MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

幹細胞移植は『神の意志』

2011-04-24 14:04:28 | 健康・病気

一昔前までは、脊髄の完全損傷の患者が
下半身の感覚や運動を取り戻すことは
全くありえない話だった。
しかし
胚性幹細胞を神経系の前駆細胞まで分化誘導し
脊髄に注入するという比較的単純な?発想で
脊髄損傷患者の神経機能を
回復させることができるのではないかという期待は
かなり以前よりあった。
しかし、ヒトの胚細胞を用いるこの研究に対して、
キリスト教信者の多い米国においては
倫理的、宗教的観点から反対意見も多く、
なかなか前に進むことができなかった。
胚性幹細胞研究に前向きなオバマ政権下となって
いよいよ昨年から、実際に脊髄損傷の患者に対して
胚性幹細胞を用いた治療の臨床試験が始まっている。
この臨床試験を
米国人はどのように受け入れているのだろうか?

4月15日付 Washington Post 電子版

Stem cells were God’s will, says first recipient of treatment 幹細胞は神の意思――治療を受けた最初のレシピエント

Stemcells

幹細胞とT.J.Atchison 君:ヒトの胚性幹細胞を用いて治療された最初の人物は、宗教的見地からしばしば非難されている同治療が神の意志の一部であると言う。

By Rob Stein
アラバマ州 Chatom――Timothy J Atchison 君が意識を取り戻したとき、暗い田舎道の脇の車の中、血まみれで動けなくなっていた。

Stemcells3

幹細胞を用いて脊髄損傷を治療する試み:医師らはヒトの胚性幹細胞から作製された200万個の細胞を Atchison 君の脊髄損傷部位に注入。これらの細胞はオリゴデンドロサイトに成熟するが、これらが神経線維の再生を促進し、喪失した髄鞘(神経の鞘で絶縁作用がある)に置き換わって神経系の伝達能を回復させる可能性がある。

「私は大量に血を流していました」と、Atchison 君(21才)は言う。高校卒業のお祝いに買ってもらった大破したポンティアックの窓から這い出ようとしたが、痛みで動けなかったという。
「自分がこのまま出血して死んでしまうのか、それとも助かるのか、わかりませんでした」
 それから、足が奇妙に大きくなったように感じたと、Atchison 君は言う。そして、完全に感覚を失っていた。彼は胸から下が麻痺していたのである。
 「私はただただ祈り、許しを請い、私を生かせていただいていることに神に感謝しました」と Atchison君は言う。彼は少なくとも1時間閉じ込められていたが、その後レスキュー隊に助け出された。「私は言いました、『これ以後、私は、以外の何ものでもない、ただあなたのために生きてゆきます』と。私はそれ以後落ち込むことは決してありませんでした。私を頑張らせてくれたものが何かわかっています――神が私を支えてくれていたのです」
 Atchison 君がそれからわずか7日後に別の衝撃的なできごとに直面したときも、そういった運命感が 彼を後押しすることとなった。医師らは、人の胚性幹細胞から作られた実験的薬剤を彼の身体に注入する最初の患者となることを希望するよう彼に依頼した。
 「私たちはただ愕然としていました」と、Atchison 君は言う。彼は、母親、祖父同席のもと研究者たちに話を持ちかけられた。「私たちは『ちょっと待って、本当に?』って感じでした。ちょっと畏れ多く思っていました」
 友人や家族には T.J. と呼ばれている Atchison 君は4月12日の Washington Post のインタビューの時にそのできごとを話してくれた。それはこれまで慎重に守ってきた自分の身元を Post 紙に明かして以来初めて行う詳細な説明だった。Atchison 君の話は最も注目を浴びている医学的研究の一つに対する刺激的な洞察が明らかにされるもので、皮肉とみられる内容も含まれている。道徳的および宗教的見地から非難を受けている治療が、その先駆けとなった第1号の人物とその家族からは神の意志の一部と見なされているからである。
 「それは単なる幸運や偶然ではなかったのです」と、Atchison 君は言う。彼は治療から6ヶ月後、それらの細胞が効果を発揮している最初の徴候を感じている。
 「そうなるよう運命づけられていたのです」

