(英題:J. Edgar)
----J.・エドガーって何した人?
「何をしたというよりも、
ある地位に君臨し続けたという方が分かりやすい。
J・エドガー、J・E・フーバーは、FBIの初代長官。
20代にして、FBI前身組織の長となり、
以後、死ぬまで長官であり続けた男。
20世紀の半分を占める約50年もの間、
大統領さえ及ばない権限を手中にしていたんだ。
その50年間に入れ替わった大統領は実に8人にも上るとか」
----へぇ~っ。
まさに影の実力者だね。
常識では信じられないような話だけど、
この映画の監督はクリント・イーストウッド。
ある意味、興味深いニャあ。
「うん。
実は観る前まで、あまりいい評判も聞かなかったし、
賞レースにもほとんど関わってきていないことから、
もっと地味な映画かと…。
ところがところが…
さすがはイーストウッド。
映画は晩年のフーバーが部下に命じて、
自分の回顧録を書きとらせる現在からスタート。
FBI誕生以前、
20代の彼が目にした爆弾テロがきっかけで、
共産主義者などを取り締まる責任者の地位を任せられ、
かつての仲間をもふるい落としながら
のし上がっていく姿が現在と交互に描かれる」
----ふるい落とすって?
「政治的な力を持った彼は、
部下に対して規律を厳しくするんだ。
着る服にまで注文を付ける。
気に入った側近のみで周囲を固めていくところなんか、
近年のどこかの国の地方自治の長を思い出したよ」
----あらら。危険な発言。
「で、最初のうちは
イーストウッドの愛国主義が前面に出た映画なのかと思いきや、
徐々にフーパーの奇妙な人間関係が浮き彫りになってくる。
プロポーズを断りつつも死ぬまで個人秘書として彼を支えたヘレン(ナオミ・ワッツ)、
彼を溺愛した強権的母親(ジュディ・デンチ)、
そして、生涯に渡って彼の片腕となるクライド・トルソン(アーミー・ハ―マー)…。
しかもそれらの関係性は、
マザーコンプレックス、あるいはホモセクシャルというように、
それこそが映画の見どころといわんばかりに、
一種、グロテスクな描写によって描き込んでいくんだ。
で、この異様なキャラクター設定を軸に、
映画は、フーパーが逮捕したとされる禁酒法時代のギャングたち、
あるいは、国民的英雄である飛行家リンドバーグの愛児誘拐事件など、
アメリカ犯罪史を辿っていく」
----ニャるほど、それはオモシロくならないはずがないニャあ。
ん?“逮捕したとされる”というのは…?
「フーパーといえば、
コミックや映画では、
ギャングを逮捕した英雄的存在。
しかし実はそうではなく
後で彼が自分の人気を作りだすために演出したのだと、
この映画は語る。
その名声欲、そして権力を維持するために、
フーバーは、ときの大統領のスキャンダルを徹底的に調査。
そのため、ルーズベルトは彼に逆らえず、
J・F・ケネディも彼の監視下に置かれた。
そこに最後に現れたのがニクソン。
この大統領だけは、これまでのようにはいかなかった」
----彼の権力への野望は並大抵のものではなかった…ってワケだニャ。
「そういうこと。
この映画を観ると
ウォーター事件、つまり大統領の犯罪を二クソンが起こしたのもうなずける…。
さて、一気にしゃべっちゃったけど、
もう、イーストウッドの映画だから、
美術や衣装などの時代考証がどうのというような
瑣末なことを言う必要はまったくない。
そういう脇を固める部分は
映画として“魅せる”という意味では完璧だからね。
でも、これだけは言いたい。
なぜ、主演のレオナルド・ディカプリオの演技が話題にならないのか?
この映画、ディカプリオが演じているということを途中で忘れさせてしまうほどの名演。
まるでアーネスト・ボーグナイン(と、これは言いすぎか)。
これでオスカー取れなかったら、
アカデミー会員は彼に恨みでもあるんじゃないかと
疑いたくなるほどだね」
(byえいwithフォーン)
フォーンの一言「確かにディカプリオには見えないのニャ」
※でも、決して後味のいい映画じゃない度
こちらのお花屋さんもよろしく。
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----J.・エドガーって何した人?
