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憲法12条、国家主義の自民案では基本的人権の保障は都合悪い。「公共の福祉」削除は絶対許してはならない。

2013-08-12 12:18:10 | 国政レベルでなすべきこと

 8月12日、自民党改憲案の問題点、今日は、12条。  

 自民党案の最大の問題点が、ここにあります!  

 「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に、こっそりと置き換えられています。  
 この置き換えだけは、絶対にゆるしてはなりません。  
 憲法12条、13条、22条、29条及び21条が狙われています。  

 自民党案に、賛同する憲法学者や裁判官など法律の専門家は、誰一人としていないと思います。  
 特に、この削除・置き換えには、賛同するものなどいないはずです。自信を持っていいます。  
 おられれば、そのかたを後学のため教えていただきたいほどです。  

 条文一つに一つ以上の問題点を抱える自民党改憲案であり、憲法のていをなしていないのですが、もし、ひとつだけしか問題点をあげることができないような極端な表現の自由の制約を受けた場合、私は、やむを得ずに、この「公共の福祉」の文言の削除と、それに代わる「公益及び公の秩序」の置き換えは、絶対に許してはならないと答えます。  

 やや、乱暴な書き方をしますが、  

 「公益」=「国のため、国家のために」で、片づけられます。  

 「公の秩序」=権力機関により、権力機関の論理・都合で、片づけられます。  

 「公共の福祉」=人権と人権のぶつかり合いを、二重の基準論、比較衡量論を用い、均衡のとれた解決を見出していきます。  



******************
日本国憲法
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

自民党案 (国民の責務)
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。

******************    

 「公共の福祉」の概念は、前のブログhttp://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/11adf6d04c55152a6546d1681e84426fで、基礎知識で整理をしたところです。  

 一部抜き出します。    

 人権があるから、私たちは、何をやっても許されるというわけではなく、人権が制約される局面があります。  

 次の3つの場合が想定されます。

1)権利行使が他者に害を与える場合。

2)権利行使が他者の正当な権利ないしは利益と衝突する場合。

3)権利行使が社会全体の利益にとってマイナスになる場合。    


 それぞれの場合を具体例を挙げてみます。

1)権利行使が他者に害を与える場合。  
政治団体の街宣車がフルボリュームで、音楽を流すことは、彼らの表現の自由の行使ではあるが、市街地の平穏を乱し、市民に不快感を与えていることから、他者に害を与えている。人権は、まず、他者に迷惑をかけてはならない、という制約がある。

2)権利行使が他者の正当な権利ないしは利益と衝突する場合。  
マスコミが、有名人のプライバシーや名誉を傷つける報道を行う場合は、マスコミの表現の自由(報道の自由)と有名人のプライバシーが衝突する。表現の自由もプライバシーもともに、極めて重要な人権である。

3)権利行使が社会全体の利益にとってマイナスになる場合。  
空港や高速道路を建設する際には、その用地を買収しなければならないところ、地権者が用地買収に協力してくれない場合は、建設が遅れ、社会全体に大きな不利益を与える場合がある。  

 このような人権の制約を掛けねばならないときに、用いられるのが、「公共の福祉」による人権の制限です。  


 現行憲法で、「公共の福祉」の制限がついている条文は、12条・13条・22条・29条。

*****日本国憲法*****
第十二条  この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。


第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


第二十二条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
○2  何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。


第二十九条  財産権は、これを侵してはならない。
○2  財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
○3  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

***************  

 これら条文において、自民案は、22条以外の3つは、絶対にやってはならないのにもかかわらず、「公共の福祉」を「公益及び公共の秩序」に置き換えています。  

 そして、22条では、はぶいてはならないのに、「公共の福祉」を省いています。  

 さらに、重大問題なのは、21条に、「公共の福祉」さえついていなかった条文に、「公益及び公共の秩序」を新たに導入しています。後に21条のところで触れますが、表現の自由を国家権力が制約し、言論弾圧ができる体制づくりを着々と進める素地を作っています。


****自民案*****
(国民の責務)
第十二条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。

(人としての尊重等)
第十三条
全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。


(表現の自由)
第二十一条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。〔新設〕
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。


(居住、移転及び職業選択等の自由等)
第二十二条
何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する。    ←「公共の福祉」の文言が落ちています。ここでは、落としてはなりません!
2 全て国民は、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を有する。


(財産権)
第二十九条 財産権は、保障する。
2 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない。
3 私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる。

**********  

 公共の福祉削除の狙い撃ちは、かなり意図的であり、悪質です。  
 単に言葉だけとか、そんな生易しい問題ではありません。  

 11条でのべた、「ナチスに学べ」という麻生発言の意図が、ここにも表れています。
 麻生氏が、「だから、静かにやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。 わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。」と発言されたことの真意が、この「公共の福祉」の削除でも出ています。  

 と言いますか、麻生氏の「ナチスに学べ」という発言を聞いたとき、瞬時に、この自民党案の「公共の福祉」の削除に思い当たりました。
 麻生氏が、本心で発言していることが、たやすく想像できました。
 
 日本国憲法における基本的人権の制約する文言である「公共の福祉」が、「だれも気づかない手口」で削除され、代わりに「公の秩序」に置き換えられています。

 

 いつも冷静に書いているつもりですが、「公共の福祉」の削除だけは、冷静さを保つのに苦労します。  

 皆さん、私達の幸せが奪われないように、声を挙げて下さい。

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人権と公共の福祉による制限(一元的内在的制約説)、比較衡量論・二重の基準論の考え方

2013-08-12 00:00:01 | 国政レベルでなすべきこと
 自民党改憲草案の問題点の分析。
 12条、13条に入って行く場合、その問題点を理解する前段階として、知っておくべき知識を整理しておきます。

 最も大事なのは「公共の福祉」という概念の理解です。


 芦部『憲法』第6章 一 人権と公共の福祉 に関連しています。

(かつてのブログ http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/33390458deb2934ce75fe02eaf1c303e)
*********************
Q君
 人権が制約される局面として、どんな場合がありますか。


A先生
 次の3つの場合に想定されます。
1)権利行使が他者に害を与える場合。
2)権利行使が他者の正当な権利ないしは利益と衝突する場合。
3)権利行使が社会全体の利益にとってマイナスになる場合。

 それぞれの場合を具体例を挙げてみます。

1)権利行使が他者に害を与える場合。
 政治団体の街宣車がフルボリュームで、音楽を流すことは、彼らの表現の自由の行使ではあるが、市街地の平穏を乱し、市民に不快感を与えていることから、他者に害を与えている。人権は、まず、他者に迷惑をかけてはならない、という制約がある。

2)権利行使が他者の正当な権利ないしは利益と衝突する場合。
 マスコミが、有名人のプライバシーや名誉を傷つける報道を行う場合は、マスコミの表現の自由(報道の自由)と有名人のプライバシーが衝突する。表現の自由もプライバシーもともに、極めて重要な人権である。

3)権利行使が社会全体の利益にとってマイナスになる場合。
 空港や高速道路を建設する際には、その用地を買収しなければならないところ、地権者が用地買収に協力してくれない場合は、建設が遅れ、社会全体に大きな不利益を与える場合がある。


Q君
 憲法で、公共の福祉の制限がついている条文とは。


A先生
12条・13条・22条・29条

第十二条  この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第二十二条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
○2  何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

第二十九条  財産権は、これを侵してはならない。
○2  財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
○3  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。


Q君
 一元的外在的制約説とは何ですか。

A先生
 人権に内在する制約ではなく、公共の福祉という、「社会全体の利益や要請」を理由にして人権の制約を正当化する説です。

 いわば、人権を制約する側の公権力が、国民に有無を言わせずに、公共の福祉を人権制約の「ジョーカー(切り札)」として用いることを可能にする説であります。
 切り札としての人権の逆であると考えるとわかりやすいです。
 この考え方をとると、容易に人権制約が正当化される恐れがあります。

Q君
 一元的外在的制約説をとった場合、「ひいては、明治憲法における「法律の留保」のついた人権保障と同じことになってしまわないか」とはどういう意味ですか。

A先生
 法律の留保は、法律に根拠がある限り人権をかなりの程度、制約することができますが、この一元的外在的制約説でも、公共の福祉という言葉を根拠にすれば、人権を制約することができることを意味します。



Q君
 内在・外在二元的制約説とは何ですか。


A先生
 以下、三つの考え方です。
1)12・13条は訓示的規定で裁判規範にならない。
2)22・29条と社会権は公共の福祉による制限(外在的制約)を受ける。
3)上記以外の人権は、内在的制約のみを受ける。



Q君
 一元的内在的制約説とは何ですか。

A先生
 以下の考え方です。
 1)公共の福祉とは、人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理である。
   注 社会権でさえも、それを厚く保障すると他者の経済的自由と衝突する。
     税率のアップは、財産権の行使を制約するからである。
 2)公共の福祉は、すべての人権に内在する。
 3)自由権を各人に公平に保障するために人権制約を根拠づけるときは、必要最小限の規制を認める。
 4)社会権を保障するために、自由権を規制するときは、必要な限度の規制を認める。


Q君
 比較衡量論と公共の福祉はどういう関係にあるのですか。

A先生

 比較衡量論は、人権相互の矛盾衝突の調節という公共の福祉原理を具体化し、人権の限界を明確にするために存在します。(芦部憲法�P208)


Q君
 比較衡量論における、A「それ(ある自由)を制限されることによって得られる利益」とB「それを制限しない場合に維持される利益」を、判例ではどのように認定していますか。


A先生
 博多駅事件(判例集�-4-33)を具体的に考えてみます。

 Aの「制限されることによって得られる利益」は、公正な刑事裁判の実現です。

 一方、Bのそれを制限しない場合に維持される利益は、「報道の自由」であり、ひいては、「将来の取材の自由が妨げられるおそれ」であります。

 なお、判例は、報道の自由そのもの妨げられるとは述べていません。


Q君
 比較衡量論の問題点とは、


A先生
 比較の基準が明確ではなく、また、何を利益として拾い上げるかが、裁判所の裁量にゆだねられていることです。

 たとえば、上述の博多駅事件で、Bの利益を判例は、将来の取材活動が妨げられるおそれとしているが、報道の自由そのものとか、取材活動ができなくなるという不利益というように重くとることもできるはずであるが、判決では、狭くとっています。

 さらに、国の利益が重く認定される可能性があることです。
 そうすると、結局は、法律の留保論=一元的外在制約説と、実質的に変わらない論理構成になってしまいます。



Q君
 二重の基準論とは?


