ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『ぼっちゃん』

2013-02-19 22:21:30 | 新作映画
----うわあ、ずいぶんと久しぶりだね。
やっと再開…と思ったら何この映画?
ほら、ほかにもいろいろ観ていたでしょう。
アカデミー賞がらみの『世界にひとつのプレイブック』とか、
超大作の『クラウド・アトラス』とか。
今日だって、『ヒッチコック』
レオス・カラックス『ホーリー・モーターズ』…。
「う~ん。
ずっと忙しかったからなあ。
とてもすべては喋りきれない。
でも、そんな中、どうしても落としたくない一本がこの『ぼっちゃん』
使い古された言葉だけど、
『圧倒された!』、これに尽きるね」

----へぇ~っ。
確かこの映画って、
秋葉原無差別殺傷事件"の“犯人”をモチーフにしているんだよね。
「そう。監督が
『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』、そして『まほろ駅前多田便利軒』大森立嗣
試写の回数も少なく、
しかも最終は朝10時からだったにも限らず、
どうしても観てみたい!、そう思ったのは
この題材と監督の組み合わせが大きいかな」

----ニャるほど。
そして、それをここで喋っているということは、
期待に違わなかったってわけだ。
「うん。
もちろん、最初は自分の中に、ある懸念もあった。
あれだけの犯罪を犯した男を主人公にしているワケだし、
どう描いたって、
これは、彼が今まで描いてきたような
社会的弱者の立場に寄り添うのは難しいのではないかと…。
もし、安易に主人公を社会の犠牲者としてしまったら、
それは、ひ弱なヒューマニズムとして逆効果になるのではないかと…」

----確か、この犯人の男って
ネットに犯罪予告と化していたんだよね?
「そう。
そこがどう描かれているかも
興味があったところ。
この映画では、主人公の梶知之(水澤伸吾)は
友だちも恋人もなく、
掲示板サイトに自身のコンプレックスや孤独な叫びを書き込んでいる。
その彼が、新しく務めた先の工場で
自分と似た境遇で、さらに突然眠る奇病持ちの田中(宇野祥平)と出会う。
梶の見る今の世の中、その定義はこうだ。
『基地内――イケメソ、彼女いる、友だちいる、正社員
基地外――ブサイク、彼女いない、友だちいない、非社員』

そして『私はキチガイです』と結論づけるんだ」

----うわあ。いかにもって用語。
あまりスキくないニャあ。
「ぼくだってそうだよ。
でも、この映画を観ていて思ったのは、
社会の仕組みがいつの間にかそうなっているということ。
そんな時代の中に、生まれ落ちてきたら、
個人の努力だけでは変えられない。
壊すことのできない壁みたいなものがすでに横たわっている。
たとえば、家が豊かでなければ教育を受ける機会も少なくなる。
教育の機会がなければ、就職も希望どおりに行くとは限らなくなる。
そして、昔でいうところのエリート路線から
いったん外れてしまうと、
もう、後は、このようにそこから抜け出せないまま
自分がどんどん卑屈になっていくばかり」

----まさに悪循環だニャあ。
でも、全員そうとは限らないわけでしょ。
「そうだね。
たとえば、この梶の場合は
自分はブサイクという自意識が強すぎて、
その巧くいかない苛立ちを、
まるで獣の唸りのような叫びなどで外に出し、
いよいよ周囲から気味悪がられていく。
一方、田中の方はどちらかというと諦観。
その向こうには優しさみたいなものがほの見える。
この違いが、実は、
ふたりの前に女性が現れたときの
幸不幸を分けるんだけどね」

----うわあ、女性が絡んでくるんだ。
それは悲惨になりそう。
「うん。
基地外同士の友情にヒビが入っていく。
そして、その女性ユリ(田村愛)と絡む形で登場するのが
イケメン同僚の岡田(淵上泰史)。
岡田は梶と同日入社。
元スピードスケートの国体選手で、
最初から梶を下僕のように扱っていた。
だが、その岡田にもある秘密があった…。
と、このあたりが映画オリジナルの設定」

----えっ、創作箇所もあるの?
「うん。
それによって、
この映画は、これまでの日本映画が生んだ
傑作青春映画の一群に肩を並べた…
ぼくはそう思うな。
『ぼっちゃん』を観ながら思い出したのは
長谷川和彦『青春の殺人者』根岸吉太郎『遠雷』

----話聞いていると、主人公の卑屈さとかは
『苦役列車』 に近い気がするけど…。
「う~ん。
あの映画の主人公・貫多は
列島コンプレックスの裏返しというか、
ある意味、周りを軽蔑して優越感を抱いているようなところがあった。
ところが、この映画の梶はもう卑屈の塊。
しかも『私はもてたい。人を愛したい』の気持ちが強いあまり、
人格が崩壊している。
でも本来、人間として生まれてきて青春を迎えたら、
それはだれもが当然抱く感情。
しかし梶はそのスタートラインに立つことさえできない」

----う~ん。キツイニャあ。
「しかしそれにしても、
ここまで強烈な主人公には、
とんとお目にかかったことはない。
日本映画には、ほんと珍しいキャラクターだと思う。
主人公を演じた水澤伸吾は
『苦役列車』の森山未來に決して引けは取らない。
宇野祥平、そして
よくぞここまで嫌な男を演じたという意味で
淵上泰史も加えてアンサンブル賞というのがあったらぜひ彼らに送りたい。
まあ、いずれにせよこれは必見の問題作だよ」



                    (byえいwithフォーン)

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2 コメント

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こんばんは (ノラネコ)
2013-03-28 23:27:01
これは実に面白かったです。
秋葉事件をモチーフにしたと聞いていたので、かなり身構えていたのですが、いい意味で裏切られました。
これは厳しい現実を映画の力で希望的に再解釈した作品と思います。
ちょっと「イングロリアス・バスターズ」を思い出しました。
返信する
■ノラネコさん (えい)
2013-03-31 22:25:05
こんばんは。
ノラネコさんがこの映画を
『イングロリアス・バスターズ』に例えられている意味が
レビューを拝見してようやく分かりました。
映画による歴史の再構築ですね。
返信する

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