柔道と私(2)
結局白帯のまま、夏休み瀬戸内海の小島にある他校の分校での合宿に参加した。白帯同士後輩の1年生と炊事番をやった。屈辱の日々にさえ思えた。秋の新人戦にも選手の候補にさえなれず、同期の仲間の試合を柔道場の外から見学した。そして三度目の昇段試験に臨んだ。その頃、偶然に覚えた内股が懸かるようになっていた。大腰といって腰を深く入れて投げる技から変化して、腰を入れたところで、足を相手の股間に跳ね上げると技の効果が倍増することを発見していた。これが自分流の「内股」になった。
初段の昇段試験も3人戦って2勝が合格ライン*1)。昇級試験のような積み上げはない。その日も1人と引き分け1勝1分け。3人目が勝負だった。ここで得意の内股が出た。勝負を終えて道場の脇に下がって座ったけれど、止め処なく流れる涙と汗を柔道着の袖で幾たびも拭った。ようやく憧れの黒帯になれるのである。ところがである、審判の先生からまた指名があった。再び対戦が組まれたのである。冗談ではない。もう一度試合して負けでもしたら、初段が吹っ飛ぶかもしれない。ここは抗議した。「もう3回試合しました」。ご年配の審判先生は自分の非を咎められたとでも思ったか、猛然と怒った。結局試合はやらされたのだが、これも簡単に勝った。やはり合格する時には、ちゃんと実力が備わっているのである。
高校のクラブ活動では、6月の総合体育大会が終わると3年生はほとんど練習に来なくなる。けれど私の同期は10人くらいが卒業年の1月まで後輩の練習に付き合った。県警機動隊の4段の先輩が指導に来てくれており、夜遅くまで後輩に付き合ったものだ。我々が練習に参加し続けた効果で1年後輩は、春の県スポーツ祭で準優勝に輝いた。物事にはターニングポントがある。それまで県大会の1回戦ボーイの柔道部が、その後ベスト4くらいまでの常連になったようである。
同期の仲間は自身2段の昇段試験を受ける目標もあったけれど、兎に角みな柔道が好きだった。工業高校では当時夏休み前に就職は決まる。進学のための勉強はなかった。そして目ぼしい仲間は2段になったのだけれど、また私は取り残された。
*1)初二段では、実技試合の合格者に投げの形(手技、腰技、足技)の試験が課せられる。試合に勝つだけでは昇段できるわけではないが、形はほとんどの者が合格するし、仮に不合格でも来月「形」だけ再チャレンジできた。三段では、投げの形の真捨て身技、横捨て身技が加わる。
1級までは地元県レベルの柔道協会が免状を交付するが、初段以上はすべて講道館から允許される。
結局白帯のまま、夏休み瀬戸内海の小島にある他校の分校での合宿に参加した。白帯同士後輩の1年生と炊事番をやった。屈辱の日々にさえ思えた。秋の新人戦にも選手の候補にさえなれず、同期の仲間の試合を柔道場の外から見学した。そして三度目の昇段試験に臨んだ。その頃、偶然に覚えた内股が懸かるようになっていた。大腰といって腰を深く入れて投げる技から変化して、腰を入れたところで、足を相手の股間に跳ね上げると技の効果が倍増することを発見していた。これが自分流の「内股」になった。
初段の昇段試験も3人戦って2勝が合格ライン*1)。昇級試験のような積み上げはない。その日も1人と引き分け1勝1分け。3人目が勝負だった。ここで得意の内股が出た。勝負を終えて道場の脇に下がって座ったけれど、止め処なく流れる涙と汗を柔道着の袖で幾たびも拭った。ようやく憧れの黒帯になれるのである。ところがである、審判の先生からまた指名があった。再び対戦が組まれたのである。冗談ではない。もう一度試合して負けでもしたら、初段が吹っ飛ぶかもしれない。ここは抗議した。「もう3回試合しました」。ご年配の審判先生は自分の非を咎められたとでも思ったか、猛然と怒った。結局試合はやらされたのだが、これも簡単に勝った。やはり合格する時には、ちゃんと実力が備わっているのである。
高校のクラブ活動では、6月の総合体育大会が終わると3年生はほとんど練習に来なくなる。けれど私の同期は10人くらいが卒業年の1月まで後輩の練習に付き合った。県警機動隊の4段の先輩が指導に来てくれており、夜遅くまで後輩に付き合ったものだ。我々が練習に参加し続けた効果で1年後輩は、春の県スポーツ祭で準優勝に輝いた。物事にはターニングポントがある。それまで県大会の1回戦ボーイの柔道部が、その後ベスト4くらいまでの常連になったようである。
同期の仲間は自身2段の昇段試験を受ける目標もあったけれど、兎に角みな柔道が好きだった。工業高校では当時夏休み前に就職は決まる。進学のための勉強はなかった。そして目ぼしい仲間は2段になったのだけれど、また私は取り残された。
*1)初二段では、実技試合の合格者に投げの形(手技、腰技、足技)の試験が課せられる。試合に勝つだけでは昇段できるわけではないが、形はほとんどの者が合格するし、仮に不合格でも来月「形」だけ再チャレンジできた。三段では、投げの形の真捨て身技、横捨て身技が加わる。
1級までは地元県レベルの柔道協会が免状を交付するが、初段以上はすべて講道館から允許される。