A先生
 「裁判所が議会の制定した法律の合憲性を審査する場合には、表現の自由を制約する立法と経済的自由を制約する立法では、異なる態度で挑むべきである」という理論です。


Q君
 二重の基準論を用いた場合、表現の自由以外の一般的な自由は、合憲性の推定を受けると言われています。
 「合憲性推定」とは?


A先生
 合憲性の推定とは、立法府の下した判断に合理性があるということから来ています。
 これは、選挙を経て、民意が反映され、国会という公開された場所で十分な討論を経て成立した立法には、おそらく、関与する行政の立法作業も含めて、ある程度の合理性が存在するであろうと、推定できるという姿勢です。
 逆に言えば、裁判所は高度な経済問題などには、審査能力や判断能力が十分でないことが指摘できます。


Q君
 では、表現の自由には、合憲性の推定が働かず、裁判所は違憲が疑われる立法については、厳しく審査すべきであるとされています。
 なぜですか。

A先生
 表現の自由は、傷つきやすく、かつ、いったん傷つくと自己回復が困難であることからきています。

 傷ついた表現の自由は、萎縮し収縮する方向に進んでいきます。

 治安維持法ができる前は、治安維持法についての批判をすることが可能であるが、いったん同法制定されると、表現の自由を収縮・萎縮させる同法に対する批判をすることが禁じられることから、表現活動がさらに、収縮する方向に進んでいきました。


Q君
 二重の基準論の考え方に関連して、裁判所の役割を考え直すと。


A先生

 裁判所は、以下の三点について基本的な役割を担うものであると考えられます。

 �選挙権・政治的表現の自由のような民主主義の基盤を維持するために必要な自由を保障する。
 �マイノリティーの権利を保障する。マイノリティーは、票も政治資金もなく、政治過程において発言力がないから。
 �信教の自由・思想良心の自由のような、人格的生存に係る権利を保障する。


以上


*****小坂メモ*****
 

�テキストP101~P102の�の記述の意味を説明しなさい。
 表現の自由中では、政治的表現の自由・集会結社の自由が最も厳しい基準(厳格審査)で審査すべきものであり、表現内容中立規制がこれに続く(中間審査)。しかし、わいせつ表現・プライバシーを侵害する表現・差別的言論・商業的言論(CMや広告など)などに対する規制立法は、厳格な審査はなされない。一方、経済的自由のうち、消極的規制については、表現の自由の表現内容中立規制と同程度の審査基準が適用する。テキストの意味は、この部分は、表現の自由と経済的自由の審査基準は重なっていることを指す。
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憲法11条、国家主義を目指す自民案では、基本的人権の保障は都合が悪いようです。特に人権の固有性。

2013-08-11 19:34:52 | 国政レベルでなすべきこと

 一日一条ずつ、自民党改憲案の問題点を考えています。

 昨日から、第三章の人権規定「国民の権利及び義務」に入りました。


************
日本国憲法
(基本的人権の享有)
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。


自民案
(基本的人権の享有)
第十一条 国民は、全ての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である。
************

 今日は、憲法11条。11条は、人権保障の総則的規定です。
 基本的人権の享有主体と、基本的人権の保障の意義についてうたっています。

 すなわち、基本的人権の享有主体は、国民であり、基本的人権の保障の意義が、その固有性、不可侵性、普遍性があるがゆえに保障すべきものと意義づけられるとしています。

 固有性:人権が憲法や天皇から恩恵として与えられたものではなく、人間であることにより当然に有するとされる権利であること。

 不可侵性:人権が、原則として、公権力によって侵されないこと。行政権はもとより、立法権も、さあらに憲法改正権も侵すことはできない。

 普遍性:人権は、人種、性、身分などの区別に関係なく、人間であることに基づいて当然に享有できる権利であること。


 日本国憲法の条文を見ることで再度確認します。


第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない普遍性)。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利不可侵性)として、現在及び将来の国民に与へられる固有性、人間が生まれながらに有するということ)。


 自民党案を次に。

第十一条 国民は、全ての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である。


 私は、基本的人権を守るという真摯な思いが、自民党案に感じられません。
 それは、重要な文言を削除しているからです。

1)基本的人権の「普遍性」が自民案では弱まっている
現行憲法
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない
 ↓
自民案
国民は、全ての基本的人権を享有する

 単に享有するだけでなく、享有を妨げられないところに意味があると思います。
 自民案では、こっそりと重要文言を落としています。

2)基本的人権の「固有性」が自民案では、ない。
現行憲法
現在及び将来の国民に与へられる。
 ↓
自民案
(削除)

 憲法以前に、私たちは人間として固有の権利をもっています。それを文字で表したのが、憲法です。「実定的な法的権利」として確認したのが憲法です。
 「人間の固有の尊厳に由来する」のが基本的人権です。

 このような重要な「固有性」の観念を、自民案では削除しています。
 考えられないことです。

 なお、このことは、単に文言を整理していたら、たまたま落ちたとかいうレベルの話ではなく、自民案では意図して行っていることが分かります。

 日本国憲法が、人権を、「信託されたもの」であるとして人権の固有性を謳った重要な憲法97条も、自民案では、こっそり削除しています。

現行憲法97条
第九十七条  この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
 ↓
自民案
(97条自体を削除)

3)麻生氏の「ナチスに学べ」発言が意図していたものが、憲法11条、97条にも表れています。
 麻生氏が、「だから、静かにやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。 わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。」と発言されたことの真意が、憲法11条の変更、97条の削除でも出ています。

 日本国憲法における基本的人権の重要な観念である「固有性」が、自民案では、「誰にも気づかないような手口」で、落とされています。

以上



 いままで、1条から11条まで自民案を見て来て分かることは、

 自民案は、

○象徴天皇制を否定する

○戦争の放棄を否定する

○基本的人権の保障よりも、国家主義

 その意図が含まれているということを私は強く感じます。

 基本的人権の保障は、私たちひとりひとりに直接影響が出る話です。
 第三章に入り、特に注意して自民案の問題点を、考えて行きたいと思います。

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人権享有主体:未成年、天皇・皇族、法人(八幡製鉄、南九州税理士会、群馬司法書士会事件)

2013-08-11 00:00:02 | 国政レベルでなすべきこと
 
 外国人の人権を前に見ました。

 人権の享有主体として、外国人以外を、未成年、天皇・皇族、法人の順で見ます。


(かつてのブログ http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/278815ce69e7a7b25e10f8594bc0e0fc)
****未成年******

Q君
 憲法上、未成年を特別扱いしている規定はありますか?

A先生

15条3項は、成年のみに選挙権を与えている。
26条2項は、子女に普通教育を受ける権利を保障している。
27条3項は、児童はこれを酷使してはならない、と規定している。
26条1項では、解釈論上、子供の学習権が保障されている。


第十五条  公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
○2  すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
○3  公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
○4  すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

第二十六条  すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
○2  すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

第二十七条  すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
○2  賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
○3  児童は、これを酷使してはならない。



Q君
 児童・未成年が、成年と比べると、人権の制約を受ける根拠は何ですか?


A先生
 以下の理由が考えられます。
1)心身ともに発達途上であり、成人に比して、判断力も未熟であること。
2)経済的・倫理的な責任を取ることが困難な場合もあること。民事・刑事の法的責任も制約されている。
3)パターナリズム(父子主義・温情主義と訳されているが、その人の利益にかなうという理由から、個人の自由に干渉すること。典型例は、オートバイのヘルメット。10万円以下の現金振込み禁止など。社会には多数存在する。年金の強制加入もその一種である。)


Q君
 未成年の人権制約の根拠に照らしたとき、合理的な理由のあるもの(未成年の飲酒禁止)もありますが、合理的な理由の存在が疑わしいものもあるのではないですか?

A先生
 合理的な理由の存在が疑わしいものもあります。
 例えば、
 男子の婚姻年齢18歳未満
 バイクの禁止・中学生の丸刈り など



******天皇・皇族********

Q君
 天皇・皇族が一般国民と比較して、人権が制約されていますが、その根拠は何ですか?

A先生
 以下、理由が考えられます。
1)天皇が世襲であること。婚姻に対する手続的制約がある。
2)天皇が象徴であること。プライバシーの権利は大幅に制約を受ける。
3)その職務に政治的中立性が求められていること。テキストのいうところの、職務の特殊性とは、2)の象徴であることと3)の政治的に中立であることを示す。


Q君
 天皇・皇族にプライバシーの権利は保障されますか。

A先生
 まったく保障されないという説もありますが、人権の普遍性に照らすと、保障されるとすべきであると考えられます。
 しかし、職務の特殊性からいうと、かなり制約があると解すべきであります。

 国の象徴である以上は、きわめて公的な存在であり、私的な領域は狭くなります。
 しかし、家庭内の問題、病歴、出産の経緯などは、慎重に取り扱われるべき事柄であります。



*******法人*******

Q君
 法人に、人権規定が適用される根拠は、何ですか?


A先生
 法人に、性質上可能な限り人権規定が適用されます。
 以下、根拠が二つ考えられます。
1)法人の活動が可能な限り自然人を通じて行われ、その効果は究極的に自然人に帰属するから。(自然人還元論)
2)法人が現代社会において一個の社会的な実体として、重要な活動を行っているから。(法人社会的実在論)


Q 法人には、なぜ人権が与えられるのですか?上記、二説の批判は?そこから、いかに考えますか?

A先生
社会的実在説への批判→民法上の権利の主体だからといって、憲法上の人権を与える理由にならない。

自然人還元説への批判→自然人に人権を与えれば十分ではないか。法人内部の少数派には人権が還元されない可能性もある。

よって、公共の福祉に基づく人権を根拠に考えます。つまり、社会にとってプラスになるから人権を与えることになるのです。
そうすると、逆に、社会に対して不利益を与える場合は、人権は外国人よりも制約しやすいことに帰結します。(長谷部 憲法)

Q君
 八幡製鉄事件最高裁判決の問題点は?


A先生
 政治献金を自由に政党に提供できるとすると、個人よりもはるかに大きな影響力を行使することになり、政治過程における個人の民意反映の機会が相対的に減少することが問題であります。
 上述の説明で行くと、社会にとって不利益を与えることになるので、政治献金提供の自由は一定程度制約すべきことになります。
 また、現在の二重の基準論からみると、裁判所は、政治過程における公正な競争を確保する役割を担うことになっているので、その意味でも、政治献金提供の自由を制約する判決を出す必要があったということができます。


Q君
 「人権の実質的公平を確保する社会国家の理念に基づいて、自然人よりも広範な積極的規制を加えることが許される」とは、どういう意味ですか?

A先生
 小売市場調整特別法や旧大店法のように、社会的弱者の保護のために、積極的な規制が行われることも可能である、ということをいいます。



Q君
 「一般国民の政治的自由を不当に制限する効果をともなったり」とは、具体的にどういうことを指すのですか?


