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短編を読む その32

「おしまい」(フレドリック・ブラウン)
「未来世界から来た男」(東京創元社 1992)

わずか8行の超短編。反重力ならぬ、反時間装置というべき機械を発明した教授。機械のボタンを押すと、時間が逆にうごいていく。

「ダン・オダズムを殺した男」(ダシール・ハメット)
「ハメット短編全集 2」(東京創元社 1992)

ダン・オダズムを殺した男が留置所から逃亡。馬を盗み、ひとを避けて荒野をゆき、男の子とその母親が暮らす一軒家に侵入。男は母親から食べ物をもらい、傷の手当をしてもらうのだが。西部小説風の作品。男が留置所から逃げ出す手口は、ウッディ・アレンの映画「泥棒野郎」でもつかわれていたように思う。またラストは、マイクル・ギルバートの「どこかで聞いた名前」と同じだ。

「やとわれ探偵」(ダシール・ハメット)
同上

コンチネンタル・オプ物の一編。ホテルの衣装戸棚から3つの死体が転がりでてくる。手がかりはほとんどない。オプは事件当時ホテルにいた宿泊客を調査する。

「一時間」(ダシール・ハメット)
同上

盗まれた車が、ひとをひき殺すのにつかわれた。依頼を受けたオプは、殺された男が経営する印刷所を訪ねる。職員と話しているうちに、雲ゆきが怪しくなり、オプは格闘をするはめに。タイトルは、依頼を受けてから解決までの時間のこと。

「世界一強い男」(マルセロ・ビルマヘール)
「見知らぬ友」(福音館書店 2021)

アルゼンチンの作家による児童書の短篇集のうちの1編。いつも丸刈りにしていた小学生の〈ぼく〉。丸刈りならもうつきあわないと、〈ぼく〉はタマラにいわれてしまう。そんな〈ぼく〉に、床屋のおやじは、サムソンとデリラの話をする。本書には人情ショートショートとでもいうべき作品が収録されており、児童書だけれど大人が読んでも面白い。

「立ち入り禁止」(マルセロ・ビルマヘール)
同上

フォークランド紛争のとき、〈ぼく〉の友人ラファエルの兄であるルカスは兵隊にとられた。駐車場の夜景をしていた友人の父親は、昼間眠れなくなりクビに。両親は部屋に引きこもり、その部屋は立ち入り禁止になってしまう。

「地球のかたわれ」(マルセロ・ビルマヘール)
同上

書きものが好きな12歳の〈ぼく〉。書いたものは教室の床板の下に隠しておいた。が、それを学友のサルガドにみつけられ、サルガドは自分が書いたといって皆の賞賛を得る。さらに書きものを女の子に贈り、2人はつきあいはじめてしまう。

「アラバスターの壺」(ルゴーネス)
「アラバスターの壺/女王の瞳」(光文社 2020)

エジプトの古代魔術にかんする対話集会を予定しているスコットランド人技師から、話を聞くことになった〈わたし〉。ツタンカーメン王の地下墳墓発掘に参加した技師は、石棺が安置された部屋の入口に置かれたアラバスターの壺に気づく。この小さな壺には、死の芳香が封じこめられていた。

「女王の瞳」(ルゴーネス)
同上

「アラバスターの壺」の続編。アラバスターの小壺に封じこめられた、死の芳香と同じ香りを放つエジプト人女性シャイト。彼女に魅入られたスコットランド技師は亡くなってしまう。その葬儀に出席した〈わたし〉は、シャイトの後見人と名乗る男から、彼女についての神秘的な話を聞く。

「円の発見」(ルゴーネス)
同上

いつもチョークをもち歩き、描いた円のなかに身を置かなければ落ち着かない、精神を病んだ幾何学者。精神病院にやってきた新任の医者により、病院のあちこちに描いた円が消されたところ、幾何学者はこと切れてしまう。しかし、病院ではどこからか幾何学者の声が聞こえてくる。


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短編を読む その32

「ブラック乳母」(マイクル・M・ハードウィック)
「恐怖通信」(河出書房新社 1985)

田舎の屋敷に引っ越したチャップマン一家。その屋敷には幽霊がいて、家族や召使いのあいだに、次第に恐怖がひろがっていく。一体なにが原因で幽霊があらわれるのかわからない、といったたぐいのゴースト・ストーリー。

「銭形平次ロンドン捕物帳」(北杜夫)
「大日本帝国スーパーマン」(新潮社 1987)

ホームズに呼ばれ、ロンドンにやってきた銭形平次が、姿を隠せる隠れマントをつかった盗難事件を解決する。平次の口調はこんな風。「ところでホームズさん、何でまたこのあっしを、遠きも遠きイギリスくんだりまで呼び寄せなさったので。日本はまだ鎖国中なもんで、外国船に乗って沖に出るまでヒヤヒヤの連続でしたぜ」 また平次は、いざというとき「親分、てえへんだ、てえへんだ」と叫ぶようにホームズに頼んだりする。