Revolutionary power 画期的能力

 2010年9月25日の事故は University of South Alabama's College of Nursing の後期中に彼が自宅に戻ろうとしていたときに起こったが、以前から彼は、身体のほとんどすべての組織に変化しうる胚性幹細胞の画期的能力と、さらに、その細胞を得るために数日齢の胚が壊されるための悪評について聞いたことがあった。
 「私は当時、今ほどはそれについて多くのことを知りませんでした。ただ、幹細胞がほとんどすべての病気を治すために用いられることは知っていました」と、Atchison 君は言う。彼が動かしている車椅子は、自分の車や他の多くの持ち物と同じように、University of Alabama フットボールのチームカラーである深紅色だ。
 主要道路沿いにファースト・フードのレストランの数より多くの教会がある小さな町でバプテスト教会員として育った Atchison 君だが、人間に対して胚性幹細胞を用いた治療の研究を行うという米国政府が認可した初めての臨床試験の立ち上げに協力することについて何ら道徳的呵責を感じていない。彼の脊髄に埋め込まれた細胞は不妊症の診療所で廃棄された胚から得られたものだったと、彼は言う。
 「それは生命ではありません。それは中絶された胎児やそれに類するものから得られたわけではありません。捨てられようとしていたものなのです」と、彼は言う。幹細胞がどこから得られるかを彼らから説明を受け、それを知った時点で、私は OK でした」
 あの事故の直後、Mobile にある University of South Alabama Medical Center  で、損傷した脊椎、骨折した鎖骨と小指、さらにはほとんどちぎれかけていた耳介を修復するために手術や他の治療を受けている間、Atchison 君は地元のペンテコステ派の教会の牧師と親しくなった。Atchison 君が治療を受けることに同意したことを翌週に知ったとき、その牧師は、彼の地域社会がどのような反応を見せるかを測りかねていた。
 「私はこう言いました。『これは一部の人たちには受け入れられないでしょう。死の脅しに直面するかもしれません。どのような反応になるかはわかりません』」、Reynolds Holiness Church(レイノルズ・ホリネス教会)の Troy Bailey 氏は4月12日にこう述べた。
 Bailey 氏によると、彼を含めて中絶に反対している人たちが胚性幹細胞研究を非道徳的であると考えていることを考慮して彼自身のスタンスを決める必要があると実感していたという。しかし、これらの細胞が、一度も子宮に着床しておらず、そのため胎児に発達する機会のなかった胚から得られたものであることから、Bailey 氏にもこの治療は受け入れられると結論づけた。
 「私はどのような形であれ中絶に対しては断固として反対です。今回のことで私は何が適正な答えであるかを聖書的に探索し調査しました」と、彼は言う。そして「この治療が行われるためにベイビーの命が損なわれることはないと実際に考えるようになりました」
 Atchison 君の幹細胞移植が行われた10月8日の次の日曜日にBailey 氏は彼の教会区に対して自身の結論を発表し、異論がある人は彼のもとに訪れるよう信徒たちに呼びかけた。しかし、彼によると、その町の誰からも苦情は聞かれなかったという。そしてその町は、Atchison 君の母親の家の周りに取り付け道路を作り、彼の車椅子用にコンクリートの通路を整備するなどして彼とその家族を支援した。
 Bailey 氏は日曜学校の3週間分の授業に、幹細胞についてと、経口避妊薬や遺伝子的に計画されたベイビーなど関連があると考えられる問題を取り上げた。
 「いかなる種類のばかげた理由で胚の採取を促進することはもちろんしたくないところです」と、Bailey 氏は言う。「そういったことから、一部の人たちはこのような問題についてもいくらか躊躇してしまうのです」