A先生
 政治献金を多額に寄附することによって、大企業が大きな政治的影響力を行使することは、一般国民の政治的発言力を相対的に弱めることにつながる、ということを指します。
 「政治には金がかかる」という現実を直視すると、企業は献金によって見返りを求め、政治家・政党は資金提供者の意に沿う行動を取ることになるであろうことが懸念されます。



Q君
 「法人内部の構成員の政治的自由と矛盾・衝突したりする場合」とは、どういうことですか?

A先生
 たとえば、組合内部で支持政党が二つに分かれていたり、南九州税理士会事件判決に見られるように、寄付金・献金の対象や相手についての見解が分かれたりすることを指します。


Q君
 最高裁の南九州税理士会政治献金事件判決と群馬司法書士会震災支援寄付金事件判決の違いはどこにありますか?

A先生
 共通点は、ともに強制加入の団体であることです。

 違いは、税理士会は、政治団体(税理士政治連盟)に寄付したことにあります。政治献金を内部の多数決によって、会員に強制することは、会員の思想信条と衝突して、会員の思想信条の自由を侵害する可能性があります。
 また、当該政治活動には参加したくない、賛成の意思表示をしたくない、という、表現の自由の消極的側面を侵害します。
 なお、判例理論としては、八幡製鉄所事件の場合は、会社であるから政治献金をすることも許されるが、税理士会は強制加入の団体であるために、政治献金をするという権利能力が制限されると考えられます。

 司法書士会が行ったのは、震災への寄付金であり、これは政治的なものではないので、金額その他について社会的な相当性の範囲内で、寄付の権利能力が認められるとされました。


Q君
 人権の享有主体のまとめとして考えると、外国人の人権と法人の人権の保障の程度、及びそれに対する基本姿勢はどのように異なっているのですか。


A先生
 以下、まとめとして考えられます。
1)外国人については、個人の尊厳の原理から、性質が許す限りできる限り人権を保障すべきと考える。つまり人権保障を拡大する方向で考えるのが原則である。
2)法人については、自然人還元論に立つと、自然人に利益を与える限り保障すべきであり、社会的実在論に立つと、その社会的な影響力の強さを考慮して、限定的かつ、自然人に無関係なものは保障されないと考えるべきであろう。または、社会に利益を与える限度で人権を保障すべきであろう。
3)法人に対しても外国人対しても、「各主体の種類及び性質」を、人権享有の程度を考察する要因の一つとすべきである。


以上
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外国人の人権 参政権(国と地方)、公務就任、生活保護、出入国、政治活動・マクリーン事件

2013-08-11 00:00:01 | 国政レベルでなすべきこと
 10条で、日本国民の要件は定められていました。

 外国人の人権は、どう考えれば良いのか。

 考え方を整理しておきます。


 芦部『憲法』 「第五章 基本的人権の原理 四 人権の享有主体」に関連しています。

(かつてブログ記載 http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/c6c8ab026320954741ae74e86071f473)
****人権の享有主体 3 外国人*********


Q君
 外国人は、どのように定義されますか?

A先生
 以下に大別されます。

1)一般外国人~短期滞在者など(観光その他で日本に在住している。27種のビザあり)
       難民と永住者を除く外国人のことである。
2)難民~難民条約1条の定義に当てはまる人
3)永住者(永住外国人)~一般永住者と特別永住者
特別永住者とは、在日外国人の方の中でも、終戦前から日本に居住している朝鮮半島、台湾出身の方でサンフランシスコ平和条約(1952年)の発効によって日本国籍を失った後も引き続き日本に在留している外国人の方とその子孫の方々のことをいう。特別永住者は、「出入国管理及び難民認定法(入管法)」ではなく「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(入管特例法)」によって定義されている。
4)不法滞在者(パスポートなしで入国またはビザ切れで滞在している者)ももちろん外国人のカテゴリーの一つである。


Q君
 憲法では、外国人には人権の保障は、どのように規定されていますか?


A先生
 外国人の人権も保障されると肯定説が通説です。

 否定説は、「第3章 国民の権利及び義務」という文言にこだわってなされます。


Q君 
 外国人の人権が保障されるその根拠は何ですか?


A先生
 以下の根拠が考えられます。
1)人権の普遍性・前国家性・前憲法性からは、人である以上外国人にも当然認められることになる。
2)人権の国際化(人権思想の進展にともない、人権を国内法的に保障するだけではなく、国際法的にも保障しようという傾向が強まっていること)。
3)憲法98条が謳う国際主義。

第九十八条  この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
○2  日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。


Q君
 すべての人権が保障されるのですか。


A先生
そうではありません。保障されない人権もあります。



Q君
 ある人権が外国人に保障されるかどうかを決定する基準は何ですか。


A先生
 文言説、性質説があって、基準が決定されます。

 文言説は、憲法の記載で、「何人」と規定されているときは、外国人にも保障され、「国民」と規定されているときは、国民のみに保障されるとします。

 性質説(通説・判例)は、権利の性質にしたがって、外国人に保障されるかどうかが決定されるとします。

 判例もマクリーン事件(�-1-2)で「憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。」と判示しています。


Q君
 文言説の問題点は、なにですか。

A先生
 22条2項の国籍離脱の自由について、「何人」もとしている点の説明が困難になります。

 外国人が日本国憲法の下で、日本国政府や裁判所に対して、国籍離脱の自由を主張する事は意味がありません。

 23条のように、何人もとも、国民とも書いていない条文もあります。

第二十二条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
○2  何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

第二十三条  学問の自由は、これを保障する。




Q君
 国レベルの参政権は認められますか?


A先生
 国民主権の原理から認められません。(通説・判例)

 ヒッグス・アラン事件(判例集�-3-2)の「事実」における、主張�及び�に注目してください。
  �国民は、国籍保持者だけではなく、社会の構成員として日本の政治社会における政治決定に従わざるを得ないものを指す。
  �原告は永住許可を得ている者であり、納税義務も負担している以上、帰化している者と同様に扱わないのは差別である。

Q君
 納税義務の負担は、外国人の人権を保障することの根拠となりうりますか。

A先生
 なりうると考え方と、なりえないという考え方ができます。

 なりうる(積極説)。近代憲法は、イギリスのマグナカルタからアメリカの独立宣言においても、「納税者」の権利の政治的権利を確保するという意味があったことから、ここの沿革を重視すると、外国人であって、かつ日本に生活の根拠を置いている以上は、納税義務を果たしていることは、外国人に人権(参政権)を保障することの根拠となりうる。

 なりえない(消極説)。税金は、ある社会に生活していることで発生するコストに対して、応分の負担を支払うものであり、そのことが参政権を保障することの理由にはならない。さらに、納税負担を根拠とすると、生活保護を受けている者や貧困のために納税負担にたえられない者の参政権を否定することになり、これは、戦前の制限選挙と同じ根拠づけになってしまう。


Q君
 では、地方レベルの参政権は認められますか?
 判例は、外国人に対する地方レベルの参政権の付与について、どう判断しているのですか?

A先生
 以下の論理に立っています。

  1)15条1項は外国人に適用されない。
  2)93条2項の「住民」は日本国民である。
  3)外国人に対する地方レベルの参政権付与は憲法上禁止されていない。
    (付与しなくても違憲ではないし、付与しなければならないものでもない)
    もっぱら立法政策の問題である。

  その理由は、次の通りです。
  「住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではない」


Q君
 判例上、外国人が就任できない公務は存在するのですか。存在するとすればその理由は何ですか?


A先生
地方公務員のうち,住民の権利義務を直接形成し,その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い,若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い,又はこれらに参画することを職務とする者である、「公権力行使等地方公務員」は、外国人が就任できない。と判例ではされています。(外国人管理職選考受験拒否事件上告審判決 判例集�-3-4)

その理由
1)公権力行使等地方公務員の職務の遂行は,住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有するものであることから、国民主権の原理に基づき,国及び普通地方公共団体による統治の在り方については日本国の統治者としての国民が最終的な責任を負うべきものである(憲法1条,15条1項参照)。
2)このことから、原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきである。
3)また、我が国以外の国家に帰属し,その国家との間でその国民としての権利義務を有する外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは,本来我が国の法体系の想定するところではないものというべきである。

Q君
 この判決の論理の問題点は何ですか?


A先生
 公権力行使等公務員の範囲が無限定であることです。
 外国人に能力の発揮の場を与え、幸福追求の可能性を保障するためには、公権力行使の等公務員の範囲を狭くすべきであり、実際、判例の言うところの「統治のあり方」に影響を与える業務は、警察・検察・国税・入管等の権力業務に限られるのではないかと考えられます。


Q君
 外国人は生活保護を受けられますか?


A先生
 実務上は、生活保護の認定をしています。

 適法に日本に滞在し、活動に制限を受けない永住、定住等の在留資格を有する外国人については、国際道義上、人道上の観点から、予算措置として、生活保護法を準用しています。

 すなわち、
1)出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)の在留資格を有する者(永住者、定住者、永住者の配偶者等、日本人の配偶者等)
2)日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の特別永住者(在日韓国人、在日朝鮮人、在日台湾人)
3)入管法上の認定難民
が生活保護法の準用の対象となります。

 したがって、これら以外の者は対象とならない。
 不法滞在者は生活保護の対象となりません。これは、ある種のジレンマであります。


Q君
 外国人に入国の自由は認められない理由は何ですか。


A先生
国家が国際法上、自己の安全と福祉に危害を及ぼす恐れのある外国人の入国を拒否するのは、当該国家の主権に属し、自由に裁量することができるとされています。(国際協調主義・普遍性の例外。)


Q君
 不法入国者には、日本人と同じ刑事手続が保障されないか。

A先生
 保障されます。


Q君
 外国人に在留の権利を認めていますか。

A先生
入国の自由がない以上、在留の権利も認められないとされています。(判例)



Q君
 外国人の出国の自由を認めていますか?

A先生
 認めています。(判例)



Q君
 外国人の政治活動の自由は大きな制限を受けるとしているが、その根拠は何ですか?

