ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『トウキョウソナタ』

2008-06-28 17:09:47 | 新作映画
----これって、海外で人気の高い黒沢清監督が
日本人監督初となる
カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の審査員賞を受賞した映画だよね。
「うん。本当によくできた映画というのは、
こういうのを言うんだろうなあ。
家族4人の物語。とてもヘビーなのに、
決して目を背けようという気にはならず、
スクリーンにぐいぐい引き込まれてしまう」

----どういう内容ニャの?
「もう、チラシのコピーそのまま。
リストラされたことを家族に話せない父。
ドーナツをつくっても食べてもらえない母。
アメリカ軍へ入隊する兄。
こっそりピアノを習う弟。
映画は、その中でも父(香川照之)と
母(小泉今日子)にスポットを当てる。
実はプレスには詳しくストーリーが書かれているんだけど、
これは観る前には情報をシャットアウトした方がいい。
普段どおり、会社に通勤する振りをしている父が
昔の友人(津田寛治)と公園で再会する話と、その顛末。
母の身に突然襲いかかる事件と、
その後の非日常的な出来事。
その中で、彼女が吐くいくつかの名セリフ。
これらは、ほんとうは喉まで出かかっているんだけど、
初めて見聞きした方がインパクトがあると思う」

----へぇ~っ。絶賛に近いんだニャあ。
ちょっと意外な気がする。
「ぼく自身もちょっと意外だったね。
黒沢清監督がここまで現実を見据えた映画を作るとは…。
常々、日本の監督はどうして
いまのこの社会を撃つような映画を作らないんだろうと
不満に思っていただけに、
ここまで真っ正面から時代と取り組んだ映画を観ると嬉しくなる」

----そういえば、公園で
ボランティア配給の食事の列に並ぶとかいうシーンもあるよね?
「うん。ちょっと前まではここに並ぶ人って
ジャンパー姿の、
ホームレスに近い感じの人が多かったけど、
ここでは、その中にスーツ姿の男を何人かまぎれさせる。
そのインパクトはすごいよ。
まさに映像で見せる映画だ。
実は、この主人公がリストラになるきっかけというのが、
中国の進出が関係している。
まずここが怖い。
リストラの理由と、その言い渡し方。
これ、マネする会社が出てくるのではないかとヒヤヒヤだ。
それは彼のような総務課長でさえも安泰でないことを意味している。
で、彼は男として、父として、
つまり一家の長として権威を保ち続けようとする。
そこでいろんな歪みが出てくるんだね」

---これがアメリカとかだったらどうニャんだろう?
家族みんなで立ち向かわないのかニャあ?
「そこが、ある意味、日本人的なんだろうね。
やがてそのことを知った母が、
この事実をどう受け止めていくか?
そこにまた、日本の母親、女性論が展開される。
と、いろいろほめたけど、
一ヶ所、いやいくつか疑問点もないわけではないんだ。
(※ここからしばらくは、私の勘違い。抹消線を引いておきます。
hackさん、ご指摘ありがとうございました)

たとえば、次男が父親と喧嘩して階段から落ち、
病院に担ぎ込まれるシーン。
ここで普通なら、会社を辞めていることがバレるはず。
だって保険証はすぐ返却するはずだもの。
夜間の救急でも、
次の日には保険証を持っていかなくちゃならないし。

他にも、トイレ掃除ってゴム手袋しないのかなとか…。
まあ、これは仕事のキツさを目立たせるための演出だろうけど。
(※これも人によるのかもしれませんね。
今日、行ったイオンモールでも手袋をしいない方を見かけました)

---それって重箱の隅つついてニャい?
「そうかもしれない。
でも、リアリティ重視のこの映画は
そのあたりもきちんとやってほしかった。
この保険証から、また新たなドラマが生まれるというのも
映画として一つアリなのじゃないかと…」

----そういえば、ラストに希望の片鱗が---と言われているよね。
「うん。息を飲んで見守ったけど、
それはほんとうに“片鱗”。
兆しというところが
嘘っぽくなくっていい。
そして、ここの香川照之の演技がまたいいんだ。
ロングショットなんだけど、
誇りを持って胸を張っている。
そうそう、演技といえば小泉今日子もよかったね。
父親に対する諦め、あるいは侮蔑ともとれる視線。
あと、詳しくは言えないけど、
海辺で彼女が吐く、ある名セリフ前後のシーンは、
まるで別の俳優かのよう。
キョンキョンという衣を脱ぎ捨てた名演だったね。
しかし“信じられるのは自分だけ”というメッセージを放つ
家族映画というのは初めて観た気がする」


