タナカの読書メモです。
一冊たちブログ
短編をよむ その50
書きためた短編のメモが少したまったので放出します。
1000編までやろうと思っていたけれど、もう無理だなあ。
短篇集を買うくせだけが残ってしまった。
「名探偵エルナンド・コルテス」(シオドー・マシスン)
「名探偵群像」(東京創元社 1961)
歴史上の人物を名探偵に仕立てたシリーズの1編。とり上げられた人物は、アレクサンダー大王、ウマル・ハイヤーム、レオナルド・ダ・ヴィンチ、コルテス、セルバンデス、デフォー、クック、ダニエル・ブーン、スタンレーとリヴィングストン、ナイチンゲールといった面々。
1520年6月、モンテスマ皇帝を捕虜としたものの、メキシコの軍隊にかこまれたスペイン軍。コルテスは、メキシコの民衆を懐柔すべく、モンテスマに演説を頼む。だが、演説中の投石によりモンテスマは死亡。その石は、民衆のものではなく、モンテスマを護衛していた3人の士官の誰かが投げたものだった。スペイン軍はモンテスマの宝物を略奪して撤退。3人の士官のうち、下手人は誰なのか。
「名探偵ドン・ミゲール・デ・セルバンデス」
同上
古都バリャドリッドで、妻と娘、それに姉と暮らす58歳のドン・ミゲール。ミゲールの書いた「ドン・キホーテ」は、ベハル公の祖父が書いた騎士物語を風刺したものだとの噂が立ち、そのためベハル公はミゲールへの後援をとりやめるという。その噂を払拭するため、公のもとを訪ねようとした矢先、ミゲールは路上で若い男が倒れるのにでくわす。下宿にはこび医者を呼ぶが、男は死亡。治安官ディエゴ・デ・ビリャロエルはミゲールを犯人と決めつける。――もとになった事件は「物語スペインの歴史 人物篇」(岩根圀和 中央公論新社 2004)に書いてあった。
「名探偵ダニエル・デフォー」
同上
1719年、デフォーの義兄サミュエル・タフレイは、ロジャーズという男に会いにいくというデフォーの頼みを受け、ともにエディンバラに向かう。数かずの扇動的文書をあらわしたデフォーは、あちこちに敵をつくっており、2週間前には寝室に忍びこんできた賊に絞め殺されそうになったという。エディンバラの白鳥館でぶじ航海士のロジャーズと落ちあったデフォーだったが、襲われる不安をこぼすと、なら部屋を替わってやろうとロジャーズ。その晩、デフォーがロジャーズの部屋を訪れると、ロジャーズは扼殺されていた。このままでは殺人の疑いをかけられてしまう。今晩中に犯人をみつけだすと、デフォーは宣言する。
「名探偵フローレス・ナイチンゲール」
同上
1854年10月、英国兵を看護するため38人の看護婦を率いてクリミアに向かったフローレス・ナイチンゲール。鞄のなかには、いつのまにか×印をつけたクラウン銀貨が入れられていた。これは偶像破壊者と呼ばれる者の仕業らしい。偶像破壊者は、セント・ジェームズの祭壇から聖杯を盗みだすなど、冒涜的な盗みをおこない、サイン代わりに傷をつけたクラウン銀貨を置いていくのだという。パリでの夜、フローレンスたちが泊まった部屋の前に、背中をナイフで刺されて死んだ男がみつかる。ドアには、銀貨と同じ×印が。男は、大金持ちで婚約者を捨てたとの醜聞があるリーニダフという男。従軍記者としてフローレンスらと同様、クリミアに向かっているところだった。ここで足止めをくって前線の兵士たちを待たせるわけにはいかない。フローレンスは、リーニダフの死体を自身の部屋にもどし、予定通り翌朝出発。が、マルセーユでまたも偶像破壊者の襲撃を受ける。
「薪」(アナトール・フランス)
「書物愛 海外篇」(晶文社 2005)
これは中編。「シルヴェストル・ボナールの罪」(岩波書店 1978)の第1部を収録したもの。1861年の12月にはじまり、1869年の12月に終わる8年間の物語。主人公のボナールはひとり者の老学究。古本を売りにきた貧相な男には、商売女の妻がいて、同じ建物の屋根裏で暮らしている。そうテレーズ婆やから聞いたボナールは、同情し、屋根裏に薪をはこばせるよう婆やにいいつける。一方、古い目録のなかで、珍しい写本をみつけ、平静ではいられない。のちにフィレンツェの本屋の目録で、同じ本をみつけたボナールは、現在の所蔵者に会うためシチリアに赴く。