A先生
 外国人の表現の自由は原則として保障されています。

 ただし、国政レベルの参政権が否定されているので、日本国民よりも大きな制約を受けるとされています。

 大きな制約としては日本の政治に直接介入する政治結社の組織、政府打倒運動は禁止されます。
 また、マクリーン事件判決は、ある種の政治活動が、在留資格更新のための消極的要因となることを認めています。

 上記には、以下の反論がなされるところです。

 反論 
 1)表現の自由の自己統治・思想の自由市場という側面からすると、政府転覆等の反政府活動以外は、外国人に自由な言論を許し、言論を活発にして、真理に到達するための道を確保すべきではないか。
 2)実際に、外国人しかできない批判もあるはずであり、デモクラシーの運営にとって、マイナスになる。  
 3)この論理からすると、地方レベルの参政権は否定されていないのであるから、地方レベルの批判はできることになるが、地方レベルの政治批判と国レベルの政治批判の境界があいまいなものもある。
 4)以上のとおり、マクリーン判決は、表現活動を萎縮させ、政治活動が実質的に全面否認になる可能性を秘めている。


Q君
 マクリーン事件(判例集�-1-2)を読んで、要旨を三点にまとめるとすると。


A先生
1)外国人には、入国の自由もない以上、在留する権利もない。
2)法務大臣の在留許可の更新は、自由裁量行為であり、その判断が事実の基礎を欠くか、事実の評価がまったく合理性を欠く場合以外は、違法とはならない。
3)外国人にも権利の性質上許される限り、人権が保障され、表現の自由も政治的意思決定に影響を与えるもの以外は認められるが、当該表現活動が合憲・合法のものであっても、当不当の面から、法務大臣は、それを理由として在留許可を与えないことができる。
 判決は、「消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない」としています。


以上

******小坂メモ****
積み残し課題
○18テキストP97L1~2「在留期間の更新を入国の場合とほぼ同視し、広い裁量権を認めている点に問題がある」とはどういう意味か。☆
P94~95にあるように、正規の手続で入国した外国人には、在留資格をみだりに奪われないことを保障されていることから、入国の自由のように、広い裁量にすることは不当(場合によっては違法)である、ということ。

○19テキストP97L2~3「法人の政治的行為の自由と比べ権衡を失する」とはどう意味か。☆
 八幡製鉄事件では、大企業の政治献金が容易に是認されているが、社会への影響力という点では、大企業の方が極めて大きいという意味。ただし、私見では、影響力の大きい外国人もいることから、この点は、もう少し議論が必要ではないかと思われる。
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憲法10条 自民党改憲案の問題点 今後、在留外国人の権利制限の強化に注意を

2013-08-10 03:37:58 | 国政レベルでなすべきこと
 8月10日、自民党改憲案の問題点の分析は、10条です。

 10条から、第三章の人権規定に入ります。

 いろいろな人権が、自民党改憲案により、侵害されているため、注意が必要な章です。
 おかしな9条以上に、おかしな条文が続いているため、この第三章も、大いに議論すべきです。

 10条は、幸いにして同じ内容です。
 文章の品格として、自民党案が劣っているぐらいです。

*************************
日本国憲法
第三章 国民の権利及び義務
第十条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。


自民党改憲案
第三章 国民の権利及び義務
(日本国民)
第十条 日本国民の要件は、法律で定める。
************************

 「日本国民たる要件」とは、日本国民の構成員たる資格(日本国籍)を有する要件を意味します。

 日本国籍の取得と喪失に関する事項は、法律で定めることを規定しています。

 その法律は、「国籍法」です。
 最後に全文を掲載します。

 「国籍法」の2条1号、3条1項はそれぞれ問題がありましたが、両者改正(2条1号:昭和59年改正、3条1項:平成20年改正)されました。


 なお、間違ってはならないのは、日本国民にだけ、日本国憲法の人権を保障するのではなく、「権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ」(マクリーン事件)とされています

 判例で「権利の性質上」外国人に及ばないとされた権利:
 ○入国の自由、在留権(最大判昭和53・10・4マクリーン事件)

 ○再入国の自由(最一小判H4・11・16森川キャサリーン事件)

 ○国会議員の選挙権(最二小判H5・2・26ヒッグス・アラン事件)

 ○地方議会議員の選挙権(最三小判H7・2・28)

 ○公権力行使等地方公務員(管理職)への就任権(最大判H17・1・26)
 など




*****国籍法 全文*****
国籍法

 昭和二十五年五月四日 法律第百四十七号
 施行 昭和二十五年七月一日
 改正 昭和二十七年七月三十一日 法律第二百六十八号
    昭和五十九年五月二十五日 法律第四十五号
    平成五年十一月十二日 法律第八十九号
    平成十六年十二月一日 法律第百四十七号
    平成二十年十二月十二日 法律第八十八号

    (この法律の目的)
   第一条 日本国民たる要件は、この法律の定めるところによる
    (出生による国籍の取得)
   第二条 子は、次の場合には、日本国民とする。
    一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
    二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
    三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を
     有しないとき。
    (認知された子の国籍の取得)
   第三条 父又は母が認知した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除
    く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、
    その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつ
    たときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
   2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。
    (帰化)
   第四条 日本国民でない者(以下「外国人」という。)は、帰化によつて、日
    本の国籍を取得することができる。
   2 帰化をするには、法務大臣の許可を得なければならない。
   第五条 法務大臣は、次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可す
    ることができない。
    一 引き続き五年以上日本に住所を有すること。
    二 二十歳以上で本国法によつて行為能力を有すること。
    三 素行が善良であること。
    四 自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生
     計を営むことができること。
    五 国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。
    六 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政
      府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若
      しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したこ
      とがないこと。
   2 法務大臣は、外国人がその意思にかかわらずその国籍を失うことができな
    い場合において、日本国民との親族関係又は境遇につき特別の事情があると
    認めるときは、その者が前項第五号に掲げる条件を備えないときでも、帰化
    を許可することができる。
   第六条 次の各号の一に該当する外国人で現に日本に住所を有するものについ
    ては、法務大臣は、その者が前条第一項第一号に掲げる条件を備えないとき
    でも、帰化を許可することができる。
    一 日本国民であつた者の子(養子を除く。)で引き続き三年以上日本に住
     所又は居所を有するもの
    二 日本で生まれた者で引き続き三年以上日本に住所若しくは居所を有し、
     又はその父若しくは母(養父母を除く。)が日本で生まれたもの
    三 引き続き十年以上日本に居所を有する者
   第七条 日本国民の配偶者たる外国人で引き続き三年以上日本に住所又は居所
    を有し、かつ、現に日本に住所を有するものについては、法務大臣は、その
    者が第五条第一項第一号及び第二号の条件を備えないときでも、帰化を許可
    することができる。日本国民の配偶者たる外国人で婚姻の日から三年を経過
    し、かつ、引き続き一年以上日本に住所を有するものについても、同様とす
    る。
   第八条 次の各号の一に該当する外国人については、法務大臣は、その者が第
    五条第一項第一号、第二号及び第四号の条件を備えないときでも、帰化を許
    可することができる。
    一 日本国民の子(養子を除く。)で日本に住所を有するもの
    二 日本国民の養子で引き続き一年以上日本に住所を有し、かつ、縁組の時
     本国法により未成年であつたもの
    三 日本の国籍を失つた者(日本に帰化した後日本の国籍を失つた者を除
     く。)で日本に住所を有するもの
    四 日本で生まれ、かつ、出生の時から国籍を有しない者でその時から引き
     続き三年以上日本に住所を有するもの
   第九条 日本に特別の功労のある外国人については、法務大臣は、第五条第一
    項の規定にかかわらず、国会の承認を得て、その帰化を許可することができ
    る。
   第十条 法務大臣は、帰化を許可したときは、官報にその旨を告示しなければ
    ならない。
   2 帰化は、前項の告示の日から効力を生ずる。
    (国籍の喪失)
   第十一条 日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日
    本の国籍を失う。
   2 外国の国籍を有する日本国民は、その外国の法令によりその国の国籍を選
    択したときは、日本の国籍を失う。
   第十二条 出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたもの
    は、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより日本
    の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本
    の国籍を失う。
   第十三条 外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによつて、
    日本の国籍を離脱することができる。
   2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を失う。
    (国籍の選択)
   第十四条 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有すること
    となつた時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、そ
    の時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国
    籍を選択しなければならない。
   2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の
    定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨
    の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。
   第十五条 法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第一項に定める期
    限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択を
    すべきことを催告することができる。
   2 前項に規定する催告は、これを受けるべき者の所在を知ることができない
    ときその他書面によつてすることができないやむを得ない事情があるとき
    は、催告すべき事項を官報に掲載してすることができる。この場合における
    催告は、官報に掲載された日の翌日に到達したものとみなす。
   3 前二項の規定による催告を受けた者は、催告を受けた日から一月以内に日
    本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う。
    ただし、その者が天災その他その責めに帰することができない事由によつて
    その期間内に日本の国籍の選択をすることができない場合において、その選
    択をすることができるに至つた時から二週間以内にこれをしたときは、この
    限りでない。
   第十六条 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければな
    らない。
   2 法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないもの
    が自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であ
    つても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就
    任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対
    し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。
   3 前項の宣告に係る聴聞の期日における審理は、公開により行わなければな
    らない。
   4 第二項の宣告は、官報に告示してしなければならない。
   5 第二項の宣告を受けた者は、前項の告示の日に日本の国籍を失う。
    (国籍の再取得)
   第十七条 第十二条の規定により日本の国籍を失つた者で二十歳未満のもの
    は、日本に住所を有するときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の
    国籍を取得することができる。
   2 第十五条第二項の規定による催告を受けて同条第三項の規定により日本の
    国籍を失つた者は、第五条第一項第五号に掲げる条件を備えるときは、日本
    の国籍を失つたことを知つた時から一年以内に法務大臣に届け出ることによ
    つて、日本の国籍を取得することができる。ただし、天災その他その者の責
    めに帰することができない事由によつてその期間内に届け出ることができな
    いときは、その期間は、これをすることができるに至つた時から一月とする。
   3 前二項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得す
    る。
    (法定代理人がする届出等)
   第十八条 第三条第一項若しくは前条第一項の規定による国籍取得の届出、帰
    化の許可の申請、選択の宣言又は国籍離脱の届出は、国籍の取得、選択又は
    離脱をしようとする者が十五歳未満であるときは、法定代理人が代わつてす
    る。
    (省令への委任)
   第十九条 この法律に定めるもののほか、国籍の取得及び離脱に関する手続そ
    の他この法律の施行に関し必要な事項は、法務省令で定める。
    (罰則)
   第二十条 第三条第一項の規定による届出をする場合において、虚偽の届出を
    した者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
   2 前項の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第二条の例に従う。
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日本国憲法第三章 人権規定を理解するために、まずは、「人権」とは何か。

2013-08-10 03:36:40 | 国政レベルでなすべきこと
 自民党改憲案の問題点、一日一条ずつ考えています。

 8月10日は、10条で、第三章 国民の権利及び義務 に入ります。
 すなわち、「人権」の規定の章にです。

 憲法学的に「人権」とは何かを理解した上で、自民案の問題点を見て行きます。
 人権とは何か、Q君とA先生の会話を通して概観します。
 芦部『憲法』の「五章 基本的人権の原理 二 人権の観念」の部分に該当します。

(かつてのブログを再掲http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/bcebbac6e7eac3c121fb8da99610ec73)
**************************************
Q君 人権の固有性とは何ですか?

