創業明治元年(1869)という名古屋きっての老舗、伏見の「東鮓本店」。ひと昔前は古体な店構えだったらしいが、通りに面している店舗は鮨屋とは思えない、なんともエキセントリックな建物になっている。屋根にはオブジェ(?)ののったこの変わった建物は調べてみてもあまり取り上げらておらず、設計が誰とかはよく分からなかった。こちらの鮨は昔、地下街にある店で食べたことがあるはずだが、本店に入るのは初めて。老舗ではあれど、自分の中ではファミリー向け安価路線のイメージを引きずってしまっていた。食品サンプルの並んだショーウインドーを眺めながら明るい店に入ると、意外にも(失礼)ほぼ満員の盛況。年輩の方や地元の家族連れが多く、しっかり根付いているのだろう。
こちらの江戸前握りは食品サンプルやメニューの写真などを見ても何となく想像がつく感じだが、目当てだったのは、名古屋の鮨としてもはや忘れ去られようとしている”切り寿司”。押し寿司だが、関西のものが伝わったのか、それとも名古屋独自のものなのかどうかは知らないのだが、甘めの寿司飯に穴子や角麩などがのり、しっかり甘いツメ(テリ)が塗られているものだ。幼少の頃は地下街のショーウインドーで食品サンプルのその姿を見たし、まだ何軒か名物として供している店があるので食べてみたが、もう絶滅危惧の品目と言っていいんじゃないだろうか。入れ込みの大テーブルに座り、品書きから「切りすし取り合わせ」を注文する。
こちらは漬け場はどこにあるかも分からず、全て厨房内で調理するよう。しばらくして「切りすし」が運ばれた。穴子4つに、しば漬け4つという取り合わせ。全部穴子だと甘過ぎて辛いのでなかなかいい取り合わせ。穴子をつまんでみるが、ツメ(テリ)はしっかりと甘く、少し酸味も感じられて独特。他の店では真っ黒に近い濃い色の事が多いツメも、こちらの店では淡い色。次にしば漬けをいただくと口の中がいい案配に。しっかりと押してあるように見えてあまり硬くはなく、食べ易い。正直、食品サンプルやメニューの商業写真ではあまり旨そうに見えないこちらの寿司だが、しっかりと伝統の味は継承されているようす。次は握りもたべてみようかナ。中庭や古く風情のある別間もあり、たぶん昭和28年の建築というのはこの裏の日本建築を指すのだろう。格式の高さを残す老舗ではあるが、この夏を以って取り壊し、ビルを建てるらしい。建物や庭を含めた歴史こそ、この店が誇れるアイデンティティーだと思うのだが…。建物の維持って難しいナ。(勘定は¥930)
※平成28年8月を以って建て替えの為閉店しています
※新築なったビルに入店していましたが令和4年9月30日を以って閉店されました
↓ 本町通の中日病院の近くにある古色蒼然としたビル「坂文種報徳会ビル」(昭和6年・1931・建造)。このビルだけ荒れかたが酷いので将来的にリノヴェーションは望み薄だろうか。
↓ 伏見にある「伏見地下街(長者町地下街)」の入口。昭和32年(1957)の開業で、当時は繊維問屋ばかりの出店だったそうだ。2013年のアートイベントから何だかガンダム的なデザイン塗装が施され、地下の通りにもトリックアートが描かれたりしている。このところ面白そうな飲食店が相次いで開業している。
東鮓本店 広小路本店
愛知県名古屋市中区栄1-5-21
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