折々の記

日常生活の中でのさりげない出来事、情景などを写真と五・七・五ないしは五・七・五・七・七で綴るブログ。

引導を渡す~スーツ類処分始末記

2012-10-26 | 日常生活
今回は、着なくなった背広類の処分にまつわる話である。

一人で家にいると良く電話がかかってくる。

「お墓の勧誘」、「生命保険の勧誘」、「利殖の勧誘」が圧倒的に多い。

個人の用事はほとんど携帯にかかって来るので、この手の電話には出ないようにしている、また、出たとしてもすぐに切ることにしているのだが、先日、たまたま「もう着なくなった背広などありませんか、有料で引き取らせていただきます」という電話を受けた時は、すぐに電話を切るのをためらった。

というのは、先般、姪の結婚披露の食事会に招かれ10年ぶりに背広に袖を通した時に、タンスの奥から背広を取り出したかみさんが、「もう着ないのに、場所ばかりとるのよね、機会があれば処分したいわね」と言っていたのを思い出したからだ。

そんなことでかかって来た電話に耳を傾けているうちに、「それでは近々お宅の方にお邪魔します」ということになっていた。

かみさんにそのことを話すと、「何か怪しい話ね」とちょっと警戒気味。

そこで電話をかけてきた会社をネットで調べたところ問題はなさそうだったので、来てもらうことに。

当日、会社に勤めていた時代に着た背広、コート類をテーブルの上に並べ、一着、一着を取り上げてじっと眺める。どの洋服にもそれなりの思い出と愛着がある。

スーツ類が処分となり、後に残ったのはハンガーの山。


約束の時間に業者がやって来た。

そして、いきなり、

「これまでリサイクルに出されたことありますか」

と聞いてきた。

「ないですね」と言うと、

「そうですか、ではこれから提示する金額を聞いて、『えぇ』ってびっくりされるでしょう。『そんな金額では』と思われたら、遠慮なく『止めた』と言って下さい」

と言いながら、テーブルの上に広げられている十数枚の背広を査定して行く。

その作業は、ぞんざいなもので、およそ査定とは程遠い。「十把一絡げ」の扱いだ。

その光景を何ともやるせない気持ちで眺めながら、「今、まさに背広たちに引導を渡しているのだ」という思いがこみ上げてきた。

査定の結果は、コーヒー一杯分の金額。

「これで良ければ、引き取らせていただきますが」

と業者に念を押される。

内心忸怩たるものがあったが、了解する。

確かに、これで我が家の洋服ダンスには大きな空きができたが、同時に、束の間、胸に大きな穴があいたような気持ちを味わった。

そして、他の人は着なくなった洋服類をどうしているのだろう、と思いを巡らせた次第である。