「呂栄の壺」(久夫十蘭)
「湖畔・ハムレット」(講談社 2005)

慶長16年、島津義弘の命でルソンまで茶壷をさがしにいくはめになった吉之亟の冒険。けっきょく徒労に終わるのは、いかにも十蘭作品らしい。

「刺客」(久夫十蘭)
「黒い手帳」(光文社 2022)

書簡体小説。精神医学を学ぶ学生が、秘書という名目で暮らすことになった家には、ハムレットを演じている最中に事故にあい、以後、自分をハムレットと思いこんで暮らしている男がいた。しかし、男はとっくに正気をとりもどしているのではないか。十蘭の名作「ハムレット」の原型作。「ハムレット」のラストは、舞台が戦時中でないとつかえない。戦前に書かれた「刺客」は、それとは別の、1人称を利用したラストを用いている。作品の凝縮度という点では、「ハムレット」のほうがはるかに上だ。

「黒い蜘蛛」(ゴットヘルフ)
「怪奇幻想の文学6」(新人物往来社 1977)

スイスの作家による中編。祖父が、孫の洗礼式の日にあつまったお客に、家の柱に古く汚い木がつかわれている、その由来を語る。枠物語の形式をとっており、冒頭の洗礼式の描写が長ながしい。祖父が語る物語は、悪魔との契約譚。これが途方もない迫力。大長編といういいかたがあるなら、この作品は、その比類ない迫力も含めて大中編とでも呼びたい気がする。でも、クリスティーナは少々かわいそうだ。この作品は岩波文庫では一冊で出版されている。

「手と魂」(ダンテ・ガブリエル・ロセッティ)
同上

不遜な性格から、ある程度の名声を得たのにもかかわらず、納得できる仕事を残すことができない画家のキアロ。そんなキアロのもとに、突然天使めいた若い女性があらわれる。芸術家小説。

「道」(シーベリイ・クイン)
同上

これは中編。ローマ時代、北欧人の剣闘士エクラウスは、ヘロデ王の軍に追われる子連れの夫婦を助ける。その後、イエスが十字架にかけられる現場に立ちあい、妻を得、ローマ帝国の滅亡を目にし、十字軍に参加。ラプランドで気のいい妖精たちに出会い、幼子に贈り物をすることに。サンタクロースの縁起譚。

「N」(アーサー・マッケン)
同上

ロンドンの片隅に、キャノン公園という、だれも知らない美しい場所があるらしい。そのことについて語り合う3人の老人たち。また、ある牧師が書いた、グランヴィル氏という人物が美しい景色をみせてくれたという本の記述。さらに、老人3人組のひとりによる実地探索により、キャノン公園には昔、精神病院があり、一時期そこを脱走した病人がいたという。これらの話が混然となり、ある雰囲気をかもしだす。

「幸運の25セント金貨」(スティーブン・キング)
「幸運の25セント硬貨」(新潮社 2004)

客が残していった――客にいわせると幸運の――25セント硬貨のチップ。メイドがあきれながらも、ホテル備えつけのスロットマシンで、その25セント硬貨をつかってみると、なんと大当たり。得た金で、メイドは帰り道にカジノに寄り――。

「こだまが丘」(フレドリック・ブラウン)
「未来世界から来た男」(東京創元社 1992)

なぜか発言が本当になる力を得た男。くたばりやがれというと、相手が本当に死んでしまう。この力をつかって世界を支配するため、男は山にこもり計画を練る。が、そこで致命的なミスをおかしてしまう。


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短編を読む その31

「ブグリマ市の司令官」(ヤロスラフ・ハシェク)
「不埒な人たち」(平凡社 2020)

革命軍事評議会により、〈わたし〉はブグリマ市の司令官に任命される。ブグリマ市がどこにあるのかもわからなければ、味方が市を確保しているのかも怪しい。旅費や生活費も支給されず、市に到着した〈わたし〉は、まず税金の取り立てを命ずる。これもまた作者の実体験をもとにしたというエピソード集。だれが敵でだれが味方なのか、さっぱりわからない。こんなときでもハシェクの筆致は悲壮感がみられない。

「犯行現場にて」(レオ・ブルース)
「レオ・ブルース短編全集」(扶桑社 2022)

自分で犯罪をおかしたくなった警部。ある事務員2人が銀行から全従業員の給料をタクシーではこぶという話を耳にした警部は、下調べを開始。いまはタクシーの運転手をしている前科者をパートナーとし、犯罪を実行にうつす機会をうかがう。

