百まいのドレス

「百まいのドレス」(エレナー・エスティス 岩波書店 2006)

絵はルイス・スロボドキン。
訳は石井桃子。

児童書。
絵と物語がじつによくあっている。
もとは、「百まいのきもの」というタイトルで1954年に出版された本。
それを、改題改訳したのが本書。

よく思うのだけれど、なにか面白い本を読みたいと思ったら、児童文学の古典を読むのがいちばん確実だと思う。
児童書の世界には、傑作か駄作か2種類しかない。
そして、駄作は淘汰されるから、傑作しか残らない。
自分とは趣味があわないなと思う本はあるかもしれないけれど、読んで失望することはまずない。
この本も児童文学の古典。
やはりとても面白かった。

さて、ストーリー。
話は、ワンダ・ペトロンスキーが教室にいないということからはじまる。
ワンダはとてもおとなしく、めったに口もきかない女の子。

ワンダはクラスの女の子から、からかいの対象にされている。
きっかけは、ワンダが「ドレスを百まいもってる」といったため。
いつもおなじ服を着ているワンダが、ドレスを百まいもっているはずがない。
女の子たちは、毎日ワンダに「ドレスを何まいもっているの?」と訊き、ワンダはかたくなに「百まい」といいはる。

ワンダをからかうのに参加しているマデラインは、ほんとうはそんなことをしたくない。
でも、このドレスごっこを考えだした、いちばんの仲良しのペギーにつきあっている。

クライマックスは中盤に用意されている。
とても鮮やか。

後半は、ワンダをからかっていたマデラインの心情に焦点があてられる。
自責にかられるマデラインの心情を、子どもらしさを失わずに書く作者の筆はじつにみごと。
マデラインはいままでこれほど一生懸命に考えたことはないというほど考える。

そして、ラストにもうひとつ、小さなクライマックスが。
この本は、地味なクリスマスストーリーでもあるから、いまの季節にあっているかも。

巻末には訳者あとがき。
岩波少年文庫が創刊されたのは1950年。
1953年、それよりもっと年少むけの、「岩波の子どもの本」シリーズをスタートさせることに。
ところが戦後のことなので、訳すにしても本がない。
しかし、写真やバレエの評論家、光吉夏弥さんは、ヨーロッパやアメリカ人の家族が日本を引き上げていくときに残していった子どもの本を見逃さずに収集していた。
「百まいのきもの」も、光吉夏弥さんの蔵書にあった本のひとつだという。

この美しい訳者あとがきは、こんなふうにしめくくられている。
「新しく生まれ変わった『百まいのドレス』を、もうじき百歳の私から、若いみなさんに手渡すことができることを心からうれしく思っています」

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