十七音のアンソロジー★。・.:・゜'☆,。.:・゜'★

虚と実のあはひに遊ぶ  Since 2008 by Midori♡ H

河原鶸

2012-05-15 | Weblog
颯々と来しは老なり河原鶸    古田紀一

老いは、こんな風に突然やって来るものだろうか?
しかし、「颯々」と来た老いならば、受け入れてもいいような?
「河原鶸」の自己投影に、これからの「老い」に対する、
客観的な視線が感じられた。
「夏爐」主宰。「俳句」5月号〈作品8句〉より抄出。(Midori)


春宵

2012-05-14 | Weblog
春宵に屈託のなき酒を酌む    大輪靖宏

「春宵一刻直千金」の一刻とは、日本では2時間とされているが、
中国では百分の1日、つまりは14分24秒だとか・・・。
しかし、屈託のない酒を酌み交わすには、ちょっと短すぎる。
酒を酌む機会は、どこの世界でも多いけれど、屈託のない酒となると、
本当に少ない。作者のお人柄によるものも大きいのだろう。
「輪」主宰。「俳句」5月号〈作品8句〉より抄出。(Midori)

若布刈舟

2012-05-13 | Weblog
若布刈舟うねりの頂点にて耐ふる    西山 睦

海上のうねりの頂点に耐えたかと思うと、また頂点が来て耐える。
危なっかしくも勇ましい若布刈舟の動きが見えるようだ。
「駒草」主宰。「俳句」5月号〈作品16句〉より抄出。(Midori)

春時雨

2012-05-12 | Weblog
春時雨ヘッドライトを滴らす    石田響子

ヘッドライトに照らされて、細く金色に光る春時雨・・・。
しかし、写生の目が捉えたものは、そうではなかった。
「ヘッドライトを滴らす」に都会的センスが光っている。
「椋」代表。「俳句」5月号〈特別作品21句〉より抄出。(Midori)

雪解水

2012-05-11 | Weblog
手を繋ぎ声かけ合って雪解水    高野ムツオ

「手を繋ぎ」までは、連帯感の中にも華やぎが感じられるが、
「声かけ合って」となると、状況は随分変わってしまう。
3.11から1年が過ぎたが、「絆」という言葉通りの、
一年ではなかっただろうか。「雪解水」にそんな思いを深くした。
「小熊座」主宰。「俳句」5月号〈特別作品21句〉より抄出。(Midori)

鯉幟

2012-05-10 | Weblog
逸る尾を風が押へて鯉幟    鷹羽狩行

初節句の男子の祝いに、揚げられる鯉幟。
「逸る尾」の勢い・・・
それを、「風が押へて」
写生でありながら、メッセージ性のある句は流石だ。
「俳句」5月号〈特別作品50句〉より抄出。(Midori)

茄子の花

2012-05-09 | Weblog
無駄花に似たる一句や茄子咲けり   松倉ゆずる

実を結ばない茄子の花はないと聞く。
無駄花でも咲かせないよりはまし、
いつかは、大きな実をつけるかも・・・?
季語の斡旋によって、ユニークな一句となった。
「アカシヤ」主宰。2012年版「俳句年鑑」より抄出。(Midori)

金縷梅

2012-05-08 | Weblog
金縷梅のぐうちよきぱあと解けたり   永野由美子

まだ雪の残っている山中でも、まず咲くところから、
この名があるとも言われる金縷梅。
「ぐうちよきぱあ」という楽しい形容によって、
春到来の飾らない喜びが伝わってきた。作者の心もまた、
ぐうちよきぱあと、春へと解けて行くのだろう。
「阿蘇」5月号〈当季雑詠〉より抄出。(Midori)


芽吹き

2012-05-07 | Weblog
名城の四方より起こる芽吹きかな    武藤たみ

熊本は、みどりと水が美しい自然豊かな街。
今年4月、全国で20番目の政令都市となった。
今は、樹々の若葉青葉が美しい季節を迎えているが、
その芽吹きが、「名城の四方より起こる」という作者。
熊本市のシンボルである熊本城の樹々より起こる芽吹きに、
溢れるような活力が感じられて良かった。
「阿蘇」5月号〈雑詠〉より抄出。(Midori)

梅東風

2012-05-06 | Weblog
さきがけの梅東風すくむ家伝の太刀    本田久子

早春、東から吹く柔らかい風に季節の花の名をつけて呼ばれる「梅東風」。
ところが、梅東風にも、さきがけがあった。しかし、さきがけの梅東風が
何と「家伝の太刀」にすくんでしまったという。物語性のある句に想像が
膨らむ楽しい一句。「阿蘇」5月号〈雑詠〉より抄出。(Midori)

冬桜

2012-05-05 | Weblog
冬桜遠山脈にひらくなり    荒牧成子

辺り一面、冬枯れの荒涼とした景色の中で、
冬桜は、遥かなものにその花をひらく・・・。
「冬桜」と「遠山脈」だけの構図でありながら、
作者の美意識の高さが隅々に感じられた。
「ひらくなり」の断定が、静謐な情感を生みだしている。
「阿蘇」5月号〈雑詠〉より抄出。(Midori)

初音

2012-05-04 | Weblog
竹林の枷の解けたる初音かな    井芹眞一郎

今年も初音を思いがけない時に、思いがけない場所で聞いた。
それは、やっと本格的な春が来たことを知った瞬間だった。
竹林の内包する生命力が、初音によって一気に、
解き放たれた瞬間を、「竹林の枷の解けたる」と表出されて、
春到来の喜びがしみじみと感じられた。
「阿蘇」5月号〈雑詠〉より抄出。(Midori)

牡丹雪

2012-05-03 | Weblog
ぼたん雪尼僧のやうにをりにけり     平山紀美子

牡丹雪といえば、春らしい光も感じられる、ふんわりとして優しげなもの。
それが、尼僧のようだという作者。色白のふっくらとした尼僧だろうか?
牡丹雪から、尼僧の静かな佇まいが見えてきて、比喩の意外性が良かった。
「阿蘇」5月号〈雑詠〉より抄出。(Midori)

野火

2012-05-02 | Weblog
まなうらに野火のはしれる一夜かな
残照を分かつ舳先や鳥の恋
一燭のきらめきバレンタインの日
百年のひかり蔵して梅ふふむ     平川みどり


*「阿蘇」5月号〈雑詠〉に掲載されました

山火

2012-05-01 | Weblog
    心にもともして遠き山火かな    岩岡中正

遙かなるものを見つめている作者。それは山火であり、心にともる火・・・。
「3月11日、火の国探勝会、二句」の前書のある一句だが、あの東北大震災
から、ちょうど一年目に当たる日となった。現代科学が、自然の脅威の前に、
どれほど非力であったかを思い知らされた大震災だったが、人は決して諦める
ことなく、自分にできることは何なのかを模索し始めたのもこの日からだ。
「ともして遠き」のたたみかけるような頭韻に、深い詩情が感じられた。
「阿蘇」主宰。「阿蘇」5月号〈近詠〉より抄出。(Midori
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