或る「享楽的日記」伝

ごく普通の中年サラリーマンが、起業に向けた資格受験や、音楽、絵画などの趣味の日々を淡々と綴ります。

社労士勉強進捗[7月度]

2006-07-31 06:25:52 | 150 社会保険労務士
一昨日の土曜日、社労士の勉強会に参加してきました。今年度の最終回。今年1月から7回開催したそうで、自分が参加したのはその内4回。今回のテーマは、労働安全衛生法、そして労働一般と社会保険一般。またまたレベルの差を痛感。メインの科目じゃないのに、みんなよく勉強してる。メイン科目と同じくらい細かいことまでちゃんと頭に入ってるから凄い。

参加して気づいたのは、みんなの顔つきに緊張が感じられたこと。やっぱりね。再受験組みにとっては、まさに背水の陣。まあ、あれだけやって、あのレベルに到達して、それで落ちたんじゃ、悔しさも並みでは収まらないだろうから。昨年の診断士の2次試験の前、自分の気持ちもそれに近いものがあったかなあ。自信がある分、怖さもあるって感じ。

その点自分は気が楽。緊張感はまるでなし。だって受かる気がしないから。これで受かれば楽だけど、そんなラッキーはない。勉強会に参加して分かりました、今年はまず無理。

いつものこととは言いながら、かなり落ち込んで。そのままの気分で打ち上げに参加。場所は広島の繁華街である電車通りに面した居酒屋。飲み会への参加は今回が初めて。みんなの話を聞いていると、FP(ファイナンシャルプランナー)や他のいろいろな資格を持っている人が多いのにビックリ。「まあ資格取得は道楽みたいなもんだから」と誰かが言っていたのが印象的。うーん、路線が違う。

なんだか酔いが回ってきたので、早々に途中で退散。広島駅まで歩いて帰る途中に写したのが、写真の京橋川沿いで営業しているオープンカフェ。梅雨が明けた開放感からなのか、みんな楽しそうだったなあ。はやく試験が終らないかなあ。

ということで、8月末の本試験まで、後ちょうど1ヶ月。頑張りますよ。やれるところまで。

ゼロハリバートン

2006-07-29 05:58:19 | 500 ファッション
ようやく梅雨が明けましたね。いやあ長かった。今年特にお世話になったのが、写真のゼロハリバートン、通称“ゼロハリ”のアタッシュケース。買ってからもう10年になるかな。所々キズがついたりヘコんだりして、かなり年季が入っている。でもそこが自分としては気に入ってます。

このアタッシュの利点は、雨に強いこと。どんなどしゃぶりでも水が中に入らない。完全防水。だから勉強用の参考書が濡れることもない。欠点は、物を取り出すのに、いちいち2ヶ所のラッチを外して開かなきゃいけないこと。それと、持っているのは軽量タイプだけど、アルミ合金製だからそれでも重いし、体に当ると実に痛い。これは電車通勤の場合、かなりのハンデ。

このブランドの名前が広まったのが、1969年のアポロ11号。そう、あの人類が初めて月の土地を踏むことになった宇宙船。ニール・アームストロング船長の有名な言葉、「これは一人の人間には小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」(That's one small step for a man, one great leap for mankind.)、なんていうのがありましたね。そこで月面採取標本格納器として使用され、月の石を地球に持ち帰った。いい宣伝になったんだろうなあ。

最近じゃそうでもないけど、買った当事はまだまだ珍しくて。特に飲み屋のお姉さんによくからかわれました。「何が入っているの?金塊?」って感じ。あまりによく言われたから、「いや、いつも札束を1億円入れて持ち歩いてるよ。ボスからいい女がいたら、交渉するように言われてるんだ。どう?交渉して欲しい?」なんて切り返してやりましたけど。(笑)

一番嫌だったのは、それから数年してブームがきて、ゼロハリや、その類似品等、銀色のアタッシュを抱えたビジネスマンが街に溢れた時。それからあまり持たなくなりました。でも最近じゃほとんど見かけないので、普通に持ち歩いてます。

