投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年 9月15日(日)23時10分39秒
>筆綾丸さん
プーチンにとってみれば、中東が混乱してイスラム過激派がロシア周辺に流れ込むのを防ぐことができ、アメリカとの関係も改善して全く理想的な外交的勝利になりそうですが、どうも釈然としないですね。
シリアがロシアの動きに瞬時に対応してテキパキと外交交渉を進め、何の躊躇もなく化学兵器禁止条約に加盟申請し、化学兵器をあっさり国際管理に委ねると約束したのは、いくら何でも手際が良すぎるのではないか、ロシアにとって8月21日の出来事は本当に全く想定外の突発事件だったのかな、という感じもしてきます。
ロシアは一貫して、反政府軍に対し有利に戦況を進めているアサド側が、わざわざ国連調査団がダマスカスに存在している時に化学兵器を使う必要性は全くなかった、反政府軍側が外国の介入を招こうとして仕組んだに決まっている、と主張しており、私も最初はこの見解に説得力があるように思えたのですが、その後の経過を見ればアサド側が化学兵器を使用したのは間違いないようです。
とすると、アサドは戦況が有利にもかかわらず化学兵器を使ったのではなく、戦況が有利だからこそ、国連調査団の目と鼻の先で、わざわざ化学兵器を国際社会への撒き餌として使用したのではないか、という可能性も考える必要がありそうです。
もともと化学兵器は、使用すれば外部から途方もない非難を浴びる点で、純粋に軍事的な観点ではなく、政治的な観点から取扱いが面倒な、使い勝手の悪い兵器です。
従って、それなりの代償を得られるなら、化学兵器の放棄自体はアサドにとってさほど不合理な選択でもないはずです。
また、いったん放棄したとしても、レシピはあるのだから、必要が生じたときにまた作ればよいだけとも言えます。
核兵器と異なり、化学兵器は技術的にはその程度の存在ですね。
では、アサドが化学兵器放棄と引き換えに何を得たいかと言えば、もちろんアメリカを始めとする外国勢力の介入の排除です。
外国勢力の介入がなければ反政府勢力を駆逐できる見込みが立った時点で、アサドがアメリカと取引をしたいと考えたとして、アサドの側から見れば、オバマの弱点は、一年前のレッドライン発言に縛られて、化学兵器が使用された場合には何らかの具体的反応をせざるをえない立場に自らを置いたことです。
化学兵器を使えばアメリカは興奮するに決まっているけれども、アメリカを興奮させた後こそ交渉の余地が生じるし、仮にアメリカが一切の交渉に応じない場合であっても、巡航ミサイル攻撃と少しの空爆くらいで済むはず、地上軍の介入はありえないと見極めをつければ、まあ、それほどたいしたことでもない。
このように考えて行くと、ではシナリオを書いたのがシリアか、という問題になります。
シリアはアメリカと取引したいと思っても、現実には直接の交渉はできず、ロシアに任せるしかない。
自らが実現できない他人任せのプランをシリアが発案したと仮定するよりは、むしろロシアが発案したと考えるのが自然ではないか。
ロシアとしては、中東に残された唯一の拠点であるシリアの現体制を維持し、アメリカ等の介入によりシリアが混乱してイスラム過激派の温床となり、自国周辺に流れ込んでくるのを防げる上に、8月後半という時期においては、スノーデン問題で硬直化してしまったアメリカとの関係を修復するきっかけにもなりそうな利点がある。
化学兵器なんか持っていても使い勝手が悪いから捨ててしまえ、でもただ捨てるのはもったいない、使うなら今だよ、とロシアがシリアにアドバイスしたとすれば、シリアの化学兵器禁止条約加盟申請等の機敏な動きも説明できそうです。
また、複雑なアメリカ政府・議会・世論の動きを緻密に分析して臨機応変の対応を取る能力もシリアには全くない訳で、やっぱりシナリオライターはプーチンじゃないかなという感じがします。
以上のストーリー、一番得をしたのはロシアという結果から強引に遡った陰謀論っぽいですかね。
※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/6915