MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

原因不明の連日の発熱

2014-07-03 23:29:01 | 健康・病気

7月に入ってしまいましたが
6月のメディカルミステリーを紹介します。

6月30日付 Washington Post 電子版

A fever gripped a woman every afternoon, only to slide back to normal while she slept
毎日午後に出現する発熱が女性を悩ませたが、眠っている間は正常に戻っていた

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メリーランド州 Kenshington に住む女性は毎日発熱し、ほぼ一年にわたって医師を悩ませた。


BY SANDRA G. BOODMAN,
 毎日午後3時ころ発熱は下がっていたが、それがあまりにも予測通りのできごとになっていたため Carol Maryman さんは普段がどんな感じだったかほとんど思い出せなくなっていた。毎夜 Maryman さんの華氏101度(摂氏38.3度)まで上がっていた体温は奇妙にも眠ると正常に戻ったが、朝、彼女が目覚めるとひどく疲弊していた。
 2013年3月に始まり10ヶ月間続いた原因不明の発熱には、寝汗と、幾度かの息切れ、強い倦怠感が先行していた。当時59才だった Maryman さんは、Bethesda の Strathmore Center for the Arts(ストラスモア芸術センター)の最高責任者付き秘書として何とか毎日をうまく乗り切り、足を引きずりながらも Kenshington の自宅に戻りベッドに倒れこむ、それが彼女にできるすべてのことだったと思い出す。かつては活動的だった彼女の生活は急停止した。ディナーに外出することもヨガをすることも友達に会うこともやめた。
 その後何ヶ月もの間、医師たちは彼女の症状の原因を探し求めた。Maryman さんは次から次へと検査を受けた:MRI検査、マラリアや外来寄生生物を除外するため徐々に複雑さを増していった血液分析、頻度の高いものも低いものも、とにかく癌をチェックするための骨髄生検などである。ほとんどの検査で意味のあるものは何も明らかにならなかったが、いくつかの血液の数値が一定して異常な状態にあった:Maryman さんには貧血が認められ、白血球数が異常に高値で、炎症の所見があったことから、くすぶり続ける感染が示唆された。しかし問題がどこにあるのかは誰にもわからなかった。
 熱が初めて出現してほぼ一年が過ぎたところで、その数ヶ月前に行われたMRIが最終的に確定診断に導く手がかりとなった。その検査では彼女の左の卵巣に無痛性の腫瘤が認められていたが、当初医師たちは気がかりなものとは考えなかった。しかし、その8ヶ月後に大きさがほぼ2倍となっていたため Maryman さんは両側の卵巣を摘出する手術を受けた。その際、正常に見えていた右側の卵巣の組織検査によって、それまでに人数を増していた専門医たちの診断をかいくぐってきていた稀な原因が明らかになったのである。
 「もし私がその手術を受けていなかったら、私の病気が何だったのか解明されなかったことでしょう」と Maryman さんは言う。

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Carol Maryman さんは何ヶ月間にもわたって連日午後に始まり眠っている間にはおさまっていた原因不明の発熱に耐えていた。

