MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

制御不能な自分の顔

2012-04-26 23:25:23 | 健康・病気

4月のメディカル・ミステリーです。
今回は割と簡単かも?

4月24日付 Washington Post 電子版

Medical Mysteries: ‘I opened my laptop and my eyes snapped shut’ 
メディカル・ミステリー:「パソコンを開くと私の両目はピタリと閉じてしまったのです」

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Liisa Ecola は現在の治療が始まるまで再び普通に見えるようにならないのではないかと思っていた

By Sandra G. Boodman
 Liisa Ecola は、自分がなぜ目を開け続けていられないのかを教えてくれる専門家の診察を受けるまでの時を心待ちに数えながら Capitol Hill にある自宅のリビングルームのソファーで横になっていた。
 この数ヶ月間、42才のこの運輸政策研究者は暗闇の中でも目を細めていた。診断に窮した検眼医は彼女に、中枢神経系に原因がある目の病気を専門とする神経眼科医を受診するよう勧めていた。Ecola は予約がとれ受診予定の決まった 2010年12月15日まで数週間待たなければならなかった。しかし、その前日、「パソコンを開くと私の両目はピタリと閉じてしまったのです」と Ecola は振り返る。恐ろしいことに、彼女の両目は一度に数分間ほどしか開けておくことができないことに気付いたのである。
 パニックに陥った彼女は予約を確かめるために専門医に電話をしたが、彼を受診することはできないだろうということがわかっただけだった。その診療室に彼女の記録はなかったのである。
 「私は本当に怖かったのです」と Ecola は言う。彼女が診断を求めてきた経過においてその時が最低の瞬間だったという。「脳腫瘍に違いないと思っていました」しかし、彼女の症状は、それほど重大なものではなく、はるかに治療の行いやすい疾患であることが判明したのである。翌日、彼女は運良く異なる領域の専門医の予約をとることができ、その医師が彼女の外出を妨げていた様々な奇妙な症状を説明してくれることになったのだ。
 それまでの数年間、Ecola は原因不明の間欠的な顔面のチックに悩ませられていたが、それが起こるとまるで何かひどい味を感じているかのように、顔面にしわを寄せていた。ストレスと関連があるように思われたので、Ecola は habit reversal training(HRT, ハビット・リバーサル訓練:チックと競合する運動、チックと同じ運動をゆっくり行う訓練)によって症状を軽減させる目的で行動療法士の治療を受けた。これはチックを止めるために、ストレス緩和のための運動を用いたり、意識的な努力を行うものである。2010年の初めころまでこの治療はおおよそ効果があり、Ecola は症状を抑えることができていたようだった。
 しかし、その年の夏、そのチックが増悪すると、彼女はさらに顔面に異常な緊張が頻回に起こることに気付いた。それはまるで、「私の眉毛、頬、そして顎に輪状に糸が結びつけられ、誰かがそっとそれを引っ張っているかのようでした」。その日のうちに彼女の顔面に痛みが見られた。
 その2,3ヶ月後、彼女は職場に新しい大きなコンピューターのモニターを購入したが、それを見るとき自分が目を細めていることに気が付いた。彼女の目はいつもより光に敏感になっていたようだった。「それがただひどくまぶしいからだとしか思っていなかったのですが、その後、夜にも目を細めているのに気付いたのです」と Ecola は思い起こす。
 しかし、最も注意を引いたのはほとんどひっきりなしに出るあくび(欠伸)だった。疲れていないにも関わらず、Ecola は一日に200回もあくびをしていた。職場でのミーティング中であろうと、夫との夕食の時間であろうとあくびをした。友人や職場の同僚、さらに時には全くの知らない人たちからも十分に睡眠をとっているのかと彼女は質問された。彼らに対して、彼女はちゃんととっているときっぱりと答えた。とりわけハイレベルの仕事の志願者が彼女を退屈にさせてしまったと言って謝罪したとき、Ecola は申し訳なく感じた。
 かかりつけの検眼医から受診を勧められた神経眼科医の予約診察を待つ間、目を細めることやあくびが出ることを鍼治療で減らせるのではないかと考えた。
 6回の治療も失敗に終わったあと、その鍼師は彼女に、記録をつけてみて、あくびや目を細めることを引き起こすような何かがあればそれを探し出すよう進言した。その 2,3週後、ミーティングの最中、両目を開けておくのがむずかしかったのだが、その後、Ecola が仕事をしている友人のオフィスに立ち寄ってひとたび話し始めると目を細めることが劇的に減弱することに気付いた。独り言を言っていることで頭がおかしいのではないかと思われることを懸念して、耳に携帯電話を押しつけたまま地下鉄まで歩き始め、電話の相手がいないにもかかわらずしゃべり続けた。電話に疲れると、今度はクリスマス・キャロルを歌った。ちょうど時期が11月だったからである。
 しかし、数週間後、彼女のこの対処法があまり功を奏しなくなっていることに Ecola は気付いた。彼女は早く退社するようになっていた。丸一日を職場で過ごすのはあまりに負担が大きかったからである。
 Ecola によると、例の神経眼科医がきっと病気の診断をしてくれるものと思っていたが、脳に何か重大な異常があることを告げられるのではないかと恐れていたという。緊急室に行くことについては全く考えなかったし、かかりつけ医にも電話しなかったと彼女は言う。というのも予約が取れるまで長い時間がかかるのが普通だったからである。