「何をしたというよりも、
ある地位に君臨し続けたという方が分かりやすい。
J・エドガー、J・E・フーバーは、FBIの初代長官。
20代にして、FBI前身組織の長となり、
以後、死ぬまで長官であり続けた男。
20世紀の半分を占める約50年もの間、
大統領さえ及ばない権限を手中にしていたんだ。
その50年間に入れ替わった大統領は実に8人にも上るとか」
----へぇ~っ。
まさに影の実力者だね。
常識では信じられないような話だけど、
この映画の監督はクリント・イーストウッド。
ある意味、興味深いニャあ。
「うん。
実は観る前まで、あまりいい評判も聞かなかったし、
賞レースにもほとんど関わってきていないことから、
もっと地味な映画かと…。
ところがところが…
さすがはイーストウッド。
映画は晩年のフーバーが部下に命じて、
自分の回顧録を書きとらせる現在からスタート。
FBI誕生以前、
20代の彼が目にした爆弾テロがきっかけで、
共産主義者などを取り締まる責任者の地位を任せられ、
かつての仲間をもふるい落としながら
のし上がっていく姿が現在と交互に描かれる」
----ふるい落とすって?
「政治的な力を持った彼は、
部下に対して規律を厳しくするんだ。
着る服にまで注文を付ける。
気に入った側近のみで周囲を固めていくところなんか、
近年のどこかの国の地方自治の長を思い出したよ」
----あらら。危険な発言。
「で、最初のうちは
イーストウッドの愛国主義が前面に出た映画なのかと思いきや、
徐々にフーパーの奇妙な人間関係が浮き彫りになってくる。
プロポーズを断りつつも死ぬまで個人秘書として彼を支えたヘレン(ナオミ・ワッツ)、
彼を溺愛した強権的母親(ジュディ・デンチ)、
そして、生涯に渡って彼の片腕となるクライド・トルソン(アーミー・ハ―マー)…。
しかもそれらの関係性は、
マザーコンプレックス、あるいはホモセクシャルというように、
それこそが映画の見どころといわんばかりに、
一種、グロテスクな描写によって描き込んでいくんだ。
で、この異様なキャラクター設定を軸に、
映画は、フーパーが逮捕したとされる禁酒法時代のギャングたち、
あるいは、国民的英雄である飛行家リンドバーグの愛児誘拐事件など、
アメリカ犯罪史を辿っていく」
----ニャるほど、それはオモシロくならないはずがないニャあ。
ん?“逮捕したとされる”というのは…?
「フーパーといえば、
コミックや映画では、
ギャングを逮捕した英雄的存在。
しかし実はそうではなく
後で彼が自分の人気を作りだすために演出したのだと、
この映画は語る。
その名声欲、そして権力を維持するために、
フーバーは、ときの大統領のスキャンダルを徹底的に調査。
そのため、ルーズベルトは彼に逆らえず、
J・F・ケネディも彼の監視下に置かれた。
そこに最後に現れたのがニクソン。
この大統領だけは、これまでのようにはいかなかった」
----彼の権力への野望は並大抵のものではなかった…ってワケだニャ。
「そういうこと。
この映画を観ると
ウォーター事件、つまり大統領の犯罪を二クソンが起こしたのもうなずける…。
さて、一気にしゃべっちゃったけど、
もう、イーストウッドの映画だから、
美術や衣装などの時代考証がどうのというような
瑣末なことを言う必要はまったくない。
そういう脇を固める部分は
映画として“魅せる”という意味では完璧だからね。
でも、これだけは言いたい。
なぜ、主演のレオナルド・ディカプリオの演技が話題にならないのか?