Breaking both arms 両腕を骨折

 Maryman さんにとって、2012年7月に負ったケガよりも熱と倦怠感の方が問題だった。Rockville(ロックビル)で昼休みに用事に出かけた途中、Maryman さんは転倒し、店のガラス張りのドアに突っ込み両腕を骨折した。彼女には、どのようにしてこの事故が起こったのかいまだに定かではないが、つまづいた覚えはない。数日後、Maryman さんは右腕に金属製の棒を入れ、左の手首にプレートを置く手術を受けた。2、3週後には彼女は職に戻ることができたが、回復には時間がかかり、8ヶ月間の理学療法が必要だった。彼女の腕の力は弱い状態が続き、重いものを持ち上げるのは困難だった。
 発熱は2013年3月に始まったがそれはアリゾナ州への旅行から帰ってすぐのことだった。セドナの町を取り巻くレッドロックキャニオンでのハイキングは彼女に異常な息切れと疲れをもたらし、その感じは自宅に戻ってからも続いていた。「とにかく普通じゃないと感じました」と彼女は思い起こす。おさまることのない寝汗が数週間続いたため彼女はかかりつけ医に相談した。
 「彼女は多くの血液検査を行い」、肺炎を調べるために胸部レントゲン撮影を行ったと Maryman さんは言う。そのレントゲン写真では彼女の肺はきれいだったが、その医師には心雑音が聴取されるように思われたため、Maryman さんを心臓内科医に紹介した。心臓超音波検査では彼女の心臓は正常だった。
 しかし血液検査は正常ではなかった:Maryman さんの白血球数、血小板数、および炎症を示す血液沈降速度(血沈)と C-reactive protein(CRP)が顕著に上昇していた。Maryman さんに感染症があるのは明らかなように思われた。
 次の段階は感染症専門医だった:多くの疾患の中から、彼はライム病、HIV、結核の検査を行った;しかしすべて陰性であり、彼は、彼女に熱を起こさせ炎症のマーカーを上昇させているものが何であるかを見つけることはできなかったと告げた。“不明熱”であると彼は Maryman さんに告げた。これは特定可能な原因がなく3週間異常持続する発熱と定義されるよく見られる状態である。この状態は何もしなくてもしばしば自然に軽快する。
 2013年5月に行われた腹部の検査で、医師は左の卵巣に5cm大、おおざっぱに親指の長さほどの大きさの腫瘤を発見した;よく見られる良性の線維腫(fibroid tumor)であると放射線科医は考えた。「実際、これについては質問しませんでした。というのも、それ以外に続いている症状があまりにたくさんあったからです」と Maryman さんは言う。実際、彼女はその腫瘍で特に不快な症状を感じていなかった。
 彼女の発熱、倦怠感、あるいは貧血の原因について答に近づくことができなかったため、かかりつけ医はある腫瘍専門医に紹介したが、新しいことは何も見つからなかった。「私に何か異常があることは誰もがわかっていましたが、それが何であるかは誰にもわかりませんでした」と Maryman さんは言う。
 初秋のある時期には連日の発熱が収まり、Maryman さんはゆっくりながら良くなっているように思われた。彼女と医師らはそれが何であれひとまず峠を越えたものと考えた。
 しかし感謝祭までに彼女の熱は再びぶり返し、彼女を定期的に観察し続けていた腫瘍専門医によって行われた血液検査で、彼女の炎症マーカーが再びひどく上昇していることがわかった。
 「私はひどく動揺しました」と Maryman さんは思い起こす。「とりわけ、私がどれほどひどく疲れて見えるか、みんなに指摘され続けていたからです」答を得るにはほど遠いことから Maryman さんは Baltimore にある Johns Hopkins Hospital の感染症専門医の診察予約を取った。
 この新たな専門医は「非常に多くの血液検査と培養を行いました」と Maryman さんは言う。結果は不確定と判定された結核の検査を除いてほぼこれまでと同じだった。新たな可能性が浮上した:おそらく Maryman さんは結核のあるタイプに感染していたのではないかというものである。
 しかし Maryman さんにはさらに差し迫った問題があった。新たに行われた腹部 MRI にて、以前良性の線維腫と考えられていた卵巣の腫瘍がわずか数ヶ月の間に大幅に増大していたのである。Maryman さんは2人の婦人科腫瘍専門医を受診したが、ともに同じ助言を彼女に与えた。彼女には広汎子宮摘出術あるいは少なくとも両側卵巣の摘出が必要で、それによって腫瘍の組織診断が可能となり卵巣も
調べることができるというのである。卵巣癌も十分あり得ることだった。もし浸潤性の癌が見つかったらその場合だけ子宮摘出を希望すると Maryman さんは執刀医に告げた。

