、なお、次の区別をしなければならない。
1.内閣に送付するを要するもの
2.内閣に送付するを要しないもの

第171条 委員会において採択すべきものと決定した請願については、委員会は、前条第1項の報告書に付して意見書案を提出することができる。
第172条 委員会において議院の会議に付するを要しないと決定した請願については、委員会は、議長にその旨の報告書を提出しなければならない。
 前項の場合において、報告書が提出された日から休会中の期間を除いて七日以内に、議員二十人以上から会議に付する要求がないときは、同項の決定が確定する。
第173条 削除



〇自治法(124~125条)
第百二十四条  普通地方公共団体の議会に請願しようとする者は、議員の紹介により請願書を提出しなければならない。

第百二十五条  普通地方公共団体の議会は、その採択した請願で当該普通地方公共団体の長、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会若しくは公平委員会、公安委員会、労働委員会、農業委員会又は監査委員その他法律に基づく委員会又は委員において措置することが適当と認めるものは、これらの者にこれを送付し、かつ、その請願の処理の経過及び結果の報告を請求することができる。

以上

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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月15日は、第15条。大切な大切な選挙権も保障。

2014-08-15 18:14:37 | 日本国憲法

 8月15日は、憲法15条を考えます。

 15条は、
 〇公務員が全体の奉仕者であるということとともに、
 〇議会制民主主義の根幹をなす選挙権に関して定める条文でとても重要です。

 特に3項と4項で、近代選挙の基本原則である、

1普通選挙

2平等選挙

3自由選挙

4秘密選挙

5直接選挙

 を要請しています。

 だからこそ、日本国憲法では、普通選挙を「保障する」という文言を用いています。


****************
日本国憲法
第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

自民党案
(公務員の選定及び罷免に関する権利等)
第十五条 公務員を選定し、及び罷免することは、主権の存する国民の権利である。
2 全て公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選定を選挙により行う場合は、日本国籍を有する成年者による普通選挙の方法による
4 選挙における投票の秘密は、侵されない。選挙人は、その選択に関し、公的にも私的にも責任を問われない。

*****************


 自民案は、一言一句気をつけて読まねばなりません。

 自民案で、15条が変えられた点は、以下。

15条1項
 国民固有の権利ということのその「固有の権利」という文言を削除しています。
 これは、悪意をもってなされています。
 11条でのべましたがhttp://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/ad3650d77379d66bbf6142d8342bfefe
 人権の三つの意義のひとつ固有性を、11条及び97条で削除しています。それにあわせてこの15条の「固有の権利」という文言も犠牲になりました。
 人権の固有性、すなわち、「人権が憲法や天皇から恩恵として与えられたものではなく、人間であることにより当然に有するとされる権利であること。」という考え方を、自民党はどうも否定したいようであり、自民党案では、徹底的に人権の固有性の考え方をなくそうとしています。

15条2項
 漢字になっています。
 個人的に、「全て」の漢字は読みにくいので、「すべて」のひらがなのままでよいと思います。

15条3項
 大問題です。
 普通選挙を「保障する」という大切な文言を削除しています
 なぜ、わざわざ、削除するのか、疑問です。
 議会制民主主義の根幹である選挙権でさえも、自民党は否定したいのでしょうか。
 自民案において、ここだけでなく各人権を、弱めるように文言を巧妙に、おそらくわざとだと思いますが、置き換えています。

 また、日本国籍を有する成年者と、わざわざ「日本国籍を有する」とかぶせています。
 ここでは、その是非は述べませんが、最高裁判所の見解(最三小判平成7・2・28)によると、国政選挙は別にしても、地方議会議員選挙では、定住外国人の選挙権は、否定をしていません。
 地方の政治に判断が委ねられた部分です。
 にもかかわらず、自民案は、有無を言わさず、定住外国人の地方議会議員選挙の選挙権を奪おうとしています
 最後に、判決文を全文掲載します。
 自民党のように安易に、定住外国人の地方議会議員選挙の選挙権を奪ってよいか、判決文(一番最後に掲載)を読んで考察いただければ幸いです。

