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佐藤忠良「若い女」 旭川の野外彫刻(15)

2021年01月11日 08時11分16秒 | 街角と道端のアート
(承前)

 いよいよ北海道第二の都市・旭川のメインストリートである、平和通買物公園の野外彫刻を紹介していきます。
(この項は長文です)


 いまメインストリートと書きましたが、この通りが日本初の常設歩行者天国として1972年にオープンした後、多くの買い物客でにぎわった往時の様子からかなり変わってきていることは、このブログでも何度か書いているとおりです。
 旭川駅からまっすぐ延びるこの通りにかつてあった、西武と丸井今井の二大百貨店はすでになく、アート関係でいえばヒラマ画廊も移転してしまいました。

 それでも4条通(国道12号)まではまだ店が続いて、人通りもそれなりにあるのですが、そこから先は閉店中の店舗が多く、いささかさびしい状態です。


 ところで「旭川野外彫刻たんさくマップ」に掲載されている、買物公園設置の野外彫刻は、この「若い女」を含めて6点です。
 意外と少ない感じがします。

 2002年に買物公園のリニューアルが行われた際、彫刻の再配置が行われました。
 当時の北海道新聞の夕刊旭川版(3月28日)によると、この「若い女」は、後で紹介する七条通の中井延也「開拓のイメージ」、加藤顕清「婦人像・着衣」「婦人像・裸立像」とともに、リニューアル時もそのまま動かなかった数少ない作品です。
 この記事では、当時10点の野外彫刻があったことになっています。
 駅前の西武百貨店近くにあった、おなじ佐藤忠良の手になる「若い女・夏」が五条通に引っ込み、加藤顕清「母子像」が一時撤去の後に七条緑道に設置されたことなどを受けて、昔は旭川駅から数えて五つ目の野外彫刻であったこの「若い女」が、いまでは駅の最も近くに立つ作品になっています。

 なお、この記事などで「手」などの再配置に触れられていますが、奇妙なことに、多田美波「座標」(西武前にあったが現存せず)についてはまったく言及がなく、当時から関係者からも野外彫刻としてあまり認知されていなかったフシがあります。


 さて、買物公園全体の話はこれくらいにして、作品について少し触れておきます。

 旭川叢書『あさひかわと彫刻』には、当時は若手学芸員だった井内佳津恵さんが1987年4月16日の北海道新聞旭川版に寄せた文章が引用されているので、孫引きします。

ぴったりしたジーパンをはいた長い足、片方は軽くまげて腰にあて、片方は静かにおろされた細い腕、そのひきしまった筋肉を感じさせるゆるみのない線に加え、上向きの乳房の力強いかたちは、若い女のしなやかな生命感を主張している。



 「若い女」は買物公園のオープンを記念して北海道銀行が寄贈したものです。
 ブロンズ製で、高さ174.5 × 103.5 × 58センチ。
 作品自体の制作は71年です。

 全体をおおまかにみると、「~」の字を縦にしたようなゆるやかなカーブを描いており、単に突っ立っている人物ではない、動感に満ちた人物と空間を作り上げようという彫刻家の強固な意識が伝わってくるようです。

 そして、心持ち高く上がっている右肩にくっつけるようにうつむきがちに傾けた首が、けっして活力や元気一辺倒ではないこの作品の造形に適度な陰影を与えています。
 角度によっては、いささか斜陽がちな買物公園の様子を悲しげに見つめているようにも感じられてくるのです。


 考えてみれば、佐藤忠良の野外彫刻は、道内に非常にたくさんあるというほどではありません(数えたわけではないですが、本郷新に比べると少ないのでは)。
 にもかかわらず、釧路・幣舞橋の「道東の四季・夏」、札幌・大通公園の「若い女の像」、そしてこの「若い女」など、それぞれのマチに欠かせない景観となっているのは、すごいことだと感じます。

 それはやはり、この強固な造形意識のたまものといえるのかもしれません。


過去の関連記事へのリンク
・野外彫刻など
佐藤忠良「えぞ鹿」 ユカンボシ川河畔公園彫刻広場(2)
佐藤忠良「鎮魂の像」(夕張)

佐藤忠良「鶴」 釧路の野外彫刻(30)
「気どったポーズ」(網走)
「道東の四季・夏」(釧路)
「女・夏」(札幌芸術の森)
「緑」(新千歳)


・展覧会など
【告知】生誕100年 彫刻家佐藤忠良展 (2013)
生誕100年/追悼 彫刻家・佐藤忠良展-“人間”を探究しつづけた表現者の歩み (2012年)
札幌第二中学の絆展 本郷新・山内壮夫・佐藤忠良・本田明二(2009年)


彫刻家・佐藤忠良さん死去





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