Vanessa Rubin

2006-07-27 06:19:36 | 200 ジャズ
今日は米人のジャズ・ヴォーカリスト、ヴァネッサ・ルービンの紹介。実は彼女のアルバムを全部揃えてしまいました。何故かって?まあ気に入っているのは当然だけど、今買っておかないと、近いうちに廃盤になって、中古盤が高騰しそうな気がして。これまで随分痛い目にあってるからなあ。

彼女は1957年、クリーブランド生まれの49歳。学生時代にミス・オハイオに選出された程の美人。それは置いといて、まず声質が好きですね、伸びやかで透き通っていて。声量も程よくいい感じ。あまりフェイクがきつくなく素直で聴き易い。そしてほのかに色香が漂う。

それで、最近知ったのがHP。開いてみて驚いたのがトップページの写真。正直なところ何処のオバさん?かと思いました。良く見ると、確かに彼女。これはないよなあ、大事なページなんだから、ちゃんと写真を選べって感じ。HPの中には、例えばホワイトハウスのパーティでのブッシュ大統領とのスナップとか、いい感じなのもたくさんあるのに。

ということで、口直しに見てもらいたいのが、上のフリー画像とか下の2枚のアルバムジャケット。髪をアップにした方が似合うみたい。「Vanessa Rubin sings」(1995年)は、珍しくLAでの録音。ハーモニカのトゥーツ・シールマンスも参加。アルバムの出来はピカイチかも。一番のオススメ。「Language of love」(1998年)は、ジャズの原点に戻ったストレートアヘッドな作品でNY録音。

でもねえ、アーチストでアルバムを全部持っているというのは彼女だけ。10枚もないから大した事はないけど、ある意味“おっかけ”かも。もし来日したら、何処へでも聴きに行く覚悟はできてます。はい。勿論ツーショットの記念撮影を期待して。(笑)

Vanessa Rubin SingsVanessa Rubin Sings

Language of LoveLanguage of Love

SOGA

2006-07-25 06:13:20 | 100 中小企業診断士
いやあ、夏がもう目の前ですね。それにしても今年は梅雨が長い。普段ならもうとっくに明けているはずなのに。そんな中、一昨日も日曜日だというのに朝から雨。再値下げのバーゲンのDMに誘われて、夕方になって近くのショッピングモールへ。何か掘り出し物はないかなと、カミさんが食材の買物をしている間に、同じフロアにある食器売場をぶらぶら。

そこで見つけたのが、写真のガラス製の冷酒用徳利とおちょこ。「手づくり和(なごみ)工房 雪どけ」というネーミングに惹かれて。確かに外観がひとつひとつ微妙に違うし、模様が溶け始めた雪のイメージ。手に持った触感もなめらかでいい感じ。こういう時は、だいたい衝動買いですね。値段もセールでお手頃だったので、焼酎用のタンブラーと“おそろ”で購入。

さっそく土用の丑の鰻をサカナに、日本酒を冷やして一杯やりました。清涼感いっぱいでいい気分。製造者は愛知県小牧市にある曽我ガラス。HPを見ると、フラッシュを使っていたりして、なかなか凝っている。ブランドロゴが“SOGA”。海外へも展開していて、けっこう手広くやっているみたい。

見習診断士の職業病なのか、この会社に興味が湧いてさらに調べると、目に止まったのが、“ガラス五訓”と呼ばれる言葉。「ガラスのように表裏のない人間であれ」、「ガラスのように汚れず侵されぬ人間であれ」、「ガラスのように親しまれ愛される人間であれ」、「ガラスのように熱と練磨をかさねた人間であれ」、「ガラスのようにとけあい協力する人間であれ」。

うーん、ガラスつながりが憎い。語尾の“であれ調”も、レトロな雰囲気が渋い。こういうの大事なんです、会社経営には。なんて妙に納得しながら飲んだから、よけいに美味しかったのかも。(笑)

