男子厨房学入門

「男子厨房学入門」(玉村豊男 文芸春秋 1985)。

文春文庫の一冊。

なにかしようと思うと、まず本をあさるのがクセになってしまった。
情報を得たいのか、本を読む機会を増やしたいのか、われながら判然としない。
病コウコウだ。

「料理をしよう」と思ったとき、思い出したのがこの本。
なぜか以前から手元にはあった。
読んでみたら、超初心者むけで自分にぴったり。
その、ていねいにわかりやすく書かれた文章には、感動をおぼえるほど。

まず最初はフレンチ・トーストのつくりかた。
フライパンにバターをひくことが、こう書かれる。

「バターが少しジュクジュクと溶けはじめたら、フライパンの把手をもって前後左右に傾け、回すようにする。溶けはじめたバターの塊はみずからの溶液の上を滑って前後左右に移動する。」

「みずからの溶液の上を滑って…」のところが、たまらなくいい。

フレンチ・トーストはフランス語では、「失われたパン(パン・ペルデュ)」というそう。
古くなったパンの再生法だったとのこと。
余談だけれど、タナカ家では「ふわふわパン」と呼んでいる。

さて、「ふわふわパン」のつぎは手だけでできる料理。
そのあと、手だけでは不便だね、ということになって包丁が登場。

「料理のなかでいちばん簡単なものは刺身である」

と、著者は断言してしまう。

「日本料理の板前さんは怒り出すにちがいないが、われわれ日常生活者にとっては、ナマのものをそのまま食べることができるという火を使わない料理は、どう考えたっていちばん手のかからない料理だ。」

じつに健全な考え方だ。

このあと、話は鍋物から味噌汁をへて、「昆布とカツオブシ」と「醤油とみりん」の組み合わせへ。
この組み合わせこそ、日本料理の大部分を占める味つけ。
吸物、おでん、スキヤキ、天つゆ、煮魚…。
みんなそう。

「たいがいの日本料理がこの組み合わせのお世話になっている様子は、まったく驚くべきものである。」

超初心者むけの本というのは、ぎりぎりまで根源的に考えた本だというのが、よくわかる一冊。

これを書くために再読していたら、まだつくってない料理がいくつもあった。
ためしてみないと。

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