この映画、ディカプリオが演じているということを途中で忘れさせてしまうほどの名演。
まるでアーネスト・ボーグナイン(と、これは言いすぎか)。
これでオスカー取れなかったら、
アカデミー会員は彼に恨みでもあるんじゃないかと
疑いたくなるほどだね」
(byえいwithフォーン)
フォーンの一言「確かにディカプリオには見えないのニャ」
※でも、決して後味のいい映画じゃない度
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アメリカでの作品評価は賛否両論ですが、えいさんが指摘されているように、実は、フーバーの歪で不器用な人間関係と愛が軸になっているので、そこを理解できるかどうかで、評価が分かれいているのではないかと思います。題材・監督・脚本・出演者の顔ぶれから期待度が高かった反動で、必要以上にバッシングされている感もあります。
ただ、レオの演技に関しては、アメリカの批評家はおおむね賞賛している印象です。作品評価が割れているので厳しいと思っていましたが、意外にも、ブロードキャスト映画批評家協会賞、アメリカ映画俳優組合賞、ゴールデン・グローブ賞と、重要賞全てにノミネートされたので、彼を支持する基盤もしっかりあるのだな~と思いました。
どちらかというと、日本人の方が、彼に対して偏見を持っていると思います。えいさんのように、いいと思ったら素直に賞賛されている方のほうが珍しいかも...。
まだどうなるかわかりませんが、レオがアカデミー賞にノミネートされて欲しいと思います。
そうそう、「歪」という言葉、
思い出しながら
ここに記すのを忘れていました。
そうでしたか。
ディカプリオ、
ブロードキャスト映画批評家協会賞、アメリカ映画俳優組合賞、ゴールデン・グローブ賞にノミネートでしたか。
いやあ、早とちりでした。
ロサンゼルス映画批評家協会賞と
ニューヨーク映画批評家協会賞で
受賞していないようでしたので、
思わず筆が走ってしまいました。
今後の動きを見守りたいです。
各賞の受賞は無いだろうと思いますし、
アカデミー賞は、ノミネートされない可能性もあると思います。
ですが、「ディカプリオが演じているということを途中で忘れさせてしまうほどの名演。」と思われるくらい素晴らしいなら、
さすがに投票者たちも見過ごせなかったのでしょうか。早く映画館で見たいです。
2012年は3D版のタイタニック、バズ・ラーマン、タランティーノ作品が公開予定なので、
まだまだ今後もチャンスはあると思います。
エドガー・フーバーもキング牧師やニクソン大統領と同じ、見る人の立場によって善人とも悪人とも捉えられる人物。
この映画を見て彼をどう思うかが大切なんだと思いましたよ。
猫背気味の姿勢の悪さとか、上手いなぁと思ったんですけどね。
ニクソン大統領の出し方が巧い。
このエドガー・フーパーをしても
一目置かざるを得なかった剛腕。
イーストウッド映画はやはり見せてくれます。
やはりディカプリオ、ノミネートさえされませんでしたね。
にゃむばななさんへのお返事で書いた
ニクソン出現。
それにあたふたする演技一つとっても
頭抜けた才能だと思うのですが…。
イーストウッドが映画化すると聞いてわくわくしながら映画館に行きました。
そして、その期待は全く裏切られませんでした。
この映画を見てフーバーに対して関心を持つ人がもっと増えればいいと思いますが、
日本人にはあまりなじみがないことには変わりないので
それはあんまり期待できないかな?
ディカプリオの老け役演技は素晴らしかったと思いますが、
それでもフーバーを演じるにはあまりにもクリーンすぎて
アクが足りないと思ってしまいました。
まあ、それ以前に、フーバーをヒーローと看做すのは
今のアメリカじゃちょっと受け入れにくいのかもしれませんね。
この映画、イーストウッドの
『グラン・トリノ』以降の作品の中では、
いちばん楽しめました。
フーバーは名前だけで
詳しくはないのですが、
これまで映画に出てきたイメージを
あっさりと覆してくれました。
イーストウッドが
なぜ彼を題材に、
そしてこのような形で描いたかを
考えてみるのは
とてもオモシロいです。
ほんとうに創作意欲の衰えない
映画界の宝ですね。
彼は前作あたりからまた人間へのアプローチがさらに本質的なものへと変化してきた気がします。
美しいものをストレートに美しく描写するのではなく、醜いものの中にも本質的な美しさを見出すかの様な。
強大な権力者の内側の内側に迫り、そこから逆説的にアメリカというマクロを見せる上手さ。
圧巻でした。