結婚できない男

2006-07-22 03:10:56 | 370 テレビ
7月からTVの新番組が始まりましたね。その中で毎週録画して見ている番組が、阿部寛主演の「結婚できない男」。「富豪刑事デラックス」とは趣向が異なるけど、結局はコメディ。やっぱりこれだなあ。

主人公の建築家、桑野信介のこだわり加減が、自分に似ているような気がして。外見も似てればもっと良かったのに。HPからの抜粋だと、「性格的に偏屈で皮肉屋。自分なりの美意識があり、他人の介入を許さない。ウンチクを語るのが得意。この性格を知ると女性は逃げていく。」ということらしい。TVを観て気づいた所だと、「住んでいるマンションの内装がシンプルでシック。料理は自分で作り、食材だけでなく、食器や包丁にもこだわりがある。」なんてところ。

圧巻は、クラシックオタク。オーディオにもこだわりが。流れる曲もショスタコーヴィチの交響曲第5番とか、前に紹介した、ワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の前奏曲とか、毎回趣向を変えてくれるから、そこだけ観ても面白い。

キャストもいいなあ。特に相手役で、女医を演じる夏川結衣。昔から気になってました。ただ今回の設定が、「恋愛には臆病で、趣味はパチンコ、マンガ喫茶、流行には疎い方。」ということで、服のセンスが最悪。それと彼女自身が、中年太り気味で、頬や首回りの贅肉が目立っちゃって、ちょっとねえ。惜しいなあ。まあ勝手に贅沢言ってる場合じゃないけど。

他では、高嶋礼子と高知東生の夫婦コンビ。高知はライバルの建築家役。これが根っからの遊び人という設定。ブログを持っていて、高級車を乗り回して、毎回違う若い女を連れて遊んでいる。いいですね、自分が実現できない夢を、ドラマの中でかなえてくれるっていうのは。(笑)

診断士実務補習第2期終了

2006-07-19 05:58:22 | 100 中小企業診断士
先々週の金曜日から始まった中小企業診断士の実務補習第2期が昨日終了。今回はこれまでと違って、連続8日間ではなく、変則の12日間。全日を費やす実働作業日は最初に2日、最後に3日の5日のみで、あいだの7日は自主学習期間。参加者の負担軽減が狙いみたい。確かに会社を休んだのは2日だけだったから、その意味では参加し易かった。

広島地区の参加者は全部で5名。全員がサラリーマンで、昨年の2次試験合格者。広島市4名と愛媛県松山市1名。前回参加者3名と新規参加者2名。嬉しかったのは、女性が1名いたこと。社会保険労務士じゃ普通だけど、診断士では珍しい。雰囲気が和むという点で良かった。

実習の場所は、前回と同じ広島市の市街地にある上の写真のRCC文化センター。今回初めて気づいたけど、ここは1Fが下の写真のような川沿いのオープンカフェになっていて、看板をみると、なんと店の名前が「earth orange いそしぎ」。なんだかシャレてるじゃん。グランドピアノが置いてあるし、夜にピアノ弾きのバイトでもしたい気分だったなあ。

さて肝心の中身、企業診断だけど、今回も各メンバーの専門分野がうまく散らばっていてバランスの取れたチーム構成。良いレポートが完成。でもさすがに正味の作業日が6日から3日になったことで、作成作業の忙しさは倍増。自分を含めて前回経験者がいたから良かったけど、初めての人ばかりだと、時間不足で最後にパニックになる可能性大。

振り返ると、時間的には厳しかったけど、2度目だし精神的には楽だったかなあ。疲労度も前回より軽い。最終の第3期の予定は9月。これが終れば晴れて診断士。でもねえ、この2週間、釣りの1日を除いて毎日こればっかり。社会保険労務士の勉強は手つかず。かなり不安が募ってます。