           (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「これは観るべきだニャ…」おっ、これは

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10 コメント

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公開が楽しみです (gajumaru)
2008-06-28 18:23:55
黒沢清監督の作品、どちらかというと苦手な部類でしたが、えいさんの記事を読んでいて、ちょっと楽しみになってきました。
是枝監督や橋口監督の新作も家族映画。日本伝統のホームドラマが形を変えて新たに楽しめる、そんな感じでしょうか。
返信する
Unknown (hack)
2008-06-29 08:28:15
私も見ました。
保険証のくだりは、次男のけんかの直後にキョンキョンが「あなたこの前配給に並んでたでしょ?」という指摘を旦那にしているので、もうクビが家族中にばれています。だから、病院でそのことが露呈してももうある種大丈夫?なはずです。蛇足ながら。
返信する
■gajumaruさん (えい)
2008-06-29 10:12:46
こんにちは。

ぼくも黒沢清監督は、あまりタイプではなく
諸手を上げてほめたいのは
『CURE/キュア』くらいなので、
この作品にはビックリしました。

日本伝統のホームドラマ----。
時代が変わればこれも辛いものになってくるという感じですね。
返信する
■ hackさん (えい)
2008-06-29 10:19:20
こんにちは。

ご指摘ありがとうございます。
あの「配給に並ぶ」話をキョンキョンが言うシーン。
そうでしたね。
主人公(香川照之)はそれを認めていないと思って書いてしまいましたが、
そういえば、その後、
「言えば、あなたの大事な権威がガタガタになる」という意味合いのことも言っていたので、
これはもう妻に知られ、それを認めた後ですね。

本文訂正しておきます。

ありがとうございました。


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コトイチかもしれません (となひょう)
2008-10-05 20:42:32
こんにちは。私も観て来ました。
黒沢清監督+香川照之主演という部分に反応した程度で。まさか、こんなにハマルとは思っていませんでした。今のところ、今年ベスト1です。
ホラー映画より、よっぽど怖いと思ってしまいました。
例えば、津田寛治の場面とか。可笑しくて愛おしくて笑ってしまうのですが。その後に、フッと冷静になってしまったりして。しまいには、もの凄い顛末が用意されてるしで。本当は笑えない映画でありました。
暗い気持ちにさせられるし、ズッシリきたところで止まってしまう人もいるかもしれませんが。
私の目線では、ラストはじわりじわりとハッピーエンドを迎える作品でした。オレンジ色の作業着姿のままで食卓に座る父、何事もなかったかのように振舞う家族。
それでもって、ラストの夫婦の表情は強烈に印象に残りますね。私は、あのラストの香川さんの表情にもらい泣きしてしまった程です。
パンフレットによると、あの場面に監督の指示は一切なかったそうです。(キョンキョン談)香川さんとキョンキョンの自然体の演技に、心を鷲掴みにされました
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■となひょうさん (えい)
2008-10-06 22:45:38
こんばんは。

コトイチとは、早いですね。
ホラー映画より怖いというのは、
まさにその通りだと思います。
ぼくも黒沢清監督作品の中で、
怖さを感じた最右翼かも知れません。

津田寛治はいいですね。
以前、インタビューでお会いしたことがあるのですが、
ほんとうに映画への愛をいっぱいに
お持ちの方でした。


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予告では (aq99)
2008-10-11 18:11:34
>観る前には情報をシャットアウトした方がいい。

鑑賞後、はじめてこの映画の予告篇を見たんですが、
ラストシーンをはじめ、小泉と香川の鉢合わせシーン、香川の衝突後むくっと起きるとこ、そんで落下のシーンと、なにがおきるかわからんのがこの映画のええとこやのに、結構見せてしまってます。
やっぱり、面白そうやと思て見ると決めた映画の予告は、見ない方がいいですね~。

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■aq99さん (えい)
2008-10-12 15:45:52
こんにちは。

ぼくも予告を観てみましたが、
あれはこの映画をあまりうまく伝えていない気がします。
確かにいろんなシーンが出てきますが、
なんか散漫な感じ。
(作った方、ゴメンナサイ)。

ぼくも予告は観ないことが多いかな。
返信する
黒沢監督初見です (なな)
2009-01-10 23:39:02
でもすごいですね~,この監督。
この作品の素晴らしさは一言でなかなか言えません・・・・
リアルでないようでいて
ものすごくリアルでした・・・・。
う~~~ん,日本の核家族の現状の問題点を
こんな風に指摘してくれた作品は初めてで
キツイ内容なんだけど,なんだか温かくって・・・
涙腺が不覚にもゆるみそうになりましたわ・・・
返信する
■ななさん (えい)
2009-01-11 22:02:47
こんばんは。

>日本の核家族の現状の問題点を
こんな風に指摘してくれた作品は初めて

ぼくもそう思いました。
普段は、ホラーで有名な監督なのですが、
この映画に描かれている日本の現状は、
ある意味、ホラー以上に怖かったです。
あまり目を向けたくない世界に真っ向から立ち向かっていて、
その気概をぼくは買いたいです。
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