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品質保証再考第16回

2010年03月19日 | Weblog
研究開発

 品質保証プロセスの2番目に来るのが、この研究開発である。まさに品質保証や品質管理の領分からは遠く外れた、別領域の話に思えるけれど、『研究開発により、適切に製品化を図り、それを商品として市場に投入し、顧客に価値をもたらすことが研究開発の目的であるが、それを確実に実現するためには品質保証の考え方が導入されなければならない』とガイドブックは述べている。

 すなわち、研究開発にあっても、そのプロセスの管理が重要であり、テーマの選定、研究開発の進捗管理、成果の確定、成果の事業化、商品化へのフォローアップなど「研究開発の評価」が品質保証や品質管理の考え方に重なるからである。その具体的な評価の方法について、ガイドブックは次のように述べている。

 『チェックリスト法や評価基準に沿って主観的な評価を行う、「決定論的評価方法」。研究開発の投入費用と成果との対比を求めるなど、経済的効果を算出する評価手法である、「経済論的保評価方法」。シュミュレーション、関連樹木法などOR*8)手法により、研究開発活動で発生する諸事象を数学的モデルに表現し、将来を予測し、研究開発の評価を行う方法である、「OR的評価法」。これらの手法は単一で使用されるのではなく、目的に合わせて複数を組み合わせ、使用される、「複合的評価法」』である。

 『研究で生まれた科学技術の知識を生かして新製品開発から商品化にいたるプロセスは、研究(基礎研究、応用研究)⇒開発⇒設計⇒製造⇒販売⇒サービス、というリニアモデルとして説明されている。しかし、このモデルに沿って研究開発や製品化を進めても、途中で挫折するケースが少なくない。・・・研究から開発の間、開発から製品化・事業化の間には、必ずしも順調に乗り越えることができないボトルネックがあることが米国で指摘され、これは「死の谷」と呼ばれた。このような死の谷をいかに克服するかが研究開発のマネジメントとして求められ、そのために「ステージゲート管理*9」」というコンセプトがR.クーパーにより開発され、普及した。・・・』

 研究開発マネジメントでは、その予算管理も重要と思われる。工場などの原価管理に比べて、研究者のコスト面の意識は甘く、それに対する管理も放任状態であったりする。企業が多様で専門性の高い人材を外部に求めた場合、その管理をさらに難しくする。研究にはお金がかかるとの先入観で無駄な出費がされるとすれば、研究以前の問題である。

 ある時期から、人材の市場化、流動化が強調され、一定のスキルを持った技術者の大手企業の渡りが、バブルの時期とも重なって肯定された。GEのウェルチ氏の活発なM&Aによる成功や、彼の人材活用思想が90年代以降日本の経営者に安易な模倣となって影響を与えた。勿論技術者にとっても相性の悪い企業で定年まで暮らす必要はなく、新たな機会を求めることは当然であり、企業側の外部人材導入による刺激や多様性の追求も結構であるけれど、研究のプロセスの管理と共に、コアとなる技術者人材はやはり自社で育てる気概が企業には求められる。


*8)オペレーションズ・リサーチ(operations research、米)、ORは、数学的・統計的モデル、アルゴリズムの利用などによって、さまざまな計画に際して最も効率的になるよう決定する科学的技法。複雑なシステムの分析などにおける意思決定を支援し、また意思決定の根拠を他人に説明するためのツールである。                                  *9)研究開発の一連のプロセスをいくつかのステージに分割し、各ステージで行うべき活動を明確にするとともに、ステージ間にゲート(チェックポント)を設定して、必要な条件や品質保証を満たさないと次のステージに進むことができない。                                 *
本稿は (社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック”を参考にその一部を引用(『 』内)しています。
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