人権を理解するために、基本的概念を整理しておきます。
芦部『憲法』の「五章 基本的人権の原理 三人権の内容1 自由権・参政権・社会権」です。
(かつてのブログ記載 http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/e150510278c454256e3f9090cd53fa1c)
**************************
Q君
自由権とは何ですか。
A先生
国家が個人の領域に対して権力的に介入することを排除して、個人の自由な意思決定と活動とを保障する権利です。
「国家からの自由」と言われます。
自由権は、三つに分類されます。
精神的自由 思想良心の自由・表現の自由・信教の自由・学問の自由
経済的自由 職業選択の自由・財産権
身体の自由 人身の自由・刑事手続の保障
Q君
精神的自由を、内面的と外面的の二つに分ける理由は何ですか。
A先生
外面とは他者に働きかける作用をもつという意味であり、内面とは、あくまでも個人の心の内部の問題であり、他者に対しては、少なくとも「自ら」働きかけることはありません。
内面的自由は、基本的に国家からの制約を受けないが、外面的な自由は国家から制約を受ける可能性があるから分けられます。
たとえば、憲法20条の信教の自由は、内面の信仰の自由と、外面の宗教活動の自由・宗教的な結社の自由を含みます。
カルト宗教の活動を見てもわかるように、外面的な自由としての宗教行為の全てが保障されるわけではありません。
なお、その他、精神的自由を、内面、外面でとらえてみると、
19条は、内面の自由のみ。
第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
20条は、信仰の自由は内面の自由。その他は、外面の自由。
第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
○2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
○3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
21条は、外面の自由のみ。
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
○2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
23条は、研究の自由は内面の自由。その他は外面の自由。
第二十三条 学問の自由は、これを保障する。
Q君
「参政権は、国家への自由とも言われ、自由権の確保に仕える。」とは、具体的にどういう意味ですか。
A先生
国民が政治に参加することによって、国政に民意が反映されると、国民の望まない立法、国民の権利を侵害する立法がなされる可能性が低い、ということです。
ただし、多数者の意思が反映されて、少数者の人権が保障されない可能性があります。
一方、国会で公開された論争がおこなわれる以上は、極端な人権侵害立法が生まれる可能性は低いとも言いうります。
端的に言うと、この文は、「自ら代表者を選んだ以上は、自分の首を絞める(自由を侵害する)立法を行う可能性は低い。」という意味であります。
Q君
社会権が保障される意義は何ですか?なぜ、生存権は保障されるのですか。
A先生
資本主義社会の弊害であるところの、失業・貧困・労働条件の悪化などの弊害から、社会的・経済的弱者を保護し、その個人の尊厳を保障すること。つまり、資本主義・自由競争社会のセイフティーネットの構築を国家に求めることにあります。
もう少し詳しく言うと、「憲法学1」に述べた人権保障の二つの意義がここでも当てはまります。
�各個人が経済的な側面で個人の尊厳を保つことができるようにすること、�能力があり発展可能性のある個人の能力を発揮させる土台作り(社会的な基盤の形成)をすること、の二つが社会権保障の意義であります。
�が重要であり、�は補充的な意義であります。
Q君 社会権では、「憲法の規定だけを根拠として権利の実現を裁判所に請求することのできる具体的な権利ではない。」とはどういう意味ですか。
A先生
例えば、生存権を例にとって述べます。
生活に困っている人が、裁判所に生活保護を求めても、裁判官が最低限度の生活の内容(実体要件)や支給条件(手続要件)を決定することは困難です。
あくまでも、生活保護法の決めた基準がないと、裁判による救済は難しいという意味であります。
つまり、「25条は、裁判所が依拠する規範とはなりえない。」という意味です。
25条は、生活保護法の制定を求める権利(抽象的権利)である。ということです。
****2 分類の相対性*****
Q君、 人権を分類するとどうなりますか。
A先生 以下、6つに分類できます。
包括的基本権(総則的規定)13条 幸福追求権
法の下の平等(総則的規定)14条 平等権
自由権 精神的自由 19条 20条 21条 23条
経済的自由 22条 29条
人身の自由 18条 31条以下
受益権 17条 32条 40条
参政権 15条(公務員の選定権・選挙権)・国民投票をする権利
社会権 25条 26条 27条 28条
Q君 「知る権利の自由権的性格と社会権的性格」を説明してください。
A先生
メディア(新聞等)を例にとって説明します。
メディアの知る権利は、自分の情報の獲得を国家から妨害されないという、自由権的側面を有します。
また、一方で、国家に対して情報公開を求めて(社会権・請求権的性格)いかないと、適正な取材を行って、政府の活動を監視するという重要な役割を担うことができなくなります。
Q君 「生存権の自由権的側面が侵害される場面」とは?