A surprise 驚くべき結果

 1月23日、Maryman さんは Silver Spring にある Holy Cross Hospital で腹腔鏡手術を受けた。浸潤癌の徴候は認められなかった;卵巣の腫瘤は非浸潤性で卵巣外に広がっていない低悪性度の癌、すなわちステージ1であることがわかった。「彼女の予後はきわめて良好であろう」執刀医はそのように彼女のカルテに記載しており、この時点ではさらなる治療は必要なかった。
 しかし真の驚きは彼女の右の卵巣にあった。医師らは giant cell arteritis(巨細胞性動脈炎)と見られる稀な自己免疫疾患の所見を認めた。これは側頭動脈炎とも呼ばれるが、心臓につながる血管など体内の大きい動脈の内膜に炎症が起こり、壁が肥厚、狭窄を起こし、その結果血流が減る疾患である。その原因はわかっておらず、この疾患となったほとんどの患者には激しい頭痛や複視が起こる。貧血だけでなく発熱も症状となりうるが、本疾患の徴候が生殖器官に出現することも稀にある。
 Maryman さんはさらに別の専門医に紹介された:Montgomery 郡で開業しているリウマチ専門医の Alan Matsumoto 氏である。
 「これはリウマチ専門医が実に関心を寄せる症例です」2月21日に初めて Maryman さんを診察した Matsumoto 氏は言う。「後になって正しいことがわかること(Monday morning quarterbacking)はたくさんあるわけですが、それこそ、なるほどっ!と思う瞬間(an aha! moment)です」なぜなら、リウマチ性疾患は他の多くの疾患に類似していることがあるからだ。
 Matsumoto 氏によると、彼女の症状や詳細な検査に基づくと、Maryman さんは巨細胞性動脈炎ではなく、むしろそれよりはるかに稀な疾患:Takayasu's arteritis(高安動脈炎)であると考えたという。この疾患は20万人に1人の頻度で通常40才未満に認められる。患者の90%は女性である。
 どちらのタイプの動脈炎にも慢性炎症が存在するが巨細胞タイプは頭頸部動脈を侵し、しばしば激しい頭痛を生じる。しかし Maryman さんには頭痛はなかった。一方、高安動脈炎は大動脈弓、および腕に血流を送る動脈など心臓から出た大動脈から分岐する大きい動脈を侵す。Maryman さんの繰り返す症状の一つに腕の痛みがあったが、それまでは転倒による骨折に起因するものとされていた。
 Matsumoto 氏が治療したこれまでの高安動脈炎の患者に見られたように「掃除機をかけるなど繰り返す動作を行うときに何らかの痛みがなかったかどうか彼女に尋ねました」と彼は思い起こす。
 このリウマチ専門医は彼女の脈拍と血圧を測ろうとしたとき自分が正しいことを確信した。「どちらの腕でも脈をとることができませんでした」と彼は思い起こす。この血流が障害されていることが高安動脈炎の昔の別名につながっている:脈なし病(pulseless disease)である。Matsumoto 氏は炎症を抑える強力なステロイドであるプレドニゾンを処方し、Maryman さんにどのタイプの動脈炎があるかを決定するために、体内の血管の画像情報が得られる MRAを行った。
 この検査で彼の仮説が確かめられた。Maryman さんの脳検査では何も異常は認められなかったが、胸部の検査で、心臓から出る動脈壁の肥厚と狭窄が認められ、これらは高安動脈炎に矛盾しない所見だった。
 診断が得られたことで不安が取り除かれたと Maryman さんは言う。「自分は何か恐ろしい病気なのにそれが何であるか誰にも分からないことが怖くてたまりませんでした」
 徐々に用量を減らしつつあるが Maryman さんが今も飲み続けているプレドニゾンで熱は消失し、体力は十分に回復した。しかし彼女の腕は侵されたままで、いまだに掃除機をかけられないが、そういった障害のいくつかが永続的なものであるかどうかは分からない。
 彼女の疾患はもっと早くに発見できていたのか、彼女の脈は十分に調べられていたのか、Matsumoto 氏は疑問に思っているところである;脈が取れないという事実は重要な手がかりであると同時に注意を促す症状(red flag)でもある。
 しかし、彼は次のように言う。「このケースに関しては皆が当然すべきことを行い、追求し続けたのです。『何が悪いのかは分からない』とは誰も断言していませんし、そうであればそれで終わりでした。今回は言ってみれば運良く発見できた診断だったのです。右の卵巣が摘出されていなかったら、それは誰の脳裏をもかすめることはなかったかもしれません、ずっとあとまで」高安動脈炎が治療されなければ腎不全、脳梗塞、あるいは心筋梗塞を引き起こす可能性がある。
 Maryman さんの倦怠感や寝汗は消失し快方に向かっており、多くの医師たちが診断をつけるために奮闘し施してくれた医療に彼女は感謝しているという。「誰もそれを解明してくれないだろうと絶望しかけていたのですから」と彼女は言う。

欧米では高安動脈炎と呼ばれるこの病気、
日本人眼科医の高安右人(たかやすみきと)博士が
1908年に初めて報告した疾患である。
どういうわけか本邦では、
人名をつけずに単に“大動脈炎症候群”と呼ばれることが多い。
記事中にあったように四肢の脈が触れにくくなることから
脈なし病(pulseless disease)ともいう。
大動脈を中心とした大きな動脈に起こる原因不明の炎症により
狭窄や拡張が生じ多彩な症状を示す自己免疫疾患である。
何らかの感染が契機となっている可能性も示唆されている。
一般に遺伝性はないと考えられている。
男女比は1:9で20代から30代の若年者に多くみられるが
中高年以降に発症するケースもある。
日本を含めたアジア人に多く発症、
本邦では約5,000人の患者がいると推定されている。
症状が複雑なため早期診断がむずかしいとされている。
発熱、倦怠感、食欲不振、体重減少など
慢性炎症による症状のほか、
動脈炎によって、めまい、頭痛、失神、視力障害を来したり
長い距離を歩けなくなる間欠性跛行を見ることもある。
脳・心臓・腎臓などの主要臓器への血流が障害されると
脳梗塞、心筋梗塞、腎不全、高血圧症など
重大な問題をもたらす。
約3分の1の患者で大動脈弁が障害されるが、
そのような例では弁膜症から心不全に陥ることがある。
四肢の脈の消失は特徴的な症状の一つであるが、
血圧の左右差や血管雑音を認めることもある。
血液検査では、血沈の亢進、CRP の上昇、白血球数の増加が
見られるが、最近では疾患の活動性指標として
血管炎症マーカーであるペントラキシン‐3(PTX3)が
有用との報告がある。
画像診断では、CT、MRI、血管造影などにより
大動脈とその一次分枝に狭窄・閉塞・拡張や、
動脈壁の肥厚や浮腫を確認する。
鑑別疾患として
動脈硬化症、血管ベーチェット病、巨細胞性動脈炎などが
挙げられる。
治療としては炎症性活動病変があればステロイドを使用する。
そのほか免疫抑制剤や抗血小板薬が用いられることもある。
動脈の狭窄に対してはバイパス術や
ステントを用いた血管内治療が行われる。
生命予後は比較的良好で5年生存率は約90%となっている。
死亡例では心不全、高血圧、脳出血などが死因となる。
病初期は身体がだるい、食欲がない、微熱が続くなど
ありふれた感染症症状に類似しており診断が困難なため
本疾患も常に頭の片隅に置いておく必要がありそうだ。

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