15条4項
 「侵してはならない」という主体的な言い方から、「侵されない」と、なにか他人事のような表現に変えています。
 15条3項の「保障する」の文言削除と共に、自民党は、選挙権を軽視している印象を受けざるを得ません。

************************





以下、憲法15条が保障することのひとつ選挙権の大切さについて、書きます。



選挙権の大切さ。




 被選挙権の大切さ。
 立候補することの自由も保障されています。


 どのようなひとも、立候補は許されます。
 だからこそ、逆に、私達、国民の側に、きちんと選ぶ目が要求されます。



日本国憲法15条1項。
第十五条  公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。



 選挙権に、なんら制限を加えては、なりません。
 もちろん、成年被後見人にも、選挙権は保障されねばなりません。
 重病者には、在宅投票もきちんと保障されるべきだと考えます。
 例えば、ALSなど難病で、投票所に行くことができない方々の選挙権の保障は、なされねばなりません。





 一人一票の価値は、守られねばなりません。

 



 一人一票を判断する場合の裁判所の論理1と2
 




 一人一票を判断する場合の裁判所の論理3




 違法であり、本来、勝訴判決を得られるはずであるが、裁判で、敗れる論理。

行政事件訴訟法
(特別の事情による請求の棄却)
第三十一条  取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。
 裁判所は、相当と認めるときは、終局判決前に、判決をもつて、処分又は裁決が違法であることを宣言することができる。
 終局判決に事実及び理由を記載するには、前項の判決を引用することができる。


 一人一票の最高裁の論理のまとめ。






 ただすべきものをたださない国会の責任について、最高裁の考え方。
 やや弱い感じはするところではありますが。



 

*******最高裁ホームページより*****
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120908067922.pdf

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。


         理    由
 上告代理人相馬達雄、同平木純二郎、同能瀬敏文の上告理由について
 憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをそ
の対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等し
く及ぶものである。そこで、憲法一五条一項にいう公務員を選定罷免する権利の保
障が我が国に在留する外国人に対しても及ぶものと解すべきか否かについて考える
と、憲法の右規定は、国民主権の原理に基づき、公務員の終局的任免権が国民に存
することを表明したものにほかならないところ、主権が「日本国民」に存するもの
とする憲法前文及び一条の規定に照らせば、憲法の国民主権の原理における国民と
は、日本国民すなわち我が国の国籍を有する者を意味することは明らかである。そ
うとすれば、公務員を選定罷免する権利を保障した憲法一五条一項の規定は、権利
の性質上日本国民のみをその対象とし、右規定による権利の保障は、我が国に在留
する外国人には及ばないものと解するのが相当である。そして、地方自治について
定める憲法第八章は、九三条二項において、地方公共団体の長、その議会の議員及
び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙するも
のと規定しているのであるが、前記の国民主権の原理及びこれに基づく憲法一五条
一項の規定の趣旨に鑑み、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成す
ものであることをも併せ考えると、憲法九三条二項にいう「住民」とは、地方公共
団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右
規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等
の選挙の権利を保障したものということはできない。以上のように解すべきことは、
- 1 -
当裁判所大法廷判決(最高裁昭和三五年(オ)第五七九号同年一二月一四日判決・
民集一四巻一四号三〇三七頁、最高裁昭和五〇年(行ツ)第一二〇号同五三年一〇
月四日判決・民集三二巻七号一二二三頁)の趣旨に徴して明らかである。