「逆向きの殺人」(レオ・ブルース)
同上

召使いの老人が亡くなったことに疑念をいだいた警部。しかし医師の診断ではまったく問題がない。3年後、今度は雇い主である老人が亡くなったが、こちらも不審なところは見当たらない。にもかかわらず、警部は老人の息子を逮捕する。

「跡形もなく」(レオ・ブルース)
同上

莫大な資産をもつ姉が失踪したと、その弟がグリーブ巡査部長に訴える。姉の面倒をみるために、弟は屋敷の一翼を空けたのだったが、引っ越してきた姉は、運転してきた車ごといなくなってしまった。本書に収められた「休暇中の仕事」と同様のアイデア。

「インヴァネスのケープ」(レオ・ブルース)
同上

ビーフ巡査部長の回顧譚。裕福な老姉妹のうち、姉のほうが殺害される。目撃した妹によれば、殺したのは同居している甥だとのこと。犯行時、甥は鳥打帽にインヴァネスのケープを着ていたというのだが、当の甥は、ケープは使用人に預け、つくろってもらっていたと話す。

「手紙」(レオ・ブルース)
同上

うっかりものの妻の過失を利用して、彼女を殺害した夫。すべてがうまくいったと思ったが、妻の不注意が原因で犯行があばかれる。

「幽霊」(オーガスト・ダーレス)
「恐怖通信」(河出書房新社 1985)

殺された女性が幽霊となり、殺した男にとりつく――と思ったら。1人称をうまくつかった作品。

「ヴェルサイユの幽霊」(フランク・アッシャー)
同上

ヴェルサイユ宮殿に観光にでかけた2人の英国人女性が、マリー・アントワネットなど、当時のひとたちの幽霊と出会う。ゴーチエの「ポンペイ夜話」のよう。

「愛しのサタデー」(マデリーン・レングル)
同上

夏、マラリアにかかった〈ぼく〉は、ある廃屋に入りこむ。そこは昔、南北戦争で戦死した大佐と、そのあとを追うように命を絶った妻が住んでいた屋敷だった。廃屋には魔女と少女がおり、魔女にマラリアを治してもらった〈ぼく〉は、彼女たちと親しくなる。

「悪魔の手下」(マレイ・ラインスター)
同上

知りあいの女性が魔法をかけられたことに責任を感じたジョーは、元魔女のばあさんの助けを借りて、魔法をかけた男を打ち倒しにいく。ジョーは、昔の少年マンガの主人公のように元気がいい。


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短編を読む その30

「紳士のみなさん、陛下に乾杯」(ラニアン)
「ブロードウェイの天使」(新潮社 1984)

ヨーロッパのどこかの国の王様を片づけるという仕事を引きうけた悪党たち。頼んできたのは、国の政党の親玉である伯爵。ヨーロッパに渡り、王宮に入った悪党たちは、そこで予想外のものを目にする。

「プリンセス・オハラ」(ラニアン)
同上

4輪馬車の御者をしていた父の跡を継いだプリンセス・オハラ。ところが、馬が倒れて商売ができなくなってしまう。同情した悪党たちは、競馬場の厩舎にいた馬を無断で借りだし、プリンセス・オハラに提供。おかげで商売は再開し、さらにプリンセス・オハラは乗せたお客と恋に落ちる。

「ブロードウェイの出来事」(ラニアン)
同上

みんなでそれぞれ自分の夫を殺し、保険金を積み立てて各自でつかえるようにしたら、さぞ便利だろうと、ブリッジ仲間の夫人にそそのかされた有閑夫人。良心がとがめて実行を控えたものの、皮肉なことに夫が頓死。ブリッジ仲間の夫人から、保険金を積み立てるように脅かされるのだが、その苦境を、ミステリ趣味のある劇評家アンブロース・ハマーが解決する。

「マダム・ラ・ギンプ」(ラニアン)
同上

昔、美女だったマダム・ラ・ギンプには、赤ん坊の頃、スペインの姪のところにやった娘がいた。その娘が、貴族の息子と結婚することになり、世界一周旅行の途中、マダムに会いにくることに。アメリカで最高に金持ちで家柄のいい夫と再婚したと、嘘の手紙を書いていたマダムは、悪党たちの手を借りて、マンションの部屋を都合し、金持ちそうにみえる亭主をこしらえ、スペインからの一行を出迎える。

「ブッチの子守歌」(ラニアン)
同上

金庫破りがいなくて困っていた悪党3人組は、腕の立つブッチのことを思いだす。会いにいってみると、ブッチは赤ん坊と一緒に外で涼んでいるところ。3度刑務所に入っているブッチは、4度目は終身刑になってしまうと、悪党たちの申し出を断る。それに、なにより子守りがある。なら、赤ん坊も一緒に連れていけばいいと、悪党たちに口説かれて、ブッチは赤ん坊を連れて金庫破りにでかけていく。

