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感染防御とアルツハイマー病

2010-03-18 20:33:15 | 健康・病気

アルツハイマー病については様々な研究が行われているが、
その決定的原因はいまだ解明されていない。
その機序の一つとして
βアミロイドといわれるたんぱくが脳内の組織に沈着し、
これが脳の神経細胞を死滅させる可能性が考えられている。
このたんぱくは正常人の脳にも存在するが、通常は
分解され蓄積することはなく、これまでこのたんぱくは
何ら機能を持たない老廃物にすぎないと考えられていた。
今回、このたんぱくが脳内で重要な役割を果たしている
可能性があることが報告された。

3月9日付 New York Times 電子版

Infection Defense May Spur Alzheimer’s  感染防御がアルツハイマー病を促進するのか?
By Gina Kolata

Amyloidbeta

18,500倍の拡大写真:アミロイドによって攻撃される病原細菌

 アルツハイマー病の元凶の一つとされているものは、脳によって適正に処理されない老廃物であるという以上に実際的な機能を持たないというのが長年にわたる一般的な考えだった。
 その物質はβアミロイド(A-β)と呼ばれるたんぱくで、壊れにくいプラークとして蓄積し神経間の連絡を破壊する。そうなると、人では、記憶力が失われ、人格が変化し、友人や家族を認識できなくなる。
 しかし、今回、このたんぱくが実際、予想外の機能を持っていることが Harvard  の研究者らによって示された。それは、細菌や他の微生物の侵入に対する脳の正常な防御の一部となっている可能性があるという。
 他のアルツハイマー病の研究者たちによると、PLoS One 誌の最新号に発表されたこの知見は興味深いものではあるが、それらがこの疾患の新しい予防法や治療法につながるかどうかは明らかではないという。
 この新しい仮説は2007 年夏のある金曜日の深夜に Harvard Medical School のある研究室で始まった。筆頭研究者で Massachusetts General Hospital の genetics and aging unit の部長であり、神経内科教授でもある、Rudolph E Tanzi 氏はアルツハイマー病と関連がありそうな遺伝子のリストを見ていたと言う。
 驚いたことに、多くは、感染に対抗するために体内で用いられる一連のたんぱく、すなわち、いわゆる自然免疫システムと関連する遺伝子にきわめて類似していた。このシステムは脳において特に重要である。というのも抗体は脳を保護する膜である血液脳関門を通過できないからである。脳に感染が起こったとき、それを防御するためにこの自然免疫システムに頼るのである。
 その夜、研究室恒例の週末のビールの時間が終わった後、Tanzi 博士は若手研究員 Robert D Moir 氏の研究室に立ち入り、彼が見ていたことについて話した。Tanzi 博士によれば、Moir 博士は彼の方を向いてこう言ったという。「それなら、どうぞ。これを見てください」
 彼は Tanzi 博士に一枚の表を手渡した。それは、A-βと、自然免疫システムとしてよく知られているたんぱく LL-37との比較だった。その類似性は異様なまでだった。
 とりわけこの二つのたんぱくが類似の構造を有していた。また、A-βと同じように、LL-37 は硬い小さな球状の形態として凝集する傾向がある。
 齧歯類では、このLL-37に相当するたんぱくは脳感染を防御する。LL-37 の濃度が低い人では重篤な感染のリスクが増大し、血流を阻害する血管壁の肥厚物である動脈硬化性プラークの程度が強まる傾向がある。
 この科学者たちは、LL-37同様、A-βが微生物を死滅させるかどうかを見極めたいと考えた。LL-37によって死滅することが知られているリステリア、ブドウ球菌、緑膿菌などの微生物と A-β を混ぜたところ、12のうち8を死滅させた。
 「長年行われてきたのとまさしく同じように、正確に分析を私たちは行いました」と、Tanzi 博士は言う。「そして A-β はLL-37 と同等の効果を示し、また、いくつかの例ではそれ以上の効果が見られたのです」
 さらに彼らは、髄膜炎の主な原因となっている真菌 Candida Albicans (カンジダ・アルビカンス)を、アルツハイマー病で死亡した患者の脳、および死亡に至るまで認知症のなかった同年代の人の脳、それぞれの海馬領域から採取した組織と接触させた。