 このように、憲法九三条二項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体
における選挙の権利を保障したものとはいえないが、憲法第八章の地方自治に関す
る規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接
な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共
団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出た
ものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居
住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものに
ついて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処
理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対す
る選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解
するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の
立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の
問題を生ずるものではない。以上のように解すべきことは、当裁判所大法廷判決(
前掲昭和三五年一二月一四日判決、最高裁昭和三七年(あ)第九〇〇号同三八年三
月二七日判決・刑集一七巻二号一二一頁、最高裁昭和四九年(行ツ)第七五号同五
一年四月一四日判決・民集三〇巻三号二二三頁、最高裁昭和五四年(行ツ)第六五
号同五八年四月二七日判決・民集三七巻三号三四五頁)の趣旨に徴して明らかであ
る。
 以上検討したところによれば、地方公共団体の長及びその議会の議員の選挙の権
利を日本国民たる住民に限るものとした地方自治法一一条、一八条、公職選挙法九
条二項の各規定が憲法一五条一項、九三条二項に違反するものということはできず、
- 2 -
その他本件各決定を維持すべきものとした原審の判断に憲法の右各規定の解釈の誤
りがあるということもできない。所論は、地方自治法一一条、一八条、公職選挙法
九条二項の各規定に憲法一四条違反があり、そうでないとしても本件各決定を維持
すべきものとした原審の判断に憲法一四条及び右各法令の解釈の誤りがある旨の主
張をもしているところ、右主張は、いずれも実質において憲法一五条一項、九三条
二項の解釈の誤りをいうに帰するものであって、右主張に理由がないことは既に述
べたとおりである。
 以上によれば、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ
る。論旨は採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月14日は、第14条。平等権。

2014-08-14 18:30:38 | 日本国憲法

 一日一条ずつの日本国憲法の解説です。あわせて、自民党改憲案の問題点の分析。

 8月14日は、14条、平等権。

 以下、比較すると大差ないようにお感じになると思います。


*************************
日本国憲法
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。


自民党案
(法の下の平等)
第十四条 全て国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、障害の有無、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
*************************

 

 私も、最初、「あれっ」と思いました。

 なぜ、今までの14条に至るまで問題点が多々あったのに、ここでは「障害の有無」の追加をするもその他の変更をしなかったのだろうかと。

 日本国憲法14条≒自民党案14条 ?

 よくよく、考えると、ぞっとしました。

 

 日本国憲法が機能する人権の世界と、自民党案が機能する人権の世界では、世界が異なるのです。
 その条文だけで考えてはいけません。

 人権の総則規定12条を思い出して下さい。


****************** 
日本国憲法 
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。 

自民党案 (国民の責務) 
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。 

******************     

 人権の世界が、まるっきり自民党案では変えられていて、「公益及び公の秩序」に反することは許されなくなっているのです。


 12条と14条を併せて考えると、 

 日本国憲法 12条+14条=「公共の福祉」のために実質的平等のルールの採用を可能にする。 (実質的平等「等しいものは等しく、等しくないものは等しくなく」の考え方。例、所得税)

 自民党案  12条+14条= 「公益及び公の秩序」に反しないように、形式的平等を課す。(形式的平等「A=B=C=D=E=F=G・・・・」の考え方。例、消費税)

 
 日本国憲法と自民党案では、意味をしている平等概念そのものが異なるのです。

 日本国憲法においては、「障害の有無」の文言をいれることはよいと思いますが、自民党案では、とても危険です。(ターゲットを増やしたかと、悪意さえ感じます。)
 すなわち、形式的平等のルール(A=B=C=D=E=F=G・・・・)を適用すると、能力のある人、資質のある人、そして、能力や資質をのばすための環境が整備されているひとが、高い成績をあげることができ、結果に大きな差が生じてしまいます。
 行きつく先は、格差社会です。
 それをよしとするぞと、自民党案は、宣言をしているのです。
 (実質的平等、形式的平等などの概念は、前のブログhttp://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/c6493bd72f0b2d3296c2da24d939ce8dで基本的なところの解説をしています。)


  日本国憲法14条≠自民党案14条 !

 
 国家主義を目指す自民党案では、憲法の人権概念を、大きく覆す「公益及び公の秩序」という文言を、「公共の福祉」を削除して入れ替えており、人権規定を注意深く読んで行く必要があります。

 一体、誰を守るための憲法なのだろうか? 

