折々の記

日常生活の中でのさりげない出来事、情景などを写真と五・七・五ないしは五・七・五・七・七で綴るブログ。

『各駅停車』の電車内で目にした光景

2008-06-06 | 日常生活
その日は、書道の稽古に池袋まで行く日であった。

いつもは急行を利用しているのだが、その日はたまたま来た各駅停車の普通電車に乗った。

午前11時過ぎの普通電車はガラガラに空いていた。(いつも利用している急行は混んでいて座れない。)

次の駅で若い女性が乗って来て、小生の斜め前に座った。

そして、座るなりハンドバックから化粧道具を取り出して、おもむろに化粧を始めた。

最近の若い女性は、電車内で平気でお化粧をするとは聞いていたが、まさか自分の目と鼻の先の距離でその実演を目撃することになろうとは正直思っても見なかったので、少々びっくりした。

そこで、今時の若い女性の生態を知る一つの機会と思って、本を読む手を休めて彼女の一挙手一投足を観察することにした。

そう思って眺めて見ると、
『今頃の電車に乗るのだから、OLではなくて学生かな』とか
『多分、寝起きのまま飛び出してきたのだろうから、朝飯は食べてないだろうな』とか
『きっと、昨夜は遅くまで深夜テレビを見てたのだろうな』

等々、ついつい余計な想像をしてしまう。


件(くだん)の女性は、手鏡とにらめっこしながら、手順よく顔をメークしていく。
一心不乱、他人の目を気にする様子は、これっぽっちも見られない。
自己陶酔の世界に浸っているようだ。


彼女がお化粧を始めた時、化粧が終わる前に駅に着いてしまったら、面白いことになるのにな、などとつまらないことを考えていたが、そんなことはそれこそ杞憂に過ぎなかった。

電車が終点の池袋駅につく頃には、口紅もしっかりと塗り終わって手鏡で最終チエックに余念がない。
まさに、ぴったりはかったような仕上がりであった。

メークの手際のよさ、他人の目を全く気にしない素振り。
きっとこの女性は、電車の中を化粧する自分の部屋と思っているのだろうな、と勝手に想像してしまった。


そして、遅まきながらそこで「はた」と、彼女が各駅停車に乗った理由に思い当たった。

そうか、急行や準急では混んでいて必ずしも座れるとは限らない。そこへ行くと各駅停車の普通電車は空いているから間違いなく座れる。化粧をする場所が約束されているのだ。


各駅停車の普通電車は空いている


また、急行や準急では池袋まで何分もかからずに着いてしまうが、各駅停車の普通電車なら化粧をするのに手ごろな時間だ。

小生は、その日はたまたま来た各駅停車の普通電車に乗ったけど、彼女にとって乗る電車は、各駅停車の普通電車でなければならなかったのだな、とこれまた勝手に推理をめぐらせた。


電車が駅に着くと件の女性は、何事もなかったかのように颯爽と駅の階段を下りて改札口へと消えていった。


その日は、はからずも若い娘(こ)の『すっぴん』の顔と『化粧後』の顔を見比べられて興味深かった。

『化粧』と言う言葉は、ばけ(化)て、よそおう(粧)、と書くが、なるほどそのとおりで、まことに<言いえて妙>だな、と日本語の素晴らしさ、奥深さを改めて実感した。