A先生
人権は、憲法や神から恩恵として与えられたものではなくて、人間であることにより当然に有するとされることをいいます。
つまり、「もともと、生まれつき持っていた」ということです。
条文としては、11条と97条を参照してください。

第十一条  国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

第九十七条  この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。



Q君 人権の固有性から新しい人権が導き出されることの意味を説明してください。

A先生
 憲法に明文で書いていなくても、新しい人権が認められる余地があることです。
 たとえば、プライバシーの権利は、憲法上に明文がないが、判例上確立しています。これは、新しく人権を作ったと考えるよりも、国家の人権侵害の形態にあわせて(個人の尊厳を蹂躙する形態が変化して)、個人の尊厳を尊重するために、人権の保障の形を追加・変更したと考えるべきであろうと思われます。
 憲法の具体的な条文がなくても、13条が保障する個人の尊厳が、蹂躙・侵害される場合は、判例の展開や立法によって、新しい人権が保障されるようになります。
 個人の尊厳という、人権の源泉があって、そこから、国家の干渉・侵害の形態に応じて、新しい人権が発生すると考えて下さい。一方、憲法第3章に規定する人権は、憲法成立時までの、国家の侵害の形態を示した歴史と考えることができます。


Q君 次に、人権の「不可侵性」です。
  人権侵害を行う存在は「誰・何?」であると想定しているのでしょうか。

A先生
 人権侵害を行う存在は、公権力であると想定しています。
 ただし、現代では企業などの私的団体による人権侵害の重要性も高まっています。


Q君 
 なぜ「公権力」に対して不可侵性を主張するようになったのでしょうか。

A先生
 以下の理由が考えられます。
  1)歴史的にみて、国家が一番多くの場面で人権を侵害してきた。
  2)近代立憲主義では、国家からの自由が問題となった。
  3)自由主義経済思想が普及した。税金、関所などといった国の干渉を排除することによって、経済が発展すると、近代国家では考えられていた。
  4)国家法人説の影響(国家法人説は、人権・自由というのは、神ではなくて、国が国民に対して与えるもの、と考える。)

 民法と異なり、憲法の場合は、権利行使の対象は、国家です。
 人権は国家に対して請求するものという点をまず押さえておくことが、とても大切です。


Q君
 公権力とは具体的に何を指すのですか。


A先生
 行政権・立法権を指します。冤罪などは、司法権による人権侵害であります。

 また、不可侵性からは、憲法を改正しても、基本的人権を削除することはできない、ということが導かれます。


Q君
 人権が不可侵である以上、人権は絶対無制約であることを意味するのでしょうか。

A先生
 人権には一定の限界が存在する。最低限人には迷惑をかけてはいけない、という制約があります。

 財産権のように、公共の利益のためには、人権は制約される場合があります。すなわち、合理的な理由がある場合は、人権の制約が許容されるということです。

 判例は、自衛隊の官舎内に立ち入ってビラ配りをしたことが住居不法侵入に問われた事件(判例集P225-2参照)でも、表現の自由は重要であるが、絶対的に無制約ではなく、他人の権利を不当に害するものは許されない、とされています。
 加持祈祷事件(判例集P128)も、基本的人権は、公共の福祉に反しない限り、立法その他、国政の上で最大限の尊重を必要とする、と述べています。

 まとめますと、不可侵性から導くことができることは次の点です。
 1)人権は、合理的な理由がない限り、国家により侵害されることはない。
 2)人権の中には、絶対侵害できないものがある。(後述の切り札としての権利)


Q君
 人権の普遍性とは何ですか。憲法上、その例外はありますか。

A先生
 人間である以上、誰に対しても、遍く(あまねく)人権が保障されるということです。

 普遍性とは、「いつでも、どこでも、誰にでも、どんな場合でも人権は保障される。」ことを意味します。

 ただし、天皇は、普遍性の例外であります。外国人も、日本国民と全く同じように人権が保障されるというわけではありません。

Q君
 普遍性の例外をどのように考えるべきですか。


A先生
 人権の保障は、次の二つのレベルで論じることになるということです。
1)そもそも人権が保障されるか、否か。(人権保障の有無)
2)仮に保障されるとしたら、どの程度が保障されるか。(人権保障の程度)

 普遍性は、1)を論じています。
 天皇や外国人は、1)の問題については、肯定されますが、2)の問題では、一般の国民と比較すると、人権保障が十分ではない、ということになります。

Q君 
 なぜ、普遍性が問題となるのでしょうか。

A先生

 人権が十分に保障されない集団、特に、社会的マイノリティーの人権侵害が問題となるからです。
 普遍性で問題となるのは、マイノリティーの人権です。

 なぜ、マイノリティーの人権を守らなくてはならないのか、その意味をよく考えることが大事です。
 社会的に差別され、政治過程、経済過程に影響力を行使することができないことが理由のひとつとしてあります。



Q君 
 人権が保障される根拠は、何ですか。なぜ、人権は保障されなければならないのでしょうか。

A先生

 人間が社会を構成する自律的な個人として自由と生存を確保し、その尊厳性を確保するためです。個人の尊厳を保障するためです。
 「人が人間らしく生きることができるために存在する。」別のいい方をすると、「人格的生存」を保障するために、権利が保障されるのであります。

 ところで、人権の保障の根拠には、もう一つ別の側面が存在します。
 それは、社会全体の利益を理由として保障されている人権が存在する、ということであります。

 後者の権利は、場合によっては、他の社会的利益が大きい場合は、権利保障が後退される可能性を秘めているということです。極論をいえば、社会にとって、有益ではない、または利益を与える可能性が低いと、判断されると、権利保障が後退する、という危険性をはらんでいます。

 たとえば、学問の自由は、研究者の自己実現としての研究の自由を与えています。しかし、大学等の高度な研究機関に在籍する者に特に与えられている理由は、研究の成果が社会に大きな恩恵を与えるから、という説明も可能であります。そうすると、社会に害悪を与えそうな場合は、研究を制限することもありうる、ということになります。

 したがって、人権保障の根拠は、第一に個人の尊厳であり、第二に、社会・公共の利益促進という順になるであろうと考えられます。



Q君

 「切り札(注 トランプのジョーカーのようなもの)としての人権」が行使される場面は、具体的には、どのような人権をどのように用いたときですか。

A先生

 切り札とは、トランプのジョーカーのように、状況に関わらず、有無を言わせずに権利行使を行うことを指しています。

 近代の自然権的権利、たとえば、信教の自由・政治的表現の自由のように、国家権力の妨害に対して、有無を言わせずに権利を行使するような場面であります。

 つまり、ほぼ、制約を認めずに、権利が絶対的に近い状況で保障されることを指します。
 切り札としての権利は、多数者の意思に対して、少数者の自由を保障するという局面で重要な意味をもちます。

 例えば、仏教徒の学生が、キリスト教施設の見学、神社の参拝などを公立学校の学校行事の一環として、強制された場合、本人がそれを強く忌避したいときには、信教の自由が「切り札」の人権として機能する(この場合は参加拒否)可能性があるということです。

 つまり、人権という全体集合の中には、基本的人権があり、基本的人権の中に、さらに、「切り札」としての人権という部分集合がある、と考えて下さい。
 そして、この「切り札」としての人権は、個人の尊厳・人格的生存に直結するものが該当します。例えば、信仰の自由のように、侵害されると、「人間らしい生き方ができなくなる」ものが該当します。


以上、
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幸福追求権・平等権・自由権・受益権・参政権・社会権、法律の留保と制度的保障

2013-08-10 00:00:02 | 国政レベルでなすべきこと
 人権を理解するために、基本的概念を整理しておきます。

 芦部『憲法』の「五章 基本的人権の原理 三人権の内容1 自由権・参政権・社会権」です。

(かつてのブログ記載 http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/e150510278c454256e3f9090cd53fa1c)
**************************

Q君 
 自由権とは何ですか。

A先生
 国家が個人の領域に対して権力的に介入することを排除して、個人の自由な意思決定と活動とを保障する権利です。
 「国家からの自由」と言われます。


 自由権は、三つに分類されます。

 精神的自由 思想良心の自由・表現の自由・信教の自由・学問の自由
 経済的自由 職業選択の自由・財産権
 身体の自由 人身の自由・刑事手続の保障


Q君
 精神的自由を、内面的と外面的の二つに分ける理由は何ですか。

A先生

 外面とは他者に働きかける作用をもつという意味であり、内面とは、あくまでも個人の心の内部の問題であり、他者に対しては、少なくとも「自ら」働きかけることはありません。

 内面的自由は、基本的に国家からの制約を受けないが、外面的な自由は国家から制約を受ける可能性があるから分けられます。

 たとえば、憲法20条の信教の自由は、内面の信仰の自由と、外面の宗教活動の自由・宗教的な結社の自由を含みます。
 カルト宗教の活動を見てもわかるように、外面的な自由としての宗教行為の全てが保障されるわけではありません。

 なお、その他、精神的自由を、内面、外面でとらえてみると、

 19条は、内面の自由のみ。
第十九条  思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

 20条は、信仰の自由は内面の自由。その他は、外面の自由。
第二十条  信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
○2  何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
○3  国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

 21条は、外面の自由のみ。
第二十一条  集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
○2  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 23条は、研究の自由は内面の自由。その他は外面の自由。
第二十三条  学問の自由は、これを保障する。


Q君
 「参政権は、国家への自由とも言われ、自由権の確保に仕える。」とは、具体的にどういう意味ですか。

A先生

 国民が政治に参加することによって、国政に民意が反映されると、国民の望まない立法、国民の権利を侵害する立法がなされる可能性が低い、ということです。
 ただし、多数者の意思が反映されて、少数者の人権が保障されない可能性があります。
 一方、国会で公開された論争がおこなわれる以上は、極端な人権侵害立法が生まれる可能性は低いとも言いうります。
 端的に言うと、この文は、「自ら代表者を選んだ以上は、自分の首を絞める(自由を侵害する)立法を行う可能性は低い。」という意味であります。



Q君
 社会権が保障される意義は何ですか?なぜ、生存権は保障されるのですか。


A先生
 資本主義社会の弊害であるところの、失業・貧困・労働条件の悪化などの弊害から、社会的・経済的弱者を保護し、その個人の尊厳を保障すること。つまり、資本主義・自由競争社会のセイフティーネットの構築を国家に求めることにあります。

