ドラムとサックスのデュオは即興ジャズの演奏形態の中で最も単純で最も鋭利なバンド編成だと思う。ロックで言えばハーフ・ジャパニーズ、レッド・クレイオラ、ホワイト・ストライプス、後期チャットモンチー、TADZIO等ドラム+ギターのバンドを思わせるが、サックスは楽器であると共にヴォーカルでもある点で、それらよりも徹底したミニマリズムとストイシズムを貫いている。筆者の好きなドラムンサックス編成は、マックス・ローチ+アーチー・シェップ、ハン・ベニンク+ペーター・ブロッツマン、豊住芳三郎+阿部薫、ウィーゼル・ウォルター+クリス・ピッツィオコス、さらにはSAX RUINSなど枚挙に暇はないが、個人的偏愛度で言えばラシッド・アリ+フランク・ロウの『デュオ・エクスチェンジ』にとどめを刺す。1943年テネシー州メンフィス生まれのテナー・サックス奏者フランク・ロウの実質的なデビュー作と言える本作は、1933年生まれのドラマー、ラシッド・アリと丁々発止のインプロヴィゼーションを繰り広げるハードコアジャズ史に輝く爆裂作である。
Rashied Ali / Frank Lowe 『Duo Exchange』
(Survival Records – SR 101 / 1973)
Kastenfaul / カステンファウル
そんなドラムンサックスの系譜に新しいバンドが加わった。トルコ・イスタンブールで活動する『KASTENFAUL/カステンファウル』である。今年4月初頭ブログ『あうとわ〜ど・ばうんど』のJOE氏のツイートで知ってBandcampで聴いてみたところ、かなり硬派のハードコアジャズ。メンバー写真もバイオもないトルコ発の謎のプロジェクトに魅惑された。さっそく問い合わせフォームで連絡を取ってメンバーとコンタクトすることが出来た。
https://kastenfaul.bandcamp.com/
《Biography》
Kastenfaul / カステンファウル:
Ali Onur Olgun / アリ・オヌル・オーグン : tenor saxophone
Ozan Aktuna / オザン・アクトゥナ : drums
二人組フリー・インプロヴィゼーション・バンド。それぞれ異なるジャンルの異なるグループで活動していたが、5年前からデュオとして一緒に演奏を始め、2018年本格的に作品を出版しツアーをスタート。Bandcampで2作のEPをリリース、イスタブールを中心にライヴ活動を行っている。バンド名は「doing a faul (false) deliberately=意図的な虚偽」という意味。
《Discography》
KASTENFAUL『-』
2018.3.29 release
1. 7m1 04:49
2. 7m2 02:28
深入りバーヴの中から立ち上がるサックスとドラム。鳥と木々が戯れるように絡み合い、飛び立ち、取り残され、木霊し睦み合う。循環呼吸で狭い音域を蛇行するフレーズを紡ぐサックスは、倍音に震える音波を放ち、地べたを転がるドラムのロールと抜きつ抜かれつの鬼ごっこに興ずる。
KASTENFAUL『*』
2018.6.26 release
1. YT1 03:47
2. YT2 05:00
3ヶ月ぶりの第二弾EPで、サックスは一ヵ所に座り込んで単音のロングトーンで、時に拉げ時にひっくり返りながら叫び続けることを諦めない。細かいロールで応えるドラムの慈愛はサックスに届いているに違いないが、トラックが変わっても続くヒステリックな嗚咽は、本能のママに泣き喚く赤ん坊の無防備を真似ている。
いずれも5分以内の演奏の小片に過ぎないが、フランク・ロウとラシッド・アリの共演の随所で聴けるアクメチックなクライマックスを抽出した硬派即興演奏が展開される。ドラマチックな面は未だ開示していないが、自然の侭に楽器を通じて気持ちを吐き出し続けるストイックな行き方は、有機音楽の発生の地アルメニア上空に漂う雲ではない。現場に居ても、否むしろ居ないことで、無から有を産み出そうとする意志の力に圧倒される。
果たして彼らがこの先どのような演奏を形にして残すことになるかは誰にも分からないが、逸る気持ちを抑えて、トルコ発『ジャズ来るべきもの』をじっと野に伏して待機する謙虚なハンターのリスニングスタイルを身につけて日々を過ごしたいものである。
未知の土地
草木も騒ぐ
虚偽の意図
ドラムのOzan Aktunaとテナー・サックスのCihan Gülmezとのデュオがコブラ。コチラも野獣を野に放つかのような覚悟を決めた極端ジャズ。
KOBRA & Can Mekikoğlu (Haymatlos Mekan, 28.04.18)