「死者の靴」(マイケル・イネス)
「アプルビイの事件簿」(東京創元社 1978)

これは中編。片方が茶色で、もう片方が黒の靴をはいた男が車内にいたと、乗り合わせた列車で若い女性から聞かされた青年。列車の出発地で、同じく茶色と黒の靴をはいた身元不明の死体が発見されたことから、青年は列車での出来事を警察に知らせにいく。

「足の裏」(夏樹静子)
「新世界傑作推理12選」(光文社 1982)

信用金庫に強盗が入り現金が奪われる。使用された1万円から、当地の輪光寺で庶務課長をしている男が容疑者として浮かび上がる。が、大人しい男で、事件を起こしたとは到底思えない。警察は根気よく内偵を続ける。

「証言」(松本清張)
同上

別宅に愛人を住まわせた男。帰りに、たまたま近所の住人と会い、うっかり会釈をしてしまう。その後、この近所の住人が殺人事件の容疑者になるのだが、男は住人と会ったことを、かたくなに否定する。

「ちいさなミーラとの会話」(ヤロスラフ・ハシェク)
「不埒な人たち」(平凡社 2020)

4才の甥と散歩にでかけたおじさん。甥はなにかにつけて「なぜ」と訊いてくる。たまりかねたおじさんは、とんでもない手段に訴える。――拘置所に入れられたおじさんの告白という形式。ユーモアスケッチ大全に入れられそうな話だ。

「古い菜種店の話」(ヤロスラフ・ハシェク)
同上

菜種店の見習いとなった〈わたし〉による、いくつかのエピソードをあつめた中編。ボーイ・ミーツ・職場小説とでもいおうか。作者の実体験をもとにしているらしく、ボスと、その恐るべき夫人と、舅と、先輩店員たちの行状について書かれている。


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短編を読む その29

「シュレミールがワルシャワへ行った話」(I・B・シンガー)
「まぬけなワルシャワ旅行」(岩波書店 2000)

ヘルムの村からワルシャワめざして歩きはじめた、まぬけのシュレミール。途中、ひと眠りして歩きだし、ヘルムの村にもどってしまう。けれど、ここは別の村だと思いこみ、もとの家族を別の家族と思いながら一緒に暮らす。

「衣装」(ルース・レンデル)
「夜汽車はバビロンへ」(扶桑社 2000)

服を買うのがやめられない女性。夫に露見するのを恐れながら、サイズも確かめず、女性は服を買ってしまう。

「名もなき墓」(ジョージ・C・チェスブロ)
同上

地下鉄の駅で中国人女性の出産を手伝った、元CIA諜報員の画家ヴェイル。女性を密入国させ、売春させている中国人結社に単身乗りこむ。スーパーヒーロー的探偵小説。

「無宿鳥」(ジョン・ハーヴェイ)
同上

訪問した家の夫に殴られている修道女を助けた、出所したばかりの泥棒。友人の警察官にこの件をつたえた泥棒は、ある絵を所蔵している屋敷に侵入する。絵が好きで、バードウォッチングが趣味という泥棒を主人公にした作品。短編だが多視点で、それが話をうまくふくらませている。

「完璧なアリバイ」(パトリシア・マガー)
「新世界傑作推理12選」(光文社 1982)

結婚生活が破綻している男。愛人がいるが、それとは別の若い女性に夢中になり、妻を殺そうとする。殺し屋を雇い、アリバイづくりのため愛人とレストランにいくのだが、すべてが裏目にでてしまう。

「朝飯前の仕事」(ビル・ブロンジーニ)
同上

お屋敷での結婚披露宴のあいだ、プレゼントを置いてある部屋の見張りに雇われた探偵。窓を割る音とともに、何者かが部屋から指輪を盗みだす。状況からみて、外部からの侵入とは思えず、疑いは探偵に向けられるのだが。名なしの探偵(オプ)シリーズの一編。

「ディナーは三人、それとも四人で」(L・P・ハートリー)
「ディナーで殺人を 上」(東京創元社 1998)

ヴェニスにいる2人組の英国人が、食事の約束をしているイタリア人と落ちあうためゴンドラででかけていくが、途中で水死体を拾ってしまう。2人の英国人の会話で話が進む、ユーモラスな怪談。

「三つの詠唱ミサ」(アルフォンス・ドーデー)
同上

17世紀のクリスマスイヴ。クリスマスのごちそうに心を奪われた城の礼拝堂付き司祭は、第1第2のミサを大急ぎですませ、第3のミサはついに省いてしまう。そのため神から罰を受ける。