 もう少し詳しく言うと、「憲法学1」に述べた人権保障の二つの意義がここでも当てはまります。

 �各個人が経済的な側面で個人の尊厳を保つことができるようにすること、�能力があり発展可能性のある個人の能力を発揮させる土台作り(社会的な基盤の形成)をすること、の二つが社会権保障の意義であります。
 �が重要であり、�は補充的な意義であります。


Q君 社会権では、「憲法の規定だけを根拠として権利の実現を裁判所に請求することのできる具体的な権利ではない。」とはどういう意味ですか。

A先生
 例えば、生存権を例にとって述べます。
 生活に困っている人が、裁判所に生活保護を求めても、裁判官が最低限度の生活の内容(実体要件)や支給条件(手続要件)を決定することは困難です。
 あくまでも、生活保護法の決めた基準がないと、裁判による救済は難しいという意味であります。
 つまり、「25条は、裁判所が依拠する規範とはなりえない。」という意味です。
 25条は、生活保護法の制定を求める権利(抽象的権利)である。ということです。
 


****2 分類の相対性*****

Q君、 人権を分類するとどうなりますか。

A先生 以下、6つに分類できます。

 包括的基本権(総則的規定)13条 幸福追求権
 法の下の平等(総則的規定)14条 平等権
 自由権 精神的自由 19条 20条 21条 23条 
     経済的自由 22条 29条
     人身の自由 18条 31条以下
 受益権 17条 32条 40条
 参政権 15条(公務員の選定権・選挙権)・国民投票をする権利
 社会権 25条 26条 27条 28条

Q君 「知る権利の自由権的性格と社会権的性格」を説明してください。


A先生
 メディア(新聞等)を例にとって説明します。

 メディアの知る権利は、自分の情報の獲得を国家から妨害されないという、自由権的側面を有します。
 また、一方で、国家に対して情報公開を求めて(社会権・請求権的性格)いかないと、適正な取材を行って、政府の活動を監視するという重要な役割を担うことができなくなります。


Q君 「生存権の自由権的側面が侵害される場面」とは?

A先生

 住民税の滞納者に対して、納税を促すために、水道などのライフラインの供給を市役所が停止する場合などがそれに該当します。健康で文化的な最低限度の生活が、ライフラインの停止によって、「自由に」営むことができなくなります。

 あるいは、財政上の理由から、生活保護の支給額を大幅に切り下げることも、自由権的側面を侵害する可能性があります。


Q君「もっとも、社会権及び社会国家の思想を過大に評価すると、・・・・自由権の領域にまで国家が介入することを認める結果になるおそれが生じる。」とは、どういう意味ですか。


A先生
 生活保護を例にとって考えてみます。

 最低限度の経済生活を営むことができるように、生存権が保障され、生活保護の支給を受けることは、個人の尊厳を保障するという意味で十分に意味があります。
 しかし、生活保護を受けることと引き換えに、生活全般が国家の管理のもとにおかれることになります。社会的に更生するために、各種の指導を受けざるを得ず、自由な生活がかなりの程度制約されることになるのです。これが、自由の領域にまで国家が介入することなのである。
 また、充実した福祉社会を実現するためには、増税が必要になる。そうすると、消費など自由な経済活動が、その分、阻害されることになる。この意味でも、社会権・社会国家の強調は、国家の介入を招くということが説明できます。
 社会権の拡大は、自由権の後退という側面があることを理解することがとても大切です。


******3 制度的保障********


Q君 制度的保障とは?

A先生

 具体例(~の自由を保障するための・・・・)としてあげます。

 信教の自由を保障するための政教分離原則(判例の見解~ただし芦部説は否定的)
 学問の自由を保障するための大学の自治
 経済的自由を保障するための私有財産制


Q君 制度的保障は何のために存在するのですか。

A先生
 ある自由を保障するために、立法によってもその核心ないし本質的内容を侵害することができない特別な保護を与えるために存在します。
 簡単にいうと、制度的保障とは、ある自由を保障するために、当該人権の侵害をブロックしてくれると期待される制度を保障することを指します。
 学問の自治と大学の自治の関係が分かりやすい例です。かつては、学問の中心は大学であったので、自由な研究活動を保障するためには、人事その他を含めて、大学への国家権力の介入を排除することが必要でありました。

Q君 
 法律の留保とは何ですか。

A先生
 法律の範囲内で、人権が保障されるという形の、人権保障のあり方です。
 
 例えば、「表現の自由が、法律の範囲内で保障される」という規定が存在するとすれば、法律によって、表現の自由を大幅に制限することも可能ということになります(マイナスの側面)。
 しかし、法律によらないかぎり自由が制限されない(勅令や政府の命令では制限できない)という意味もあります(プラスの側面)。
 また、法律を制定する国会が、公正な選挙で選出された議員から構成され、メディアも正常に機能しているとすれば、権利を不当に制約する法律は制定されない、はずであると期待されます。

Q君
 法律の留保と制度的保障はどのような関係にあるのですか。


A先生
 制度的保障は、法律の留保に対抗する法理論です。

 法律の留保の下では、法律によって人権が大幅に侵害される可能性がありますが、制度的保障があると、人権の核心部分の侵害が防止できます。


Q君 「制度が人権に優越し、人権保障を弱める機能を営む可能性すらある」とはどのような場合でしょうか。

A先生
 政教分離を例にとると、政教分離原則の内容が不明確であったり、政教分離が十分に行われないものであったりする場合、国家の宗教への関わりを抑止することができず、そのために、(社会の少数派の)信教の自由が制約される可能性があるということです。
 「仏作って魂入れず」という諺は、仏(この場合は仏像のこと)を大事にするばかりで、大事な魂(信心のこと)の方がおろそかになる傾向にあるという意味であるが、制度的保障も、仏としての「制度」だけを作って、魂であるところの「自由」が保障されないということになりがちなのです。
 なお、テキストP87*を読むと、芦部説では、政教分離原則を制度的保障とすることに消極的であります。芦部憲法学�でも、制度的保障の議論は日本では不要としています。

以上
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憲法9条 自民党改憲草案の問題点 第二章「安全保障」ではなく、「国防軍」という章の名ではないですか?

2013-08-09 16:19:15 | 国政レベルでなすべきこと

 8月9日は、9条。(その前提に、憲法前文も必要なので、先のブログhttp://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/971da48ecc09ee6fb477d8c30d41a436で記載をしました。)

 自民党案の9条、皆さんご存知の通り大問題。

 自民党案は、「国防軍」を創設します。
 ついでに、第2章「戦争の放棄」だった章の題名を、こっそりと、「安全保障」という聞こえのよい題名に置き換えています。自民党にとって、「戦争の放棄」はどうも都合が悪いようです。
 9条において、おわかりにように自民党は、日本を戦争をする国にしたいと言っています。

 現行憲法が掲げる三つの基本原理のひとつ「平和主義」と、それゆえに、戦争は放棄し続けるのか、
 はたまた、自民党に賛成して、戦争を許容するのか、
 判断は、私達国民ひとりひとりに委ねられています。



 まずは、日本国憲法9条を、憲法学的に解釈します。

****日本国憲法 9条*****
第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
*****************

 日本国憲法9条の通説的な解釈は、

1条において

 「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」する戦争の放棄の動機の下に、

 「国際紛争を解決する手段として」、すなわち、国家の政策の手段として

 1、国権の発動たる戦争

 2、武力による威嚇

 3、武力の行使

 この3つを放棄する。

 ここで、侵略戦争は放棄することをまず掲げています。
 自衛戦争は、1条では放棄されていません。


2条において

 「前項の目的を達成するため」、すなわち、戦争を放棄するに至った動機である 「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」する目的のため、

 「陸海空軍その他の戦力」の一切の戦力の保持を禁止、交戦権も否認します。
 このことより、自衛戦争も行うことは禁止されることになります。

 日本国は、平和主義を国の基本理念に掲げ、侵略戦争も自衛戦争も、一切の戦争を放棄しています

 
 ただし、「自衛権」は独立国家であれば当然有する権利であり、「個別的自衛権」として厳格な自衛権の発動要件のもとに認められています
 「集団的自衛権」は、他国に対する武力攻撃を、自国の実体的権利が侵されなくても、平和と安全に関する一般的利益に基づいて援助するために防衛行動をとる権利であり、日本国憲法の下では認められません。日米安保上条約の定める相互防衛の体制も、日本の個別的自衛権の範囲内のものとされています。


 <自衛権を発動するための3要件>

 1、防衛行動以外に手段がなく、そのような防衛行動をとることがやむをえないという必要性の要件

 2、外国から加えられた侵害が急迫不正であるという違法性の要件

 3、自衛権の発動としてとられた措置が加えられた侵害を排除するのに必要な限度のもので、つり合いがとれていなければならないという均衡性の要件


 「日本国憲法でも、このような自衛権まで放棄したわけではない。しかし、自衛権が認められているとしても、それにともなう自衛のための防衛力・自衛力の保持が認められるかどうかは、…重大な争いのあるところである。」(『憲法 第5版』岩波書店 芦部信喜 60ページ)


 そこで、政府は、自衛権を行使するための実力を保持することは憲法上許されるとしています
 「自衛のための必要最小限度の実力」(=「他国に侵略的な脅威を与えるような攻撃的武器は保持できない」)は、憲法で保持することを禁じられる「戦力」にあたらないと政府は説明をしています。

 自衛力・自衛権の限界については、学説上も、裁判所でも争われているところです。
 〇自衛力の限界は具体的にはどこにあるか

 〇自衛権がどこまで及ぶか

 〇自衛隊の海外出動
 ⇒「自衛隊の海外出動が合憲か否かは、武力行使の有無と深くかかわるが、それは自衛隊の憲法適合性という本質的な問題を措(お)いて論じることはできないであろう。いかに国際貢献という目的であっても、憲法9条の改正なくして、現状のまま自衛隊が部隊として(とくにPKFに)参加する出動を認めることは、法的にはきわめて難しい。」(『憲法 第5版』岩波書店 芦部信喜 65ページ)


 戦争を放棄する私たちの国は、自衛権の行使は、厳格な要件のもと許されています。
 このことを原点に、国際協調主義のもと、世界への人的、物的な支援等による「人間の安全保障」を積極的に生み出していくことこそが、今の日本には大切であると考えます。
 


 以下は、頭が痛くなる自民党案です。
 時代に逆行した、国防軍の創設を言っています。
 第二章を、「安全保障」というなら、国防軍をもつことだけが、安全保障であるわけではなのであるから、そのほかの安全保障に役立つ規定も盛り込むべきでしょう。
 それができないのであれば、「安全保障」のような聞こえのよい章の題名をつけて、国民を欺くのではなく、真正面から、「国防軍」という題名にすべきと考えます。
 章の名づけかたから、問題であり、一貫性に欠けます。