「シジスモンの遺産」(オクターヴ・ユザンヌ)
同上
愛書家コミックノベルというべき作品。愛書家シジスモンが亡くなった。20年に渡りシジスモンと本を巡ってあらそってきたギョマール氏は、代理人を介してシジスモンの蔵書の一括購入を申しでる。が、遺言により蔵書の売却は禁じられていた。落胆したギョマール氏だったが、シジスモンの遺産相続人が老嬢だと知り大喜び。蔵書を手に入れるには結婚すればいいと、さっそくエレオノール・シジスモン嬢を訪ねる。ところが、シジスモン嬢はギョマール氏の申し出をはねつける。もともと亡くなった従兄のシジスモンと結婚するはずだったのに、シジスモンの古本漁りのためにその機会を逃したと、シジスモン嬢は相続した古本を目の敵にしている。書斎の屋根を壊し、窓を割り、ネズミを放って古本を台なしにしてやるとのシジスモン嬢の話を聞き、ギョマール氏は悲鳴を上げる。
「クリストファスン」(ジョージ・ギッシング)
同上
〈私〉が20年前に出会った男を回想する。古本屋で古本を買うと、それは以前は私の本だったと、おずおずと声をかけてくる男がいる。それがクリストファスン。もとは裕福だったものの商売に失敗し、最初の妻は亡くなり、亡くなった娘の家庭教師と再婚した。商売に失敗してからは事務員などをしていたが、からだを壊してからは妻の収入に頼っている。そのわずかな妻の収入からも、クリストファスンは本を買わずにいられない。おかげで家中は本だらけで、やっと生活するだけの広さしかない。こんなクリストファスン夫妻に、夫人の裕福な親類からノーフォークの家を提供しようという申し出が舞いこむ。喜んだのもつかの間、夫妻の家を来訪した親類は、カビ臭い古本の山を自分の家に移すことを拒否し、おかげで夫人は寝こんでしまう。
「目に見えないコレクション」(シュテファン・ツヴァイク)
同上
副題は「ドイツ、インフレーション時代のエピソード」。列車で〈私〉が、古美術商から聞いた話。田舎町に住む、60年来のお得意を訪ねた古美術商。収集家はまだ生きていたが、目が見えなくなっていた。古美術商がきたことを喜んで、収集家は60年かけてつくったその古い版画のコレクションをぜひ見せたいという。だが、そのコレクションを見るまえに、収集家の娘から、古美術商は注意を受ける。名高い傑作。何度読んでも胸に迫る。
「書痴メンデル」(シュテファン・ツヴァイク)
同上
ウィーンにもどってきてカフェに入った〈私〉が20年前、このカフェにいた書痴メンデルのことを回顧する。そして、ただひとりメンデルのことをおぼえていたカフェの掃除婦から、ことの次第を聞く。メンデルは書籍仲買人をしており、一日中カフェの一席に座り本を読んでいた。万巻の書を把握し、司書よりも図書館に詳しく、出版社の在庫品も暗記していた。正規の本屋をやる許可書をもっていなかったが、頼まれればわずかな手数料でどんな本でもとりよせた。メンデルを目当てに客がくるため、カフェでは重んじられていた。ところが、戦争がはじまると、軍の検閲課でメンデルがだした敵国宛てのハガキが押収される。購読している本が届かないことを督促したハガキだったが、戦争が起きたことすら知らないメンデルは用心するということがない。ついにカフェに秘密警察がやってくる。
「牧師の汚名」(ジェイムズ・グールド・カズンズ)
同上
古書店に、インゴールズ大佐と名乗る白髪の紳士がやってくる。兄のインゴールズ牧師に請求書がきたが、なにかの間違いだとインゴールズ大佐。兄がそんな本を注文したはずもないし、受けとったはずもない。第一、読みたいと思ったはずもない。しかし古書店の店主ジョレス氏は反発する。こういうたぐいの本は秘密の場所に置かれています。支払わなければ法律に訴えます。請求書の内容がおおやけにされるのは迷惑でしょう。――どんでん返しが上手い。
