いよいよ北京オリンピックが開幕。
が、MrK は、特に感動も、期待もない。
(それより毒入りギョーザ問題どうなった?)
ので、全く関係ないお話を。
あ
茂木健一郎氏が言うところの「アハ!体験」、
この「ひらめく喜び」には、脳の感情システムのうち
『ドーパミン』を中心とする報酬系が関与していることが
知られている。(ひらめきの瞬間、報酬系が活性化するという)
この報酬系回路で重要な役割を果たしていると
考えられているのが側坐核という神経細胞の集まりである。
この報酬系回路では、本来、特定の行為や感覚により
引き起こされた刺激が大脳深部腹側にある側坐核に入り、
そこでドーパミンが放出され快感や心地良い気持ちを
もたらすと考えられている。
その元となる刺激には、摂食、性交などの本能的な欲望や、
前述のひらめき、知識欲、音楽などが含まれるほか、
麻薬や覚せい剤などの嗜癖がこのシステムに関連していると
言われている。
そんな中、悲しみの果てに快感を得るという、
一見矛盾しているように思われる情動の異常に、
この回路がかかわっている可能性が示唆されている。
あ
Janice Van Wagner さん(34才)の母親が
2年前に乳がんで死亡した後、
彼女の喪失感は計り知れないものだった。
「私は打ちのめされました。私の体の一部が失われたように、
体が二つに引き裂かれたように感じました。」と
Los Angeles に住む Van Wagner さんは言った。
身近な人間が死ぬ時、多くの人々は悲しむのだが
情動の強さは時間とともに和らいでいく傾向にある。
しかし時に、Van Wagner さんのように
時には数ヶ月も、あるいは何年も苦悩が持続し、
正常な生活の再開が不可能となる人がいる。
「人生の最後の一月、あるいは数週間に
母親が経験した苦痛についての思いに何度も捕われ
それから逃れられなくなってしまった感じでした。
心の中で繰り返し追体験し続けていました。」
と Van Wagner さんは言う。
この和らぐことのない悲しみは
身近な人間を失った人の10~20%の人に見られると
考えられており、
これは complicated grief (複雑性悲嘆)として
知られる一つの心理学的症候群として認識されるようになった。
今、脳探査技術でそれを研究しようとする初めての試みの中で
研究者らは、この症候群の存在を確定づけるとともに
原因を説明できるような生物学的手がかかりを
発見してきている。
「これは極めて重要なことです」と
New York の Stony Brook University、
心理学教授の Camille B Wortman 氏は言う。
「悲しみがどのように概念的に説明され、これをどのように
治療すべきかについて、きわめて重要な示唆を持っていると思う」
この知見は、さらに確かめられ、
今後の研究によってもっと明らかにされる必要があるとの
指摘はあるが、賛同するものは多い。
「この症候群の人は、そうでない人と実際に脳に違いがあることが
示されています」と
Columbia University 精神医学教授の
Catherine Shear 氏は言う。
「通常の悲しみに類似しているという事実から、
いまだに混乱があります」
この研究では、
Los Angeles の University of California の
Mary-Frances O'Connor 氏らが
Van Wagner さんを含む11人の complicated grief を
経験している女性と、乳がんで母親や姉妹を失ったものの
正常に悲しみを経験した12人に
機能的 MRI、
functional magnetic resonance imaging (fMRI) を行った。
脳のどの部位が時々活性化するかを示すスキャンの際、
死を思い出せるため言葉を聞かせながら
亡くした大切な人の写真、あるいは他人の同様の写真を
被験者らは見させられた。
「うまく適応している人とできていない人で悲しみを処理する時、
脳に違いがあるかどうかを知りたいのです」
と O'Connor さんは言った。
「彼らの脳では、悲しみが異なったやり方で処理されているのか、
それが最大の疑問です」
すべての女性で、愛する人たちの写真を見た時にのみ
活性化するような肉体的および感情的苦痛に関連する
脳の部位がある。
しかし、complicated grief を経験している女性では
それ以外の領域も活性化していた。
そこは側坐核と呼ばれ、脳の報酬系回路の一部である。
今月発刊された Journal Neuroimage の論文に
以上の内容が報告されている。
「最初、これは大変奇妙なこととと思われました」
と O'Connor 氏は言った。
「報酬を経験するということはむしろ良いことのように
思われたからです。
それなのに、うまくいっていないグループで
なぜこれがみられるのだろうかと?」
しかし complicated grief の特徴の一つは
