ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『この空の花 長岡花火物語』

2012-04-13 23:47:14 | 新作映画

----『この空の花』って、もしかして花火のこと?
「そうだよ。
この映画は、新潟の長岡で毎年開催されている“花火大会”をモチーフに、
現在(いま)の日本を見つめた、大林宣彦監督の野心作。
試写の案内状などには、“セミ・ドキュメンタリィ・タッチ”と書いてあることから、
監督のフィルモグラフィで言えば『北京的西瓜』のような作品かと…。
ところが、これは長岡の空襲で亡くなった赤ん坊が
今の時代に女子高校生・元木花(猪股南)として姿を現し、
当時の空襲を芝居『まだ戦争には間に合う』として上演するという、一種のゴースト・ファンタジー。
亡くなった人が目の前に姿を現すという意味では、
『異人たちとの夏』『あした』などにも通じる“思い”の映画だね」

----その猪股南という人、よく知らないニャあ。
「うん。彼女は、この映画が本格デビューらしい。
これまでにも、新人女優を発掘してきた大林監督らしいよね。
映画は、この元木花を狂言回しとして、
天草の地方紙記者・遠藤玲子(松雪泰子)と、
何年も音信が途絶えていたかつての恋人。片山健一(高島政宏)、
それぞれの長岡における現在(いま)が描かれている。
かつて、中越地震に見舞われたこの地では、
今回の東日本大震災に於いて、いち早く被災者を受け入れている。
先ほどの長岡空襲からさらに歴史を遡れば、
この地は戊辰戦争で丸まる焼失したという過去を持つ。
また、これはぼくも知らなかったけど、
原爆投下の実験地ともなっていたらしい。
そのような史実を背景に持つことから、
長岡の花火はお祭りではなく、
空襲や地震で亡くなった人たちへの追悼の花火、復興への祈りの花火となっているんだ。
映画は、この花火を12月8日、
真珠湾攻撃があった日に、
日米であげられないかというところまで話が進んでゆく」

----ニャるほど。
物語は幻想的であっても、この社会にリンクしているということだね。
「そう。
3.11以降の日本にスポットを当てて、
進みすぎた文明に待ったをかける。
そして、その根拠となるエピソードの一つひとつを
これまた大林監督らしい“手作り”によって紡ぎあげていく」

----“手作り”…どういう意味?
「大林監督は、
かつて“映像の魔術師”と呼ばれていた。
それは、オプティカル合成などの特殊効果によってフィルムに焼きつけられた画を
神経の行き届いた編集によって、
あるときはリズミカルに、あるときはリリカルに
物語を紡ぎあげていった。
いまやCG技術の進歩により
それらはポストプロダクションとして机上で行えるようになったけどね」

----しかも、合成とは気がつかないくらいに自然だよね…。
「確かに。
それに比べて、CGが出てくるまでの映画は合成のあとも見え、
現在の眼で見ると、かなり粗い。
でも、それが楽しくもあった。
今回は、芝居のシーンなどで、
その頃の映画を思わせるような映像が用いられているんだ」

----そうか、芝居ということだから
不自然にはならないワケだ。
「もちろん、それだけじゃないよ。
映画の登場人物たちが観客に話しかけてきたり、
物語とは関係なく
高校生たちが一輪車に乗って動き回ったりするなど、
いろんな試みを見せている。
放浪の画家・山下清(石川浩司)の時空を超えての登場もその一つ。
『世界中の爆弾を花火に変えて打ち上げたら、
世界から戦争が無くなるのにな』。
彼のこの言葉こそ、この映画が伝えようとしているものと言えるだろうね」




                    (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「タイトルからは想像もつかない話だニャ」身を乗り出す


※安易に『絆』の言葉を持ち出さないところも嬉しい度

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8 コメント

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痛みを知るからこそ語れる事わかる事があると思います (PGM21)
2012-04-16 23:26:24
何時もお世話になっております。

この作品地元新潟が舞台という事もありますけれど、新潟特に長岡は地震で被災して全国から多くの人たちの支援によって復興できた地域であり、3.11の時にはいち早く福島の人たちを受け入れた都市でもあるだけに描かれたのが過去と現代を融合させた大林監督らしい作品でありながらも平和を訴える素晴らしい作品に仕上がっていました。
原爆の実験地という現実、さらに山本五十六の出身地という事もあり長岡とホノルルが70年の月日を経ての和解交流と痛みを知るから言える事そして考えさせられる事が多い作品ですね。
こういう作品こそ全国一斉公開してほしいと私は思いますけれどね。
返信する
□PGMさん (えい)
2012-04-21 20:56:17
こんばんは。
長岡が原爆の実験地だったことを始め、
知らないことがあまりにも多かったことに愕然としました。
そのメッセージもさることながら、
いかにも、大林宣彦監督らしいギミックも随所に見られ、
映画を堪能しました。
返信する
こんばんは (ノラネコ)
2012-06-13 23:05:43
いや~、今年一番のサプライズでした。
映画館で見逃さないでよかった。
私は一番大林映画の影響が強い世代だと思うのですが、彼の映画に久々に凄みを感じました。
迸る様な創作の熱。こんな自由な映画を74歳の老匠に作られたら、一体どうしたら良いのでしょう。
衝撃でした。
返信する
■ノラネコさん (えい)
2012-06-24 18:37:43
こんにちは。

PFFへの応募者があるときから

好きな監督が、大林宣彦から相米慎二に代ったのだそうです。
若い映画関係者に話すと「当然でしょうね」とこともなげに言われ、
少々、腑に落ちなかったのですが…。
若い作家たちは、この映画をどう思うのだろう?
そのあたりが気になります。
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圧倒されました (Kei)
2012-07-08 21:06:29
こんばんは。
いやあ、圧倒されました。大林監督凄い。脱帽。敬服。
74歳ですからね。それなのに若手監督よりもエネルギッシュでパワフル。「HOUSE」の頃の瑞々しさを今も失っていない。
文句なく私の今年のベストワンです。

クライマックスの演劇シーンは、えいさん言われるように、“手作り”感満載ですね。合成にはすごく手間がかかっているのではと思います。まさに大林マジック。
猪股南はいいですね。今後が楽しみです。なお彼女は一輪車の世界大会で優勝した事もあるそうです。うまいはずですね(笑)。
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■Keiさん (えい)
2012-07-15 22:33:36
こんばんは。
この映画、ご覧になられた方は
みなさん、大きなショックを受けてられていて、
なのに、イマイチ広がりを見せてないのが
時代を感じてしまいます。
CGは観る人に想像の余地を与えない…
だから、自分は好きになれないんだなということが
この映画で確認できた気がしました。
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忘れてはいけない (rose_chocolat)
2013-04-06 21:29:43
遅ればせながらスクリーンで観てきました。
震災から2年、この映画の公開から1年経って、たったそれしか経っていないにも関わらず、いずれも風化していることを思わずにはいられませんでした。
いろんな人が観るべき作品だと思うのです。ですが公開が終わってしまうともう忘れられてしまう。それを防ぐための、大林監督によるAKBシングルMV参加だったのかなとも思うのです。
返信する
■rose_chocolatさん (えい)
2013-04-11 21:49:43
こんばんは。

>公開が終わってしまうともう忘れられてしまう。それを防ぐための、大林監督によるAKBシングルMV参加だったのかなとも思うのです。

なるほど。
これは当たっているような気が…。
こちらは観ていないのですが、
ノラネコさんも高評価でした。
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