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「夏のバカンスの北欧旅行から帰国して」(by 服藤早苗氏)

2018-06-06 | 『増鏡』を読み直す。(2018)

投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年 6月 6日(水)10時43分42秒

6月2日の投稿で、

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服藤早苗氏の『古代・中世の芸能と買売春─遊行女婦から傾城へ』(明石書店、2012)は、いかにも歴史科学協議会の女闘士らしいアクの強い文体で書かれていて、ちょっと読みづらいところがありますね。

https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/c5850662f4868da45f2944b72d381680

などと書いてしまったのですが、これは「第四章 鎌倉時代─傾城の登場と芸能・買売春」に『とはずがたり』関係の夥しい記述があって、それを最初にささっと読んだためでした。
実際に冒頭から読んでみたら、同書はそれほど変でもないというか、失礼ながら意外に堅実な本でした。
「あとがき」の次のような記述もちょっと意外でした。(p289以下)

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 本書は、序章にも書いたように、三成美保氏と共同編集したジェンダー史叢書第一巻『権力と身体』に掲載された「日本における買売春の成立と変容─古代から中世へ」(明石書店)をもとに、他の関連論文もふまえ、古代から中世にかけての買売春の実相を、なるべく史料を提示しつつ一冊にまとめたものである。【中略】八世紀から十一世紀を主たる守備範囲とする筆者にとって、十二世紀から十六世紀の先行研究や史料収集、史料解読はなかなか困難で、重要な先行研究や史料を落としていたり、あるいは読みが大きくずれていることが多いのではないかと危惧している。また、中世後期の諸国を遊行しつつ売春も行う多様な職種の女性たちには、ほとんど手をつけることができなかった。一冊にまとめるのは時期尚早ではないか、との筆者自身の葛藤もあったが、思い切ってまとめることにした。
 その要因の一つは、若手の優秀な研究者である京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程後期の辻浩和氏から、私信で筆者論文にたいし懇切丁寧な、貴重なご批判をいただいたので、一刻も早く訂正したかったからである。目を通していたのに原稿枚数の制約のために抜かしてしまった大切な先行研究や史料、あるいは誤植や史料解釈のご指摘については、本書で手直しをさせていただいた。記して感謝申し上げたい。ところが、夏のバカンスの北欧旅行から帰国して徹夜で本書の再校に取り組んでいる最中に、京都の知人から辻氏の最新の遊女論文が出たこと、拙宅にも送っているはずだ、との連絡をいただいた。帰国後郵便物を整理する暇もなく再校を終え、この「あとがき」を書いているが、辻論文には、拙稿への批判も多々指摘されていると思われる。今までほとんどなかった古代・中世の遊女や買売春研究が進展するきざしを感じつつ、辻氏の最新の研究成果を生かすことができず、心からお詫びしたい。読者の方にはぜひ辻論文をお読みいただきたいと思う。
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殆ど辻浩和氏へのラブレターのようなこの「あとがき」の最後には「二〇一二年八月吉日」とあるので、「辻氏の最新の遊女論文」とは「中世前期における〈遊女〉の変容」(『部落問題研究』201、2012)か「中世前期「遊女」の組織とその支配」(『藝能史研究』198、2012)のことみたいですね。
さて、「八世紀から十一世紀を主たる守備範囲とする」服藤氏の見解に対しては、鎌倉時代に限っては私にも若干の意見がない訳でもないのですが、同書全体を通しての疑問となると、やはり「女房や女官、雑仕女たちが、遊女や白拍子女・辻子君と同様な性愛関係の実態があったゆえに互換性があった」に対する違和感に尽きます。
服藤氏はこの「互換性」を同書の中で繰り返し強調されるのですが、服藤氏自身は明言はされないものの、『とはずがたり』への夥しい言及に鑑みると、服藤氏がこのような認識を形成されるにあたっては『とはずがたり』の影響が強いようですね。
まあ、『とはずがたり』に描かれた世界は極めてアクが強いので、服藤氏のように女房と遊女に「互換性」があると考える読者が出てきても不思議ではないですね。

服藤早苗(1947生)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%8D%E8%97%A4%E6%97%A9%E8%8B%97

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