短編を読む その39

「橋」(カフカ)
「カフカ短篇集」(岩波書店 1987)

《私は橋だった。》という、橋の1人称による超短編。山奥にかけられた橋のもとに、念願の旅人がやってくる。なんとなくユーモラス。

「判決」(カフカ)
同上

ペテルブルグで商売をしている友人に、婚約したことを知らせる手紙を書いたゲオルグ・ベンデマン。手紙のことを父につたえると、おまえにはペテルブルグに友人などいないと父はいいだす。ゲオルグは友人のことを説明するのだが、父はだんだん激高してくる。カフカの短編は中盤からダイナミックに様相を変える。

「丘の上の音楽」(サキ)
「クローヴィス物語」(白水社 2015)

夫とともに田舎に移住したシルヴィア。林のなかにパン神のブロンズ像があり、台座に葡萄が置かれている。もったいないと、シルヴィアが葡萄をもち去りかけたところ、ふいにこちらをにらんでいる若い男があらわれる。この話を夫にすると、夫はシルヴィアに忠告する。おれが君なら森や果樹園には近づかないし、農場では角のある動物からはなるべく遠ざかるようにするね。ホラー風味の一編。

「乳搾り場への道」(サキ)
同上

遺産が転がりこんだ伯母を発見した3人の姪。この伯母には、3人の姪たちとは血のつながらない甥がいた。甥は金づかいが荒く、大の賭博好き。こんな甥に金をやるのは無駄だと、姪たちは説得するのだが、伯母は聞く耳をもたない。ならいっそ、賭けごとに夢中になっている甥の姿をみせようと、3人の姪は伯母を連れてフランスにおもむく。

「運命の猟犬」(サキ)
同上

進退きわまったマーティンが雨宿りの場所をもとめて農家を訪ねたところ、老人から〈トムの旦那〉としてもてなされる。4年前、なにごとかのためにトムの旦那はこの家を去ったらしい。マーティンは老人の勘ちがいを正さず、この家に居座るのだが、じきトムの旦那が近隣の恨みを買っていたことを知る。

「パリの小事件」(ロレンス・ダレル)
「逃げるが勝ち」(晶文社 1980)

外交官アントロバス氏が滑稽なエピソードを語るというシリーズの一編。ウッドハウスが書くマリナー氏ものの外交官版といったところ。休暇でパリにでかけたアントロバス氏だったが、ちょうど連休中でみな出払っている。同僚から、パリで医学を学んでいる甥の様子をみてきてくれと頼まれていたので、その甥オトゥールを訪ねると、オトゥールはカネに困っており、いささか錯乱気味。家賃を払っていないため、今夜ミリアムが差し押さえられるという。ミリアムというのはガイコツで、オトゥールの叔母。彼女は一族の名誉のために、自分のからだを提供したのだった。こうしてアントロバス氏は、オトゥールとミリアムの逃避行につきあわされるはめになる。

「鎌倉幕府のビッグウェンズデー」(久保田二郎)
「鎌倉幕府のビッグウェンズデー」(角川書店 1986)

ハワイで、近代サーフィンの祖デューク・カハナモクの足跡を追った〈僕〉。生前のまま残されたデュークの部屋を訪れた〈僕〉は、机の引き出しから不思議な巻物をみつける。その巻物には、「於栗船山常楽寺」と記されていた。帰国後、大船の常楽寺を訪れた〈僕〉は、古文書のなかから、デュークのもとにあったものと同じ巻物をみつける。それは、蒙古襲来の当時、波乗りに夢中になっていた3人の若者が書いた巻物だった。

「ネコとヴァイオリンひき」(ロイド・アリグザンダー)
「猫ねこネコの物語」(評論社 1988)

ネコにまつわる8つの物語をおさめた児童書のうちの1編。ある晩、貧乏なヴァイオリンひきニコラスの家の戸をたたく者がある。みればネコで、食べ物や暖炉をすすめると、ネコは丁重に断る。「わたしがここへ来たのはそんなことではありません」。週に一度のネコの舞踏会にヴァイオリンをお願いできないか、とネコ。ニコラスは豪華な四輪馬車に乗せられて会場へ。楽しい舞踏会で、来週もヴァイオリンをひくことをニコラスは約束する。ネコのお礼は、素晴らしい音がでるヴァイオリンの弦。この弦を張ったヴァイオリンを街頭でひいていると、「園遊会のためのセレナーデをつくってくれ」と、商人のストックが仕事を頼んでくる。しかし来週はネコの舞踏会なので園遊会にはいけないと、ニコラスは断る。ちなみにネコの名前はスターンブラウエ男爵。最後、物語は王女様との求婚話になる。

「チョスキー・ボトム騒動」(R・A・ラファティ)
「とうもろこし倉の幽霊」(早川書房 2022)

チョスキー川窪(ボトム)にいた”ねじれ足”、別名”せっかちのっそり”のチョーキーは、チョスキー・ボトムに住むロンダおばさんの指導を得て高校に編入。フットボールの選手として活躍するが、クウォーターバックのマルコムの恨みを買う。1年ほど高校生活を送ったあと、チョーキーはチョスキー・ボトムに帰る。すると、その後ボトムでは、犬がバラバラにされたり、ヤギが引き裂かれたりといった凄惨な事件が頻発するようになる。編訳者あとがきによれば、《学園青春怪奇譚(!)》

「ムツェンスク郡のマクベス夫人」(レスコーフ)
「真珠の首飾り」(岩波書店 1951)

これは中編。ある商家に嫁いで5年ほどたったものの、子どもがなく退屈しきっていたカテリーナ・リヴォーヴナ。主人が家を留守にしているあいだ、若くて美男の使用人セルゲイと通ずるが、そのことが舅のボーリス・チモフェーイチに露見。ボーリスはセルゲイを石倉に入れムチ打ちにし、カテリーナはセルゲイを許してやってくれと舅に懇願する。その後のカテリーナのおこないの数かずは、凶悪なボヴァリー夫人といったところ。


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