アジ

2006-07-18 06:45:41 | 400 釣り
先週の土曜日に、友人とアジ釣りに行ってきました。今年は土日に雨が多いですね。前回のキス釣りの日は、たまたま天気が良かったけど、その後はけっこう雨続き。それで先週もどうなるかと気にしていたけど、良い天気だったのでラッキー。日頃の行いは悪いのに。

今回の釣り場は、山口県柳井市沖の平郡島(へいぐんとう)近辺。初めて行く場所。広島から船で1時間半ぐらいかかったかな。行く途中に通ったのが周防大島、通称“大島”。下の写真に写っているのが本土と島を結ぶ大島大橋。昔はよく車でこの島に釣行して、その時にこの橋を渡ったものです。今は無料だけど、昔は有料。当時のことを思い出して懐かしかったなあ。

当日の釣果は、上の写真の35~45cmの大型アジが6匹。数は少ないけど型が良かった。実は今年は先週までほとんど釣れてなかったらしい。急拠乗船してきた友人に話を聞くと、先週まで2週連続ボウズが悔しくて、いてもたってもいられずまた来たんだとか。彼は10匹ぐらい釣ったので、まあ溜飲を下げたといったところ。今年はアジの回遊が遅れているんでしょうね。

それでビックリしたのは、乗船した9人の釣り客全員が電動リールを使っていたこと。時代は変わってるなあ。確かに水深が60m前後だから、ないときつい。でもねえ、全員とは。時代は進化してます。まあ昔は10万円近くしてたけど、最近では4万円前後で手にはいるし。かく言う自分も半年前に買ったばかり。なかったらホント手首が腱鞘炎になりそうだから。

それで家に帰って早速食べたのが、タタキとフライ。活きがいいのでタタキはいつも通り美味しかったけど、予想以上だったのがフライ。身が厚いんだけど柔らかい。こんなのこれまで食べたことがない。やはりこのぐらいのサイズになると違うなあと感心しました。


アヒルと鴨のコインロッカー

2006-07-14 06:03:27 | 010 書籍
昨日芥川賞と直木賞の発表がありましたね。また伊坂幸太郎はダメだったけど。もうそろそろ良かったのに。ちょっと可哀想。まあそれとは関係ないんだけど、今日は最近読んだ彼の小説、「アヒルと鴨のコインロッカー」(2003年)の紹介。これって初期の作品かな?と読了した時に思いました。何かしら若さと固さを感じたのかなあ。第25回吉川英治文学新人賞の受賞作。

時間軸の違う2つの話が並行して進行。彼の小説によくあるパターン。一つは、大学進学のために仙台のアパートに引っ越してきた椎名と隣人の河崎、もう一つは、ペットショップに勤める琴美とブータン人のドルジ、そして河崎が登場人物。

伊坂らしいスピードと切れのあるクールな展開。いつになくウンチクとギャグが少ない。ロマンティシズムも控え目。雰囲気としては「オーデュボンの祈り」。そこまで難解じゃないけど。二つの話と絡みちりばめられたトリックの関連性が面白くて、久しぶりの正統派?ミステリー小説。

登場人物では、河崎のキャラが良かった。人並み外れたルックス。天性の遊び人。次ぎから次ぎへと女性を誘い、隙さえあればホテルへ誘う。彼の言葉を借りると、それは“女性に愛を教える”行為。うーん、いいですね、この自己中感覚。言動が一致しているから素晴らしい。

でもその彼がHIVに感染してしまう。やっぱり手当たり次第っていうのは良くないのかなあ、と思っていたら、まったく関係ないけど、最後の方で“プラスマイナスゼロ“って言葉も出てきて。人間の人生って、長い目で見ると、誰でも、良いこと(good times)と悪いこと(bad times)が同じぐらいなのかも、という持論につながりました。

アヒルと鴨のコインロッカーアヒルと鴨のコインロッカー

ハービー・ハンコック(7)

