ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『罪の手ざわり』

2014-05-11 19:48:26 | 新作映画
(英題:A Touch of Sin)


----これってジャ・ジャンクー監督の作品だよね。
確か、以前に“苦手”とか言っていなかった?
「よく覚えているね。
でも、観ずして語るなかれ。
いま、世界中が注目している監督だけに、
いちおう押さえておかなくちゃと…」

----それが、こうやって喋っているワケだから
意外と気に入ったということニャんだニャ?
「気に入った、という言葉が適切かどうか…。
ただ、
日が経つにつれてどんどん心にのしかかってきて…。
まず驚いたのがバイオレンス・シーンの凄まじさ。
これまでの彼の作品からは想像もつかないほど容赦がない。
なにせ、冒頭からいきなり3人を銃で撃っちゃうしね。
それこそ北野武の映画みたいに…。
そうそう、言い忘れたけど、
実はこの映画、製作にオフィス北野が入っているんだ」

----ニャるほど。
ところでどんなお話ニャの?
「一言で言えば、
実話を基に描かれた4話のオムニバス
ここは、チラシから引用しちゃおう。
村の共同所有だった炭鉱の利益が
実業家に独占されたことに怒った山西省の男。
妻と子には出稼ぎだと偽って強盗を繰り返す重慶の男。
客からセクハラを受ける湖北省の女。
ナイトクラブのダンサーとの恋に苦悩する広東省の男。

彼らは、ある“罪”に触れたことから、
それぞれ驚愕の結末を迎える…。
この4話の中に出てくる人々は、
他のエピソードでも少しだけ顔を覗かせる。
いまや、ひとつのパターンとして定着した
重層的な語り口なんだ」

----ふむふむ。
そこが気に入ったんだニャ。
「う~ん。
正直に告白すると、
この他のエピソードにも顔を出すというのは、
観ている間は、
それほどよくは分らなかった(汗)。
後で言われて、あ~あ、そうだったのか…と。
でも、これはそういう作りだということを知って観ていた方がオモシロいことには間違いないね。
カンヌ国際映画祭では脚本賞をもらっている事実が、それを雄弁に語っている」

----じゃあ、今になって
気にかかりだした理由と言うのは”?
「うん。
最近目にした
紹介状がない場合、大病院の初診料は全額自己負担”という日本のニュース」

----えっ?
ニャんでその話が出てくるの?
「突然すぎて
さすがのフォーンも戸惑っちゃうか…。
これって逆に言えば、
金さえあれば、いつでも大病院で看てもらえる”ということ。
それを読んだとき、この映画の3つ目のエピソード、
『自分は職種が違う』と強く拒否している風俗業の受付の女性を、
『金さえあれば、お前なんて自由にできる』と札束でひっぱ叩いて、
セックスの相手をさせようとしている小金持ちの姿を思い出したんだ。
もし、今のような“お金至上主義”を進めると、
近い将来、ここで描かれている中国のような国になるんではないかと…」

----そのエピソードだけで…!?
「いやいや、これだけじゃないよ。
冒頭のエピソード。
これもそう。
みんなの利益になるはずのものが、
上手く立ち回った一部の人間に独占される。
主人公の男は、
これはおかしいじゃないかと、
村の人々に言い続けているけど、
周囲は、あまり気にせず、
そのことに甘んじている。
格差はどんどん広がり、
定着しているというのに…」

----それってあきらめ?
「そこが問題なんだ。
あきらめなのか、慣れなのか?
ある程度まで既成事実ができると、
逆らうほうが、損をするという自衛からのものなのか。
いずれにしろ、彼らは寄らば大樹と言う感じで従順。
権力者にしっぽを振る…。
観ていて、これも現状容認のこの国を鏡で見ているよう」

----ふうむ。
でも、それじゃあ社会を反映しているってだけで、
映画としての見どころが分らニャいよ。
「いいところを突いてきたね。問題はここから。
さきほどのセクハラを受けた湖北省の女は、
我慢に我慢を重ねた上で、
ついに持っているナイフで相手を刺す。
一方、冒頭の山東省の男は、
ライフルで、既得権益者たちを撃ちまくる」

----おおっ。
武器は違えど、任侠映画。
「のはず。
ところがそうはならない。
湖北省の女だって 昔なら“さそり”であってもおかしくない。
ところが、ここが描き方なんだね。
悪をやっつけながらも、
そこに爽快感はないし、心の中で拍手もわき起こらない。
もちろん映画は、彼ら彼女らの気持ちに寄り添って描いているんだけどね。
それよりも、
“あ~あ、ついにやっちゃった”という、
その気持ちの方が強くなる。
それは、“周囲=社会の空気”を描き込んでいるからなんだ。
恨みつらみを晴らしたところで、
彼らを待ち受けるのは当局による“重罰”。
なんとも救いようのない時代。
この作品は、4つの事件を基に描きながら、
中国の現状を“社会の空気”としてフィルムに焼き付けている。
チラシに書いてある
あゝ無情--』はまさにこの映画の核心を突いているね」






フォーンの一言「ヒーローは、この時代にはいないのかニャ」身を乗り出す

※映画で夢も見れない時代だ度
コトリ・ロゴこちらのお花屋さんもよろしく。

こちらは噂のtwitter。
ツイッター
「ラムの大通り」のツイッター



blogram投票ボタン

ranking.gif人気blogランキングもよろしく

☆「CINEMA INDEX」☆「ラムの大通り」タイトル索引
(他のタイトルはこちらをクリック→)index orange
猫ニュー