A先生
住民税の滞納者に対して、納税を促すために、水道などのライフラインの供給を市役所が停止する場合などがそれに該当します。健康で文化的な最低限度の生活が、ライフラインの停止によって、「自由に」営むことができなくなります。
あるいは、財政上の理由から、生活保護の支給額を大幅に切り下げることも、自由権的側面を侵害する可能性があります。
Q君「もっとも、社会権及び社会国家の思想を過大に評価すると、・・・・自由権の領域にまで国家が介入することを認める結果になるおそれが生じる。」とは、どういう意味ですか。
A先生
生活保護を例にとって考えてみます。
最低限度の経済生活を営むことができるように、生存権が保障され、生活保護の支給を受けることは、個人の尊厳を保障するという意味で十分に意味があります。
しかし、生活保護を受けることと引き換えに、生活全般が国家の管理のもとにおかれることになります。社会的に更生するために、各種の指導を受けざるを得ず、自由な生活がかなりの程度制約されることになるのです。これが、自由の領域にまで国家が介入することなのである。
また、充実した福祉社会を実現するためには、増税が必要になる。そうすると、消費など自由な経済活動が、その分、阻害されることになる。この意味でも、社会権・社会国家の強調は、国家の介入を招くということが説明できます。
社会権の拡大は、自由権の後退という側面があることを理解することがとても大切です。
******3 制度的保障********
Q君 制度的保障とは?
A先生
具体例(~の自由を保障するための・・・・)としてあげます。
信教の自由を保障するための政教分離原則(判例の見解~ただし芦部説は否定的)
学問の自由を保障するための大学の自治
経済的自由を保障するための私有財産制
Q君 制度的保障は何のために存在するのですか。
A先生
ある自由を保障するために、立法によってもその核心ないし本質的内容を侵害することができない特別な保護を与えるために存在します。
簡単にいうと、制度的保障とは、ある自由を保障するために、当該人権の侵害をブロックしてくれると期待される制度を保障することを指します。
学問の自治と大学の自治の関係が分かりやすい例です。かつては、学問の中心は大学であったので、自由な研究活動を保障するためには、人事その他を含めて、大学への国家権力の介入を排除することが必要でありました。
Q君
法律の留保とは何ですか。
A先生
法律の範囲内で、人権が保障されるという形の、人権保障のあり方です。
例えば、「表現の自由が、法律の範囲内で保障される」という規定が存在するとすれば、法律によって、表現の自由を大幅に制限することも可能ということになります(マイナスの側面)。
しかし、法律によらないかぎり自由が制限されない(勅令や政府の命令では制限できない)という意味もあります(プラスの側面)。
また、法律を制定する国会が、公正な選挙で選出された議員から構成され、メディアも正常に機能しているとすれば、権利を不当に制約する法律は制定されない、はずであると期待されます。
Q君
法律の留保と制度的保障はどのような関係にあるのですか。
A先生
制度的保障は、法律の留保に対抗する法理論です。
法律の留保の下では、法律によって人権が大幅に侵害される可能性がありますが、制度的保障があると、人権の核心部分の侵害が防止できます。
Q君 「制度が人権に優越し、人権保障を弱める機能を営む可能性すらある」とはどのような場合でしょうか。
A先生
政教分離を例にとると、政教分離原則の内容が不明確であったり、政教分離が十分に行われないものであったりする場合、国家の宗教への関わりを抑止することができず、そのために、(社会の少数派の)信教の自由が制約される可能性があるということです。
「仏作って魂入れず」という諺は、仏(この場合は仏像のこと)を大事にするばかりで、大事な魂(信心のこと)の方がおろそかになる傾向にあるという意味であるが、制度的保障も、仏としての「制度」だけを作って、魂であるところの「自由」が保障されないということになりがちなのです。
なお、テキストP87*を読むと、芦部説では、政教分離原則を制度的保障とすることに消極的であります。芦部憲法学�でも、制度的保障の議論は日本では不要としています。
以上
芦部『憲法』の「五章 基本的人権の原理 三人権の内容1 自由権・参政権・社会権」です。
(かつてのブログ記載 http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/e150510278c454256e3f9090cd53fa1c)
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Q君
自由権とは何ですか。
A先生
国家が個人の領域に対して権力的に介入することを排除して、個人の自由な意思決定と活動とを保障する権利です。
「国家からの自由」と言われます。
自由権は、三つに分類されます。