******自民党案******
 
第二章 安全保障

(平和主義)
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。

(国防軍)
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。〔新設〕
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保す
るために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。

(領土等の保全等)
第九条の三 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。〔新設〕

**********************************


 自民党案を解釈するなら

9条1項で、国際紛争を解決する手段としては戦争を放棄するが、それ以外は戦争を放棄していません

9条2項で、自衛権の発動を認めています。自衛権の発動を認めると明文規定するなら、厳格な発動要件も明記すべきでしょう。この要件なき明文規定は、危険です。

9条の2 
第2項「国会の承認その他の統制」このような、「その他の統制」のようなあいまいな文言はさけるべきです。巧みに、国会をすりぬけることができる手法まで、厳格な運用が求められる条文に盛り込まないでいただきたい。
第5項「国防軍に審判所」というが、当事者だけで裁判されると「懲役300年」のようなおかしな判決が出される可能性があるから、裁判所に審判所を置くなど、正当な裁判が担保できる規定をおいていただきたい。

9条の3 「その資源を確保」が前面に出てくる危険性はないだろうか。厳格な発動要件を満たすことなく、資源確保を旗印に、戦争が正当化されるおそれがあるから、この文言は問題である。いつも戦争は、「資源の確保」のために実質起こってきたのではないでしょうか。

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前文:憲法をつらぬく理念の違い 日本国憲法:国民を守る、自民案:国家を末永く子孫に継承

2013-08-09 09:37:14 | 国政レベルでなすべきこと
 8月9日、自民党改憲草案 9条。

 9条には、憲法前文も強く関係するので、まず、前文も比較してみます。
 (前文は、法律の最初に付され、その法律の目的や精神を述べる文章です。)

 さて、日本国憲法と自民党改憲草案の前文を、両者、どちらがどちらの前文かを明らかにせず、ならべます。

 皆様は、どちらの前文をもつ憲法をもつ国の国民でありたいですか?


 



*****前文******

(前文)
 日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴いただく国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。

 我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。

 日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する

 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる

 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。



(前文)
 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

************


 後者が、現行の日本国憲法の前文です。いつもと順番を逆にしてみました。
 私は、迷わず、後者を前文とする憲法を持つ国の国民でありたいと思います。

 自民党案である前者も、一文一文の中には、至極当然の内容も含まれていますが、こうあるべきという理念がまったく伝わってきません。つけてはったような前文です。

 問題なのは、自民党案の主語をよく見てください。


 自民党案:日本国は⇒我が国は⇒日本国民は⇒我々は⇒日本国民は
 

 日本国憲法:日本国民は⇒日本国民は⇒われらは⇒日本国民は


 自民党案では、三段落目になって、ようやく日本国民が主語になります。
 その三段落目、自民案では、しかし、「日本国民は」の述語は、残念ながら述語は、「国家を形成する」であって、やっぱり「国」のこと。
 あれっ?と思って、四段落目、「我々は」の主語で始まって、期待をもたせるも、結局述語は、「国を成長させる」。
 とどめの最後の五段落目、自民案は、「日本国民は」に続く、目的は、「国家を末永く子孫に継承するため」とあって、憲法を制定すると結び、やっぱり「国」のこと。
 結局、すべての段落で言いたいのは、「国」のことです。
 主語が国民となったとしても、結局、「国」のことで終わっているのです。
 自民改憲案、本当に大丈夫?と疑いたくなります。
 自民党案に本当に国民を守る意思がありますか?

 

 一方、日本国憲法は、すべてにおいて主語は、日本国民です。
 日本国憲法は、日本国民を守ろうとする理念が伝わってきます。

 では、どういう理念であるか、それがどこに入っているかを、日本国憲法前文を再度掲載し、見てみます。()内に赤字で理念を記します。

 もちろん、基本原理は、
 〇国民主権

 〇基本的人権の尊重

 〇平和主義

 〇国際協調主義


*****日本国憲法 前文******

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢人権尊重主義)を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意平和主義)し、ここに主権が国民に存することを宣言国民主権)し、この憲法を確定する民定憲法性)。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する(国民主権、代表民主制)。これは人類普遍の原理憲法改正の限界)であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する憲法改正の限界)。

 日本国民は、恒久の平和を念願平和主義)し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない国際協調主義)のであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ目的達成の誓約)。

********************
 
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8月9日は、自民党改憲草案の9条の問題点分析します。その前段階としての「集団的自衛権」について

2013-08-08 17:55:10 | 国政レベルでなすべきこと
 明日9日は、9条の問題点を考えたいと思います。

 その前段階としての「集団的自衛権」

 その解釈は、現行憲法下では、集団的自衛権の行使は、違憲です。

 集団的自衛権について内閣法制局は「国際法上保有しているが、行使は憲法の限界を超え、許されない」との見解

*****琉球新報 社説(2013/08/07)**************
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-210681-storytopic-11.html

社説 RSSicon


法制局長官人事 「法治」の原則捨てるのか2013年8月7日


 あまりに強引な人事だ。安倍晋三首相は内閣法制局の山本庸幸長官を退任させ、後任に小松一郎駐仏大使を充てるという。
 長官人事は首相の専権事項というが、集団的自衛権行使の容認に向けた布石であるのは明らかだ。政府は「適材適所」(菅義偉官房長官)などと抽象的説明でかわすのでなく、この恣意(しい)的人事の是非を堂々と国民に問うべきだ。
 小松氏は条約畑の外務官僚で、名うての行使容認論者だ。2006年の第一次安倍内閣当時の外務省国際法局長であり、集団的自衛権行使容認を打ち出した当時の政府有識者懇談会に事務方として深く関わった。
 内閣法制局長官は同局の法制第一部長を経験した内閣法制次長が昇任するのが慣例だ。法解釈の継続性や職務の専門性を考えれば一定の説得力はある。そこに法制局未経験者が就くのも外務省出身者が就くのも前代未聞だ。
 安倍首相が再設置した有識者懇談会は今月下旬から議論を再開し、行使容認の報告書を秋にもまとめる。行使の手続きを定める国家安全保障基本法案も、早ければ秋の臨時国会に提出する構えだ。
 その法案提出を控え、容認論者をトップに据えて国会答弁に備えるつもりなのは間違いない。解釈改憲に逆らう法制局をけん制し、圧力を加える狙いもあろう。
 集団的自衛権について内閣法制局は「国際法上保有しているが、行使は憲法の限界を超え、許されない」との見解を保持してきた
 憲法解釈は長年の政府答弁の積み重ねであり、精密な法解釈の結果である。政権の意に染まないからと言って答弁者の首をすげかえ、憲法解釈を変えるのなら、もはや法治国家と言えない。
 憲法9条を改正したいが、難しいから改憲の要件を定める96条を改正する。その96条先行改正論が批判を浴びたら、今度は集団的自衛権行使容認へと憲法解釈を変える。解釈変更に内閣法制局が抵抗するなら、今度は長官の首をすげ替える。正面突破が難しいから裏口から入ると言うに等しい。あまりに姑息(こそく)だ。
 第二次大戦後、戦争でどの国の人も殺さなかった国は日本を含め世界に6カ国しかない。憲法の平和主義の成果だ。集団的自衛権の行使は、戦後日本が積み上げてきたそうした国際的信頼を根こそぎ失いかねない。なし崩しで貴重な資産を失う愚を犯してはならない。
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憲法7条 自民党改憲案問題点:天皇の「国事行為」や「公的行為」が安易に拡大される危険性あり。

2013-08-07 10:38:49 | 国政レベルでなすべきこと

一日一条ずつ進む自民党改憲草案の問題点分析。

 8月7日は、7条です。

 憲法7条に相当する条文は、自民党改憲草案では6条であり、その6条と比較して見ます。


*************
(日本国憲法)
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。


(自民党改憲草案)
(天皇の国事行為等)
第六条 天皇は、国民のために、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて最高裁判所の長である裁判官を任命する。

2 天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の国の公務員の任免を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 全権委任状並びに大使及び公使の信任状並びに批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行うこと。

3 天皇は、法律の定めるところにより、前二項の行為を委任することができる。

4 天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負う。ただし、衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による。

第一項及び第二項に掲げるもののほか、天皇は、国又は地方自治体その他の公共団体が主催する式典への出席その他の公的な行為を行う。

**************************

1)自民党側の説明

 以下、6条関連の自民党側の説明を見ます。

*****自民党Q&A*****

Q6 その他、天皇に関して、どのような規定をおいたのですか?

6条に天皇の行為に関する規定を置きましたが、現行憲法を一部変更してい
る所があります。

(国事行為には内閣の「進言」が必要)
現行憲法では、天皇の国事行為には内閣の「助言と承認」が必要とされていますが、
天皇の行為に対して「承認」とは礼を失することから、「進言」という言葉に統一しま
した(6 条4 項)。従来の学説でも、「助言と承認」は一体的に行われるものであり、区
別されるものではないという説が有力であり、「進言」に一本化したものです。

(天皇の公的行為を明記)
さらに、6 条5 項に、現行憲法には規定がなかった「天皇の公的行為」を明記しました。
現に、国会の開会式で「おことば」を述べること、国や地方自治体が主催する式典に出
席することなど、天皇の行為には公的な性格を持つものがあります。しかし、こうした
公的な性格を持つ行為は、現行憲法上何ら位置付けがなされていません。そこで、こう
した公的行為について、憲法上明確な規定を設けるべきであると考えました。
一部の政党は、国事行為以外の天皇の行為は違憲であると主張し、天皇の御臨席を仰
いで行われる国会の開会式にいまだに出席していません。天皇の公的行為を憲法上明確
に規定することにより、こうした議論を結着させることになります。

(国事行為の基本に変更なし)
なお、6 条2 項では、天皇の国事行為について列記されていますが、規定を分かりや
すく若干整理したものの、基本は変えていません。

********************




2)さて、以下、問題と感じることを書きます。

問題点1 整理して書いたというが、整理されていなく、逆にわかりずらい。

問題点2 現行憲法3条の大事な条文「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。」が、条文から項に格下げされ、自民党案のこの6条4項に追いやられている。