2006-07-12 06:39:11 | 200 ジャズ
久しぶりのハービーの紹介。前回ピアノ・トリオというバンド編成の視点で紹介しましたが、今日はその続きでクインテットの紹介。と言えば、そうVSOP。ブランデーじゃないですよ。ジャズ界の大物が結成したスーパーグループ。まあ一世を風靡した60年代のマイルス・デイビスの黄金のクインテットで、マイルスの替わりにフレディ・ハバードを入れたというのが分かり易いかも。

正直言ってこのバンドは、聴く前からちょっと引いてました。何故かって?歌謡界で言えば、ピンク・レディーの再結成とか、そんなイメージ。どうも豪華メンバーによるナツメロ集的で、高橋圭三か玉木宏が司会で出てきそう。かなり古いか。素直に聴けばいいのにねえ。(笑)

VSOPはもともとハービーの発案で、1976年の一度限りの特別企画(Very Special Onetime Performance)の名前。なんと最初は大御所マイルスが参加する予定だったとか。いざ結成してみるとあまりに反響が大きかったため、そのままグループ名として定着。結局1979年の解散まで4年間活動。米国のサンディエゴ、サンフランシスコでの「The Quintet」(1977年)、伝説の田園コロシアムでの「Live under the sky」(1979年)等の有名なライブアルバムがあります。

だけど今日はあえてVSOPは置いといて、オススメはCTI時代のフレディ・ハバードの「Red Clay」(1970年)。メンバーは、VSOPからテナーがジョー・ヘンダーソン、ドラムがレニー・ホワイトに。タイトル曲はジャズロックの名曲。昔よく演奏したなあ。ハービーが弾くフェンダー・ローズがいつになく甘い。フレディはこの頃が一番脂が乗ってたような気がします。

この曲は村上春樹の小説「ダンス・ダンス・ダンス」(下)(1991年)の中で出てきます。主人公がこの曲をハミングしたり、口笛を吹いたり。

V.S.O.P.: The QuintetV.S.O.P.: The Quintet

V.S.O.P.: Live Under the SkyV.S.O.P.: Live Under the Sky

Red ClayRed Clay

フォーライフ(24)

2006-07-09 06:12:28 | 020 小説「フォーライフ」
◆探偵物語
佐藤はその日、まだ夜が明けないうちに目を覚ました。頭がぼーっとしている。昨晩も目が冴えてなかなか寝つけなかった。今日は奈緒美の夫を尾行していく日。たっての頼みということは分かっているが、どうも気乗りがしない。会社には、親戚関係の用事で断れないと、すぐにもバレそうな嘘をついてきた。仕事好きで有給休暇をほとんど取っていないから、こういうことでもないと取れないし、その意味じゃ良かったけどと思いながら、身支度を急いだ。

出張が多く京都には土地勘がある。神戸から自分の車で京都へ。事前に奈緒美に詳細な地図を書いてもらい、彼女のマンション横の指定された場所に停車。着いたことはメールで知らせてある。確かにここからだと、遠目に玄関が見えるし、周りに車が多いから怪しまれない。

しばらく車の中でうとうとしていると、携帯電話が鳴った。佐藤はドキドキしながら受話器を取った。

「今日はありがとう、もうすぐ二人で玄関に出るからね」「分かった、それで?」「夫が駐車場の方へ行ったら、すぐ佐藤さんの所へ行くから、後を追っかけて欲しいの」「了解だよ」

佐藤は俄然力が湧いてきた。面白いもので、奈緒美の声を聞くと途端に元気になる自分が分かる。目が冴えてきたところで、玄関に男女の姿が見えた。

あれが奈緒美さんの亭主か、なんかギョウカイっぽいなあ、画廊経営とかしてると、あんな風になるのかなあ、あれは浮気をするタイプ、間違いない。そう思うのもつかの間、奈緒美がこっちに向かって駆けてきた。助手席のドアを開けてすばやく乗ると、キリっとした表情でこっちを向いた。