‘It’s pretty obvious’ 「一目瞭然」

 彼女の予約が取れていないと電話で告げられ動揺し打ちひしがれた Ecola は受付係に自身の窮状を説明し、助けを請うた。そこの医師に相談したところ、運動障害を専門にしている神経内科医に電話をするべきだと Ecola は告げられた。
 彼女は電話を置いて、George Washington University School of Medicine の神経内科に電話をかけたが、そこで彼女はチャンスを得た。一人の患者がキャンセルをしたため、その次の日の予約に空きが出たのである。
 そのような経緯で彼女は、運動障害コースの長を務める George Washington 神経内科の准教授 Ted Rothstein 氏の診察を受けられることになった
 彼は数分も経たないうちに何の病気であるのかを彼女に告げた。Ecola は良性特発性眼瞼けいれん(benign essential blepharospasm)だった。これは、異常な不随意な眼瞼のけいれんと、抑えることのできないまばたきを特徴とする神経疾患である。あくびや顔面筋の運動を伴う場合、その病態は Meige's syndrome(メージュ症候群)と呼ばれ、またの名を頭蓋顔面ジストニア(craniofacial dystonia)という。これらは診断名に関係なく治療は同一である。
 「もし、患者がまばたき、しかめ顔、そしてあくびが認められるといって受診してきたなら一目瞭然です」と Rothstein 氏は言う。もちろん他の原因をまず除外する必要はあるのだが…。
 これは 20,000人に一人の頻度で見られる疾患で、女性が男性の2倍の頻度である。筋運動の制御を司る脳の領域、すなわち大脳基底核の機能異常によって引き起こされるが、その機能異常の原因は不明である。
 National Eye Institute によると眼瞼けいれんを起こす患者の多くは突然に発症するが、一部の人たちでは徐々に生じることもある。Ecola もその一人である。そして、Ecola が気付いたように、会話をしたり、中には特定の作業に集中することで、症状の強さが一時的に減じることがある。
 本疾患の最初の記載は16世紀に遡る。フラマン人の芸術家 Pieter Bruegel(ピーテル・ブリューゲル)が明らかな顔面チックを捉えた人物画“De Gaper”を描いたのがそれである。何世紀もの間、患者たちは精神障害があると見なされており、施設に収容されることもしばしばだった。20世紀初頭までそういった見方が主流だったが、その後医師らは本疾患が精神医学的なものではなく神経内科的なものであると認識するようになった。(スコットランドの小説家 Candia McWilliam は新しい著書“What to Look For in Winter: A memoir in Blindnessw”で、眼瞼けいれんを持つ自身の厳しい試練を記述している)

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Wikipedia(http://nl.m.wikipedia.org/wiki/Bestand:DeGaper.gif)より