「しっぺがえし」(パトリシア・ハイスミス)
同上

妻が愛人と共謀し、事故を装ってめでたく夫を殺害。が、その後、愛人との仲がこじれて…と、ひねりの効いた展開が続く。さすがパトリシア・ハイスミスだ。

「いともありふれた殺人」(P・D・ジェイムズ)
同上

人妻と青年の密会をたまたま目撃した男。ある日、人妻が殺害され、青年に容疑がかかる。容疑を晴らせるのは男だけなのだが――。


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短編を読む その28

「ルークラフト氏の事件」(W・ベサントとJ・ライス)
「ディナーで殺人を 上」(東京創元社 1998)

これは中編。「笑いを売った少年」という児童書があるけれど、本作は「食欲を売った青年」といった風。ある老人に食欲を売る契約をした青年。すると自分では飲み食いをしていないのに、腹ははちきれんばかりになり、たいそう酔っ払う始末。味覚を失い、自分のからだを維持するためだけに細ぼそと食べ物をとり、あとは老人の暴飲暴食のために心身を痛めつけられる。ストーリーに意外性はないけれど、古風な文章が楽しい。この作品が読めただけでも、この本を読んでよかった。

「港の死」(E・D・ホック)
「こちら殺人課」(講談社 1981)

ひとりヨットに乗っていた医師が、何者かに拳銃で撃たれ殺害される。一週間後、こんどは漁船にひとりで乗っていた漁師が、同じ拳銃で殺害。レオポルド警部は、スキューバ・ダイビングに詳しい部下に調査を命じる。本書はレオポルド警部ものをあつめた作品集。それにしてもレオポルド警部はひどい目にあってばかりで気の毒だ。

「錆びた薔薇」(E・D・ホック)
同上

3年前に殺された作家の娘が、ある記者から、自分は作家を殺した犯人を知っているという手紙を受けとる。が、その記者は何者かに殺害されてしまう。犯人は作家の娘なのか。娘に好意をもつレオポルド警部は苦悩する。

「ヴェルマが消えた」(E・D・ホック)
同上

ヴェルマという少女が、観覧車に乗ったきり姿を消すという事件が発生。観覧車のかごが地上にもどってきたときには、ヴェルマはいなくなっていた。レオポルド警部は、ヴェルマのボーイフレンドや、ヴェルマの友人だったボーイフレンドの妹、また観覧車の係員に聞きこみを開始する。

「月曜日に来たふしぎな子」(ジェイムズ・リーブズ)
「月曜日に来たふしぎな子」(岩波書店 2003)

ある嵐の晩、パン屋一家のもとに女の子が転がりこんでくる。マンデーと名乗るその子は、親もなければ家もない。仕方なくパン屋一家が引きとるのだが、マンデーは学校へもいかず、面倒ばかり引き起こす。

「おばあさんと四つの音」(ジェイムズ・リーブズ)
同上

小さな家でひとり暮らしをしているおばあさん。ドアはキイキイと鳴り、床板はキュッキュッといい、窓はゴトゴトと音を立て、ネズミはトコトコと歩いていく。隣りの親切な大工さんが、これらの音が立たないように直してくれるというのだが、音がなくなることを思うとさみしい。すると、ある晩、音の妖精たちがおばあさんの前にあらわれる。

「水兵ランビローとブリタニア」(ジェイムズ・リーブズ)
同上

びんの中の船に乗っている、水兵の人形ランビロー。ある日、びんの船が女の子に買われ、ランビローはお屋敷にいくことに。じき、同じ店で売られていたスノードームに住むブリタニアもお屋敷にやってくる。たがいに惹かれあうものの、人形のことなので、2人はなかなか近づけない。

「エルフィンストーンの石工」(ジェイムズ・リーブズ)
同上

大工とおにろく風のお話。腕はいいものの、さぼりぐせのあるマーティン。あと6週間で、教会の塔の胸壁と、ガーゴイルを40体つくらなければならない。マーティンの趣味は密猟で、ある日ウサギとまちがえてエルフを捕まえる。エルフは、マーティンの仕事を手伝おうともちかけるが、代わりにマーティンは娘をやらなくてはいけない。ただ、おれの名前をいい当てたら、娘をよこさなくてもいいし、生きているおれを2度とみることはないだろう。

「フ―の花瓶」(ジェイムズ・リーブズ)
同上

昔、東方のチェン国にまだ音楽がなく、ただ花瓶の横腹を小さな槌でたたいてだす音だけだった頃。やきもの師のフーは、王女さまからごほうびがいただけるような花瓶をつくろうと努力するのだが、審査ではいつも笑いものになるばかり。3回応募しても駄目だったので、ついにフーは投獄されてしまう。

「雪女」(岡本綺堂)
「鷲」(光文社 1990)

