MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

恐ろしい発作の原因は?

2017-12-20 16:40:54 | 健康・病気

12月のメディカル・ミステリーです。

 

12 月16日付 Washington Post 電子版

 

Doctors thought they knew the cause of a teen’s terrible seizures. So why didn’t he get better?

医師らは10代の若者の発作の原因がわかったと思った。それではなぜ彼は良くならなかったのだろうか?

 

By Sandra G. Boodman,

 Amy C.Hughes(アミ―・ヒューズ)さんは久々の贅沢を楽しみにしていた:フィラデルフィア郊外の自宅近くのレストランで友人とゆったりと過ごす平日のランチである。

 メルク社の技師である Hughes さんは、夫の Kevin さんと二人の子供たちと一緒に過ごすために2015年のクリスマスの翌週に休暇を取っていた。この夫婦の息子で当時13歳の Rion(リオン)君はクリスマスの日に風邪をひき、頭痛を訴えた。数日後、かかりつけの小児科医は副鼻腔炎を疑い、3日間内服する抗菌薬を処方した。

 「変わったところはないようでした」と Huehes さんは思い起こす。しかし、彼女がランチに向かった1時間後、夫から自宅に戻るようにとの緊急電話を受けた。警察車と救急車が自宅の前に並んでいた。救急救命士のチームが玄関から急いで出ようとしていたところで、彼らは彼女の息子に対して徒手での蘇生を試みていた。息子は目を閉じ、体は激しい発作に襲われていた。その時救急隊員らが、最善の努力をしても 25分かかる最も近い病院まで Rion 君がたどり着けないのではないかと心配していたことを Hughes さんは後で知った。

 それからの6日間、医師らは、これまで健康だった Rion 君が高用量の抗てんかん薬にも抵抗性であるようにみられた生命を脅かす発作を今回突然起こした原因の解明に努めた。

 その答えは、まれではあるが、拍子抜けするくらい単純なものであったことが判明する。そして、Rion 君は完全に回復したものの、彼の恐ろしい疾患から受けた精神的影響を母親が克服するまでにはさらに長い時間を要した。

 「約1年間は多くの不安がありましたが、今ではそれもなくなりました」と Hughes さんは言う。「他に何かできただろうかとあれこれ考えましたが、何もなかったのは確か、というのが答えです」

 

息子の Rion 君と Amy C. Hughes さん。息子の生命を脅かすようなてんかん発作は数日間原因不明のままで、抗てんかん薬に抵抗性のようだった。

 

‘Seemed like an eternity’ とてつもなく長い時間に思えた

 

 Rion 君を運ぶ救急車が大きな音をたてて発進し、Hughes さんと夫が車で後を追ったが、そのドライブは“とてつもなく長い時間”に感じたという。

 到着した病院では ER のスタッフが、Rion 君が薬を使っていたかどうかについて色々と質問を浴びせかけた。てんかん発作からは薬剤の過量摂取の可能性が示唆されるためだったが、CT検査では頭部外傷の所見や他のてんかん発作の原因は認められなかった。

 「私はこう言ったのを覚えています。『それをしなければならないことはわかりますが、私にこのことを聞いてくるなんて信じられません』と」そのように Hughes さんは言う。彼女の父親はかつて緊急室の医師をしていた。

 Rion 君には軽症型の自閉症と注意欠陥・多動性障害があると彼女はそのスタッフに話した;違法な薬物にどんなものがあるかということすら彼は知らなかっただろうと彼女は考えていた。

 コントロールに難渋した発作の重症度に加え、非常に長いその持続時間について医師らは心配した。彼らは、父親が Rion 君を発見し 911 に電話するまで1時間以上発作があった可能性があると考えていた。

 「彼らは繰り返しこう言いました。『彼が目を覚ましたときどんな状態になっているかはわかりません』と」と Hughes さんは思い起こす。「私は彼に脳の障害が起こることを恐れていました」

 彼は人工呼吸器につながれ、特別な治療が必要だったことから、この地域病院の医師は彼を Children's Hospital of Philadelphia(CHOP)に移送することにした。風でヘリコプターが飛べず Rion 君をヘリ搬送できなかったため、CHOPからの特殊チームが救急車で到着した。Hughes さんは45分間の移送中、息子の隣に乗り込んだ。

 発熱を伴い、強く鎮静された状態の Rion 君は小児集中治療室に入院し、髄膜炎などてんかん発作の引き金となり得る感染症を調べるため腰椎穿刺を受けた。彼は抗菌薬と抗真菌薬の注射を受けたが、脳脊髄液には感染は確認されなかった。

 Hughes さんはICUで息子のそばでその晩を過ごそうとした。「電気が消された後もそこに座り、あらゆるディスプレーモニターや絶え間ないアラームを見て思いました。『彼は死んでしまう』と」と彼女は言う。「私は過換気状態になりました。血圧は170/140となり、脈拍数はかなり高くなりました」医療チームは Hughes さんに、通りの向かいにある University of Pennsylvania の ER に行ってほしいと考えたが、彼女はそれには従わず CHOP 内の他の場所に設置された家族待機室に戻り、なんとか落ち着いた。

