A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

ペーター・ブロッツマン+ヘザー・リー+灰野敬二@六本木SuperDeluxe 2018.4.27 (fri)

2018年05月02日 00時59分47秒 | 灰野敬二さんのこと


ブロッツマン/リー/灰野敬二 
BRÖTZMANN / LEIGH Japan Tour 2018


開場 19:30 / 開演 20:00
料金 予約3000円 / 当日3500 (ドリンク別)
出演:
ペーター・ブロッツマン(サックス)
ヘザー・リー(ペダルスチールギター)
灰野敬二



中学生の頃ペダルスチールギターを買おうと思っていた。ラジオで聴いた洋楽に憧れてギターを弾きたいと思って訪れた楽器屋にあったテーブルのような弦楽器の威容に、他人と違うものに惹かれる自意識過剰な少年は魅了されたのだ。弦を指で押さえなくても弾ける手軽さと、ペダルで音を変化させられるなんてシンセサイザーみたい、などと勘違いして本気で買おうと考えたが、一台10万円近い高額だったので諦めるしか無かった。70年代半ばの日本ではハワイアンやカントリーウェスタン専門のスチールギターが普通に楽器屋に並んでいたのである。そのときスチールギターを買っていたら、パンクやプログレをやることは無かったかもしれない。いや、もしかしたらスチールギターパンクスとして華々しくデビューしていたかも。

そんな筆者の妄想を身を以て実践するのがヘザー・リーというアメリカ出身女性アーティストである。スチールギターの不安定な音程を逆手にとった即興演奏は、心のゆらぎをそのまま音に転化した「イントロスペクション(内観法)」に他ならない。リーの奔放な歌声も過激さよりもエレガントに体内に蓄電されたアドレナリンを放電する。そんな「Calm(穏やか)」で「Fragile(こわれもの)」に見える彼女の世界が、「鉄人」「サックスのヘラクレス」と呼ばれる猛者ペーター・ブロッツマンの肉体派プレイと合体するとは意外だった。しかし2015年の初共演以来、二人はレギュラー・ユニットとしてツアーしCDを3枚リリースして来た。今年は3〜4月に灰野敬二を加えたトリオでヨーロッパツアー、そして4月はデュオで初の日本ツアーを敢行。日本の後はオーストラリア・ツアーだという。

10公演に亘る日本ツアーの最終日は灰野敬二をゲストに迎えたスーパーデラックスらしいプログラム。ヨーロッパツアーで培ったトリオ演奏への期待に満場の観客が集まった。組み合わせを変えて3セット、のべ約2時間の演奏。

■ 灰野敬二 × ペーター・ブロッツマン


ブロッツマンがテナー、灰野がドラムでスタート。豪快なブローに居合い抜きの打撃音が切り込む鋭角的な演奏。灰野がギターに持ち替え歪んだトーンで雷のように絡み、時に生々しいヴォーカリゼーションを聴かせる。ブロッツマンは動ずること無くバラード調の朗々としたメロディーを吹き続ける。最後に灰野がマイクをパーカッションのように叩き体内の鼓動で激情を突き上げる。

■ 灰野敬二 × ヘザー・リー


水が滴るようなスチールギターとエレキギターの爪弾きが厳か響く中、リーのファルセットヴォイスが天を舞う。しかしそれは天使の囁きではなく、遠い峡谷から木霊する邪神の呼び声のよう。聴き手の皮膚を通過して血液を濾過する静寂の嵐は、じわじわと心の臓に浸透し時間感覚を狂わす微睡みの中へ沈没していく。筆者の心の奥から10年以上前に早稲田ジェリージェフで観た灰野のソロライヴの感覚が蘇って来た。

■ ペーター・ブロッツマン × ヘザー・リー × 灰野敬二


ブロッツマンとリーのデュオでスタート。これまでの音源でも聴ける、サックスの咆哮とスチールギターのドローンが共存するメディテーショナルな演奏。灰野が二管の笛で加わり、素朴な音色で瞑想を自然界へと解放する。おもむろに「義務」についての灰野の弾劾の言葉が発せられ、瞑想の鎖が断ち切られる。覚醒した演奏家は徐々に音量と意志の鬩ぎあいを高めていくが、感情のままに轟音の嵐に突入すること無く、厳かに儀式の締めくくりの鎮魂歌が奏でられ、強固な意志の交わりは終焉を迎えた。アンコールの拍手は無かった。

来年78歳を迎える鉄人ペーター・ブロッツマンの創造の泉は若きヘザー・リーとの出会いによって新たな湧き水に潤っている。灰野の他にも大友良英、豊住芳三郎、本田珠也等と交歓した日本ツアーが彼らの今後の活動にインスピレーションを与えたことは間違いない。創造行為は年齢ではなく、魂の触れ合いによって深化するのだから。

Peter Brötzmann / Heather Leigh / Keiji Haino world premiere Porgy&Bess, Vienna, Austria 2018-03-30


流れ出す
創造の川の
水面かな

【灰野敬二ライヴ・スケジュール】


5月3日(木祝)東京 高円寺ShowBoat
灰野敬二 生誕記念公演 不失者
開場 18:00/開演 19:00
前売¥4,300/当日¥4,800(税別・ 別途ドリンク代¥ 600)
【出演】不失者 Fushitsusha




7月6日(金)六本木SuperDeluxe
<不失者はここから始まった>
灰野敬二
白石民夫

詳細COMING SOON
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1 コメント

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奇跡 (haragaki)
2018-05-02 21:56:52
ドラム演奏やマイクパーカッション、まさか観れると思ってなかったヘザーとのデュオ・・。変な言い方ですが、往復400円くらいの交通費でこれらが体験できるのが凄く贅沢に感じました(笑)。

御多分に洩れず、ジャンデック経由でヘザー・リーの存在を最近やっと知ったへっぽこリスナーとしては、「この人灰野さんと共演しないかなあ・・」と漠然と思い描いてた夢がこんなに早く、こんなにあっさりと実現してしまったことにこのうえなく興奮しております。だって、これでヘザーは、ジャンデックと灰野敬二という<世界最前衛>アーティストの両極と共演した、おそらく世界で唯一の人間になったんですよ! いやあ、筆舌に尽くし難いなあ・・。
こうなると残るはいよいよジャンデックと灰野さんの共演なんですが、いかんせんこればっかりはねえ・・。奇跡の到来を気長に待ちたいと思います。
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