熟(つらつら)監(かんがみ)るに、銭湯ほど捷径(ちかみち)の教諭(をしへ)なるはなし。其故如何となれば、賢愚邪正貧福貴賤、湯を浴んとて裸形(はだか)になるは、天地自然の道理、釈迦も孔子も於三(おさん)も権助も、産(うま)れたまゝの容(すがた)にて、惜い欲(ほし)いも西の海、さらりと無欲の形なり。
欲垢と梵悩と洗清(あらひきよ)めて浄湯(をかゆ)を浴れば、旦那さまも折助も、孰(どれ)が孰(どれ)やら一般(をなじ)裸体(はだかみ)。
是乃(これすなは)ち生れた時の産湯から死(しん)だ時の葬潅(ゆくわん)にて、暮(ゆふべ)に紅顔の酔客(なまゑひ)も、朝湯に醒的(しらふ)となるが如く、生死一重が嗚呼まゝならぬ哉。
式亭三馬の『浮世風呂』冒頭の一節です。
今日は、「たまにはいいか」と温泉施設でひとっ風呂浴びてまいりました。
思えば、私は昔からサウナ好きで、友人とサウナで待ち合わせなんてこともしばしば、朝方まで飲んで駅前サウナで酒を抜いてご出勤なんてこともよくありました。
普段小さな湯船で「お湯入れすぎないでよ、もったいないから」なんて言われながら入ってるより、せいせいと足を伸ばせる大浴場、高温サウナでこれでもかと汗をかいて、ぽっちゃり浸かる水風呂、とうぜんこちらのほうが気分がいいわけで、久しぶりにゆっくりと出来た気分です。
唯一難点といえば、風呂上がりのあのビールが車で行ったために味わえなかったこと、「今度は誰かを丸め込んで送り迎え付きで行こうか」なんて不埒なことを考えたりもしました。
大浴場といえば、今流行の温泉施設に行かなくとも、昔通っていた銭湯だってじゅうぶんに味わえるわけで・・・・・しかし、悲しいかな我が家の近くには全く存在しない施設になってしまいました。
♪ 貴方はもう忘れたかしら 赤い手拭 マフラーにして
二人で行った 横町の風呂屋 一緒に出ようねって 言ったのに
いつも私が 待たされた 洗い髪が芯まで冷えて
小さな石鹸 カタカタ鳴った 貴方は私の身体を抱いて
冷たいねって言ったのよ ♪
これを地で行くような生活が私にもあったんですよねぇ・・・若い頃。
なんだかとっても懐かしい(シクシク)
話は全く違いますが、大きな湯船の代名詞のごとく『ローマ風呂』と呼ばれるお風呂がそこら中に出来たことがありましたよね。(今もあるのかなぁ?)
あれも、昔の『ト○コ風呂』みたいに、間違った認識で出来たお風呂ですよね。
そもそも、『カラカラ』で有名なローマ式風呂というのはまさにサウナだったわけで、今で言えば通常サウナとミスト・サウナの組み合わせみたいなお風呂(最後に水風呂には入ったそうですけど)。映画『クレオパトラ』なんかにも出てくるあれです。
熱いサウナで毛穴を開いて、オリーブオイルを塗りたくって、ひっかき棒みたいなヤツでオイルと汚れを掻き落としたというそんなお風呂です。
『ローマ風呂』も銭湯のごとく社交場でもあって、おしゃべりやゲーム、賭け事、マッサージなんかして楽しんでいたそうでありますよ。(今の温泉施設そのものジャン)まさに『浮世風呂』ですね。
『ローマ風呂』に行くときは、ひっかき棒とオイルの器、それに冷水をかけるのに使った『パテラ』と呼ばれるとって付きのお皿みたいなものを、大きなキーホルダーみたいな輪っかに通して、ジャラジャラぶら下げながら通っていたのだそうで、ローマじゃ「ジャラジャラ」日本じゃ「カタカタ」
ローマで『神田川』がつくられたら、どんな歌詞になっていたのでしょうか(笑)
ともかく、遠くの温泉もいいけど、近くの銭湯もおつなものであります。
さて、今日の一枚は、風呂に入り直してビールでも飲みながら聴こうかと引っ張り出したスタンリー・タレンタイン、偶然にも46年前の今日、録音された一枚です。
ブルーノート4065番、この番も4052番「BACK TO THE TRACKS」同様、ジャケット・デザインまで決定していたにもかかわらずお蔵入りとなったアルバム。
どのような意図でライオンが未発表にしたのかはわかりませんが、この録音の一ヶ月後に「ミントンズ・プレイ・ハウス」に出演していたホレス・バーランのトリオのところへ、タレンタイン、グラント・グリーン呼び寄せ、クインテットのライブ録音を行い、4069,4070番「UP AT MINTON'S Vol.1,2」として発売しました。しかもリーダー名はタレンタイン。
察するに、バーランのトリオとタレンタインの共演をここで新たに取り直したとも考えられるわけで、今日のアルバムに何らかの不満があったのでしょうかね?それとも、トミー・タレンタインに不満があったとか・・・、でもだったら、最初からこのアルバムの録音をしなければ良かったわけで・・・・
欠番4065は後に日の目を見ました。私にはそれほど出来が悪いとは思えないのですが。
「SOMEONE TO WATCH OVER ME」なんて、飲んでいるときにはじつに良く合う一曲だと思いますよ。
COMIN' YOUR WAY / STANLEY TURRENTINE
1961年1月20日録音
STANLEY TURRENTINE(ts) TOMMY TURRENTINE(tp) HORACE PARLAN(p) GEORGE TUCKER(b) AL HAREWOOD(ds)
1.MY GIRL IS JUST ENOUGH WOMAN FOR ME
2.THEN I'LL BE TIRED OF YOU
3.FINE L'LL LASS
4.THOMASVILLE
5.SOMEONE TO WATCH OVER ME
6.STOLEN SWEETS
おまけ、
銭湯から、ケロリンの湯桶と瓶入り牛乳しか思い浮かばない、発想の貧困さに呆れております。
ま、今では聴けるんだからいいんですけどね。。。
でも、興味があれば忘れることもなかったでしょうから、彼にとってはそれなりの評価だったのかもしれません。
ともかく、ブルーノートだけでなく他のレーベルも含め、お蔵入りは無しにして欲しいものですよね。