「佐藤さん、おはよう」「ああっ、おはよう」「あの角を左に曲がったら、その先が駐車場だから、その手前まで行って待ってましょう」「分かったよ、任せといて・・・」

車が見えた。あせるな。近づき過ぎてはいけない。昔よくTVで見た、松田優作のヒットシリーズ「探偵物語」の主人公の姿が頭をよぎる。佐藤は自分が探偵になったような錯覚に陥っていた。俺は工藤ちゃん、いや佐藤ちゃんだ。ハンドルを握る手に汗がにじんできた。味わったことがない緊張感の中で、なんとも言えない快感が体の奥底から湧いてきた。

◆東寺
広之から、美和子と一緒に山陰へ旅行すると電話があった後、片瀬は真由美にそのことを伝えた。案の定、真由美は二人を尾行したいと言い出した。店なんて、臨時休業にすれば何でもないと。雇われママなんて、気軽なもんだなあと思いながら、JR京都駅で待ち合わせすることに。真由美の変態としか思えない考え方に、知らず知らずのうちに馴染んでいる。

当日の朝早く、神戸から来た真由美をJR京都駅でピックアップ。せっかく京都に来たんだからと、観光気分満々の真由美を連れて東寺へ。広之が京都南ICから名神高速に乗ると聞いていたので、途中で立ち寄るには都合が良かった。この寺の正式な寺名は教王護国寺。平安時代に、羅生門の東に建立されたのでこう呼ばれている。空海が唐より帰朝後、真言宗の道場としたことで有名。南大門から一直線に並ぶ伽藍は荘厳で、中でも五重塔は京都のイメージにまでなっている。

二人は広い境内を足早に散歩した後、車に戻り伏見方面へ急いだ。広之が来る予定の時刻のおよそ30分前、ICの入口近くのコンビニに到着。美和子に顔を見られないよう、裏の駐車場で待つことに。

「ねえ、なんかワクワクするね」「俺は、ワクワクじゃなくて、ドキドキだよ」「あら、片瀬さんにドキドキは似合わないよ、ドキドキはトキドキにしてね」「お前なあ、ダジャレ言ってる場合じゃないだろう」「そう言いながら、けっこう楽しんでるくせして」

複雑な気持ちが交錯する中、隣りの真由美はやけに嬉しそうだ。その横顔は、まさに悪魔に見えた。

「なんかね、ゴシップとドライブの両方がいっぺんに楽しめるなんて、なかなかないよね、こんなの」「・・・」「そう言えば、京都で会うの初めてだよね、片瀬さんの車に乗るのも初めてだし」「これは俺の車じゃないよ、会社のを借りてきたんだ、お前と会うのは、神戸だけで十分だよ、こっちじゃいつ知り合いに見られるか気が気じゃないからな」「へえー、意外に肝っ玉小さいんだ」

そう話している時に、片瀬の携帯電話が鳴った。広之から、駐車場についたとの連絡が。片瀬は車のエンジンをかけ、コンビニの横の通路まで移動。しばらくすると、買物を済ませた広之と美和子が店の中から出てきた。片瀬にとっては見慣れた顔だが、一緒の姿を見るのは初めて。夢でも見ているような錯覚を憶えた。

「なんかキレイな人ね、奥さんて」「・・・」「幸せそうな顔してるね、二人とも」「そうかあ?」「やらせにしちゃ、雰囲気良すぎるんじゃない?」「・・・」「あれはできてるよ、間違いなく」「そうさせたからな」「違うわよ、やらせじゃなくてホンモノってことよ」「お前なあ、俺を怒らせたいのか?」

じきに広之と美和子が乗った車が動き始め、片瀬は後を追う。その時、自分達と同じように後を追う、もう1台の車には気づかなかった。3台の車は名神高速に入り西に向かった。空に垂れ込めていた雲が薄れ、澄んだ晴れ間が拡がりはじめた。