精神的自由 思想良心の自由・表現の自由・信教の自由・学問の自由
経済的自由 職業選択の自由・財産権
身体の自由 人身の自由・刑事手続の保障
Q君
精神的自由を、内面的と外面的の二つに分ける理由は何ですか。
A先生
外面とは他者に働きかける作用をもつという意味であり、内面とは、あくまでも個人の心の内部の問題であり、他者に対しては、少なくとも「自ら」働きかけることはありません。
内面的自由は、基本的に国家からの制約を受けないが、外面的な自由は国家から制約を受ける可能性があるから分けられます。
たとえば、憲法20条の信教の自由は、内面の信仰の自由と、外面の宗教活動の自由・宗教的な結社の自由を含みます。
カルト宗教の活動を見てもわかるように、外面的な自由としての宗教行為の全てが保障されるわけではありません。
なお、その他、精神的自由を、内面、外面でとらえてみると、
19条は、内面の自由のみ。
第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
20条は、信仰の自由は内面の自由。その他は、外面の自由。
第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
○2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
○3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
21条は、外面の自由のみ。
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
○2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
23条は、研究の自由は内面の自由。その他は外面の自由。
第二十三条 学問の自由は、これを保障する。
Q君
「参政権は、国家への自由とも言われ、自由権の確保に仕える。」とは、具体的にどういう意味ですか。
A先生
国民が政治に参加することによって、国政に民意が反映されると、国民の望まない立法、国民の権利を侵害する立法がなされる可能性が低い、ということです。
ただし、多数者の意思が反映されて、少数者の人権が保障されない可能性があります。
一方、国会で公開された論争がおこなわれる以上は、極端な人権侵害立法が生まれる可能性は低いとも言いうります。
端的に言うと、この文は、「自ら代表者を選んだ以上は、自分の首を絞める(自由を侵害する)立法を行う可能性は低い。」という意味であります。
Q君
社会権が保障される意義は何ですか?なぜ、生存権は保障されるのですか。
A先生
資本主義社会の弊害であるところの、失業・貧困・労働条件の悪化などの弊害から、社会的・経済的弱者を保護し、その個人の尊厳を保障すること。つまり、資本主義・自由競争社会のセイフティーネットの構築を国家に求めることにあります。
もう少し詳しく言うと、「憲法学1」に述べた人権保障の二つの意義がここでも当てはまります。
�各個人が経済的な側面で個人の尊厳を保つことができるようにすること、�能力があり発展可能性のある個人の能力を発揮させる土台作り(社会的な基盤の形成)をすること、の二つが社会権保障の意義であります。
�が重要であり、�は補充的な意義であります。
Q君 社会権では、「憲法の規定だけを根拠として権利の実現を裁判所に請求することのできる具体的な権利ではない。」とはどういう意味ですか。
A先生
例えば、生存権を例にとって述べます。
生活に困っている人が、裁判所に生活保護を求めても、裁判官が最低限度の生活の内容(実体要件)や支給条件(手続要件)を決定することは困難です。
あくまでも、生活保護法の決めた基準がないと、裁判による救済は難しいという意味であります。
つまり、「25条は、裁判所が依拠する規範とはなりえない。」という意味です。
25条は、生活保護法の制定を求める権利(抽象的権利)である。ということです。
****2 分類の相対性*****
Q君、 人権を分類するとどうなりますか。
A先生 以下、6つに分類できます。
包括的基本権(総則的規定)13条 幸福追求権
法の下の平等(総則的規定)14条 平等権
自由権 精神的自由 19条 20条 21条 23条
経済的自由 22条 29条
人身の自由 18条 31条以下
受益権 17条 32条 40条
参政権 15条(公務員の選定権・選挙権)・国民投票をする権利
社会権 25条 26条 27条 28条
Q君 「知る権利の自由権的性格と社会権的性格」を説明してください。
A先生
メディア(新聞等)を例にとって説明します。
メディアの知る権利は、自分の情報の獲得を国家から妨害されないという、自由権的側面を有します。
また、一方で、国家に対して情報公開を求めて(社会権・請求権的性格)いかないと、適正な取材を行って、政府の活動を監視するという重要な役割を担うことができなくなります。
Q君 「生存権の自由権的側面が侵害される場面」とは?