奉天に近い、芹菜堡子(ぎんさいほし)という寒村で怪異に出会ったひとが、それを作者に語ったという体裁の短編。そのひとは吹雪の夜、この寒村の一軒に泊めてもらえることになったのだが、家の者はなにかにおびえている。というのも、昔、清の太祖が瀋陽(しんよう)――いまの奉天に都を建てた頃のこと。太祖の寵を得ていた姜氏という女性が妬まれ、太祖の近臣と不義をはたらいていると訴えられて、2人は渾河(こんが)に投げこまれてしまった。それ以来、大雪の降る夜には美女があらわれ、出会う者は命をなくすという。


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短編を読む その27

「シュレミールがワルシャワへ行った話」(I・B・シンガー)
「まぬけなワルシャワ旅行」(岩波書店 2000)

ヘルムの村からワルシャワめざして歩きはじめた、まぬけのシュレミール。途中、ひと眠りして歩きだし、ヘルムの村にもどってきてしまうのだが、ここは別の村だと思いこむ。そして、もとの家族を別の家族と思いながら一緒に暮らす。

「衣装」(ルース・レンデル)
「夜汽車はバビロンへ」(扶桑社 2000)

服を買うのがやめられない女性。夫に露見するのを恐れながら、サイズも確かめず、女性は服を買ってしまう。

「名もなき墓」(ジョージ・C・チェスブロ)
同上

地下鉄の駅で中国人女性の出産を手伝った、元CIA諜報員の画家ヴェイル。女性を密入国させ、売春させている中国人結社に単身乗りこむ。スーパーヒーロー的探偵小説。

「無宿鳥」(ジョン・ハーヴェイ)
同上

訪問した家の夫に殴られている修道女を助けた、出所したばかりの泥棒。友人の警察官にこの件をつたえた泥棒は、ある絵を所蔵している屋敷に侵入する。絵が好きで、バードウォッチングが趣味という泥棒を主人公にした作品。短編だが多視点で、それが話をうまくふくらませている。

「完璧なアリバイ」(パトリシア・マガー)
「新世界傑作推理12選」(光文社 1982)

結婚生活が破綻している男。愛人がいるが、それとは別の若い女性に夢中になり、妻を殺そうとする。殺し屋を雇い、アリバイづくりのため愛人とレストランにいくのだが、すべてが裏目にでてしまう。

「朝飯前の仕事」(ビル・ブロンジーニ)
同上

お屋敷での結婚披露宴のあいだ、プレゼントを置いてある部屋の見張りに雇われた探偵。窓を割る音とともに、何者かが部屋から指輪を盗みだす。状況からみて、外部からの侵入とは思えず、疑いは探偵に向けられるのだが。名なしの探偵(オプ)シリーズの一編。

「ディナーは三人、それとも四人で」(L・P・ハートリー)
「ディナーで殺人を 上」(東京創元社 1998)

ヴェニスにいる2人組の英国人が、食事の約束をしているイタリア人と落ちあうためゴンドラででかけていくが、途中で水死体を拾ってしまう。2人の英国人の会話で話が進む、ユーモラスな怪談。

「三つの詠唱ミサ」(アルフォンス・ドーデー)
同上

17世紀のクリスマスイヴ。城の礼拝堂付き司祭が、クリスマスのごちそうに心を奪われ、第1第2のミサを大急ぎですませ、第3のミサはついにはしょってしまったために、神から罰を受ける。

「しっぺがえし」(パトリシア・ハイスミス)
同上

妻が愛人と共謀し、事故を装ってめでたく夫を殺害。が、その後、愛人との仲がこじれて…と、ひねりの効いた展開が続く。さすがパトリシア・ハイスミスだ。

「いともありふれた殺人」(P・D・ジェイムズ)
同上

人妻と青年の密会をたまたま目撃した男。ある日、人妻が殺害され、青年に容疑がかかる。容疑を晴らせるのは、目撃した男だけなのだが――。


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短編を読む その26

「おい、しゃべらない気か!」(デイモン・ラニアン)
「ディナーで殺人を 上」(東京創元社 1998)

殺人事件好きの劇評家が、ある殺人現場にいたオウムを手に入れ、なにかしゃべらないかと見張ることにする。どこにでも連れていくので周りは閉口し、つきあっていた女性は、元の彼氏のところに逆もどり。劇評家からオウムの見張りを頼まれた〈おれ〉は、うっかりオウムを逃がしてしまい、小鳥屋で別のオウムを仕入れてくる。

「ドゥブローフスキー」(プーシキン)
「スペードの女王」(新潮社 1981)

これは中編。隣家に土地を奪われたドゥブローフスキーは、盗賊団の首領となり、近辺を荒らしまわるが、隣家の娘に恋をしてしまう。

「やきもち娘」(フィリップ)
「朝のコント」(岩波書店 1979)

