
ドクターズ・オブ・マッドネス Doctors of Madness やアンド・オールソー・ザ・トゥリーズ And Also The Trees やザ・チャーチ The Churchほどではないが、80年代半ば学生時代に偏愛していたレコードがザ・デコレーターズ The Decoratorsの『Rebel Song(反逆者の歌)』だった。リリース元のRed Flame Recordsは、やはり筆者が偏愛していたオーストラリアのフリージャズ的パンクバンド、ラフィング・クラウンズ Laughing Clowns をイギリスで配給していたレーベルで、他にもゴシックポップのアーテリー Arteryやシンセポップのアン・クラーク Anne Clark等良質なポストパンクをリリースしていたが、Rough TradeやCherry Red、Factoryなど大手インディーズに比べてB級のイメージがあったためか比較的安価で入手できた。1984年夏に吉祥寺DIsck Inn2で購入した『Rebel Songs』はミニアルバムとはいえ新品で580円という特価だった。ヴォーカルのどこか突き抜けたようなデカダンな歌い方と哀愁のあるメロディが印象的で、サックス入りのジャングリーなギターロックにも心が惹かれた。ジャケット写真のポスターが封入されていてお得感はあるが、何故かどこにもメンバーの名前が書いていない。車に乗った痩せぎすの男性がヴォーカルだろうと思ったが、何人組かもわからないまま、年に数回思い出すようにターンテーブルに乗せる程度だが、30数年間聴き続けてきた。
THE DECORATORS rebel song 1983
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2016年にフルアルバム『Tablets(錠剤)』を中古盤で安く見つけたときも、特に昂奮することもなく取りあえず買っとこうかという感じだった。聴いてみて『Rebel Songs』ほど琴線に触れることはなかったが、歌声には抗し難い魅力を感じた。いきなりガーン!と来るハードドラッグではなく、後からじわじわ効いてくるソフトドラッグのような魔性の歌。ルー・リード Lou Reed(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド Velvet Underground)やの ピーター・ペレット Peter Perrett(オンリー・ワンズ The Only Ones)の影響を受けていることは明らかだが、彼らほどの重みはなく、街のツッパリ兄ちゃん風のヤサグレ感に親しみを感じる所以だろう。イアン・マッカロック Ian McCulloch(エコー&ザ・バニーメン Echo & the Bunnymen)、モリッシー Morrissey(ザ・スミス The Smiths)、イアン・カーティス Ian Curtis(ジョイ・ディヴィジョン Joy Division)ほどのカリスマ性はないのは確かだが、個人的な好みでは最も評価するヴォーカリストのひとりである。
The Decorators - American Ways
ザ・デコレーターズ The Decorators

マイケル・ビーヴァン Michael Bevan (vocals, guitar)
ジョニー・ジラーニ Johnny Gilani (guitar)
スティーヴ・サンドー Steve Sandor (bass)
ジョー・サックス Joe Sax (saxophone)
アラン・ボロー Allan Boroughs (drums)
ピート・サウンダーズ Pete Saunders(key)
1980年西ロンドンのアクトンにて結成されたポストパンクバンド。最初のラインアップはMichael Bevan (vocals, guitar), Johnny Gilani (guitar), Steve Sandor (bass), Joe Sax (saxophone), Allan Boroughs (drums)の5人だった。BBCのJohn Peel showで紹介され話題になる。拠点をロンドンに移し2枚のシングル「Twilight View」(80 New Hormones),「Pendulum & Swinge」(81 Red Records)をリリース。アイランド・レコードから契約のオファーを受けるが、アイランドの担当A&Rアンドリュー・ローダーがDemon Recordsへ移ったため立ち消えになった。代わりにRed Flameレコードと契約、元デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ Dexys Midnight RunnersのPete Saunders(key)を加え6人組となり、82年6月にシングル「Strange One」、続いてデビュー・アルバム『Tablet』をリリース。フランスではVirgin Recordsからリリースされた。翌83年にミニアルバム『Rebel Songs』をリリース。UKインディ・チャート15位になる。同年フランスVirginから12インチ『Teenage Head』をリリースしたが、84年に解散。Discogsで調べたところ、その後音楽活動の記録があるのはサックスのJoe Sax(本名Joe Cohen)とキーボードのPete Saundersだけで、他のメンバーの消息は明らかではない。






