A Challenge To Fate

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【箱男の歓び】ボックスセット特集Part1~コルトレーン/セシル/ドルフィ/ブレイ/マントラー/ベイリー

2016年01月06日 02時43分09秒 | 素晴らしき変態音楽


読書好きな中学時代、カポーティ「遠い声、遠い部屋」、夢野久作「ドグラマグラ」と並ぶ愛読書が安部公房の「箱男」だった。段ボール箱の中で生活する男の「主体客体」「あなたとわたし」「自分と他人」「見る見られる」「知る知らない」が曖昧なストーリーは何度読んでも途中で忘れてしまい、読む度に異なる印象をもたらす。今でもストーリーが思い出せない不思議な小説である。

安部公房のせいでないことは確かだが、筆者は無類の箱(ボックスセット)好きである。「大きいことはいいことだ」と謳うコマーシャルに洗脳されたのかもしれない。クラシック好きの父親のショスタコーヴィチ交響曲全集やバルトーク弦楽四重奏全集といった箱入レコードに憧れて育ったからかもしれない。もちろんCDでもメルツバウの50枚組をはじめ、ICP 52枚組、非常階段30枚組、HATERS 25枚組、裸のラリーズ10枚組x5セットと多数の箱ものを所有しているが、やはり30cm四方のアナログ箱の方が圧倒的に物欲をそそる。

レコード店では嵩張るので普通のエサ箱ではなく、隅の段ボール箱にまとめてぶっ込まれ(文字通り箱の中の箱)、たいてい汚れや痛みで状態が悪く二束三文で売られている。発売当時の新品のときは、高額故にレコード店のガラス棚に恭しく飾られ、売れたら店内拍手喝采の注目を浴びた筈の箱ものの末路に、人生の悲哀を重ねて思わず救い出したくなる。そうして購入した「ヤツ」は、自宅でも置き場に困り、暗い押し入れに入れたまま年月を重ね、年末大掃除で再発見された時には、下半分が黴びて変色していた、という死者に鞭打つ仕打ちをしたことを告白したい。懺悔のしるしに我がレコードコレクション界の落ち武者、箱ものたちを此処に晒すことにした。

●ジョン・コルトレーン『コルトレーン・イン・ジャパン』3枚組 F面は無音


1966年7月22日東京厚生年金ホールでの日本最終公演を丸ごと収録したライヴ盤。アリス・コルトレーン(p)、ファラオ・サンダース(ts)、ジミー・ギャリソン(b)、ラシッド・アリ(ds)からなる後期クインテットによる全3曲の長時間演奏。正直コルトレーンは上手すぎて魅力を感じない筆者だが、このライヴでの道を失いそうな瞑想(迷走)プレイは大好物。別の日のステージを収めた『コルトレーン・イン・ジャパンVol.2』も安いのがないか探している。

●セシル・テイラー『グレート・コンサート・オブ・セシル・テイラー』3枚組


既発アルバムをまとめて箱に入れた廉価版シリーズのひとつ。オリジナル盤にこだわるレコード収集家にとっては無価値なリリースなので中古盤で安く買えた(617円)。1969年7月29日パリでのライヴ録音で、元々はフランスのShandarレーベルから『NUITS DE LA FONDATION MAEGHT』としてリリースされたアルバム。セシル・テイラー(p)、ジミー・ライオンズ(as)、サム・リヴァース(ts,ss)、アンドリュー・シリル(ds)によるカルテットの演奏は、激しくも豊穣な実りを感じさせ、セシルの中でも最も好きな作品である。

●エリック・ドルフィー『グレート・コンサート・オブ・エリック・ドルフィー』3枚組


セシルと同じ廉価版シリーズのひとつ。購入価格520円。ドルフィー(as,fl,bcl)、ブッカー・リトル(tp)、マル・ウォルドロン(p)、リチャード・デイヴィス(b)、エド・ブラックウェル(ds)の黄金のクインテットの1961年7月16日NY Five Spot Cafeでのライヴ録音。名ライヴ盤『アット・ザ・ファイヴ・スポットvol.1&2』と死後リリースされた『エリック・ドルフィー・メモリアル・アルバム』をまとめたもの。スタイルはバップであるが、狂気を帯びたインプロヴィゼーションが堪能できる。

●カーラ・ブレイ『エスカレーター・オーヴァー・ザ・ヒル』3枚組


1月3日に亡くなったピアニスト、ポール・ブレイの元夫人、カーラ・ブレイとポール・ヘインズ(作詞)によるジャズ・オペラ。68年11月から71年6月にかけてニューヨークのスタジオで録音された。演奏はジャズ・コンポーザーズ・オーケストラで、ドン・チェリーやラズウェル・ラッド、ジョン・マクラフリン、ジャック・ブルースなどを含む50人以上がクレジットされていて、聴いても誰のプレイか区別できない。

●マイケル・マントラー『ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ』2枚組


金箱『エスカレーター~』は、時に歌が五月蝿く感じられるので、筆者としては銀箱2枚組『ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ』の方が好きである。セシル・テイラー(p)、ドン・チェリー(tp)、ファラオ・サンダース(ts)、ラズウェル・ラッド(tb)、ガトー・バルビエリ(ts)などアメリカ・フリージャズの闘士が1968年に集合し、名前に違わぬ"作曲作品"を集団演奏した。作曲・指揮のマイケル・マントラーはカーラ・ブレイのパートナーとして後も活躍するが、本作の創造性の高みは果たして超えられたかどうか?

●ロンドン・ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ『オード』2枚組


上記ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラに影響を受けイギリスで結成されたフリーミュージックオーケストラの1972年4月22日オックスフォード.タウン・ホールでのライヴ録音。デレク・ベイリー(g)、エヴァン・パーカー(ts,ss)、トレヴァー・ワッツ(as,ss)、トニー・オクスリー(ds)、ポール・ラザフォード(tb)等フリーミュージック界の猛者ばかりなので、その自由度の高さは推して知るべし。予想外にメロディアスなテーマに逆に驚く。

●アンソニー・ブラクストン『カルテット(ロンドン)1985』3枚組


70~80年代多作だった頃のブラクストンには2枚組は多いが、3枚以上の箱ものは余りない。ブラクストン(as,cl,fl)に、マリリン・クリスペル(p)、マーク・ドレッサー(b)、ジェリー・ヘミングウェイ(ds)という80年代ニュージャズ界の実力派によるカルテットの1985年11月13日ロンドン・ブルームベリー劇場でのライヴ録音。ブラクストンらしい数学的なコンポジションは若干苦手であるが、箱もの故に時々開けて適当にターンテーブルに乗せてみる。

箱開ける
紙の臭いが
懐かしい

次回は非ジャズ箱ものを晒します。

John Coltrane - Afro Blue, Live in Japan 1/4

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