1000編までやろうと思っていたけれど、もう無理だなあ。
短篇集を買うくせだけが残ってしまった。
「名探偵エルナンド・コルテス」(シオドー・マシスン)
「名探偵群像」(東京創元社 1961)
歴史上の人物を名探偵に仕立てたシリーズの1編。とり上げられた人物は、アレクサンダー大王、ウマル・ハイヤーム、レオナルド・ダ・ヴィンチ、コルテス、セルバンデス、デフォー、クック、ダニエル・ブーン、スタンレーとリヴィングストン、ナイチンゲールといった面々。
1520年6月、モンテスマ皇帝を捕虜としたものの、メキシコの軍隊にかこまれたスペイン軍。コルテスは、メキシコの民衆を懐柔すべく、モンテスマに演説を頼む。だが、演説中の投石によりモンテスマは死亡。その石は、民衆のものではなく、モンテスマを護衛していた3人の士官の誰かが投げたものだった。スペイン軍はモンテスマの宝物を略奪して撤退。3人の士官のうち、下手人は誰なのか。
「名探偵ドン・ミゲール・デ・セルバンデス」
同上
古都バリャドリッドで、妻と娘、それに姉と暮らす58歳のドン・ミゲール。ミゲールの書いた「ドン・キホーテ」は、ベハル公の祖父が書いた騎士物語を風刺したものだとの噂が立ち、そのためベハル公はミゲールへの後援をとりやめるという。その噂を払拭するため、公のもとを訪ねようとした矢先、ミゲールは路上で若い男が倒れるのにでくわす。下宿にはこび医者を呼ぶが、男は死亡。治安官ディエゴ・デ・ビリャロエルはミゲールを犯人と決めつける。――もとになった事件は「物語スペインの歴史 人物篇」(岩根圀和 中央公論新社 2004)に書いてあった。
「名探偵ダニエル・デフォー」
同上
1719年、デフォーの義兄サミュエル・タフレイは、ロジャーズという男に会いにいくというデフォーの頼みを受け、ともにエディンバラに向かう。数かずの扇動的文書をあらわしたデフォーは、あちこちに敵をつくっており、2週間前には寝室に忍びこんできた賊に絞め殺されそうになったという。エディンバラの白鳥館でぶじ航海士のロジャーズと落ちあったデフォーだったが、襲われる不安をこぼすと、なら部屋を替わってやろうとロジャーズ。その晩、デフォーがロジャーズの部屋を訪れると、ロジャーズは扼殺されていた。このままでは殺人の疑いをかけられてしまう。今晩中に犯人をみつけだすと、デフォーは宣言する。
「名探偵フローレス・ナイチンゲール」
同上
1854年10月、英国兵を看護するため38人の看護婦を率いてクリミアに向かったフローレス・ナイチンゲール。鞄のなかには、いつのまにか×印をつけたクラウン銀貨が入れられていた。これは偶像破壊者と呼ばれる者の仕業らしい。偶像破壊者は、セント・ジェームズの祭壇から聖杯を盗みだすなど、冒涜的な盗みをおこない、サイン代わりに傷をつけたクラウン銀貨を置いていくのだという。パリでの夜、フローレンスたちが泊まった部屋の前に、背中をナイフで刺されて死んだ男がみつかる。ドアには、銀貨と同じ×印が。男は、大金持ちで婚約者を捨てたとの醜聞があるリーニダフという男。従軍記者としてフローレンスらと同様、クリミアに向かっているところだった。ここで足止めをくって前線の兵士たちを待たせるわけにはいかない。フローレンスは、リーニダフの死体を自身の部屋にもどし、予定通り翌朝出発。が、マルセーユでまたも偶像破壊者の襲撃を受ける。
「薪」(アナトール・フランス)
「書物愛 海外篇」(晶文社 2005)
これは中編。「シルヴェストル・ボナールの罪」(岩波書店 1978)の第1部を収録したもの。1861年の12月にはじまり、1869年の12月に終わる8年間の物語。主人公のボナールはひとり者の老学究。古本を売りにきた貧相な男には、商売女の妻がいて、同じ建物の屋根裏で暮らしている。そうテレーズ婆やから聞いたボナールは、同情し、屋根裏に薪をはこばせるよう婆やにいいつける。一方、古い目録のなかで、珍しい写本をみつけ、平静ではいられない。のちにフィレンツェの本屋の目録で、同じ本をみつけたボナールは、現在の所蔵者に会うためシチリアに赴く。