Critics’ denunciations 批評家たちからの非難

 この臨床研究に Atchison 君が参加することが、彼の友人たち、家族、近所の人たち、そして教会仲間の間であからさまな反対意見を招かなかったとしても、この研究は、科学者、生命倫理学者、あるいはこの研究を支持する人たちの間に激しい議論を招いただけでなく、道徳的理由からこの研究に反対する批評家たちからの非難をひき起こした。
 麻痺を起こして間もない患者に細胞を注入する段階に至るまでに十分な基礎的研究や試験が行われていないことを懸念する人がいる。腫瘍や厄介な疼痛を生ずるかもしれないという最大の危険性を考慮してこれらの細胞が有害ではないかと心配する人が多い。さらに、重度の障害を受け入れようと努力している患者が、そのような外傷からわずか2週間でこういった危険を伴う決断ができるかどうかいぶかしむ者もいる。
 もしどこか悪い方向に進んだ場合には――あるいは、細胞によって患者が良くなる兆候がなんら認められない場合であっても――本研究に対する連邦政府の補助金が法廷や議会において非難を浴びるような状況にあってはこの領域にとって大きな打撃になりかねない。
 Atchison 君はそんな懸念をはねつけ、リハビリテーションのために転院したジョージア州アトランタにある Shepherd Center での治療を選択した。Shepherd Center は10人の患者の臨床試験に出資しているカリフォルニア州 Menlo Park にあるバイオテクノロジー企業 Geron 社(ジェロン社)が募集した7ヶ所のセンターの一つである。
 Shepherd に来て3日後、Atchison 君がこの臨床研究の厳密な基準に合致しているかどうかを確認するために検査を受けるよう研究者らから要請された。
 Atchison 君は一人の女性医師に向かって、彼女がクリスチャンかどうか尋ねた。「私はこう言ったのです。『もしすべてが期待されているように進み、すべて良い結果が得られたとしたら、それは神のご意志です』」と、彼は言った。
 それでも、検査と眠れない夜を過ごしたその後の数日間、Atchison 君は危険性のことを考えずにはいられなかった。損傷した脊髄の中に約 200 万個の細胞を注入するために彼の背中を切開しなければならないことをわかっていた。
 「私は大けがを経験し、さらに今回、別の問題も進行中という状況でした。しかし彼らが全力で取り組んでくれたので、すべてはとんとん拍子に始まったのです」と、彼は言う。「みなさんも起きている時は常にそのことばかり考えているということがあるでしょう――同じように私の心をよぎっていたのです。『これが失敗することが果たしてあるだろうか?うまくいかないことが起こるのではないだろうか?』と…」

