学問空間

【お知らせ】teacup掲示板の閉鎖に伴い、リンク切れが大量に生じていますが、順次修正中です。

辻浩和氏『中世の〈遊女〉─生業と身分』へのプチ疑問

2018-05-31 | 『増鏡』を読み直す。(2018)
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年 5月31日(木)20時02分27秒

辻浩和氏の『中世の〈遊女〉─生業と身分』(京都大学学術出版会、2017)は以前書店で手に取って『とはずがたり』と『増鏡』に関連する部分だけをざっと眺めてはいたのですが、両書の解釈に直接影響を与える記述はないなと思って、そのままにしていました。
そして、つい最近、『史学雑誌』で細川涼一氏の書評を読み、また同書が「第12回女性史学賞」に続いて「第35回日本歌謡学会志田延義賞」を受賞したとのニュースを聞いて、さすがにそろそろ読まねばなるまいと思って通読してみたところ、評判通り非常に良い本でした。

『中世の〈遊女〉─生業と身分』
http://www.kyoto-up.or.jp/book.php?isbn=9784814000746

同書の概要は著者の「第12回女性史学賞受賞のご挨拶:受賞作『中世の<遊女>-生業と身分について』」に簡潔にまとめられています。

http://nwudir.lib.nara-wu.ac.jp/dspace/bitstream/10935/4659/1/AA12781506vol2pp3-16.pdf

また、ネットで読める書評としては『週刊読書人ウェブ』での小谷野敦氏のものが参考になります。

http://dokushojin.com/article.html?i=1505

ということで、同書の紹介と賞賛は他に譲るとして、私が自分の狭い関心の範囲から抱いたプチ疑問を少し書きます。
「第八章 中世前期における〈遊女〉の変容」の「第一節 居住の変容 (一)京内の「遊女」と本拠地への執着」には次のような記述があります。(p313)

-------
 さて、以上のべたように、本拠地居住の重視が今様の正統性という芸能の論理によって支えられているとすると、今様の衰退によって本拠地居住はその必要性を減ずると考えられる。歌謡史研究の成果に拠れば、今様の衰退は後白河執政期から段階的に進展するが、一三世紀後半にはその衰退が決定的となり、儀式以外の史料に見えなくなるとされている(17)。そしてまさにこの時期、「遊女」の都鄙往反が史料に見えなくなるのである。
-------

そして注(17)を見ると、

-------
(17) 新間進一「『今様』の転移と変貌」(『立教大学日本文学』五、一九六〇)、同「今様の享受と伝承」(『日本歌謡研究』一四、一九七五)、植木朝子編『梁塵秘抄』(角川ソフィア文庫、二〇〇九)。衰退の原因はよくわかっていないが、白拍子や早歌などの流行に圧されたことは間違いない。外村久江『鎌倉文化の研究』(三弥井書店、一九九六)、沖本幸子『今様の時代』(東京大学出版会、二〇〇六)等参照。
-------

となっています。
しかし、まず白拍子については著者自身が、

-------
 遊女・傀儡子を指す呼称が鎌倉中・後期に変化するのとは対照的に、白拍子女の呼称には目立った変容が見られない。これは、中世後期に至っても芸能としての白拍子が残存し、白拍子女が芸能性を保持し続けるためであろう。この点に、遊女・傀儡子と白拍子女との展開の違いが表れている。実際、鎌倉中期以降「白拍子」は「遊君」「傾城」「好色」とそれぞれ対になって所見する場合が多く、白拍子女と「遊女」とは基本的に区別され続けたものと考えられる。
-------

といわれており(p330)、今様と密接に結び付いた「遊女」と白拍子は競合・敵対する存在ではないはずです。
また、同書において早歌と外村久江氏の『鎌倉文化の研究』への言及はここ一箇所だけなので、著者に早歌に関する独自の見解があるのかは知らないのですが、私が理解している限り、早歌は鎌倉で生まれた武家好みの非常に男性的な芸能で、作詞・作曲・歌唱を担当したのは全て男性であり、唯一の例外が私がしつこくこだわっている「白拍子三条」ですね。
従って、マッチョな早歌も今様、そして「遊女」と競合・敵対するような芸能とは思えません。
ということで、今様の「衰退の原因はよくわかっていないが、白拍子や早歌などの流行に圧されたことは間違いない」といわれても、ちょっと理解できないですね。
ま、私は注(17)で引用されている文献のうち、外村久江氏の『鎌倉文化の研究』以外は読んでいないので、他の文献、特に沖本幸子氏が書かれたものをあたってみてから再考したいと思います。

「白拍子ではないが、同じ三条であることは不思議な符合である」(by 外村久江氏)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/668f1f4baea5d6089af399e18d5e38c5
早歌の作者
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/f49010df5521cc5aa7d50c242cec62c6
「撰要目録」を読む。(その1)(その2)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/ff69e365c35e0732e224f451e70fbc8f
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/d40419fb4040d03777431b35d63a54a7
「白拍子三条」作詞作曲の「源氏恋」と「源氏」
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/a90346dc2c7ee0c0f135698d3b3a58fd
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『増鏡』執筆の目的について... | トップ | 『中務内侍日記』の「二位入... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

『増鏡』を読み直す。(2018)」カテゴリの最新記事