失った人への永続するいとしい思いであり、
その人間の幻想を呼び起こそうとする傾向である。
「その人間に帰ってきてもらいたいという強い思いなんです」
と Van Wagner さんは言った。
それが時としてあまりに絶大で
母親のことをあまりに多く思い出させるならば
音楽も耐えられなくなるそうだ。
側坐核は報酬を期待することに関連しているので
complex grief に苦しむ人々が
なぜ気持ちを切り替えることができないのかを
これによって説明できるかもかもしれない、
とO'Connor 氏らは考えている。
「そこは、何かを欲している自分を知ることに関わっている
脳の部分です」と彼女は言った。
「うまく適応していない人々が、故人についてこういった考えを
持っている時、彼らはこの報酬系回路が活性化していることを
経験しています。
たぶん彼らが新しい現実に適応することを許さない、
あるいは援助されないやり方で、
彼らは実際に切望し続けているのでしょう」
これと同一の脳システムは薬物中毒やアルコール依存を
もたらすような他の強力な嗜壁にも関与している。
「彼らが抜け出せない理由の一つは、
故人の記憶に思いを馳せ、思い出に浸ることに
なんらかの喜びを感じるようになったことです」、
と Harvard Medical School 精神医学の准教授である
Holly Prigerson 氏は言う。
「楽しい思い出に中毒になっているような感じです」
この知見は抗うつ薬がこの complicated grief に
効果がないことが多い事実の説明に有用だ。
抗うつ薬は神経伝達物質のセロトニンが関与する
異なる脳系統に作用する。
側坐核に関連するのはこれと異なる化学伝達物質、ドパミン
であることから、これに作用する薬物がより有効かもしれない。
さらに、この知見はうつ病の治療に極めて抵抗的な
complicated grief に対する精神療法の向上につながる
洞察を与えてくれる可能性がある。
「彼らの脳の情動的部位では
その人間が生き続けているとまだ思いつづけているかのような
状態に近い。
脳の思考部位ではその人が死んだことを知っています。
しかしその情報は脳の情動的部位には
組み込まれていないのです」、とShear 氏は言う。
Shear 氏は死の詳細に焦点を当てることによって
そのような患者の治療によい結果を得ている。
そうすることで脳が結びつきを得る助けになると
彼女は考えている。
「その人間の考える脳が情動的脳とより密接に連絡するよう
手助けする必要があります」、と Shear 氏は言う。
「我々が喪失の現実に注意を向けることが重要で
それによりその人が渇望をやめることができるということを
現実に教えてくれています」
あ
Van Wagner はここ数ヶ月は気分がよくなってきている。
そして、今回の知見がよりよい治療と、
すべての人が同じような悲しみにあるのではないことの
認識の広がりにつながってくれることを望んでいると言った。
「今やそれを乗り越えて前進しなければならないという
プレッシャーを感じます。
しかし、その原因があることを知り、何か具体的なものが
進んでいるとすれば、それがなんらかの助けとなるのです」
(記事終わり)
あ
頭ではわかっていても、心では受け入れることができない。
その一方で、理解脳と連絡を絶った情動脳は幻想の中で
快楽に浸り続ける、てな状況だろうか。
その結果、現実を受け入れることができなくなってしまう。
こうして考えると、やはり、大切な人の死に際しては、
脳の中にバリアを作らないよう、涙が涸れ果てるまで
思いっきり泣いて、一度心を空っぽにしてしまうことが
必要なのかも知れない。
側坐核はたしかストレス系だと何かの本で読んだのですが・・・
あと、ドーパミンが過剰産生されているとしたら、薬物としてはハロペリドールが使用されるのでしょうか?
看護学校程度の知識しかなくて、いまひとつよくわかりません。
私も詳しくないのですみません(苦笑)。
側坐核は報酬系に属する領域ですが、ご指摘の通りストレス系と密接な関係があるようです。ストレスに脆弱な状態では、ストレスを受けることによってストレス系で産生されたタンパクが報酬系まで影響を及ぼしているようです。
ドーパミン過剰状態に対してはおっしゃるとおり理論的にはハロペリドールやリスペリドンなどドーパミン抑制作用のある薬剤が考えられますが、実際に臨床的に使われているかどうかは知りません。まずは精神療法が選ばれるのかもしれません。
ありがとうございました。
その後、あれこれ本を読んだりしてみました(久しぶりの勉強・・・?)
ドーパミンが作用する回路は、やはり報酬回路でした。腹側被蓋野から側座核へのドーパミンの流れがあるそうですね。
薬物依存の場合、VTAニューロンからドーパミンの過剰放出をまねいて、それが側座核に働き快感をもたらすとのこと。
考えてみると、ニューロンの働きって摩訶不思議ですね。というか脳の働き自体が
謎です・・・(もっと勉強しろってことかな)