 アルツハイマー病の患者からの脳のサンプルで、この真菌の殺効果が24%高かった。しかしあらかじめサンプルを A-β を阻害する抗体で処理した場合には、真菌に対する殺効果は認知症のない人からの脳組織と同様であった。
 Tanzi 博士によると、この自然免疫システムは、外傷による脳損傷、脳卒中、さらには脳血流の減少を引き起こすアテローム性動脈硬化によっても惹起されるという。
 そしてこのシステムは炎症により促進される。アルツハイマー病の患者にかつて脳の炎症の既往があることが知られているが、A-β の集積がそういった炎症の原因なのか、あるいは炎症の結果なのかは明らかにされていない。おそらく炎症に対する自然免疫システムの反応の結果 A-β のレベルが上がるのだろうと Tanzi 博士は言う。感知された感染に対してそういう形で脳の反応するのかもしれない。
 しかしそのことは、感染に対する過剰に強い脳の反応によってアルツハイマー病が引き起こされることを意味するのだろうか?
 損傷や炎症に対する反応や A-β のレベルを正常より高める遺伝子の影響と並んで、それは考えられる一つの理由ではある。しかし、A-β 自然免疫システム仮説のすべてが理にかなっているわけではないと指摘する研究者もいる。
 New York-Presbyterian/Weill Cornell hospital の記憶障害プログラム部長の Norman Relkin 博士は、その考えは“確かに興味深い” が、根拠に “少々乏しい” と述べている。
 感染との関連については、University of Virginia School of Medicine の副学長、学部長でアルツハイマー病の研究者 Steven T DeKosky 博士によれば、科学者たちはこれまで感染をアルツハイマー病に関連付ける証拠を探してきたものの、ほとんど何も手に入れることができていないと言う。
 しかし、もし A-βが自然免疫システムに一枚噛んでいるということに関して Tanzi 博士の考えが正しいとすれば、脳からこのたんぱくを排除しようとする治療の研究に対して疑問が生ずることになる。
 「A-βを壊滅させるようなことはしたくありません」と、Tanzi 博士は言う。「つまり私たちが必要としているのは、脳のための、スタチン(コレステロール降下薬)に相当するようなものです。それによってそのレベルを下げることはできてもスイッチを切ることまではしません」(Tanzi 博士は A-βを下げる試みを行っている Prana Biotechnology 社と Neurogenetic Pharmaceutical 社の二つの会社の共同設立者である)
 たとえ A-βが自然免疫システムの要素ではなかったとしても、それが脳内につくるプラークの硬い塊とともに、すべて取り除くのは良い考えとはいえないかもしれない、と Relkin 博士は言う。
 過去においては、“病因はプラークである”と科学者は推測していたと Relkin 博士は言う。そして今、プラークを取り除くことを(南北戦争の)Gettysburg の戦場で弾を掘り起こす作業になぞらえる。
 ある場所において弾丸の数が多いほど、戦闘がより激しかったということである。しかし、「弾丸を掘り起こすことがその戦闘の結末を変化させることはないでしょう」と彼は言う。「脳からプラークを取り除くことが一番重要なことであるとは信じているものはほとんどいません」
 しかしこの発見に関わっていない他の科学者たちはこの新しい知見に強い感銘を受けていると言う。
 「それはアルツハイマー病に対する私たちの考えを変えるものです」と、University of California, San Diego の実験的神経病理研究所の代表者である Eliezer Masliah 博士は言う。「私たちは A-βのそのような可能性について考えたことはなかったと思います」
 A-βの集合体が同一のメカニズムでバクテリアと脳細胞を殺しているのかもしれないという考えに Masliah 博士は興味をそそられている。Tanzi 博士には、後に正しいことが証明されることになるアルツハイマー病についての独創的な考えを思いついた功績がある、と彼は言う。
 「彼は重要な何かに近づきつつあるのだと思います」と Masliah 博士は言った。

今回の発見が即治療につながることはないかもしれない。
しかし現在決定的な治療法のないアルツハイマー病に対して、
当面は治療法の発見とともにその予防と進行防止にも
重点が置かれるべきであることを考えるとたいへん意義深い。
予防や治療の向上のために、
一刻も早い発症メカニズムの解明が望まれる。

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