母がきれいな恰好をして、ひとりででかけていくのに耐えられない16歳の娘。母が帰ってくると、母のことをすみずみまで点検する。

「来訪者」(フィリップ)
同上

老夫婦の家に2人組の強盗が押し入る。強盗におどされるまま、寝室のタンスにしまってあるお金を差しだし、ほかにも隠していた金をとられてしまう。

「人殺し」(フィリップ)
同上

寄宿舎学校の小間使いアンリ・ルロワの頭に、神父を殺害し金を奪うという、よからぬ考えが宿る。その考えをアンリはどうしても振り払えない。

「チエンヌ」(フィリップ)
同上

来年で100歳になるチエンヌじいさん。自分の部屋にいるのがいやで、苦労して階下に降り、住まいの門前にみこしを据える。世話をするのは60歳になろうとする娘。ご近所もよく気をつかってくれ、なんとか100歳を迎えられたらいいと思っている。

「純情なひとたち」(フィリップ)
同上

夫と隣家の妻が駆け落ちした。残された妻と、隣家の夫はなぜこんなことになったのだろうとなぐさめあう。それにしてもフィリップが扱う登場人物は、若い娘から100歳の年寄りまでと幅が広い。、ある状況に置かれた多彩な人物たちは、フィリップの筆により、それぞれその心情をあらわにする。O・ヘンリのような、ストーリーの意外な展開というものはないけれど、最後まで緊張感をよくたもって見事のひとことだ。

「キャビア」(T・コラゲッサン・ボイル)
「血の雨」(東京創元社 2000)

ハドソン川の漁師である〈おれ〉。子どもができないため代理母を雇うが、じきこの代理母と関係をもってしまう。

「とことんまで」(T・コラゲッサン・ボイル)
同上

世界が終ると信じ、家族ともども辺境に引っ越してきた男。この地で世界の終わりをやり過ごすつもりだったが、隣りに暴力的な男が引っ越してくる。

「外套Ⅱ」(T・コラゲッサン・ボイル)
同上

ゴーゴリの「外套」のリメイク。ストーリーは踏襲しているが、舞台がフルシチョフ時代のソ連となっている。


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短編を読む その26

「おい、しゃべらない気か!」(デイモン・ラニアン)
「ディナーで殺人を 上」(東京創元社 1998)

殺人事件好きの劇評家が、ある殺人現場にいたオウムを手に入れ、なにかしゃべらないかと見張ることにする。どこにでも連れていくので周りは閉口し、つきあっていた女性は、元の彼氏のところに逆もどり。劇評家からオウムの見張りを頼まれた〈おれ〉は、うっかりオウムを逃がしてしまい、小鳥屋で別のオウムを仕入れてくる。

「ドゥブローフスキー」(プーシキン)
「スペードの女王」(新潮社 1981)

これは中編。隣家に土地を奪われたドゥブローフスキーは、盗賊団の首領となり、近辺を荒らしまわるが、隣家の娘に恋をしてしまう。

「やきもち娘」(フィリップ)
「朝のコント」(岩波書店 1979)

母がきれいな恰好をして、ひとりででかけていくのに耐えられない16歳の娘。母が帰ってくると、母のことをすみずみまで点検する。

「来訪者」(フィリップ)
同上

老夫婦の家に2人組の強盗が押し入る。強盗におどされるまま、寝室のタンスにしまってあるお金を差しだし、ほかにも隠していた金をとられてしまう。

「人殺し」(フィリップ)
同上

寄宿舎学校の小間使いアンリ・ルロワの頭に、神父を殺害し金を奪うという、よからぬ考えが宿る。その考えをアンリはどうしても振り払えない。

「チエンヌ」(フィリップ)
同上

来年で100歳になるチエンヌじいさん。自分の部屋にいるのがいやで、苦労して階下に降り、住まいの門前にみこしを据える。世話をするのは60歳になろうとする娘。ご近所もよく気をつかってくれ、なんとか100歳を迎えられたらいいと思っている。

「純情なひとたち」(フィリップ)
同上

夫と隣家の妻が駆け落ちした。残された妻と、隣家の夫はなぜこんなことになったのだろうとなぐさめあう。それにしてもフィリップが扱う登場人物は、若い娘から100歳の年寄りまでと幅が広い。、ある状況に置かれた多彩な人物たちは、フィリップの筆により、それぞれその心情をあらわにする。O・ヘンリのような、ストーリーの意外な展開というものはないけれど、最後まで緊張感をよくたもって見事のひとことだ。

「キャビア」(T・コラゲッサン・ボイル)
「血の雨」(東京創元社 2000)