THE DECORATORS-TWILIGHT VIEW.wmv
ググってみてもアーティスト写真はレコード・ジャケット以外見つからないが、YouTubeで何と当時のTV出演の動画を見つけた。ルックスは音のイメージ通りの細身にスーツの優男揃い。アンド・オールソー・ザ・トゥリーズほど耽美ではないが文学青年っぽい雰囲気は似ている。特にヴォーカルのマイケルのツンデレぶりと、サックスのジョーのアート・リンゼイ風チンピラメガネが面白い。ルックスも悪くないし、何故売れなかったのか不思議な気がする。やはりレーベルやマネージメントの政治力の差であろうか。この動画にベーシスト、スティーヴ・サンドーの弟ティムがコメントを寄せており、兄のスティーヴは中大脳動脈瘤で半身麻痺状態であることが明かされている。ティムは30年前からアメリカに住んでいるが、マイケルとジョーとは連絡をとっていると書かれている(2015年時点)。
The Decorators performing on music programme Riverside
▼ルー・リードの「ロックンロール・ハート」のカヴァー動画。やはりピッタリ来る。
DECORATORS - R'n'Roll Heart (1984)
Red Flameのレコードは殆どCD再発もされておらず、再評価の機運もないが、中古市場で安く入手できるので、B級ファンにはお勧めのレーベルである。
装飾家(Decorator)
赤い炎の(Red Flame)
反逆者(Rebel)

【追加情報】2019/12/11追記
New Hormones Recordsヒストリーより
ザ・デコレーターズの素晴らしいデビュー・シングル「Twilight View」(ORG 5)は、New Hormonesレーベルの「チープ・レコーディング・ルール」の例外で、Martin RuchentのプロデュースでEden Studiosでレコーディングされた。
ザ・デコレーターズはアーリング出身の5人組。「サックス奏者のJoe Cohenが僕の義理の弟という縁故関係があった」とレーベル代表のRichard Boonは語る。「親族だからといってもレコードが気に入らなければリリースしなかっただろう。シンガーのMickは面白い奴だった。彼らは他人がやらないことをやっていた」。
評論家のMick Wallは1980年にSounds紙で彼らを「ストリート・ロック」と表現している。「『Twilight View』にはNick Loweの影響があるのは明らかだが、Mick Bevanの歌声は音程の正しいPeter Perrettみたいだ。「ネオ=クラシカル」とBoonは言う。
「Twilight View」をA面にしたのはプロデューサーのチョイスだった。「Martin Rushentがその曲にしたいと言ったので、Richard Boonがその選択に従って『バラードをやろう』と言った。でも本当の僕らのスタイルではなかった」とCohenは思っている。「後から考えると、結果的に良かったとは思えないよ」とドラマーのAllan Boroughsも同意する。「僕らがやりたいと努力していたのは、ライヴ・サウンドをそのまま捉えて録音することだった。Rushentのプロデュースはとてもよかったけど、本当の僕らのサウンドだったとは思えない」。
愛称「ザ・デックス」と呼ばれていた彼らは、New Hormonesからは1枚のシングルしかリリースしなかった。「セカンド・シングルを予測して4曲レコーディングしたはずだけど実現しなかった」とCohenは思い出しながら「レーベルのサウンドはもっと左翼的だったから、僕らはお気に入りではなかったと思う。他のバンドとフィットしていると感じたことはなかった」と語る。その後彼らはRed Records, Red Flameへと移籍し、1984年に最後のシングル(Flamin’ Groovies「Teenage Head」のカヴァー)をVirgin Franceからリリースして解散した。