「シジスモンの遺産」(オクターヴ・ユザンヌ)
同上
愛書家コミックノベルというべき作品。愛書家シジスモンが亡くなった。20年に渡りシジスモンと本を巡ってあらそってきたギョマール氏は、代理人を介してシジスモンの蔵書の一括購入を申しでる。が、遺言により蔵書の売却は禁じられていた。落胆したギョマール氏だったが、シジスモンの遺産相続人が老嬢だと知り大喜び。蔵書を手に入れるには結婚すればいいと、さっそくエレオノール・シジスモン嬢を訪ねる。ところが、シジスモン嬢はギョマール氏の申し出をはねつける。もともと亡くなった従兄のシジスモンと結婚するはずだったのに、シジスモンの古本漁りのためにその機会を逃したと、シジスモン嬢は相続した古本を目の敵にしている。書斎の屋根を壊し、窓を割り、ネズミを放って古本を台なしにしてやるとのシジスモン嬢の話を聞き、ギョマール氏は悲鳴を上げる。
「クリストファスン」(ジョージ・ギッシング)
同上
〈私〉が20年前に出会った男を回想する。古本屋で古本を買うと、それは以前は私の本だったと、おずおずと声をかけてくる男がいる。それがクリストファスン。もとは裕福だったものの商売に失敗し、最初の妻は亡くなり、亡くなった娘の家庭教師と再婚した。商売に失敗してからは事務員などをしていたが、からだを壊してからは妻の収入に頼っている。そのわずかな妻の収入からも、クリストファスンは本を買わずにいられない。おかげで家中は本だらけで、やっと生活するだけの広さしかない。こんなクリストファスン夫妻に、夫人の裕福な親類からノーフォークの家を提供しようという申し出が舞いこむ。喜んだのもつかの間、夫妻の家を来訪した親類は、カビ臭い古本の山を自分の家に移すことを拒否し、おかげで夫人は寝こんでしまう。
「目に見えないコレクション」(シュテファン・ツヴァイク)
同上
副題は「ドイツ、インフレーション時代のエピソード」。列車で〈私〉が、古美術商から聞いた話。田舎町に住む、60年来のお得意を訪ねた古美術商。収集家はまだ生きていたが、目が見えなくなっていた。古美術商がきたことを喜んで、収集家は60年かけてつくったその古い版画のコレクションをぜひ見せたいという。だが、そのコレクションを見るまえに、収集家の娘から、古美術商は注意を受ける。名高い傑作。何度読んでも胸に迫る。
「書痴メンデル」(シュテファン・ツヴァイク)
同上
ウィーンにもどってきてカフェに入った〈私〉が20年前、このカフェにいた書痴メンデルのことを回顧する。そして、ただひとりメンデルのことをおぼえていたカフェの掃除婦から、ことの次第を聞く。メンデルは書籍仲買人をしており、一日中カフェの一席に座り本を読んでいた。万巻の書を把握し、司書よりも図書館に詳しく、出版社の在庫品も暗記していた。正規の本屋をやる許可書をもっていなかったが、頼まれればわずかな手数料でどんな本でもとりよせた。メンデルを目当てに客がくるため、カフェでは重んじられていた。ところが、戦争がはじまると、軍の検閲課でメンデルがだした敵国宛てのハガキが押収される。購読している本が届かないことを督促したハガキだったが、戦争が起きたことすら知らないメンデルは用心するということがない。ついにカフェに秘密警察がやってくる。
「牧師の汚名」(ジェイムズ・グールド・カズンズ)
同上
古書店に、インゴールズ大佐と名乗る白髪の紳士がやってくる。兄のインゴールズ牧師に請求書がきたが、なにかの間違いだとインゴールズ大佐。兄がそんな本を注文したはずもないし、受けとったはずもない。第一、読みたいと思ったはずもない。しかし古書店の店主ジョレス氏は反発する。こういうたぐいの本は秘密の場所に置かれています。支払わなければ法律に訴えます。請求書の内容がおおやけにされるのは迷惑でしょう。――どんでん返しが上手い。
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