 その後の検査でも他の原因が特定されなかったため、医師らは Rion 君が human metapneumovirus(メタニューモウイルス)に感染していたと考えていると両親に告げた。これは、典型的にはきわめて幼少の人や高齢者に感染する呼吸器感染症で冬期に最も多く見られる。このウイルスは通常は病原性は低く、多くは治療しなくても数日で治癒するが、一部の患者では重篤な疾病を引き起こすことがある。

 その後数日のうちに、Rion 君には改善傾向が見られ始め、鎮静は中止となり、呼吸器が外され、一般の小児病棟に移された。

 彼に脳障害の徴候が見られなかったことに Hughes さんは大喜びした。彼女によると、軽度の協調運動障害があることを除いて、Rion 君は冗談を言うし“昔のままのように見えた”という。

 確実に彼が一人きりにならないよう、院内では Rion 君の両親、祖母、看護師が交代で彼に付き添った。しかし入院して6日目の朝6時、祖母と母親が目を覚ますと、Rion 君にはまさにてんかん発作の真っ最中だった。

 あの時、「私はパニック状態になりました」と Hughes さんは思い起こす。用量は下げられていたが、Rion 君にはまだ抗てんかん薬が使われていた。ウイルスは彼の身体から消えていたはず、と母親は思っていた。それなのになぜ彼にてんかん発作が起こっているの?と。幸いにも今回の発作は初回とは異なり薬で直ちにコントロールされた。

 数時間後、医療チームが回診に来たとき Hughes さんは医師らに質問した。ウイルスの一部は彼の身体にまだ残っているのかもしれないと考えているが、今後の経過については楽観的に見ていると彼らは彼女に説明した。4~6週のうちに脳のMRI検査を行うよう指示し、次の日に彼を自宅に戻す方針となった。

 「『彼は家に戻れない』と考えました。『真夜中に発作が起こり、呼吸が止まったらどうするのでしょう?』」と Hughes さんは思い起こす。

 

A frightening finding 恐ろしい結論

 

 Rion 君が病院にまだいるうちに MRI が行えないかどうか Hughes さんは尋ねた。彼女は勤務中の小児科医 Stacey R. Rose(ステイシー・ローズ)氏と信頼関係を築いていたため、Rose 氏なら承知してくれるだろうと思った。

 「Rion 君を自宅に戻すことが私たちの意にかなうかどうかについてお母さんと私は何度も話し合いました」と Rose 氏は思い起こす。ただ、あの時点で MRI を行うことにはいくらかリスクがあった。というのも、ICU での検査で Rion 君の腎臓に障害がある可能性が示されていたからである。そのため MRI で用いられる造影剤が腎機能を悪化させる懸念があった;従って待機することがより安全な策であると思われた。

 しかし 有益性がリスクを上回ると Rose 氏は判断し、検査を依頼した。

 その夜、Rion 君がまだ MRI 室にいる間に、待合室にいた Rion 君の父親のもとに一人の神経外科医が話しに来た。

 MRI 検査で、Rion 君の脳の硬膜下腔に広範な感染があり、脳と副鼻腔とを隔てている骨片を破壊していたことがわかった。この感染は empyema と呼ばれる膿瘍を形成しており、これがてんかん発作の引き金となっていたのである。硬膜下膿瘍の他の症状には頭痛や傾眠がある。

 抗菌薬が登場するまでは、まれではあるものの本疾患はおしなべて致死的だった。この病気は10歳から40歳までの男性に偏って多く、冬期に発生することが多い。

 Rion 君の父親によると、彼には頭蓋骨の内側で高まった圧を低下させる治療が必要で、病変部から感染を取り除くために洗浄しなければならないという。翌朝一番に手術を予定するが、もし状態が悪化すればもっと早くに行うと、その神経外科医は言った。

 その晩、Hughes さんは Rion 君の病院ベッドで眠ったが、「まるで次の発作の発生から彼を守ることができるかのように」彼を抱きしめていたという。幸いにも彼には発作はみられず手術は成功した。そして約一週間後 Rion 君は自宅に戻った。

 Hughes さんは、なぜ膿瘍を疑わなかったのかと医師らに尋ねたところ、この疾患が稀であるためと言われたという;後に彼女が知ったところによると、CHOP では冬にはほぼ一週間に1例はあるのだという。Rose 氏は、最初 CTで膿瘍が認められなかったのは造影剤を用いていなかったためと考えている;MRI 検査が本疾患の診断に用いられる最も確実な検査となっている。

 Rion 君がなぜ膿瘍を発症したのかは明らかでない。「一部の子供たちにとってまさに不運というしかなのだと考えています」と Rose 氏は言う。

 Rion 君の痛みに対する我慢強さが臨床像を複雑にしたのではないかと Hughes さんは考えている。「彼に尋ねたとき、頭痛はあると言っていました」と Hughes さんは言う。しかし、その痛みは市販の鎮痛薬でコントロールできたため、特別問題あるようにはみえなかった。Rion 君には、片方の目の上に腫れが認められ、これが膿瘍の症状であった可能性がある。しかし、彼が経口抗菌薬を内服するとほぼ消退していたのである。

 診断される前に Rion 君が退院していたとしたら何が起こっていただろうか?