A先生
住民税の滞納者に対して、納税を促すために、水道などのライフラインの供給を市役所が停止する場合などがそれに該当します。健康で文化的な最低限度の生活が、ライフラインの停止によって、「自由に」営むことができなくなります。
あるいは、財政上の理由から、生活保護の支給額を大幅に切り下げることも、自由権的側面を侵害する可能性があります。
Q君「もっとも、社会権及び社会国家の思想を過大に評価すると、・・・・自由権の領域にまで国家が介入することを認める結果になるおそれが生じる。」とは、どういう意味ですか。
A先生
生活保護を例にとって考えてみます。
最低限度の経済生活を営むことができるように、生存権が保障され、生活保護の支給を受けることは、個人の尊厳を保障するという意味で十分に意味があります。
しかし、生活保護を受けることと引き換えに、生活全般が国家の管理のもとにおかれることになります。社会的に更生するために、各種の指導を受けざるを得ず、自由な生活がかなりの程度制約されることになるのです。これが、自由の領域にまで国家が介入することなのである。
また、充実した福祉社会を実現するためには、増税が必要になる。そうすると、消費など自由な経済活動が、その分、阻害されることになる。この意味でも、社会権・社会国家の強調は、国家の介入を招くということが説明できます。
社会権の拡大は、自由権の後退という側面があることを理解することがとても大切です。
******3 制度的保障********
Q君 制度的保障とは?
A先生
具体例(~の自由を保障するための・・・・)としてあげます。
信教の自由を保障するための政教分離原則(判例の見解~ただし芦部説は否定的)
学問の自由を保障するための大学の自治
経済的自由を保障するための私有財産制
Q君 制度的保障は何のために存在するのですか。
A先生
ある自由を保障するために、立法によってもその核心ないし本質的内容を侵害することができない特別な保護を与えるために存在します。
簡単にいうと、制度的保障とは、ある自由を保障するために、当該人権の侵害をブロックしてくれると期待される制度を保障することを指します。
学問の自治と大学の自治の関係が分かりやすい例です。かつては、学問の中心は大学であったので、自由な研究活動を保障するためには、人事その他を含めて、大学への国家権力の介入を排除することが必要でありました。
Q君
法律の留保とは何ですか。
A先生
法律の範囲内で、人権が保障されるという形の、人権保障のあり方です。
例えば、「表現の自由が、法律の範囲内で保障される」という規定が存在するとすれば、法律によって、表現の自由を大幅に制限することも可能ということになります(マイナスの側面)。
しかし、法律によらないかぎり自由が制限されない(勅令や政府の命令では制限できない)という意味もあります(プラスの側面)。
また、法律を制定する国会が、公正な選挙で選出された議員から構成され、メディアも正常に機能しているとすれば、権利を不当に制約する法律は制定されない、はずであると期待されます。
Q君
法律の留保と制度的保障はどのような関係にあるのですか。
A先生
制度的保障は、法律の留保に対抗する法理論です。
法律の留保の下では、法律によって人権が大幅に侵害される可能性がありますが、制度的保障があると、人権の核心部分の侵害が防止できます。
Q君 「制度が人権に優越し、人権保障を弱める機能を営む可能性すらある」とはどのような場合でしょうか。
A先生
政教分離を例にとると、政教分離原則の内容が不明確であったり、政教分離が十分に行われないものであったりする場合、国家の宗教への関わりを抑止することができず、そのために、(社会の少数派の)信教の自由が制約される可能性があるということです。
「仏作って魂入れず」という諺は、仏(この場合は仏像のこと)を大事にするばかりで、大事な魂(信心のこと)の方がおろそかになる傾向にあるという意味であるが、制度的保障も、仏としての「制度」だけを作って、魂であるところの「自由」が保障されないということになりがちなのです。
なお、テキストP87*を読むと、芦部説では、政教分離原則を制度的保障とすることに消極的であります。芦部憲法学�でも、制度的保障の議論は日本では不要としています。
以上
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