まほろばの泉

亜細亜人、孫景文の交遊録にある酔譚、清談、独語、粋話など、人の吐息が感じられる無名でかつ有力な残像集です

「五寒」 生じて国家無し   08  あの頃

2024-07-05 16:14:49 | Weblog

[亡国とは]
 
“亡国は、亡国になってはじめて亡国を知る”と言います。 
国家の三要素である「領土」「民族」「伝統」を司るものは「人間」です。

清朝末期の読書人(知識人)、梁巨川の殉世遺言録の校録者であり、朝野の知識人の隠れた導師であった景嘉は
「人にして人でなくば、国は何で国と成りえようか」と述べ、

 序文において
「世界で発生するあらゆる問題、及び一国一家に生ずる一切の問題は、実は人の問題とは切り離せない」と、いうことである。

そして人の問題では、
「とくに東洋の伝統が主張する人格の問題がとりわけ重要である。 人格、人心、信義の重要さを知り、特に精神の独立、人格の独立、出たとこ勝負と己を偽り相手に従うことの不可、強いて相手を従わせることの不可を、心の深奥な所で反省することである」と、亡国に立ち至る人間の脆弱さを指摘している。





             




 また、インドの司法家で極東軍事裁判の判事を務め、彼独自の東洋的諦観から判決書を作成したラダ.ビノード.パルは敗戦に打ちひしがれた日本の女性に向けて

「 新しい環境に順応するには、社会は新しい生命力を必要としています。
そのために社会が最も期待をかけるのは、若い人たちの中でも、つまりあなたがたです。 現在のあなたがたは、知的にも道徳的にも最も感受性に富み、もっとも受容力の大きい時期にあります。

 学校教育から、本物と偽物を見分ける能力、お国の将来を形成していく力についての知識を得てください。
特に宣伝に惑わされない判断力を得てください。


            



 わざわざこう言うのは、宣伝(政治 経済 教育)が大衆を支配するため案出された実に警戒すべき手段だからです。
ほとんどの大国が宣伝省をもち、有能な人を宣伝大臣に任命していることでも、その強力さがわかります。 宣伝の恐ろしさは、絶えず感情に働きかけ、知らず知らずのうちに、自分の本性とは矛盾する事を信じ込まされることにあります。

皆さん一人のこらず、どんなことに出会っても、勇気と優しさと美しい魂とで、処理してください。
皆さん一人のこらず 世界を歩む美女は何万といるが、どんなに飾り見せびらかしても、彼女  の完全な美しさとは比べようもないと、尊敬をもって言われるように行動されることを願っています」
 
 このように敗戦によって西洋の文化が一挙に流れ込む状況と、有史以来、はじめて敗戦という状況に追い込まれた男子の呆然自失した姿と、男女それぞれの特性を調和させて来た伝統と文化の衰退を見越したパルの、日本女性に対するささやかな提言と、たおやかな特性にたいする依頼でもありました。

  また、昭和41年来日した折り時世を的確に観察して、こうも述べている。
「…現在、世界中で西洋化が進行しています。この西洋化は進歩に付随する現象でしょうか。それとも、古代文明が示すように崩壊の兆候に過ぎないものでしょうか。
ギリシヤ、インド、バビロン、中国などの文明の歴史を大観してみると、文明の発達を図る基準は、領土の拡大に見られる環境の征服や、技術の進歩に見られる自然の征服ではないことが証明されている。

 我々の聖者マハトマ.ガンジーは、この西洋文明の宿命を予見していました。 そして、インドが自らを救おうとすれば、現代の西洋の技術と西洋の精神を排斥しなければならない、という結論に達したのでした。
この精神のシンボルが糸つむぎ車(カダール)です。
彼はインドのすべての男女に自国産の綿を手で紡ぎ、その糸を手織りにした綿布を身につけるように説きました。
インド国民の熱意とエネルギーを物質的行動から精神的行動面へと切り替える必要性の象徴だったのです」

大英科学振興協会々長 サー.アルフレット.ユーイングの言葉を引用して、
「科学は確かに人類に物質的な幸福をもたらした。だが、倫理の進歩は機会的進歩に伴わず、あまりにも豊富な物質的恵みを処理できずに人類は戸惑い、自信を失い、不安になっている。引き返すことはできない。 どう進むべきであろうか」
 
最後に、現在を推察したかのように 
「産業化と民主主義という新しい推進力は、全人類の利益のために、新興力が自由に活動できるような、全世界を打って一丸とした社会を建設するのに用いられるでしょうか。
それとも、われわれはこれから、歴史上に比を見ない強力な新しい力を、大昔から存在している戦争、部族主義、奴隷制度などに悪用して、全人類、自滅の方向に向かっていくのでしょうか」 と結んでいる。



              



 辛亥革命を成功させた孫文は神戸女子校における大アジア主義の演説のなかで
「日本は西洋覇道の犬となるか、それともアジアの王道の干城となるか、あなた方は日本人が真剣に考えてください」と日本人に問い、日本の進むべき方向を明示しています。
 そして東洋の言うところの「王道」の優越性を唱えています。
 
 なぜ、社会の衰亡や堕落の行き着くところ、亡国の徴のなかに「女」があるのでしょうか。
それは、景嘉やラダ.ビノード.パル、そして孫文が唱えた歴史の真理、真実からの語りかけに、女性にかかわる大きな意味が内包されているからです。





              岩木山神社



 歴史の表現の中では、戦争、革命、あるいは政治、経済、教育といった分野の大部分は男性の表記が圧倒的に多いようです。
とりわけ、名利位官が男性に集中したわけではないのですが、今流に言う男女均等からすれば不満が吹き出したはずですが、近代になるまでそれほど目立った表記はありません。

“雌鳥が刻を告げるようになると、国は乱れる”などといわれ、ひどい俗表現では
“女が頭に立つとロクなことがない”とか、近ごろでは“オバタリアン”と揶揄されるような表現も出て来ました。

以下次号

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