ジョルジュの窓

乳がんのこと、食べること、生きること、死ぬこと、
大切なこと、くだらないこと、
いろんなことについて、考えたい。

古い家

2006-06-27 | 考えたこと
私が生まれた家は、もう、ない。

茅葺きで 夏は本当に涼しかった。

大きな石の上に柱がのっかっていて
家全体が傾いでいて、

国道をダンプカーが走ったり 地震があったりすると
よく揺れた。

小さい頃には 手先の器用な父が
大工道具を手に なんでも直してくれていたが

なにしろ真っ直ぐに立っている柱が一本もないような家なので

ある程度のところであきらめて
手を入れなくなった。

飛び地が売れて頭金ができたときに
借金で庫裏(住職とその家族が住まう建物)を建て、

茅葺きの家は つぶしてしまった。

私には 思い出深い 愛する生家だったが
何しろ 
建てて100年、移築して100年、
合わせて200年という古さで
どうしようもなかった。



亭主の実家も古い。

100年は経っているかと思う。

いや、もっとかもしれない。

天井や鴨居は真っ黒で
墨でも塗ったかのようだ。

この家の屋根も茅葺きなのだそうだが
その上にトタンを張ってある。

そして 私の生家に比べれば可愛いものだが
やはり柱は傾いでいる。

部屋は田の字に配され、
仕切りは隙間だらけのふすま。

その家の縁側は
すべて義父母がきれいに張りなおしてある。

いや、もちろん、張りなおしたのは、大工さん。

雨戸があったであろう場所は
すべてサッシになっている。

私の実家と違って
現金収入のあった亭主の実家は(ウラヤマシイ)
それなりに家にもお金を使ってある。



義父母が公務員を退職する前に
建て増しした部分がある。

凝った造りの 押入れ・床の間付きの8畳の部屋と
ダイニング・キッチンと風呂・トイレ・洗面所。

私たちが結婚する頃には
まだ新しくてキレイで立派に見えた。

結婚する年の正月に
母と二人で 新年の挨拶に行った時
(父はすでに脳梗塞で倒れた後だった)
(実はこの時に追突されてムチウチになった)、

とても立派な座敷に通された、と感じたっけ。



この家が、古びてしまい、
どうにも寒い。

いや、増築部分はまあなんとか いいのだが、
そこは今は寝室として使っているので

仕事やら 来客への対応やら 何やら、
生活全般は 古くて寒い部分になる。

一人暮らしは 特に寒いに違いない。

義父は この冬、
足のしもやけがひどかった。

亭主が義弟と
「あのしもやけはひどい。」

「あの家は 寒い。

 なんであんなに寒いんだろう。

 こっちより気温は高いはずなのに。」

などとしゃべっていた。

部屋を暖めるのが もったいない、
と言う気持ちも義父にはあったのかもしれない。

心配した息子たちが
電話で、あるいは直接に
部屋を暖かくするように、
家の中では たとえ畳の上でもスリッパを履くように、
と言ったに違いない。



義母の急を聞いて駆けつけた古い家で 義父は 
畳の上では 軽いスポンジのようなスリッパを履いていた。

廊下やキッチンでは いつものスリッパを履くので
廊下から畳の部屋へ上がるときには
スポンジスリッパ。

部屋の向こう側へ行くと
スポンジスリッパをぬいで、
廊下用のスリッパ。

マメなひとだ。マネできない。



義父は
懸命にストーブをたき、
エアコンやファンヒーターを総動員して 
家中を暖かくしてくれた。

ストーブに灯油を入れるだけでも
重労働なのだが。

それから、
ストーブの上には 必ずやかんが乗っている。

空気の乾燥を避けるためでもあるだろう。

いったいいくつのやかんがあるのか?

今度行ったら数えてみよう。

いや、もう
ストーブごと片付けられているかもしれない。

私は怖いな、と思いながら
気をつけて 水のなくなったやかんに
水を補充したり料理に使ったりしたが
二箇所やけどをした。

術側の腕だったけれど
幸い たいしたことはなかった。



その たくさんのやかんのうち、
沸いているお湯を料理に使う可能性のあるものは
台所の水道の蛇口ではなく、
庭の井戸水のでる蛇口のところまで行って
雨に濡れながら汲んでくる。

いつか 義母が滑って転んで骨折した辺り、
坂になっていて滑るので
(庭に平坦な場所がない、車庫の中だけ。)
雨が降ると これも怖い。

雨が降ったり止んだりしながらも
本降りにならなくてよかった。



それから、もうひとつ
どうしようもないことがあった。

玄関から座敷に上がるのに、
とんでもない高さがあるのだ。

「どっこらしょ。」

「よっこいしょ。」

みな口々に掛け声をかけて上がる。

上がりかまちというものがないのか、この家は!

義父が丈夫なわけが わかったような気がした。



おっと、もうひとつ。

小柄な義母にあわせて作られたキッチンの
調理台やシンクには、高さがない。

かがんで仕事をするので、
私にはテキメン。

すぐに腰が痛くなる。

特にお米を研いだりしたら、もう。

義母が亡くなって
亭主の実家にたどり着いたら、
とにかく すぐに腰が痛くなった。

そんな私のポーズを見て
亭主は気が付いたらしく、
「大丈夫か。」
と声をかけてくれる。

大丈夫じゃないけど、
台所に立つとこうなる、どうしようもない。



家は古くても、
台所だけは新しいのがいいなあ。