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日本国憲法の一日一条ずつの解説、8月13日は、第13条。最も重要な条文のひとつ。

2014-08-13 16:43:34 | 日本国憲法

 一日一条ずつの日本国憲法の解説と、自民党改憲案の問題点の分析。

 8月13日は、13条。

 着眼点により異なりますが、13条は、憲法の中で最も重要な条文と考えられます。2番目に大事なのは、手続き保障を定めた31条(13の数字のならびを逆にすればよい対になっています。)でしょうか。

 

 憲法学者の故芦部先生によると、「社会の変革にともない、「自律的な個人が人格的に生存するために不可欠と考えられる基本的な権利・自由」として保護するに値すると考えられる法的利益は、「新しい人権」として、憲法上保障される人権の一つだと解するのが妥当である。その根拠となる規定が、憲法13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」(幸福追求権)である。」として、13条は、幸福追求権を謳っているとされています。

 「個人の尊重の原理に基づく幸福追求権は、憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる一般的かつ包括的な権利であり、この幸福追求権によって基礎づけられる個々の権利は、裁判上の救済を受けることができる具体的権利」であります。

 「幸福追求権からどのような具体的権利が実際に導き出されるか、そして、それが新しい人権の一つとして承認されるかどうかをどのような基準で判断するかは、なかなか難しい問題」です。

 「これまで、新しい人権として主張されたものは、

○プライバシーの権利、

○環境権

○日照権

○静穏権

○眺望権

○入浜権

○嫌煙権

○健康権

○情報権

○アクセス権

○平和的生存権

 など多数」あります。

 「最高裁判所が、正面から認めたものは、プライバシーの権利としての肖像権ぐらい」です。

 「裁判上の権利と言えるかどうかは、

○特定の行為が個人の人格的生存に不可欠であることのほか、

○その行為を社会が伝統的に個人の自律的決定に委ねられたものと考えているか、

○その行為は多数の国民が行おうと思えば行うことができるか、

○行っても他人の基本権を侵害するおそれがないかなど
 
 種々の要素を考慮して慎重に決定」しなければなりません。

(加憲すべき権利を考える場合にも、重要な考慮要素だと、私は思います。逆を言えば、安易な加憲もまた、許されません。)

 以上、「」は、『憲法 第五版』芦部 118~121ページ。

 
 


*************************
日本国憲法
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする

自民党案
(人としての尊重等)
第十三条 全て国民は、として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない
*************************

 さて、自民党案は、13条において、重大な過ちを犯しております。

 「公共の福祉」を、「公益及び公の秩序」に、悪意をもって置き換えています。(昨日の12条でも述べました。今後、21条、22条、29条でも同様の問題が出て来ます。)

 国家主義を目指している自民党にとって、「個人」という言葉も、極力用いたくないのだと思います。これまた、「個人」から「人」に置き換えられています。

 「最大の尊重を必要とする。」この文言が「最大限に尊重されなければならない。」の置き換えはどうなんでしょうか。
 両者は、同じとみてよいのかは、判断を現時点で、保留にさせてください。
 

 少なくともわかるのは、個人の幸福追求権を謳う13条では、「個人」を「人」に置き換えてはならないし、「公共の福祉」は絶対に「公益及び公の秩序」に置き換えてはなりません。
 新しい人権が生まれる余地がなくなります。
 個人の幸福追求権が否定されます。



 ひとつだけ例を挙げます。


 肖像権が生まれた、「京都府学連事件」

 デモ行進に際して、警察官が犯罪捜査のために行った写真撮影の適法性が争われました。

 最高裁(最大判昭和44・12・24)は、

「憲法一三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由
及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法そ
の他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであつて、これ
は、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべ
きことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の
一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう
等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。」

 と判決をしています。


 もし、「公共の福祉」が「公の秩序」に置き換えられてしまえば、
 この判決の内容は変わることになると思います。

 自民案を許してしまった場合、 「公の秩序」が優先され、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対して保護されないことになり、肖像権は主張できなくなります。
 なぜならば、「公の秩序」が意味するものは、「国家権力からみた秩序」であるからです。

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