問題点3 「進言」という言葉を持ち出しているが、現行憲法の「助言と承認」のままでよいのではないか。

問題点3 1項は、内閣と司法のことを、日本国憲法では2項に分けて書いていたものを一緒くたに書いている。これは、よろしくない。2項に分けて書くべき。

問題点4 衆議院の解散は、「内閣」ではなく、「内閣総理大臣」の「助言と承認」(自民党の言葉では、進言)でよいか。

問題点5 5項で、「天皇は、国又は地方自治体その他の公共団体が主催する式典への出席その他の公的な行為を行う。」と「公的な行為」の規定がなされている。
    議論が必要で、必要最小限の「公的行為」となるようにすべき。そのための手立てはあるのか。
    現行憲法では、国事行為を限定して書くことを目指していたのが、自民党案5条で、大事な「のみ」(現行憲法4条には入っていた)をとったことと相まって、天皇の「国事行為」や「公的行為」が安易に拡大される素地がつくられている。

cf.
自民党案5条
(天皇の権能)
第五条 天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。

現行憲法
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。





3)自民党改憲案は、天皇の国事行為を整理して書いたということだが、逆にわかりにくくされてしまったため、改めて整理します。

 日本国憲法では、天皇の国事行為を13明文規定(日本国憲法4条2項、6条1、2項、7条1号~10号)しています。これらは、すべて、内閣の助言と承認を必要とする行為です(現行憲法3条「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。」)

 それら規定の文言が、どのように自民党改憲案でなっているのか。



○4条2項
現行憲法:天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。

自民党案:天皇は、法律の定めるところにより、前二項の行為を委任することができる。(自民党改憲案では、6条3項)




○6条1項
現行憲法:天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。

自民党案:天皇は、国民のために、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて最高裁判所の長である裁判官を任命する。(自民党改憲案では、6条1項)

⇒自民党案では、内閣は内閣、司法は司法で条文をわけるべき。



○6条2項
現行憲法:天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

自民党案:天皇は、国民のために、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて最高裁判所の長である裁判官を任命する。(自民党改憲案では、6条1項)

⇒自民党案では、内閣は内閣、司法は司法で条文をわけるべき。


○7条1号~10号
現行憲法:天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

自民党案:天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う。

⇒自民党案では、「内閣の助言と承認により」が削られています。後の条項で補足するのではなく、柱書きに入れるべきだと思います。自民党案6条4項だけでは、わかりにくい。

現行憲法:
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。

自民党案:
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の国の公務員の任免を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 全権委任状並びに大使及び公使の信任状並びに批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行うこと。


以上

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憲法6条 自民党改憲案問題点:自民党改憲案6条1項で内閣と最高裁の規定を一緒くたになぜ?

2013-08-06 14:11:35 | 国政レベルでなすべきこと
 8月6日、一日一条の自民党改憲草案の問題点の分析。

 今日は、日本国憲法6条。1項2項があります。

 自民党改憲草案では、5つの項で構成される6条の第1項に、2項分をまとめて規定されました。


****************
日本国憲法
(天皇の任命権)
第六条 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
二項  天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

自民党改憲案
(天皇の国事行為等)
第六条 天皇は、国民のために、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて最高裁判所の長である裁判官を任命する。
****************

 現行日本国憲法6条は、天皇の二つの国事行為が規定されています。

 1項では、天皇が、内閣総理大臣を任命するが、その実質的決定権は、国会にあることを、

 2項では、天皇が、最高裁判所の長たる裁判官を任命するが、その実質的決定権は、内閣にあることを、

 それぞれ明らかにしています。

 内閣総理大臣任命、最高裁裁判所裁判長を任命するというそれぞれ大事な条文は、その重要性に鑑み、少なくとも別の項に分けて規定しておくべきと考えます。

 なぜ、内閣と裁判所という別のものを一緒くたにしたのか、理解に苦しみます。


 また、自民党改憲草案で、現行日本国憲法ではなかった「国民のために」という文章が入れられました。
 任命は、あくまで、形式的・儀礼的になされるものであり、主観的な目的や意図は入りようがない話です。
 主観的な意図ともとれる文章を、なぜ入れたのか疑問です。
 あたかも、天皇が、実質的決定権をもって、任命しているかのように誤解するひとがでないでしょうか?
 当たり前の語句、しかし、誤解を生み出す可能性のある語句は、入れるべきでないと考えます。

以上

 
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自民党改憲草案を一言一句、目を凝らして追うことの重要性

2013-08-05 15:58:55 | 国政レベルでなすべきこと

 自民党改憲草案を、一日一条、その問題点を指摘している途中です。

 以下、とてもわかりやすい編集を見つけました。

 自民党改憲草案は、一文一語、一言一句きちんと目を凝らして追わなければ、とても大事な文言が、化けていたり、落とされていたりします。



<文言が落ちている例>

(日本国憲法)                      (自民党改憲草案)
「天皇は憲法の定める国事に関する行為のみ行う」⇒「天皇は憲法の定める国事に関する行為を行う」

「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立」⇒「婚姻は両性の合意に基づいて成立」

「拷問は、絶対にこれを禁ずる」⇒  「拷問は、禁止する」


<文言が化けている例>

(日本国憲法)         (自民党改憲草案)

 象徴天皇      ⇒  元首天皇

 公共の福祉    ⇒  公益及び公の秩序

 改正発議要件 
   3分の2    ⇒  過半数

 戦争の放棄   ⇒  安全保障





 そのような見落としがないような手助けとなるテクストです。

 推薦します。


http://editorium.jp/blog/wp-content/uploads/2013/08/kenpo_jimin-souan.pdf

 

******以下、編集されたかたのご紹介文******
http://editorium.jp/blog/2013/08/04/kenpo_jimin-souan/


Wordの履歴機能で、自民党が変えた憲法を見てみる

by ayumu

現行憲法と自民党の憲法草案の違いは、自民党自身の草案PDFでも対照して表示されていて明確ではあるのですが、現行憲法のテキストと草案のテキストを並べて見比べないと、何を削って何を加えたのかがわかりません。

そこで、MS Wordの「校閲」機能の編集履歴保存と表示を使って、ひとつのテキストで変更箇所がわかるようにしてみました。

自民党による憲法の「変更履歴」 (PDF 約450KB)
自民党による憲法の「変更履歴」の一部

目視で比較しながら手入力していったので、間違いもあるかもしれません。もし間違いを見付けられましたら、PDFに記述したアドレスまでご連絡いただけるとありがたいです。

なおテキストが移動されている部分もいくつかあるのですが、移動部分の「削除」→「挿入」という形で表示されています。その点ご了承ください。

 *****引用終わり*****
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憲法5条 自民党改憲案問題点:自民党改憲案7条には、同6条3項も準用する規定を置くべきでは?

2013-08-05 13:44:02 | 国政レベルでなすべきこと

 8月5日は、憲法5条を見ます。

 現行憲法5条にあたると思われる自民党改憲草案の条文は、7条です。

 
*********************
日本国憲法
第五条  皇室典範 の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。

参照:
1)前条第一項
⇒第四条一項  天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。

*実質的に準用していると解される条文で、準用の明記がない条文
2)三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

3)四条二項 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。


自民党改憲案
(摂政)
第七条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名で、その国事に関する行為を行う。
第五条及び前条第四項の規定は、摂政について準用する。

参照:
1)第五条
⇒第五条 天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。

2)前条第四項
⇒第六条四項 
天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負う。ただし、衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による。

*準用規定をすべて明記するのであれば、明記すべきと私は考える条文
3)六条三項 天皇は、法律の定めるところにより、前二項の行為を委任することができる。

*********************

 

 憲法5条が、自民党改憲案でどのように変えられるのか。

 自民党改憲案では、3条の日の丸、君が代規定と4条の元号の規定の挿入に伴い、条ずれを起こし、なおかつ、この摂政に関する規定は、現行5条から7条へとうしろの方に行きました。
 また、また、準用する規定は、現行5条では、4条のみのところ、自民党改憲案では、現行憲法4条にあたる5条と、現行憲法3条にあたる6条4項(条文であったものが項のひとつに格下げされた大事な条文)が準用されています。



 現行憲法5条は、天皇が自ら国事行為を行い得ないような状態のときに、法廷代行機関として摂政を置くことを規定しています。
 どのような場合に置くかは、皇室典範16条に規定されています。

******皇室典範16条******
第十六条  天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。
○2  天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く。
******************

 摂政の順位は、皇室典範17条に規定されています。


******皇室典範17条******
第十七条  摂政は、左の順序により、成年に達した皇族が、これに就任する。
一  皇太子又は皇太孫
二  親王及び王
三  皇后
四  皇太后
五  太皇太后
六  内親王及び女王
○2  前項第二号の場合においては、皇位継承の順序に従い、同項第六号の場合においては、皇位継承の順序に準ずる。
******************


 現行憲法5条は、4条1項のみを準用していますが、4条2項及び3条も実質的に準用されていると解されます。
 そのことを自民党改憲草案では、明文で規定したため、準用条文が多くなっているのだと思います。
 しかし、だとするなら、現行憲法4条2項にあたる自民党改憲草案の6条3項も、準用することを明文規定すべきであろうと思います
 現行憲法で、書かれていないけど、実質的に準用してきた内容を、明文規定におこうとした努力は認めますが、不十分です。実質的なものも明文におくなら、すべて明文におくべきです。
 ただ、6条3項が現行憲法と大きく内容を異なるものにされているため、あえて準用から外したのかもしれません。


 明日とりあげる現行憲法6条に関わりますが、

現行憲法:四条二項 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。

自民党改憲草案:六条三項 天皇は、法律の定めるところにより、前二項の行為を委任することができる。

 自民党改憲草案では、委任できる国事行為が狭められています。


 なお、摂政を置くまでに至らない場合(例えば海外旅行や長期にわたる病気の場合)は、「国事行為の臨時代行に関する法律」により、臨時の代行が国事行為を行います(憲法4条2項⇒昨日8/4記載。)




(参考文献:『判例憲法 1』第一法規)


*****皇室典範 第三章摂政 第三章の全文抜粋**************
第三章 摂政

第十六条  天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。
○2  天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く。

第十七条  摂政は、左の順序により、成年に達した皇族が、これに就任する。
一  皇太子又は皇太孫
二  親王及び王
三  皇后
四  皇太后
五  太皇太后
六  内親王及び女王
○2  前項第二号の場合においては、皇位継承の順序に従い、同項第六号の場合においては、皇位継承の順序に準ずる。

第十八条  摂政又は摂政となる順位にあたる者に、精神若しくは身体の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、摂政又は摂政となる順序を変えることができる。

第十九条  摂政となる順位にあたる者が、成年に達しないため、又は前条の故障があるために、他の皇族が、摂政となつたときは、先順位にあたつていた皇族が、成年に達し、又は故障がなくなつたときでも、皇太子又は皇太孫に対する場合を除いては、摂政の任を譲ることがない。

第二十条  第十六条第二項の故障がなくなつたときは、皇室会議の議により、摂政を廃する。

第二十一条  摂政は、その在任中、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。


*************************************
 

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