Keeping a secret 秘密の保持

 この治療を受けた後、Atchison 君は Shepherd Center で3ヶ月を過ごし、入浴、料理、あるいは自分自身の世話をどのように行うかを習得した。しかし彼はこの臨床研究に参加していることを秘密にしなければならなかった。たとえ、リハビリの仲間が再び歩けるようになるかもしれない幹細胞治療の希望を声にした場合でさえもである。
 「『やあ、その~、君が思ってるより身近なことかも。なぜならそれはもうすでに始まってるからね』そう彼に教えたい気持ちでした。」と彼は言う。「でも、その治療を私が受けていることで彼が気を悪くしてほしくなかった。この治療を受けたからこそ私が歩けるようになるに違いないとは思ってほしくなかったのです」
 副作用を調べるのが主目的なため、きわめて少ない量を投与したことを医師たちは強調していたが、既にそれらの細胞が自分を治してくれているように感じている。ラットを用いた研究では、細胞を移植された不全麻痺の動物が移動能力を回復しているのである。
 胸から下の身体の感覚と運動障害が生じて数ヶ月経っているが、この数週間、Atchison 君はごくわずかな感覚が戻り始めているという。ボーリング用ボールを膝から持ち上げると軽くなったと感じることができ、足の毛を引っぱると不快感を識別できる。また彼は腹筋力が増してきている。
 「それはつい最近起こったことです。それは少しずつですが徐々に改善してきています」と彼は言い、ネズミでは治療後9ヶ月までは運動の回復が見られなかったことを指摘した。
 Geron 社は Atchison 君のケースを話題にしようとはしない。同社は本研究の患者の検査結果を機密扱いにしている。
 「知らないままですとみんなイライラしてしまいます」と James Shepherd 氏は言う。彼は Shepherd Center の創設者である。「現時点では、うまくいっているとか、彼がいくらか回復しているとかいった感触を持つには時機尚早です。しかし社会全体も、病院につながれている患者たちも、ただ気になってドアを叩いてこう言います。『何が起こっているか教えてくれ』と」
 脊髄損傷の専門家たちは、Atchison 君のような患者はいくらか感覚と自力での運動を取り戻す可能性があるが、ただ一人の被験者の結果に基づいてこの細胞が有効であったかどうかを知ることは不可能であると強調する。こういった患者らの支持者らは、この研究に色めきだつ一方、誤った期待が高まることを懸念している。
 「私は人々に次のように警告します:これらの患者が車椅子から自発的に飛び出そうとしたり、そこら中を走り回ったりするような奇跡を期待してはいけません」。Christopher and Dana Reeve Foundation の理事の一人である Daniel Heumann 氏は言う。
 Atchison 君の事故は俳優だった Christopoher Reeve 氏(映画『スーパーマン』に主演、2004年に死去)の誕生日に起こった。彼は乗馬中の事故で四肢麻痺となり、幹細胞研究を支援してきた。
 「そんなことが起こることは到底信じられません」と、Atchison 君は言う。彼は伝説的な University of Alabama のフットボールコーチ Paul William “Bear” Bryant(ポール・ウィリアム・ブライアント【 “Bear” は愛称】)の額入りポートレートを二つ壁にかけている。
 「目を覚ますたび歩きたいと思ってしまうようなつらい時期がありました。しかしそういった時は過ぎようとしています」と、高校時代ソフトボールとフットボールの選手だった Atchison 君はテレビの ESPN(スポーツ関連番組専門チャンネル)に時々目をやりながら言う。
 現在、週に数回、Atchison 氏は筋肉へ電気的刺激を与えるためにサイクリングマシンを用いて下肢の訓練をし、彼の5フィート8インチの身体を保持し直立させる装置で立位をとっている。彼は両手で操作する車の運転を習得しており、魚釣りと七面鳥の猟を始めた。8月には復学を予定している。
 「私は毎晩祈っています。再び歩くことができるように。そして治療の効果があるよう願っています。自転車に乗ることと運動を続けるつもりです。そしていつか私は再び歩くことができるようになるでしょう」と彼は言う。「幹細胞に何ができるか皆さんも見たいでしょう」
 どのようにしてオフロード・カーに乗り、特殊装備の Chevy Cruze(シボレー・クルーズ)を操作するかを見せてくれた後、Atchison 君は自宅のそばで車椅子の向きを変えた。彼が飼っている一才になるヨークシャーテリアの Lilly はドアを飛び出し少し身体を斜めにして駆け寄って彼を出迎えた。
 彼女もまた自動車事故に遭い、そして回復していた――片方の後ろ足が不自由な以外は。

期待されている治療だが、
半年でぐんぐん良くなる、というものでは
ないようである。
米国における宗教的な問題は
我々日本人には
なかなか理解の及ばないところである。
日本でも、
この胚性幹細胞と、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の
両面で再生医療研究が進められているが、
人体での臨床研究には程遠いのが現状である。
安全性と有効性が確立されれば、
脊髄損傷だけでなく、脳卒中や認知症などへの応用も
期待できることになるだろうが、
そんな日は一体いつごろ訪れることになるのだろう?

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