ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『私が、生きる肌』(アルモドバル作品)

2012-03-21 23:57:52 | 新作映画
(原題:La piel que habito)



----これ、ペドロ・アルモドバルの映画だよね
タイトルからして、かなりセンセーショナルだけど…。
「うん。
でも、このタイトル(邦題)は
実に上手いところを突いている。
ぼくは、勝手に
『私が、愛した肌』のような内容だと思っていたら、
それは、観ているうちに
実は視点が違っていたんだってことが分かった」

----へぇ~っ。そうニャんだ。
これって、天才的な形成外科医が
かつて非業の死を遂げた妻を救えるはずだった“完璧な肌”を創造し、
それを、“ある人物”に移植し、
亡き妻そっくりの美女を創りあげる…
こういうお話のはずでしょ。
チラシに、そういうようなことが書いてある。
「確かに、大筋はそうだね。
ただ、いまフォーンが喋ったことだけを聞くと、
この映画は、妻を溺愛した外科医の妄執…
こちらの方だけの話になってくる」




----そうじゃニャいの??
「もし、そういう流れだと
マッド・サイエンティストの博士の話だけということになる。
でも、たとえばその手の古典、
ジェイムズ・ホエール『フランケンシュタイン』が今でも語り継がれるのは、
博士によって創り上げられた人造人間に寄り添っているから。
ティム・バートン『シザーハンズ』もそうだね。
さて、ペドロ・アルモドバルはどうしたカ…?
簡単にストーリーを話してみよう。
映画は、2012年のトレドから始まる。
世界的な形成外科医ロベル(アントニオ・バンデラス)の大邸宅の2階。
そこには、ベラ(エレナ・アナヤ)という若く美しい女性が幽閉されている。
彼女は、素肌の上に特殊なボディ・ストッキングをまとっていて、
簡素な部屋の中で黙々とヨガに取り組んでいる。
そして、1階のキッチンモニターでは
ブラジル移民の初老のメイド、マリリア(マリサ・パレデス)が彼女を監視している。
そこに、奇妙な虎のコスチュームに身を包んだ青年セカ(ロベルト・アラモ)が彼女を訪ねてくる。
実は、彼はマリリアとは長らく音信不通だった彼女の息子。
再会を喜んだのも束の間、
監視モニターに映るベラの映像に目を止めたセカは、
彼女にある女性の面影を重ね、
野獣の本性を剥き出しにして襲いかかる…。
はいここまで」




----あらら。これからがオモシロくなりそうなのに…?
「そのとおり。
だからこそ、この映画は
これから先を知らない方がいい。
驚きに次ぐ驚きの連続が待ち構えているからね。
その前に、ここまでを整理。
この監禁されている女性ベラとは何者なのか?
セカはなぜ、そんなにも興奮してしまったのか?
という謎を残したまま、
話は、ここから12年前のロベルの妻の交通事故に遡り、
そして、そこから6年後のある事件へと繋がってゆく。
映画の第2章とも言うべき、その(今から)6年前。
そこでは、まったく新しい人物が登場。
一見、別の物語が語られ始めるように見える。
だが、それがすべて現代の状況へと結びついてくるんだ」

----それは確かに凝っているニャあ。
「でしょ。
そこに、さっきの虎のコスチュームじゃないけど、
やりすぎと思えるほどの
映像のオモシロさをたぷり詰め込んでいるのが、この映画。
たとえば、ベラが監禁された部屋は、
隣室と壁一面のプラズマ・スクリーン仕切られている。
で、ロベルはベラをズームで顔だけをアップさせたりするなど、
そのサイズを恣意的に変えていく。
これが生みだすオモシロさは、とにかく観てもらうしかない。
ふたりの主従関係が逆に見えたりもするんだ。
こういう映像の遊びは、
あのブライアン・デ・パルマを思わせるね。
最も監督はヒッチコックやブニュエルを意識していたみたいだけど…」




----ニャるほど。
それは確かに最近はやりの映像とは違うニャあ。
「そう。
いまの映画は
シャープという言葉の下に、
何かというとフィルムをざらざらさせたり、
ハンディカメラで目まぐるしく動いたり、
カットを短くしたり…。
こういう昨今の風潮とは明らかに一線を画するね。
いつもほどの原色ベッタリ感はないけども、
それでもこの映画は、
どこを切ってもアルモドバルと、すぐ分かる。
ラストも、あえてバサッと切ることで
逆に余韻を持たせている。
アンモラルなところもあるけど、
そういうテーマ以前に、
これは映画として、ぼくの好きな方向の部類の作品だね」



                    (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「ちょっとHなしーんもあるらしいのニャ」もう寝る


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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは (dai)
2012-03-25 01:56:50
最近落ち着いていたペドロ・アルモドバルが久々に彼らしさを出してきたと感じた作品でした。おっしゃられるようにラストの切り方もこの映画には良い演出です。
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■daiさん (えい)
2012-03-26 18:06:15
こんにちは。
ああいうラストは日本映画ではありえないですね。
自信がなくては到底無理。
観客に迎合していない。
一時期のヌーヴェル・ヴァーグを思い出しました。
返信する
こんばんは (ノラネコ)
2012-05-23 00:04:39
これも実に映画らしい映画でした。
こんなトンデモな話を、強引に納得させてしまうのですから、流石の演出力。
話の元ネタとしてはやはりフランケンシュタインなんでしょうけど、途中の設定では「顔のない眼」をちょっと思い出しました。
返信する
ベラのズーム (rose_chocolat)
2012-05-24 17:44:21
>だからこそ、この映画は
>これから先を知らない方がいい。
その通りなんですよね。 なので感想書くのに非常に苦労しました。
あの、2人並んでいるシーンで、ああそうか!って気が付くところが面白い訳ですし。
まんまと騙されてしまった方が本作、楽しめます。

最後も唐突に終わりますが、でもここまでいろんなもの見せられましたし、それくらいでいいように思いました(笑)
返信する
関係なかった~ (rose_chocolat)
2012-05-24 17:46:11
さっきのコメント、タイトルに「ベラのズーム」って書いたのに全然触れてなくて。

ベラをわざわざ大きく映し出す所なんかは、この映画が「変態」って呼ばれる所以でしょうね。
あれはオタクに近いものを感じました(苦笑) しかも大真面目なんですよね。
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■ノラネコさん (えい)
2012-05-24 22:40:40
ツイッターで、どなたかも
『顔のない眼』との関係を示唆されていましたね。
個人的には、アルモドバルでは
『オール・アバウト・マイ・マザー』以後、
もっとも好きな作品です。




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■rose_chocolatさん (えい)
2012-05-24 22:42:39
こんばんは。
真実が明らかになっていくときの
えもいわれぬ快感。
この映画、心地よい騙され方でした。
ベラを大きく写すあの気持ち、
とてもよく分かります。
ぼくも変態ですね(笑)。
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こんばんわ (にゃむばなな)
2012-07-01 20:56:38
あのラストの切り方は絶妙でしたね。
マリリアがロベルの母親だという告白があっただけに、ビセンテの母親がどんな反応を示したのかを観客の想像に委ねるなんて。
素晴らしすぎますわ。
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■にゃむばななさん (えい)
2012-07-03 23:02:30
こんばんは。
映画ももちろんオモシロかったのですが、
あのラストは、ほんと人を食っている。
おいおい、主人公は誰だったんだよ?って…。
あっ、そうか、
彼女(彼)でよかったんだ。(爆)
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