ハドソン川の漁師である〈おれ〉。子どもができないため代理母を雇うが、じきこの代理母と関係をもってしまう。

「とことんまで」(T・コラゲッサン・ボイル)
同上

世界が終ると信じ、家族ともども辺境に引っ越してきた男。この地で世界の終わりをやり過ごすつもりだったが、隣りに暴力的な男が引っ越してくる。

「外套Ⅱ」(T・コラゲッサン・ボイル)
同上

ゴーゴリの「外套」のリメイク。ストーリーは踏襲しているけれど、舞台はフルシチョフ時代のソ連だ。


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短編を読む その25

「クリスマスツリーの殺人」(ピーター・ラヴゼイ)
「服用量に注意とのこと」(早川書房 2000)

ダイヤモンド警部もののクリスマス・ストーリー。シアン化水素により殺された老人には、2人の息子と1人の娘がいた。それぞれ父親の遺産を狙う動機があり、機会がある。はたして犯人は。犯人当てのクイズつき。しかしこの犯行は実行可能なのだろうか。

「大売出しの殺人」(ピーター・ラヴゼイ)
同上

これもクリスマス・ストーリー。玩具売場の女性店員が、馴染みの女の子からクリスマス用につくられた洞窟部屋でサンタが固くなっていると聞かされる。いってみると、サンタの恰好をした店員がクロスボウの矢に射られて死んでいた。あわてて支配人を呼びにいき、もどってみると、死体は消えてしまっている。

「スペードの女王」(プーシキン)
「スペードの女王・ベールキン物語」(岩波文庫 1967)

賭けごとを愛するものの、倹約せざるえない身分にある青年。かつてサン・ジェルマン伯よりカードの必勝法を教わったという伯爵夫人から、その秘密を聞きだそうと、青年は夫人の養女リザヴェータに近づく。見事な完成度。

「その一発」(プーシキン)
同上

騎兵連隊に属していた男から、その昔、決闘沙汰になったものの相手があまりに平素と変わらぬ風だったので、撃つのをやめたと聞かされた〈わたし〉。しかし、決闘相手が近ぢか結婚すると聞いた男は、今度は平然としていられないだろうと、再び決闘におもむく。数年後、この話の顛末を〈わたし〉は聞く。

「葬儀屋」(プーシキン)
同上

向かいの靴屋から銀婚式のお祝いに招かれた葬儀屋。皆が口ぐちに乾杯の音頭をとるなか、あんたも亡者の健康を祝してはどうかとからかわれる。腹を立てた葬儀屋は、自分の新築祝いにやつらは呼ばない、代わりに亡者を呼んでやると息巻く。ちょっとディケンズのようだ。

「贋百姓娘」(プーシキン)
同上

いがみあっている2人の地主。それぞれ息子と娘がいるのだが、大学を出た息子が帰省して近所の評判になると、娘のほうは会ってみたくてたまらない。そこで娘は、腹心の小間使いの助けをかり、百姓娘に化けて、猟にいく青年を林のなかで待ちかまえる。まったく、どちらが狩りをしているのかわからない。

「マッカーガー峡谷の秘密」(アンブローズ・ビアス)
「ビアス選集 3」(東京美術 1971)

ウズラ撃ちにでかけた〈わたし〉が、廃屋で野宿をしていると、訪れたこともないスコットランドのエジンバラの夢をみる。それから女の悲鳴を聞きとび起きる。数年後、その峡谷で白骨死体をみつけたという男から、〈わたし〉はそこで起こった事件の話を聞く。後半笑話調になるのが面白い。

「糖蜜(メイプルシロップ)の壺」(アンブローズ・ビアス)
同上

ひたすら自分の店ではたらいていた男。亡くなってからも店にあらわれる。生前のときのように、男から糖蜜を買ってしまった銀行家は、自分は気が変になってしまったのかと怪しむ。村人たちは幽霊をひと目みようと店に押しかける。ユーモラスな怪談。

「自動チェス人形」(アンブローズ・ビアス)
同上

何者かとチェスをしている友人。〈わたし〉は、チェスの相手が、友人が発明した自動チェス人形なのではないかと思いいたる。友人は相手とのチェスに勝つのだが、その後悲劇が起きる。

「死者谷(デッドマン・ガルチ)の夜」(アンブローズ・ビアス)

冬の死者谷で暮らす男のもとに、ひとりの老人がやってくる。男は老人をもてなすが、早く帰ったほうがいいと告げる。ここにいた中国人が亡くなったとき、弁髪を切って、墓の上の梁に引っかけておいた。すると中国人が弁髪をとりもどしにあらわれるようになった。この2年間、中国人から弁髪を守るのが義務のような気がしていたが、それは間違いだったような気がすると男。そして夜、男と老人が床につくと、2つのベッドのあいだにある床のはねぶたがゆっくりと開きはじめる。なんだがすごい怪談だ。


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