 Rothstein 氏によると、眼瞼けいれんは、しばしば腫脹を起こす眼瞼の炎症である眼瞼炎や顔面神経の刺激によって生ずる顔面けいれんなどと誤診されることがあるという。その他、向精神病薬の内服後に発現し、一時的な機能障害、時には永続性障害を起こす疾病で顔面チックを特徴とする遅発性ジスキネジーと誤診されることもある。Ecola はそのような薬剤を一度も内服したことがなかったことから診断はさほどむずかしくなかった。
 「彼女はこの疾患のストレスで参りきっていました」と Rothstein 氏は思い起こすが、「これはきわめて効果的な治療が可能な疾患です」と言って彼女を安心させたという。
 Rothstein 氏はパーキンソン病の治療に用いられる薬 アーテン Artane を処方するとともに、彼女の目の周囲に注射して筋を一時的に麻痺させまばたきを弱める Botox(ボトックス=A型ボツリヌス毒素)治療の専門家に彼女を紹介した。
 Botox 治療が始まるまでの一ヶ月間、果たして再び普通に見ることができるだろうかと疑問に思いながら彼女は自宅で過ごしていた、と Ecola は言う。内服薬は有効だったが、彼女のすべての症状を和らげることはなかった。食事をするときには目を開けておくことができなかったし、あくびは続いていて回数が減ることはなかった。
 彼女によると、3ヶ月毎に目の周囲に射たれた14ヶ所の痛い注射は“14回のインフルエンザの予防接種”のような感じだったが、この注射によって大きな違いが得られたという。
 諸症状の中では、あくびの抑制が最も難しいことがわかった。5人の神経内科医を受診したが、なぜ彼女が依然として絶え間なくあくびを続けるのか説明してくれるものはなく、Ecola は再び、ハビット・リバーサルや深呼吸訓練のために行動療法士のもとを訪ねた。かかりつけのカイロプラクターの提言により、彼女はマグネシウムのサプリメントを飲み始めたが、これには筋の機能を改善する作用が期待されるからである。これらの治療のどれが有効であったのかどうかは不明だが、数週間で毎日のあくびの回数は数百回から十数回に減少したと Ecola は言う。
 自身の病気とともに生活することは自身の修整が必要であることを意味した:Ecola はもはやきちんとコンタクトレンズを装着することはできない、また自分の顔が少し歪んでいることを自覚しているし、薬によって口が乾燥することも我慢している。歳をとるにつれ自身の疾患が悪化する可能性があることもわかっているが、最善の経過を期待している。もしそうならなければ、眼瞼の神経と筋の一部を切除する手術が選択肢の一つとして存在する。
 「こんなに早く診断され幸運に感じています」と彼女は言う。彼女が参加している支援グループでは、正しい診断が得られるまで何年もかかったり、別の疾患と診断され手術を受けたりした人たちの話も耳にしてきたという。「私はたぶん今も将来も同じように当たり前の状態にあるとは思いますが、それは以前の私の状況とは全く違っています。それでも、今私にできないことは実際にはほとんどないのです」

メージュ(Meige)症候群は
眼瞼の痙攣とこれに連動する口・下顎・頸部の
付随意運動を認める原因不明の症候群である。
特有のしかめ面顔貌を呈し、
まばたきが増加する(どこぞの都知事?)。
なお就寝時には症状は見られない。
記事中にもあるように男性よりも女性に多く(1:2)
40才以上の中高年に多く見られる。
本症は大脳基底核および脳幹の機能異常によって
引き起こされると考えられているが詳細は不明である。
眼瞼痙攣に対する治療として
3~4ヶ月毎のA型ボツリヌス毒素の局所注射が行われる。
薬物治療にはトリヘキシフェニディル(アーテン)、
ジアゼパム(セルシン)、クロナゼパム(ランドセン)、
バクロフェン(リオレサール)、
カルバマゼピン(テグレトール)、レボドパ(ドパストン)
などがあるが、決定的な効果は期待できない。
治療抵抗性の場合には、眼輪筋切除も考慮される。
命に関わることはないとはいえ、当人にとっては
実につらい病気である。

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