 Rose 氏は慎重に言葉を選ぶ。「てんかん発作と発熱が続き頭痛が増悪していたでしょう。そして、その時点で治療のために戻ってきていたでしょう」と彼女は言う。「確かに不良な転帰となっていた可能性があります」

 彼女によるとその診断は医療チームを驚かせたという。「診断に疑問を持つことが常に重要であると思います。評価し直すことが大切なのです」と彼女は言う。

 Hughes さんは Rion 君の“最大の味方”でしたと、彼女は付け加える。

 息子が受けた治療をありがたく思うとともに、特に「私の心配を聞いてくれた」 Rose 氏にはこれからもずっと感謝の意を持ち続けるだろうと Hughes さんは言う。「彼女が彼の命を救ってくれたと心から思っています」

 

 

硬膜下膿瘍については、MSD マニュアル・プロフェッショナル版

“硬膜外膿瘍および硬膜下膿瘍”のページを参照されたい。

 

硬膜下膿瘍は、頭蓋骨のすぐ内側にある硬膜と

さらにその内側にあるくも膜との間に膿が蓄積した状態である。

硬膜下膿瘍は、通常は副鼻腔炎(特に前頭洞,篩骨洞,蝶形骨洞)が

頭蓋内に波及して生ずることが多いが、

中耳炎、頭蓋外傷または手術、まれに菌血症からも発生することがある。

病原体は嫌気性細菌であることが多いが、ときに混合性のこともある。

嫌気性レンサ球菌または Bacteroides 属を含む場合が多い。

ブドウ球菌は頭蓋外傷,脳神経外科手術,心内膜炎に合併するケースで

よくみられる。

腸内細菌は慢性の耳感染症からの波及時に多い。

細菌以外では、アスペルギルスなどの真菌や

トキソプラズマなどの原虫(特にHIV感染症患者)なども

膿瘍の原因となりうる。

5歳未満の小児の多くは細菌性髄膜炎が原因となる。

硬膜下膿瘍から、髄膜炎、皮質静脈血栓症、

あるいは、脳膿瘍に進行しうる。

膿瘍は急速に広がり一側大脳半球全体に及ぶこともある。

 

症状には、発熱、頭痛、嗜眠、

あるいは四肢の麻痺や失語などの局所神経脱落症状が

通常数日の間に進行したり、痙攣発作が頻発したりする。

また頭蓋内圧の亢進により嘔吐や眼底に乳頭浮腫が見られることがある。

無治療の場合には急速に昏睡に陥り死に至る。

 

診断は造影MRIまたは造影CTによる。

血液および採取した検体(膿)で好気性および嫌気性培養を行う。

 

腰椎穿刺で有用な情報が得られることはほとんどない。

頭蓋内圧が高い場合、脳ヘルニアを誘発する可能性があるため、

硬膜下膿瘍が疑われる場合は腰椎穿刺は禁忌となっている。

 

治療は、硬膜下膿瘍、および原因となっている副鼻腔炎に対し、

緊急の外科的ドレナージを施行する。

成人では穿孔を行う必要があるが、

乳児の場合は、泉門(まだ骨化が起こっていない頭蓋骨の

隙間の軟らかい部分)から直接膿瘍内に針を刺して、

膿を排出し頭蓋内圧を下げる。

抗菌薬は、培養結果に基づいて選択するが、

結果が出るまでに最初に投与する薬剤として

セフォタキシムやセフトリアキソンが用いられる。

どちらも連鎖球菌、腸内細菌、大半の嫌気性菌に有効だが、

Bacteroides fragilisには無効である。

Bacteroides属の感染が疑われる場合は、

上記にメトロニダゾールが加えられる。

黄色ブドウ球菌が疑われる場合は、

ナフシリンに対する感受性が判明するまでセフォタキシム、

またはセフトリアキソンを併用しながらバンコマイシンを用いる。

抗菌薬の効果の評価はMRIまたはCTで追跡する。

幼児の場合は特殊であり、併発する急性細菌性髄膜炎に対する

抗菌薬投与を考慮する必要がある。

発作に対しては抗てんかん薬の投与を行い、

頭蓋内圧を下げる治療を要することもある。

発熱を伴う激しいてんかん発作を見た場合、

本疾患の可能性を考慮しておかなければならない。

 

とにもかくにも、本ケースでは、

最初からMRIを行っておくべきだったと思われる。

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